— お腹が張ってるだけ…? そこに“見逃せない病態”が隠れていることも。
📌 この記事で学べること
- 腹部膨満の鑑別を「急性×慢性」「局所×全体」で整理
- 腸閉塞・イレウスの画像診断を段階的に考える
- 見逃しやすい病態や伝え方の工夫までカバー!
🚨 Red Flag 症状(見逃してはいけない兆候)
- 持続する腹痛+嘔吐:絞扼性イレウスを疑う
- 発熱+腹膜刺激症状:消化管穿孔や腹膜炎の可能性
- 無尿・排尿困難:尿閉、後腹膜疾患の可能性
- 腸音消失+バイタル異常:敗血症または進行した閉塞
🚪導入症例
「ここ数日、お腹が張って…食欲もなくて。」
70代の女性が外来を受診。お腹を軽く押さえて痛みを訴え、聴診では腸雑音はやや亢進。バイタルサインは安定しているものの、顔には疲れの色が浮かんでいます。
🤔 どう考える?
❶ まず大前提として
「腹部膨満=ガス」ではありません。腹部が膨れて見える原因には、大きく以下の5つがあります:
- ガス(Gas)
- 液体(Fluid)
- 塊(Mass)
- 妊娠(Pregnancy)
- 肥満(Fat)
英語では「5F」と呼ばれることもあります(Fat, Fluid, Fetus, Flatus, Feces)。
❷ 見逃しがちな腸閉塞の罠
「ガスが溜まってるだけですね」で終わらせてはいけません。True obstruction(真の閉塞)と麻痺性イレウスでは対応がまったく異なります。
❸ でも、原因検索の前にまずは「フレーム」で分類
腹部膨満を引き起こす主な疾患を、以下のフレームに当てはめて考えます:
- ① ガス性(Flatus):イレウス、麻痺性腸閉塞、便秘、SIBO など
- ② 液体貯留(Fluid):腹水、尿閉、偽性閉塞、消化管穿孔によるfree air
- ③ 塊・腫瘤(Mass):巨大腫瘍、卵巣嚢腫、膀胱腫瘤、膵仮性嚢胞
- ④ その他:妊娠、肥満、心因性、腹筋弛緩など
❹ 陥りがちな誤解とその理由
- 「下腹部が張っている」=ガス or 便秘と思い込む → 実は尿閉かも?
- 腹部X線でairが見える=麻痺性? → 実は小腸閉塞のearly signの可能性も
では、どうやってアプローチするか? 一緒に考えていきましょう。
Step 1:まず分類してみよう!
以下の4象限のフレームワークでまず整理してみましょう。
急性 | 慢性 | |
---|---|---|
局所性 | イレウス、虫垂炎、ヘルニア | 腫瘍、卵巣嚢腫、憩室炎など |
全体性 | 麻痺性イレウス、腹膜炎 | 肝硬変(腹水)、便秘、IBSなど |
Step 2:問診で絞り込む(OPQRST+PAM HITS FOSS)
OPQRST
- O: Onset(いつから?)
- P: Provocation/Palliation(増悪・緩解因子)
- Q: Quality(どんな張り?)
- R: Region/Radiation(どこが?)
- S: Severity(どのくらい?)
- T: Time course(時間経過)
PAM HITS FOSS
- Previous episode and PMH
- Allergy
- Medications and supplements
- Hospitalization
- Injury / Trauma / Surgery
- Family history
- OBGYN
- Sexual history
- Social history
Step 3:身体所見と基本検査
- 腹部視診・聴診・打診・触診
- 直腸診
- 血液検査(WBC/CRP/腫瘍マーカー)
- 尿検査・妊娠検査
Step 4:腹部X線・CTの読影のコツ
🔍 Stepwise Approach to CT
- 回盲部の虚脱、小腸拡張(>3cm)
- SMAとSMVの比較(SMA > SMV)
- 外ヘルニアの確認
- 特徴的サイン:
- Small bowel feces sign
- Beak sign
- Whirl sign
- 口側・肛門側からの全体評価
さらに、絞扼性を疑う所見:
- 脂肪織混濁
- 浮腫性腸管壁肥厚
- 高濃度の腹水
- 腹壁・筋膜の肥厚
Step 5:原因をリストアップ
True obstruction系
- 癒着
- 腫瘍性閉塞
- 外・内ヘルニア
- 絞扼性イレウス(要緊急対応)
Ileus系
- 麻痺性(感染、薬剤、電解質異常)
- 膵炎、腹膜炎など
その他
- 消化管穿孔
- 腹水
- 嵌頓便、IBS
🗣️ 患者さんへの説明の一例
「今回の腹部膨満は、単なるガスの問題ではなく、小腸の一部が詰まってしまっている可能性があります。今の段階では“腸閉塞”の疑いがあり、追加の検査や治療が必要です。」
🔄 では、導入症例をもう一度見てみましょう
🩺 問診(患者との会話)
医師:「いつからお腹が張っていますか?」
患者:「3日くらい前からずっと張ってる感じで、食欲もなくて…。」
医師:「吐き気や嘔吐、排便の様子はどうですか?」
患者:「吐いてはいないけど、便は出てないですね…。」
🧑🏫 指導医とのカンファレンス
指導医:「CT見てごらん。回盲部が虚脱、小腸は3.5cm以上拡張してる。外ヘルニアもあるな。」
医師:「True obstructionの可能性が高そうですね。」
指導医:「加えて、腸管壁の浮腫性肥厚、脂肪織混濁、高濃度腹水、筋膜の肥厚もある。絞扼性イレウスが疑われるよ。」
医師:「これは外科コンサルトが必要ですね…!」
🏥 転機
絞扼を伴う外鼠径ヘルニアによるイレウスと診断され、緊急手術となった。
🧠 本日のまとめ
- 腹部膨満の原因は多岐にわたり、ガス以外も必ず考慮する
- “True obstruction”と“麻痺性”の鑑別が最重要
- 画像診断と身体所見の組み合わせで判断する
📌 Take Home Messages
- 腹部膨満は「5F(Fat, Fluid, Fetus, Flatus, Feces)」で整理
- Red Flagを必ず確認:腹痛+嘔吐、腸音消失、無尿など
- CTでは拡張・虚脱の部位、サイン(Beak, Whirlなど)に注目
💡 Clinical Pearls
- 腹部X線は全体像、CTはサインで勝負
- 高齢者では、便秘や尿閉も腹部膨満の原因
- “たかが膨満”でも、絞扼性イレウスなら命取り
💬 Clinical English
- Abdominal distention:腹部膨満
- Bloating:膨満感(主観的)
- Ileus:麻痺性イレウス
- Obstruction:機械的閉塞
- Small bowel feces sign:小腸便徴候
- Beak sign:くちばしサイン
- Whirl sign:腸間膜捻転徴候
- Tympanic sound:鼓音
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- 英語版はこちら:en symptom-based approach to abdominal distention
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