「血圧が低い=ショック」だと思っていませんか?
実はショックとは、組織灌流(tissue perfusion)の失敗によって生命維持が脅かされる状態を指し、血圧低下はその一側面にすぎません。
現場では、ショックを“診断してから治療”している時間はありません。
だからこそ、必要なのは“原因を当てる”のではなく、“すぐに動ける仕組み”です。
本記事では、ショック患者への初期対応を「ABCアプローチ」と「POCUS(Point-of-Care Ultrasound)」を軸に解説。
さらにShock Indexや模擬症例を活用し、現場で実践できる評価・治療の流れを具体的に紹介していきます。
Step 1:その“ショックらしさ”、本物? 〜Pseudo Shockの見極め〜
救急で「ショックっぽい」患者を前にしたとき、まず確認すべきは“それが本当にショックなのか?”という点です。
実際にはショックに見えるが、実際にはショックではない状態、いわゆるPseudo Shock(擬似ショック)は臨床現場でよく見られます。
よくあるPseudo Shockの原因
- 血管迷走神経反射(Vasovagal Reflex, VVR):一過性の徐脈と血管拡張で意識を失うが、自然回復が早い。
- てんかん後状態(Post-ictal state):けいれん後の意識低下でBPやSpO₂は正常。
- 薬物中毒・低血糖・過換気症候群なども「意識障害+バイタル変化」を伴うが、灌流不全とは限らない。
本物のショック(True Shock)との違い
- 末梢冷感・冷汗・尿量減少・意識障害など、明らかな循環不全のサインがあるか?
- SpO₂や呼吸状態の異常があるか? → 呼吸性・心原性・感染性などの真のショックを示唆
- 「warm shock(初期の敗血症など)」では、冷感が乏しくても油断禁物
Clinical Tips
- “VVRはその場で回復する”:意識障害が一時的で、SpO₂も保たれていればまず疑う。
- “SpO₂が低ければCOやPEも疑え”:酸素化の失敗は、呼吸性 or 心肺系のTrue Shockのサイン。
- “皮膚が暖かいから大丈夫”は誤解:敗血症初期などのwarm shockに注意。
まずは「本物のショック」か「一見ショックっぽいだけか」を見極めることで、無駄なルート確保や過剰な治療を回避できます。
そして次に大切なのは、「本物のショックだった場合、どう動くか?」です。
ショックのタイプを問わず、最初にやるべきことは共通しています。
次のステップでは、ABCアプローチによる初期対応の鉄則を整理していきましょう。
Step 2:ショック対応の基本中の基本 ― ABCアプローチで命を守る
ショックへの初期対応で最も大切なのは、「ABCアプローチ」を徹底することです。
このプロセスは、どんなショックでも共通の評価軸であり、命を救う第一歩となります。
Airway(気道)・Breathing(呼吸)・Circulation(循環)の順に系統立てて評価し、それぞれの異常に対して迅速な介入を行います。
これに加えて、Disability(意識)とExposure(全身観察)までを含めた「ABCDEアプローチ」として実践されることもあります。
️ A:Airway(気道)
- 声かけや刺激で反応が乏しい場合は、気道確保が最優先。
- 嘔吐や出血による気道閉塞の可能性もあるため、吸引・挿管準備を早めに。
- GCS ≤ 8は挿管を検討すべきサイン。
️ B:Breathing(呼吸)
- SpO₂が90%未満</strongであれば即座にO₂投与(10〜15L/分)を開始。
- 努力呼吸が強い場合や意識低下がある場合は、BVMによる換気補助も視野に。
- 片側呼吸音減弱なら緊張性気胸を除外する必要あり。
C:Circulation(循環)
- 末梢冷感・CRT延長・血圧低下などはショックの指標。
- 可能であれば2ルート(18G)確保し、20〜30mL/kgのCrystalloid(NSまたはRL)をボーラス投与。
- ショックの種類に応じて輸液量は調整(例:心原性では少量から)。
D & E:Disability(意識)とExposure(全身観察)
- 意識レベル(GCS, AVPU)・瞳孔・血糖測定は必須。
