🦵関節痛の鑑別・問診・検査がすぐ分かる!“4象限アプローチ”で迷わない初期評価法

膝が腫れて痛い…この症状、ただの変形関節症では済まないかもしれません。関節痛の診断は“単関節か多関節か”、“急性か慢性か”の見極めがカギ。OSCEや臨床実習でも頻出の“関節痛”を、感染症・痛風・RAまでカバーする“4象限アプローチ”で確実に評価できるようになりましょう。


この記事で学べること

  • 関節痛を“4象限”で分類することで、初期診断の見通しが一気に良くなる方法
    ▶︎ 急性 vs 慢性 × 単関節 vs 多関節でシンプルに整理
  • 感染性関節炎・偽痛風・RAなど、頻度の高い鑑別を見抜く問診と身体診察のコツ
    ▶︎ OSCEや外来でもそのまま使えるフレーズと観察ポイントを紹介
  • 関節穿刺・血液検査・画像をいつ、なぜ、どう使うかの思考プロセス
    ▶︎ 不要な検査を避けつつ、重症を見逃さない検査の選び方を解説

導入症例 ― よくある関節痛のはじまり

【Doorway Information】
70代女性/主訴:右膝の腫れと痛み(歩行困難)
BP 128/72 mmHg, HR 86/min, Temp 37.9°C, SpO₂ 98% (RA)

患者の言葉:
「先生、昨日から急に右膝が腫れてきて、すごく痛いんです…。歩くのもやっとで、ちょっと熱っぽい気もします…。」


関節痛をどう考える?― 診断の第一歩は“分類”から

この症例でまず気になるのは、「急性」「単関節」「高齢者」「膝関節」「発熱」の5点。特に「単関節+急性+発熱」は、感染性関節炎をまず除外せよという臨床の鉄則を思い出させます。

「膝が腫れて熱を持ってる…これは結晶性でもありえるけど、感染性は絶対に見逃せないから、まずはそっちを考えないと」

4象限アプローチで分類しよう

関節痛は、発症時期(急性 or 慢性) × 関節数(単関節 or 多関節)で4象限に分類することで、初期対応のスクリーニングが格段にスムーズになります。

単関節 多関節
急性 感染性関節炎(緊急)、
痛風・偽痛風、
外傷(骨折・捻挫)
ウイルス性関節炎、
反応性関節炎(下痢・尿路感染後)
慢性 変形性関節症(OA)、
血友病性関節症、
腫瘍性病変
関節リウマチ(RA)、
SLE、
乾癬性関節炎、感染後関節炎

💡Tips:4象限は“動く”ことを前提に考えよう

  • 4象限は「今この瞬間の症状像」を表すにすぎず、疾患そのものの本質とは限りません。
  • 例:
    • RAやSLE:単関節から始まり、やがて多関節性に
    • 痛風・偽痛風:再発を繰り返せば慢性変化へ
    • OA:感染や結晶性の合併で急性悪化も
  • 「今の象限に留まらず、時間軸で全体像をとらえる視点」が診断力を高めます。

関節の“場所”も重要な手がかり

  • DIP関節:OA(Heberden結節)
  • PIP・MCP関節:RA(左右対称性)
  • 肩関節+高齢者:腱板断裂、石灰沈着性腱炎
  • 仙腸関節:強直性脊椎炎、感染

鑑別診断の優先度を整理しよう

  • 🟥 感染性関節炎(最優先で除外)
  • 🟧 偽痛風(CPPD):高齢+膝
  • 🟨 痛風:女性では非典型。閉経後なら可能性あり
  • 🟫 OAの急性悪化:発熱あれば非典型
  • ⬛ 腫瘍・血液疾患:慢性経過・他症状を伴う

Column:なぜ“関節痛”の診かたは全医療者にとって重要か?

