「なんとなく元気が出なくて、仕事にも行きたくないんです…」
そんな言葉を漏らした60歳の男性。あなたならどう考えますか?
🔍 この訴えをどう捉えるか?
「なんとなく元気が出ない」を Semantic Qualifier で言い換えると…
👉 慢性・全身性の倦怠感/気分の低下
これは明らかに “抑うつ” の可能性を示唆します。
🚩 まず考えるべきは「症候性うつ」!
抑うつ症状の裏に身体疾患が隠れていることは少なくありません。特に以下は注意。
系統 | 疾患例 |
---|---|
内分泌 | 甲状腺機能低下症、副腎不全、Sheehan症候群、糖尿病 |
神経 | パーキンソン病、脳血管障害、てんかん後 |
感染 | 結核、HIV、梅毒、肝炎 |
腫瘍 | 脳腫瘍、消化管癌、悪液質 |
血液 | 貧血、ビタミンB12/葉酸欠乏 |
薬剤性 | ステロイド、IFN、β遮断薬、アルコール |
その他 | 睡眠時無呼吸症候群、慢性疲労症候群、線維筋痛症 |
📋 アプローチの基本ステップ
① 問診
- 発症時期と経過(急性か、徐々にか)
- 睡眠・食欲・体重・集中力・意欲
- 自責感・希死念慮
- 生活背景:職場、家庭、出産歴
- 身体所見との関係(便秘、寒がり、脱毛など)
② 身体診察
- flat affect(表情乏しい)
- 皮膚の乾燥、色素沈着
- 注意力低下、遅延反射
- 徐脈、低体温、起立性低血圧
🧠 考え得る鑑別
- 甲状腺機能低下症:寒がり、便秘、浮腫など
- 副腎不全(Sheehan症候群):産後出血歴、塩分欲求、低Na
- うつ病(MDD):興味喪失、希死念慮、早朝覚醒など
🧪 導入症例に戻ってみよう
この男性は「寒がり・便秘・顔色不良・反応鈍さ」があり、
検査ではTSH↑、fT4↓、HbやNaも低下。
👉 甲状腺機能低下症によるうつ症状 と診断されました。
⚠️ Pitfalls(見逃しポイント)
- 「なんとなく元気がない」は病態の始まり
- 精神症状だけで判断せず、身体疾患を除外!
🩺 Take Home Message
うつは「心の病」だけではない。
身体が出す“SOSサイン”かもしれない。
📘 Clinical English(臨床英語表現集)
日本語 | 英語表現 |
---|---|
抑うつ気分 | Depressed mood |
興味の喪失 | Loss of interest / Anhedonia |
自責感 | Feelings of guilt |
自殺念慮 | Suicidal ideation |
塩分を欲しがる | Craving salty food |
寒がり | Cold intolerance |
flat affect | 表情が乏しい |
🔗 関連リンク
📚 参考文献
- UpToDate「Fatigue in Adults」
- DSM-5 診断基準「Major Depressive Disorder」
- 日本内分泌学会「甲状腺機能低下症ガイドライン」
- JAMA 2007 “The Spectrum of Hypopituitarism after Sheehan’s Syndrome”
ピンバック: 【運動麻痺・感覚障害の診かた|問診と神経診察の極意を徹底解説】