- 全身の皮膚、四肢の冷感、出血部位、皮疹の有無を系統的に観察。
Clinical Tips
- 「まずルート!」ではなく、「まず気道と呼吸」:挿管のタイミングは見逃すと致命的。
- ABCの優先順位は、患者によって柔軟に:呼吸停止例ではBから入る。
- ルート確保時は検体採取も同時に行うと時間のロスが少ない。
ここまでのABCアプローチは、「命の安定化」と「次のステップへの準備」を兼ねています。
では、次に私たちは何を見て、どんな情報を集めるべきか? ― それが“現場の流れ”です。
次のステップでは、模擬症例を通して、ショック初期対応の全体像を体感していきましょう。
Step 3:初期行動の流れを体感する ― ショック対応を“同時並行”で動かす
ABCアプローチで命の安定化を図ったあと、次に私たちが行うべきは、ショックの原因を探る情報収集です。
しかしそのプロセスは、「順番に1つずつ行う」のではなく、“同時並行”で進めることが求められます。
ここでは、実際の臨床に即した模擬症例をもとに、現場での動きを具体的に見ていきましょう。
模擬症例:救急搬送された68歳女性
- 主訴: 意識もうろう・呼吸苦
- バイタル: SpO₂ 84%(室内気)、HR 128、RR 30、BP 測定不能、GCS E2V2M4
- 既往歴: 高血圧・糖尿病・高脂血症
0〜5分:同時並行で動く初期対応
- A:気道評価 → 声かけ反応乏しく、挿管を想定して準備
- B:呼吸補助 → SpO₂ 低下に対して酸素マスク10L/min+BVM換気
- C:循環サポート → 18Gルート2本確保+生食1Lボーラス投与開始
- 採血+検体 → CBC, Electrolytes, CRP, PCT, Lactate, TnI, BNP, PT/INR, D-dimer など
- ABG(動脈血ガス) → pH 7.28 / Lactate 4.2 / HCO₃⁻ 16
- 心電図(12誘導) → ST変化なし、頻脈性洞調律
- POCUS(RUSHプロトコル) → IVCコラプスあり、心タンポなし、肺にB-lineなし
10分時点での状況判断
- POCUS: IVSコラプス → Hypovolemiaを示唆
- ABG: 高乳酸血症+代謝性アシドーシス → 組織灌流不全あり
- ECG: AMIや致死的不整脈なし
→ 初期所見から、「脱水または感染によるDistributive or Hypovolemic Shock」が第一印象
Clinical Pearls
- 検査・画像・処置は“順番”ではなく“同時”に動かす:特に人手の少ない現場ではチームで分担。
- 初期5分で得られる情報が、全体像の8割を決める:POCUS+Lactateは特に有用。
- 「輸液反応性」があれば、それ自体が診断的手がかりとなる。
このように、ABC処置の延長線上で「原因を探るプロセス」へ移行することで、早期の介入と再評価がスムーズに行えます。
次のステップでは、POCUSの詳細評価についてさらに掘り下げていきましょう。
Step 4:POCUSで“中身”を可視化する ― RUSHプロトコルの活用
初期のABC対応と並行して行うPoint-of-Care Ultrasound(POCUS)は、ショックの原因を迅速に絞り込むための強力な武器です。
特にショックに対する超音波評価には、RUSHプロトコル(Rapid Ultrasound for Shock and Hypotension)が活用されます。
POCUSでは「どこを見るか?」と「何をもって異常とするか?」を意識し、ショックの4分類とリンクさせて評価していくことが重要です。
RUSHで確認する4つの主要部位
① IVC(Inferior Vena Cava)
- 虚脱(コラプス)あり: Hypovolemiaの可能性が高い
- 拡張して動かない: 心原性 or Obstructive(PE, 心タンポ)
- 注意: 妊婦・肥満体型では評価困難になることも
② 心臓(Cardiac View)
- EF低下: Cardiogenic shock
- 右室拡大: Massive PE を疑う
- 心嚢液: Tamponade → 緊急穿刺の適応も