関節痛は、外来・救急・病棟すべてで出会う超common symptom

  • プライマリケアや内科でも初診理由として頻繁
  • 高齢者のADL低下や寝たきりのきっかけにも
  • 背景に感染・自己免疫・腫瘍性疾患が隠れていることも

Topics:見逃したくない“特殊な関節痛”

🦠 結核性関節炎:慢性・単関節・発熱少なく誤診されやすい

🌫 不定愁訴としての関節痛:身体表現性障害、更年期、線維筋痛症など


関節痛を言語化して推論する ― FPHで整理しよう

🔍 Fact(事実)

  • 70代女性
  • 昨日から右膝が腫れて痛い
  • 歩行困難・発熱あり(37.9℃)
  • バイタル安定(BP 128/72, HR 86, SpO₂ 98%)

🧠 Problem(再定義)

急性・単関節・発熱あり → 感染性関節炎を最優先で除外すべき

💡Clinical Pearl:
“Any hot, swollen joint is septic arthritis until proven otherwise.”
— BMJ Best Practice

💭 Hypothesis(鑑別と重みづけ)

  • 🟥 感染性関節炎(最重要)
  • 🟧 偽痛風(CPPD)
  • 🟨 痛風(やや非典型)
  • 🟫 OA(急性悪化)
  • ⬛ 腫瘍・血液疾患(まれ)

✅ NTK(Now To Know)

  • 感染性関節炎を本当に除外できるか?
  • 偽痛風を示唆する情報は?
  • 「ただの膝痛」では済まされないかもしれない

ここからは一旦、冒頭の症例から少し離れて、関節痛という症候に対する“標準的なアプローチ”を整理していきましょう。

関節痛は頻度が高い反面、「炎症か?非炎症か?」「単関節か多関節か?」など、鑑別の軸が複雑に交差する厄介な症候でもあります。

しかし、問診・身体診察・検査の3ステップを丁寧にたどることで、限られた時間でも見逃しを防ぎ、確信をもった初期対応が可能になります。

次のセクションでは、OSCEや初診外来でもすぐ使えるフレームワークとして、Step 1:問診(OPQRST + PAM HITS FOSS)から確認していきましょう。


Step 1:問診で関節痛の全体像を把握する ― OPQRST + PAM HITS FOSS

関節痛の問診では、「どこが、いつから、どのように痛むか」だけでなく、背景にある疾患の性質やリスク因子を見抜くことが極めて重要です。

以下では、痛みの性状を捉える「OPQRST」と、背景要因を拾い上げる「PAM HITS FOSS」の2軸から、関節痛へのアプローチを整理します。


OPQRST:関節痛の性質を整理する7つの視点

項目 確認ポイント 臨床的な意味
O(Onset) いつから?突然?徐々に? 急性なら感染性・結晶性を疑う
P(Provocation / Palliation) 何で悪化?何で軽快? 安静で軽快→OAなど機械的
運動で軽快→RA、乾癬性、強直性脊椎炎など炎症性
Q(Quality) ズキズキ?ひっかかる? 炎症性 or 機械的かの判断に
R(Region / Radiation) どこが?放散は? 関節内か周囲かを見極める
S(Severity) 0〜10の痛みの強さ 経過・治療反応の評価
T(Time course) 朝?夕?波は? 朝:炎症性/夕方:機械性(OAなど)

💡Tips:PとTが病態の鑑別に直結する

  • 安静で軽快するか、運動で軽快するか?
    安静で改善=機械的(OAなど)/運動で改善=炎症性(RA、乾癬性、強直性脊椎炎など)
  • 朝に強いか、夕に悪化するか?
    朝のこわばりが30分以上→炎症性/夕方に悪化→OAや加齢性関節症を示唆

PAM HITS FOSS:背景に潜むリスクを拾うフレームワーク

項目 内容 関節痛との関連例
P(Past medical history) RA、OA、痛風、糖尿病など 関節炎の既往が診断の鍵
A(Allergy) NSAIDsやコルヒチン 治療薬の選択肢に影響
M(Medications) ステロイド、免疫抑制薬 感染性関節炎のリスク増
H(Hospitalization) 最近の入院歴 菌血症 → 敗血症性関節炎を想起
I(Injury) 打撲や転倒歴 外傷性関節障害との鑑別
T(Trauma) 外傷歴 関節損傷や骨折の除外に重要
S(Surgery) 人工関節などの手術歴 人工関節感染のリスク因子
F(Family history) RA、乾癬、SLEなど 自己免疫性疾患の素因
O(OBGYN) 閉経など 痛風や骨粗鬆症の評価
S(Sexual history) STDリスク 淋菌性、反応性関節炎の鑑別
S(Social history) 喫煙、飲酒、運動、食事、職業など 痛風・OA・感染症の背景因子