③ 肺(Lung View)
- B-line: 肺水腫 → 心不全やvolume overload
- A-line: Dry lung → Hypovolemiaに一致
- 片側無呼吸音+胸郭偏位: 緊張性気胸を疑う
④ 腹腔(FAST View)
- Morison pouchなどにfree fluid: 腹腔内出血や腹水
- AAA(腹部大動脈瘤): 突然の腹痛+Hypotensionで要確認
Clinical Tips
- POCUSは“原因の見える化”だけでなく、“輸液方針の判断”にも役立つ
- RUSHで異常なしでも「ショック否定」にはならない:敗血症・中毒などでは画像所見が乏しい
- 心嚢液・IVC拡張+右室圧迫 → 典型的な心タンポナーデ像
POCUSを使いこなせば、ショックを「見て診断する」ことが可能になります。
では次に、数値で可視化できるツールとして有用なShock Indexについて見ていきましょう。
Step 5:Shock Indexで重症度を可視化する ― 数字で見抜く循環不全
POCUSで“見える”情報を得たら、次に活用したいのがShock Index(ショック指数)です。
これは心拍数(HR)÷収縮期血圧(SBP)で計算され、循環不全の重症度を数値で可視化できる簡便な指標です。
バイタルだけでは読み切れない“見えないショック”の発見に、Shock Indexは特に有効です。
Shock Indexの目安と評価
- 正常値: 0.5〜0.7(例:HR 70 / SBP 120)
- SI ≧ 0.9: 潜在的ショックの可能性 → 経過観察+再評価
- SI ≧ 1.0: 1L以上の出血や著しい循環不全を示唆
- SI ≧ 1.3: Class III hemorrhage 相当(2L以上の出血)
注意点と例外
- β遮断薬やペースメーカー装着患者: HRが抑制されてSIが過小評価される
- 高齢者・糖尿病患者: 自律神経反応が鈍く、SIが参考にならないことも
Mini Clinical Question(miniCQ)
Q: HR 120 / SBP 100 → SI = 1.2、Lactate 4.5、尿量ほぼゼロ。次に行うべき処置は?
A: 即座に輸液ボーラス(20〜30 mL/kg)を行い、ショック解除の反応を評価する。
Clinical Tips
- 「血圧が100あるから安心」ではなく、HRとのバランス(SI)で判断する
- 定期的にSIを再計算し、トレンド評価にも活用する
- POCUSとSIは補完関係:「見た目」+「数値」で立体的に把握
次は、ここで採取した血液データや心電図所見をどのように解釈し、次の一手に活かすかを整理していきます。
Step 5.5:検体検査と初期データを狙って取る ―「当たり前の採血」に意味を持たせる
POCUSとShock Indexでショックの全体像が少し見えてきたら、次は「数字」で確認する段階です。
特に重要なのが採血・ABG(動脈血ガス)・心電図による初期データの取得です。
ただし、これらは「とりあえずルーチンで出す」ものではなく、臨床判断を助ける情報として狙ってオーダーすることが重要です。
初期検査の基本セット(同時並行で実施)
- 採血: CBC / Electrolytes / BUN・Cr / CRP・PCT / Lactate / TnI・BNP / PT・INR / D-dimer / 血培(×2)
- ABG: pH / HCO₃⁻ / Base Excess / Lactate(灌流不全の指標)
- 心電図(12誘導): AMI・致死的不整脈の除外に必須
検査の目的と臨床的な意義
- Lactate: 組織灌流不全の定量化。2.0以上でショックを疑う
- PCT・CRP: 敗血症の診断・抗菌薬の判断材料に
- TnI: AMIだけでなく敗血症でも上昇する → 解釈には文脈が重要
- D-dimer: PE・DICなどの鑑別に
- 血培: バイタル安定していてもショック疑いなら必ず2セット
モニタリングに使える数値は「動かす」ための情報
- “乳酸が高いからショック”ではなく、初期値+再測定のトレンドで治療評価
- ABGとLactate、尿量の3点セットで「治療が効いているか」をチェック
Clinical Tips
- 採血・ABG・心電図はルート確保と同時に行うと無駄がない
- 外来・夜間救急では「最初の検体で全て出す」意識が特に大事
- 血液検査は「撮る」だけでなく、「読み解いて使う」ことが本質
ここまで集めた視診・POCUS・バイタル・初期検査の情報が揃ったら、いよいよショックの病型分類と初期治療に進んでいきます。
Step 6:ショックの病態分類と初期治療 ―「型」によって治療はこう変わる
ここまでの情報をもとに、私たちはショックの4大分類に基づいて病態を絞り込み、適切な初期治療へと進んでいきます。
原因を“当てる”のではなく、「この型の可能性が高いから、まずはこれを打つ」という思考が重要です。
1. Hypovolemic Shock(循環血漿量減少性ショック)
- 原因: 出血(外傷、消化管出血など)、脱水、3rd space(膵炎、イレウスなど)
- 所見: IVCコラプス、SI ≧1.0、B-lineなし、尿量低下
- 治療: 生食またはRLで20〜30mL/kgボーラス、出血性であれば早期輸血
❤️ 2. Cardiogenic Shock(心原性ショック)
- 原因: AMI、心筋症、致死的不整脈、弁膜症
- 所見: EF低下、肺水腫(B-line)、冷汗・浮腫、低尿量、頻脈 or 徐脈
- 治療: 酸素化、ノルアドレナリン or ドブタミン、PCIや除細動の検討
- 注意: 輸液は少量慎重に
3. Obstructive Shock(閉塞性ショック)
- 原因: Massive PE、心タンポナーデ、緊張性気胸
- 所見: 右室拡大、心嚢液、無気肺、偏位、呼吸音減弱
- 治療: 原因解除(tPA、心嚢穿刺、胸腔穿刺)+酸素化+循環支持
4. Distributive Shock(分布異常性ショック)
- 原因: 敗血症、アナフィラキシー、脊髄損傷など
- 所見: 皮膚暖かい、SpO₂低下、Lactate上昇、頻脈+血圧低下、尿量低下
- 治療:
- 敗血症:30mL/kg輸液+抗菌薬(1時間以内)+昇圧薬(MAP≧65目標)
- アナフィラキシー:Epinephrine 0.3mg IM即投与+酸素+輸液
Clinical Tips
- DistributiveとHypovolemicの見極め: POCUSとSIが鍵
- 出血性ショックでは“見えない出血”に注意: 骨盤内・後腹膜など
- 「1時間以内に抗菌薬」ルールはSEP-1でも重視
それぞれのショックは異なるアプローチを必要としますが、最初の一手の違いが生死を分けることも少なくありません。
次のステップでは、こうしたショックが“いつ進行し、いつ手遅れになるのか” ― 補償の破綻について見ていきます。
Step 7:補償機構とその破綻に気づく ―“なんとなく大丈夫そう”に潜む落とし穴
ショック状態では、体は必死に自己防衛(補償反応)を行っています。
頻脈や末梢血管収縮は、その一時的な代償機構であり、一見バイタルが保たれているように見えることもあります。
しかし、この補償が破綻した瞬間にショックは急速に進行します。
そのサインを見逃さないことが、致死的転帰を防ぐうえで極めて重要です。
⚠️ ショックにおける代表的な代償機構
- 頻脈: 心拍出量を維持するための自律神経反応
- 末梢血管収縮: 重要臓器(脳・心)への血流を優先
- RAA系・ADH活性化: Na再吸収や水分保持による血圧維持
補償破綻を示す“危険サイン”
- 意識障害: 脳血流の低下。最も信頼性の高いサイン
- 尿量減少: 腎血流低下 → 0.5mL/kg/h未満は赤信号
- 頻呼吸: 代謝性アシドーシスへの代償 → 呼吸数は“第6のバイタル”
- 皮膚の冷感・蒼白: 末梢灌流の限界を超えたサイン
注意すべき“Silent Shock”の存在
- 高齢者: 自律神経反応が鈍く、頻脈が出にくい
- β遮断薬内服: 心拍数が抑えられてSIが低く見える
- 糖尿病性自律神経障害: 冷感・頻脈が出ず、見た目に乏しい
Clinical Tips
- 「血圧だけ見て安心」は危険 → 意識・尿量・呼吸数の3点で補償破綻を早期発見
- 尿量は“灌流のリトマス試験紙” → ショック時はしっかりモニタリング