🟦Column:問診だけで、ここまでわかる ― “診断の8割は問診で決まる”という事実

関節痛の診療では、画像や血液検査よりも、まずは問診が最大の武器です。実際、初診時点で問診+身体診察だけで診断の方向性が75〜85%決まるとも言われています。

たとえば:

  • 「急に片膝が腫れて痛い、熱もある」→ 感染性関節炎が最優先
  • 「夜中に足指が激痛、前日に飲酒」→ 痛風の典型パターン
  • 「朝の手指のこわばりが長く続く」→ RAやSLEを疑う
  • 「2週間前に下痢、今は膝が痛む」→ 反応性関節炎が浮上

このように、時間軸・関節の分布・痛みの性質・全身症状や誘因を丁寧に聞き出すことで、診断はかなり絞られます。

特に、単関節痛や結晶性関節炎などでは問診が診断の決定打になることもあります。

正しい問診ができれば、検査はその“確認作業”になるだけ。それほど、問診には診断力があります。


💡Tips:関節痛の“原因”は、日常生活の中に潜んでいる

関節痛の本質は、関節そのものの病変だけでなく、“その関節にどんな力がかかっているか”を見抜くことにもあります。

特に家庭医や総合診療医にとっては、以下のような生活背景に注目した問診が、真の原因解明につながります。

✅ 着目したい生活情報の例
  • 職業・作業内容:
    長時間の立ち仕事 → 膝OAや足底筋膜炎
    荷物運搬・介護作業 → 肩や腰の慢性痛
    デスクワーク → 肘・手関節の負担、頸椎症
  • 趣味・スポーツ:
    ランニング・登山 → 足関節・膝関節の過使用
    テニス・ゴルフ → 肘・手首の使いすぎ
    水泳・球技 → 肩関節の反復運動障害
  • 生活スタイル・環境:
    床に座る・和式生活 → 股関節や膝への負担
    柔らかすぎる布団 → 姿勢不良由来の腰・膝痛
    履物の変化(ヒール・サンダル) → 足底部や膝のアライメント異常

こうした情報を丁寧に拾っていくことで、検査や画像では見えない“症状の背景”が見えてくることがあります。

これは家庭医・総合診療医の得意分野であり、OSCEでも差がつくポイントの一つです。


Step 2:身体診察で“今の痛み”の正体に迫る ― 所見を使って仮説を検証しよう

問診でおおよその方向性が見えてきたら、次は身体診察です。

特に関節痛では、「感染性か?炎症性か?それとも構造的異常か?」を見極めるために、視診・触診・可動域チェックなどを丁寧に行うことが求められます。

ここからは、問診で立てた仮説を「確かめる・否定する」ための視点で、身体所見を一つずつ確認していきましょう。


Step 2:身体診察で“今の痛み”の正体に迫る ― 所見を使って仮説を検証しよう

問診でおおよその方向性が見えてきたら、次は身体診察です。

特に関節痛では、「感染性か?炎症性か?それとも構造的異常か?」を見極めるために、視診・触診・可動域チェックなどを丁寧に行うことが求められます。


✅ 1. 全身状態の評価(バイタル・全身視察)

  • 発熱・頻脈 → 感染性関節炎、敗血症
  • 皮疹・結膜炎 → 膠原病、反応性関節炎
  • リンパ節腫脹・脾腫 → 血液腫瘍
  • 体重減少・倦怠感 → 全身性疾患を疑う

✅ 2. 関節の局所所見(視診・触診・可動域)

所見 意味・疾患候補
発赤 感染性関節炎・結晶性関節炎
熱感 感染性・炎症性
腫脹 滑膜炎、関節液貯留
自発痛/他動痛 関節内病変の可能性が高い
可動域制限(ROM低下) 腫脹・疼痛・機械的制限のいずれか
圧痛 滑膜、腱付着部、骨の異常

✅ 3. 対側・他関節のチェック

  • 本当に単関節か?他の関節にも腫脹・圧痛がないかを確認
  • DIP・PIP・MCPの左右対称性 → RAやOAの分布を判断

✅ 4. 関節外の診察ポイント

  • 皮膚:乾癬斑、紫斑 → 乾癬性関節炎、血管炎
  • 眼:結膜炎、ぶどう膜炎 → 反応性関節炎、強直性脊椎炎
  • 口腔内:口内炎 → ベーチェット病、SLE
  • 爪:点状陥凹、爪囲炎 → 乾癬性関節炎

✅ 5. 補助診察(関節エコーや視診器具)

  • 関節エコー(POCUS)の活用:
    • 関節液の有無 → 穿刺の適応判断に
    • 滑膜肥厚 → RAや感染性関節炎の根拠
    • パワードプラ → 活動性炎症の有無を視覚化
    • “動かしながら観察できる” → 動作痛の原因をその場で特定
  • 滑液包や腱の評価: bursitis、腱炎などの鑑別に

🟨Topics:特徴的な関節痛を見逃さない ― 特異的な診察のコツ

疾患名 好発部位 特異的な所見・テスト 臨床的背景
テニス肘(外側上顆炎) 肘(外側) Cozenテスト PC作業、ラケットスポーツ
ゴルフ肘(内側上顆炎) 肘(内側) 手関節屈曲抵抗で痛み 調理・清掃作業
ばね指(弾発指) MP関節 屈伸時の引っかかり感 更年期、糖尿病
ドケルバン病 母指腱鞘部 Finkelsteinテスト 育児・スマホ使用
野球肘 肘(内側) Valgus stressテスト 投球動作の繰り返し
ジャンパー膝 膝蓋腱 膝伸展負荷で痛み 跳躍系スポーツ
Osgood-Schlatter病 脛骨粗面 圧痛、運動時痛 成長期男子
五十肩(肩関節周囲炎) 肩関節 Apley scratch test、外転・外旋制限 夜間痛、衣類着脱困難
腱板断裂 肩関節 Drop arm test陽性、外旋不能 高齢者、無症候性もあり

🟦Column:肩関節の動きは“4つの筋肉の連携プレー”で成り立っている

Rotator cuff(腱板)とは、肩関節の安定性と可動性を保つための4つの筋肉群の総称です。

筋名 英語名 主な作用
棘上筋 Supraspinatus 外転(初期)
棘下筋 Infraspinatus 外旋
小円筋 Teres minor 外旋
肩甲下筋 Subscapularis 内旋

その他の主要な肩の動き:

  • 外転 → 棘上筋+三角筋中部
  • 屈曲 → 三角筋前部+上腕二頭筋
  • 内旋 → 肩甲下筋、大円筋、広背筋
  • 外旋 → 棘下筋、小円筋

肩関節の診察において、筋の機能解剖を理解しておくことは、正確な部位診断や誘発テストの根拠になります。


身体診察によって、関節の状態や全身の所見からある程度の診断仮説が立ちました。

しかしながら、感染性か結晶性か、炎症の程度はどのくらいか、他の疾患との鑑別はどうか――こうした問いに答えるには、やはり検査と画像の力が必要</strongです。

ここからは、関節痛の初期対応において「やるべき検査・避けるべき検査」を明確にしながら、診断の確信度を高めていきましょう。


Step 3:検査と画像で“見えない病態”を可視化する ― 仮説を補強し、重症を見逃さない

問診・身体診察によってある程度の診断仮説は立てられますが、
感染か?結晶性か?全身疾患か?を見極めるには、検査と画像の活用が欠かせません。

このセクションでは、「なぜその検査を選ぶのか」「何を読み取るか」を明確にしながら、実践的な検査戦略を紹介します。


1. 検査の目的を明確に

  • 見逃してはいけない疾患(感染性・腫瘍性)の除外
  • 仮説(結晶性、炎症性、自己免疫)の補強
  • 全体像を整理して、次の一手を選ぶ

2. 血液検査 ― スクリーニングと絞り込み

項目 意義 補足
WBC / CRP 感染や炎症の有無 正常値でも感染性を完全には否定できない
尿酸 痛風の評価 発作中は低下することも
Ca / Mg / P 偽痛風との関連 低MgでCPPDを誘発する例も
RF / 抗CCP RAの補助診断 陰性でも否定はできない
ANA / ANCA SLEや血管炎の評価 他の全身症状と組み合わせて判断