- SpO₂や血圧よりも「意識が変」の方が早く出ることも
次のステップでは、このような変化を追いながら治療効果の評価と再介入のタイミングを見極めていきます。
Step 8:再評価と経過モニタリング ―“効いているか”を見極める目を持つ
ショックの初期治療を開始したら、次に重要なのは「治療が効いているか?」を判断する再評価です。
この評価を怠ると、必要なタイミングでの追加介入が遅れ、回復のチャンスを逃してしまいます。
再評価は“1時間ごと”を目安に、ショック解除のサインと未改善のサインを意識して行います。
再評価で見るべき5つのポイント
- バイタルサイン: HR・BP・SpO₂・RR・体温 → 数値のトレンドで判断
- 尿量: 0.5 mL/kg/h を超えていれば腎灌流は維持されている
- Lactate: 初期値から20〜30%以上低下すれば改善傾向
- 意識レベル: GCS・AVPUスケールで評価
- 末梢冷感・皮膚色: 末梢灌流の回復具合をみる
補助的指標
- Central venous oxygen saturation(ScvO₂): ≧70%を目標に
- MAP(平均動脈圧): ≧65 mmHgを維持できているか
- ABGの改善: pH上昇・BE改善・乳酸低下
再評価が示す“次の一手”
- 改善傾向: 輸液継続 or 昇圧薬調整へ → 慎重な離脱判断も視野に
- 反応なし: 原因再検討(PE?出血?感染源?)+POCUS・CT再評価
- 悪化傾向: ICU搬送、感染源コントロール(ドレナージ・手術)などを即決断
Clinical Tips
- “再評価しない治療”は、やっていないのと同じ
- 再評価は「治療の正当化」ではなく、「方向性の再検証」
- 「見た目が良くなった」は要注意 → 数値と臨床経過を組み合わせて判断
ここまでで、ショックの初期対応・原因検索・治療・評価のサイクルが一通り完了しました。
次は、これらが通用しにくい特殊な背景をもつショック</strongにどう対応するかを紹介します。
Step 9:応用編 ― 特殊状況でのショック対応
ここまで紹介したショック対応の原則は、すべての患者に共通するベースですが、特殊な背景を持つ患者では一部の評価・治療手順が通用しない場合があります。
そこで本章では、代表的な3つの特殊シチュエーションを取り上げ、それぞれの注意点と工夫を紹介します。
妊婦のショック
- IVC圧迫により静脈還流↓ → IVC径の評価は不正確になりやすい
- 左側臥位(Lateral tilt)での体位管理が必須
- 原因に産科合併症(前置胎盤、子癇発作、羊水塞栓など)も念頭に置く
小児のショック
- 小児では血圧低下は“末期”サイン → 頻脈・皮膚色・尿量が先に変化
- SIの基準が年齢で異なるため注意
- 迅速な体重評価+10–20mL/kgでのボーラス輸液が基本
高齢者・薬剤使用中の患者
- β遮断薬・Ca拮抗薬の影響で頻脈が出にくく、SIが参考にならない
- 糖尿病性自律神経障害 → 皮膚冷感・頻脈などの“典型所見”が現れにくい
- 「なんとなく元気がない」「ぼーっとしている」など、非特異的な訴えに要注意
Clinical Tips
- 標準プロトコルは「調整されて初めて活きる」:背景に応じた柔軟な対応を
- 小児・高齢・妊婦では“いつもと違う正常”を知ることが鍵
- 体格や体位、薬剤の影響などでPOCUS所見が変化する可能性を忘れない
次はいよいよまとめに入りましょう。ここまでの流れを再確認しつつ、「ありがちな落とし穴」と「英語での伝え方」も併せて振り返ります。
Step 10:よくある落とし穴と英語表現(OET対策)
ショック対応は時間との戦いです。しかし、焦るあまりよくある勘違いや判断ミスに陥ることも少なくありません。
ここでは、臨床現場でありがちな“落とし穴”と、患者への英語での説明やOET対策にも役立つ表現を紹介します。
⚠️ Clinical Pitfalls(ありがちな落とし穴)
- 「warmだから大丈夫」は大間違い: 敗血症初期は四肢温かくても要注意
- 血圧正常でもショックは進行していることがある: 組織灌流指標(尿量、乳酸、意識)を忘れずに