3. 関節穿刺 ― 感染と結晶性の“決め手”

評価項目 所見 意義
外観 膿性/血性/淡黄色 膿性なら感染性を強く示唆
白血球数(関節液) >5万/μL 感染性を疑うが結晶性でも上昇あり
結晶検査 尿酸(針状)/CPPD(矩形) 偏光顕微鏡で確認
Gram染色・培養 陽性なら診断確定 陰性でも臨床総合判断が必要

4. 画像検査 ― 病態の“深さ”と“広がり”を見る

検査 所見 代表疾患
X線 びらん、石灰化、裂隙狭小 RA、OA、CPPD、感染など
エコー(POCUS) 滑膜肥厚、関節液、血流↑ RA、感染性、結晶性
MRI 滑膜病変、骨髄炎、腫瘍 難治例、診断困難例

🟨Topics:疾患ごとの“画像に特徴が出る”パターンを押さえておこう

疾患名 モダリティ 特徴的所見 補足
偽痛風(CPPD) X線 関節軟骨・半月板の石灰化 Crowned Dens Signも重要
痛風 X線 びらん(オーバーハンギングエッジ) 進行例で典型的
RA X線 びらん+関節裂隙狭小 MCP・PIPに左右対称性
OA X線 骨棘形成、裂隙狭小、硬化 DIP好発
強直性脊椎炎 X線 竹節様脊椎 仙腸関節癒合も
乾癬性関節炎 X線 Pencil-in-cup変形 DIPの破壊性変化
感染性関節炎 X線 骨びらん、関節破壊 進行例で確認
関節結核 X線/CT Phemister triad びらん+硬化+裂隙狭小
圧迫骨折 X線 楔状変形 骨粗鬆症性/MRIで早期診断
転移性椎体病変 X線 Winking Owl Sign 椎弓根消失 → “片目のフクロウ”

🟦Topics:RAの活動性をどう測る? ― DAS28とその周辺指標

関節リウマチでは、診断後の“病勢評価”が治療選択と予後予測に重要です。CRPやRFだけでなく、客観指標を組み合わせて評価します。

指標名 CRP 構成要素 評価基準
DAS28-CRP 含む 28関節圧痛+腫脹+CRP+VAS >5.1(高)/<2.6(寛解)
SDAI 含む 圧痛+腫脹+医師・患者評価+CRP 計算簡便/即時評価可能
CDAI 含まない CRPなし版(臨床評価+関節所見) CRP未取得時に便利

Tips: 病勢評価は「いま診ている痛みが治療を必要とするか?」を判断する材料でもある。


ここまで、関節痛に対するStep 1(問診)・Step 2(身体診察)・Step 3(検査と画像)の基本的な流れを整理してきました。

それでは次に、最初に紹介した導入症例をもとに、これらのステップを一つずつ適用しながら、実際の診察の流れを振り返ってみましょう。

症状の言語化 → 仮説の立案 → 検査の選択と解釈、という一連の診断推論を追体験することで、実際のOSCEや臨床現場でどう動けばいいかがより明確になります。


🔁 症例で振り返る

🟢 導入のおさらい

【症例】
70代女性/主訴:右膝の腫脹と痛み(歩行困難)
発症:昨日から/体温:37.9°C/バイタル安定


🟦 Step 1:問診の振り返り(Fact → Problem → Hypothesis)

「今日はどうされましたか?」
「昨日から急に右膝が腫れて、すごく痛いんです。少し熱もある気がして…歩くのがつらいです。」

▶ OPQRST
O:昨日から突然
P:歩くと悪化、安静で少し楽
Q:ズキズキするような痛み
R:右膝のみ、放散なし
S:痛み10段階中7程度
T:一日中持続、夜も気になる

▶ PAM HITS FOSS
P:変形性関節症の既往なし
A:薬剤アレルギーなし
M:降圧薬のみ/ステロイドなし
H:最近の入院なし
I/T:明らかな外傷なし
S(Surgery):人工関節歴なし
F(家族歴):RA、痛風なし
O(OBGYN):閉経後
S(Sexual):特記すべき感染リスクなし
S(Social):非喫煙・自立生活

🔎 Fact(事実)
・70代女性/昨日から右膝が急に痛み出し、腫れている
・発熱あり(37.9℃)、歩行困難

🧠 Problem(再定義)
・急性/単関節/高齢者/発熱あり → 感染性関節炎をまず除外

💭 Hypothesis(鑑別)

  1. 🟥 感染性関節炎(除外最優先)
  2. 🟧 偽痛風(CPPD:高齢者・膝・急性)
  3. 🟨 痛風(やや非典型、女性・膝)
  4. 🟫 OAの急性悪化(発熱を伴うのは非典型)
  5. ⬛ 血液疾患・腫瘍(慢性経過が多く優先度は低)

🟦 Step 2:身体診察の振り返り

【診察結果】
・視診:右膝に発赤・腫脹・熱感あり
・触診:他動的な可動域制限あり、屈伸で疼痛著明
・他関節:異常なし(明確な単関節)
・全身所見:皮疹・口腔内・結膜に異常なし、体重減少なし

【解釈】
・単関節性の強い炎症所見あり → 感染性・結晶性のいずれも疑わしい
・他関節の所見が乏しく、全身疾患の兆候もない
・エコーで関節液貯留・滑膜肥厚を確認 → 穿刺適応あり


🟦 Step 3:検査・画像の振り返り

【選んだ検査】
・血液検査:WBC, CRP, 尿酸, Ca, Mg, RF, 抗CCP
・関節穿刺:関節液の白血球数、結晶検査、Gram染色・培養
・X線:関節の石灰化、裂隙、びらんの有無を確認
・関節エコー:滑膜と関節液の状態を動的に観察

【結果と判断】
・WBC・CRP:中等度上昇、感染を強く示唆するレベルではない
・関節液:白濁、白血球数やや高め、CPPD結晶を検出
・Gram染色・培養:陰性
・X線:膝に明らかな石灰化あり → 偽痛風を支持

【結論】
感染性関節炎の所見は乏しく、偽痛風(CPPD沈着症)を最有力候補と判断。
NSAIDsによる治療方針へ/症状が強ければコルヒチンも検討。


導入症例を通じて、関節痛に対する初期対応の流れを追ってきました。

では、こうした症例を専門医(整形外科やリウマチ内科など)に紹介する際、どの段階で・何を根拠に・どのような情報を添えて伝えるべきなのでしょうか?

次のセクションでは、紹介のタイミングと、紹介前に行っておくべき評価・検査について整理します。


専門医に紹介するとき ― どのタイミングで?何を伝える?

導入症例を通じて、関節痛に対する初期対応の流れを追ってきました。

では、こうした症例を専門医(整形外科やリウマチ内科など)に紹介する際、どの段階で・何を根拠に・どのような情報を添えて伝えるべきなのでしょうか?

このセクションでは、紹介のタイミングと、紹介前に行っておくべき評価・検査について整理します。


🟥 今すぐ紹介すべき「緊急性のある関節痛」

条件 疑う疾患 対応
高熱・激痛・可動域制限+単関節炎 感染性関節炎 緊急で整形外科にコンサルト。関節穿刺・培養を急ぐ
多関節+出血傾向・発疹・意識障害 血液疾患/膠原病/敗血症 総合内科または膠原病内科へ緊急紹介
急速な関節変形や腫瘍様腫脹 転移性腫瘍・血管腫など 整形外科または腫瘍外科へ精査依頼

🟡 外来経過中に紹介を検討すべきケース

状況 疑う疾患 紹介先の目安
炎症反応が続き、滑膜肥厚が残存 RAや膠原病の初期像 リウマチ内科/膠原病科
結晶は検出されないが症状が遷延 難治性OA・関節症性変化 整形外科
痛風や偽痛風の再発が頻回 代謝異常や合併症による慢性関節炎 リウマチ内科または腎臓内科