- POCUS・SIだけに頼る: あくまで補助診断。視診・触診・問診も重視
- β遮断薬内服者の頻脈が出にくいことを見落とす
- “とりあえず抗菌薬”はNG: 感染源検索+血培採取を忘れずに
️ Medical English Expressions & OET対策
⚕️ 医師が使う説明表現(OET speakingにも対応)
- “Your blood pressure is low, and we need to support your circulation.”
- “We are going to give you fluids through a drip to help improve your blood flow.”
- “You may need medication to help your heart pump more effectively.”
♂️ 患者が使うLayman表現(理解促進のための工夫)
- “I feel faint / dizzy / weak.”
- “My heart is pounding.”
- “I can’t catch my breath.”
- 誤用例: “shock” = 感情的ショックと思われることが多い
Glossary(専門用語の確認)
- Shock Index: HR ÷ SBP。≧1.0でショックを強く示唆
- POCUS: Point-of-Care Ultrasound。現場での超音波評価
- RUSH: Rapid Ultrasound in Shock and Hypotension。POCUSのショック評価プロトコル
- Epinephrine IM: 筋注によるアドレナリン投与(アナフィラキシー時)
Language Tips
- “You are in shock.” は避けて、“Your circulation is not working properly.” などに言い換える
- 患者の理解を確認する際は、“Does that make sense?” や “Do you have any questions?” を忘れずに
次はこの記事の総まとめと、関連症候・関連記事のご紹介です。
Step 11:まとめと関連記事のご紹介 ― 現場で生かすショック診療の知恵
本記事では、ショックの診療における初期対応から診断、治療、モニタリングに至るまでを、ABCアプローチとPOCUSを軸に体系的に整理してきました。
全体の流れを振り返ると…
- Step 1: Pseudo ShockかTrue Shockかを見極める
- Step 2: ABCアプローチで安定化と初動対応
- Step 3: 検査・画像・治療は“同時進行”で進める
- Step 4〜5: POCUSとShock Indexで病態を可視化
- Step 5.5: 検体データ・心電図を「読む力」で差がつく
- Step 6: 4大ショック分類と初期治療の実際
- Step 7〜8: 補償破綻とその評価 → 再介入のタイミング
- Step 9〜10: 特殊状況や英語表現の注意点にも触れる
最後に伝えたいこと
“ショックは急いで考える疾患”ではなく、“急がないと考えられない疾患”です。
だからこそ、私たちは評価・治療・再評価を1つの流れとして反射的に動ける準備が必要です。
「迷ったらまずABC、そしてPOCUSとSI」で判断の軸を持ちましょう。
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参考文献・ガイドライン
- Surviving Sepsis Campaign Guidelines
- RUSH Protocol – Ultrasound of the Critically Ill
- Shock Index and Early Warning Score Literature
おすすめ教材・外部リンク
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
あなたの診療の現場で、この記事が少しでもお役に立てば幸いです。
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