🔎 紹介前に済ませておきたいこと

  • 関節穿刺(感染性 or 結晶性の除外)
  • 滑膜評価:X線またはエコー
  • 血液検査(WBC, CRP, RF, 抗CCP, 尿酸, ANA, Ca, Mg, Pなど)
  • 全身症状の有無や他関節のチェック(ぶどう膜炎・皮疹・口内炎など)

💡Tips:紹介の「目的」を明確に

「診断がつかないから紹介」ではなく、
「○○を疑っており、初期検査は済。さらなる精査や治療をお願いしたい」と目的を明確に伝えると、専門医も判断しやすくなります。


🟨Topics:反応性関節炎(Reactive Arthritis, ReA)を見逃さない

  • 感染後(特に消化器 or 性感染症)に起こる無菌性関節炎
  • 若年男性、HLA-B27陽性者に多い

原因菌:
消化器感染:Salmonella, Shigella, Campylobacter, Yersinia
性器感染:Chlamydia trachomatis(特に無症候性感染に注意)

臨床三徴候(Reiter症候群)

  • 関節炎(非対称性、下肢に多い)
  • 結膜炎 or ぶどう膜炎
  • 尿道炎

治療:
NSAIDsが第一選択。ステロイド・サラゾスルファピリジンなども難治例に使用。原因菌が明確であれば抗菌薬投与も検討。


🟨Topics:痛風の治療と生活指導 ― 初期対応+再発予防の二本立てで

🔹 急性発作時の治療
  • NSAIDs:第一選択。消化管障害に注意
  • コルヒチン:発症24時間以内に有効/下痢など副作用あり
  • ステロイド:NSAIDs・コルヒチンが使えないとき

※急性期には尿酸降下薬を新規開始しないこと!

🔹 尿酸降下療法(再発予防)
分類 薬剤 適応
尿酸生成抑制薬 アロプリノール/フェブキソスタット 尿酸産生過剰型
尿酸排泄促進薬 ベンズブロマロン/プロベネシド 尿酸排泄低下型

目標尿酸値:6.0 mg/dL未満(再発例では5.0未満を目標に)

🔹 生活指導のポイント
  • 高プリン食品(レバー、魚卵、アルコール)を避ける
  • 果糖・清涼飲料もリスク/水分摂取を十分に
  • 合併症(高血圧、CKD、肥満)にも介入を

痛風は「発作時の対応」+「再発予防」のセットで対応することが重要です。


関節痛への診療アプローチを、ここまで体系的に整理してきましたが、
実際の診察室では「どこをどう聞くか」「何を見逃さないか」といったちょっとした“コツ”が診断精度を大きく左右します。

ここでは、問診や身体診察で役立つTipsと、臨床で響くclinical pearlを一つ紹介します。


💡 Tips & Clinical Pearl

🎤 問診のTips

  • 「関節が痛い」という主訴は、必ず“場所”と“時間経過”で具体化する
    → 急性 or 慢性、単関節 or 多関節の分類が診断の出発点
  • 症状の時間帯や動作による変化に注目
    → 朝のこわばり:RA/動かすと軽快:乾癬性関節炎など
  • “生活背景”から原因を探る
    → 反復運動(例:仕事・趣味)から野球肩・テニス肘などが見えてくる

🖐 身体診察のTips

  • 必ず“健側”と“患側”を比べて観察する
  • エコー(POCUS)は“動かしながら見られる”が最大の利点
  • 関節外の異常(腱・靱帯・滑液包)も見逃さずに
    → Drop arm test, Finkelstein test などを活用

🧠 Clinical Pearl

“If you hear hoofbeats, think horses — not zebras.”
― Theodore Woodward, MD

和訳:
ひづめの音が聞こえたら、まずは馬だと思え ― シマウマではなく

解説:
この言葉は、鑑別診断において「まず最もcommonな疾患から考える」という原則を示しています。
関節痛では、OAや結晶性関節炎、感染性関節炎といった“馬”を丁寧に確認することが、診断の第一歩です。

シマウマ(稀な疾患)を疑うのは、commonな病態を除外した後のステップです。
常に「確率」と「重症度」の視点を持つことが、賢い臨床推論につながります。


🌍 英語診療でも役立つ!関節痛に関連する医療英語

関節痛は、英語での問診やOSCEでも頻出のテーマです。
医療現場での実践を意識しながら、使いやすい表現、患者向けのやさしい言い換え、略語・用語の基礎をここで整理しておきましょう。

英語でも診療ができるように、表現力を一歩深めていきます。


🗣 Medical English for Joint Pain

Useful Medical Expressions

Expression Meaning / When to Use
Do you have joint pain? Basic question to identify joint-related symptoms
Is it swollen or red? To assess inflammation
Is it worse in the morning? Morning stiffness suggests RA
Does movement make it better or worse? Used to differentiate inflammatory vs. mechanical pain
Have you had any fever or chills? Screening for infectious arthritis
Have you had this kind of pain before? Evaluating recurrent attacks (e.g. gout)
Do you have any history of gout or arthritis? Background for risk evaluation

Layman’s Terms & Idioms

Medical Term Layman’s Expression
Joint The place where two bones meet
Swelling Puffed-up area
Stiffness Hard to move
Tenderness Sore to the touch
Inflammation Red, hot, and swollen
Gout A condition where uric acid causes joint pain
Arthritis A disease that causes joint inflammation

Example:
“Looks like you have some swelling in your knee. Has it been hard to move?”


📚 Medical English Glossary

Abbreviation / Term Full Form Description
OA Osteoarthritis Degenerative joint disease due to aging and wear
RA Rheumatoid Arthritis Autoimmune chronic inflammatory arthritis
PsA Psoriatic Arthritis Inflammatory arthritis associated with psoriasis
ReA Reactive Arthritis Sterile arthritis following infection
CPPD Calcium Pyrophosphate Dihydrate Crystal responsible for pseudogout
WBC White Blood Cell Marker of infection/inflammation
CRP C-reactive Protein Acute phase reactant for inflammation
POCUS Point-of-Care Ultrasound Bedside ultrasound used for diagnosis
DAS28 Disease Activity Score 28 Index to assess RA activity (includes 28 joints + CRP)

🧾 記事のまとめ:関節痛診療の“道しるべ”を手に入れよう

関節痛――それは決して珍しい症状ではなく、外来でも救急でも頻繁に出会う“ありふれた訴え”です。
でも、そこに潜む疾患は、感染、結晶、自己免疫、腫瘍、整形的な問題…と実に多彩。
「よくある症状」だからこそ、最初のアプローチが分かれ道になります。

本記事では、以下の視点で体系的に整理しました:

  • ✅ 4象限モデル(急性/慢性 × 単関節/多関節)による思考整理
  • ✅ OPQRST + PAM HITS FOSS による精度の高い問診
  • ✅ 身体診察の視点とPOCUSの活用
  • ✅ 感染性関節炎の見逃しを防ぐための検査戦略
  • ✅ 痛風・偽痛風・RAなど、見極めが鍵となる疾患のポイント
  • ✅ 紹介判断とその伝え方、家庭医としての初期対応力

加えて、OSCEや英語診療にも対応できるよう、英語表現や略語もまとめました。

関節痛を前に「どうしよう…」と迷うことがあっても、
本記事があなたの診断推論の“ナビゲーション”になることを願っています。


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📚 Reference

  1. UpToDate: Evaluation of monoarthritis in adults
  2. 日本リウマチ学会 関節リウマチ診療ガイドライン 2020
  3. EULAR Recommendations for the Management of Gout (2020)
  4. EULAR Recommendations for Calcium Pyrophosphate Deposition (CPPD) (2019)
  5. 日本整形外科学会 変形性膝関節症診療ガイドライン 2020
  6. 日本臨床免疫学会 膠原病の初期診療に関する提言

「🦵関節痛の鑑別・問診・検査がすぐ分かる!“4象限アプローチ”で迷わない初期評価法」への3件のフィードバック

  1. ピンバック: 【腰痛の診かた — その痛み、本当に「ぎっくり腰」?】 ー Med Student's Study Room

  2. ピンバック: 【記事タイトル】 ー Med Student's Study Room

  3. ピンバック: 【記事タイトル】 ー Med Student's Study Room

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