見逃しやすい疾患が“むくみ”の裏に隠れているかも。フレームで分けて、ピットフォールに気づこう。
📌 この記事で学べること
- むくみ(浮腫)の分類とsemantic qualifierの使い方
- 病歴・身体診察・検査をどう組み合わせて診断するか
- よくある落とし穴と、診察のワンポイント!
🚪 導入症例
「最近、なんだかすねのあたりがむくんできた気がして……」
35歳の女性が外来を受診。特に痛みや息切れはないとのこと。
🤔 どう考える?
35歳の女性が「最近すねがむくんできた」と来院。
両側性で、特に痛みや息切れはなし。若い女性という点も含めて、心不全や腎不全など“全身性”疾患は可能性が低い印象かもしれません。
でも、ちょっと待ってください。浮腫(むくみ)って、何科の病気?
循環器?腎臓?内分泌?整形外科?…実はどの科でも見かける共通症状なんです。
そして、初学者がよくやりがちなのが、「両側だから大丈夫」「静脈瘤で説明できるからOK」という“思考停止”です。
確かに、両側性のむくみ=全身性疾患が多いのは事実ですが、甲状腺機能低下や低アルブミン血症など、意外な病態が隠れていることも。
患者さんからはこんな言葉もよく聞きます。
「歳だからですかね?」「昔からむくみやすくて…」「立ち仕事だから…」
でも、何かの異常の“初期信号”かもしれません。
ところで、むくみといえば「足(特にすね)」が多いですよね?
これは重力の影響で、静脈・リンパ液が一番たまりやすい場所だから。
特に皮下脂肪が少ない人では、ちょっとした変化でも目立ちやすいのです。
ちなみに、全身のむくみが極端に強い状態を「anasarca(アナサルカ)」と呼ぶことがあります。
これは英語圏では一般的な表現ですが、日本語ではあまり馴染みがなく、学生や初期研修医が「えっアナ…何?」と戸惑うことも。
語源はギリシャ語で「中に水が溢れている」状態を指すそうです。
カッコつけたい人におすすめの医療英語です(笑)。
さらに補足すると、「むくみ」という言葉自体がとても曖昧で、患者さんの感じ方によって意味が大きく違います。
「顔がむくむ」「足がむくむ」「全体がむくむ」——それぞれ原因も背景も全く異なることが多いのです。
- そもそも「圧痕性」ってどうやって見るの?
- 非圧痕性って、本当に珍しいの?
- 「なんとなく浮腫」って放置していいの?
あと、看護師さんやご家族から「なんか、むくんでませんか?」って相談されること、ありますよね。
その一言が、実は心不全の再燃やネフローゼの再発を知らせるサインだったりします。
「むくみ」は一見シンプルに見えて、見逃しやすいRed Flagの温床でもあります。
症例の背景、訴えの言葉、そして浮腫の“性質”を丁寧に読み解くことで、診断の道筋がぐっと明確になります。
さて、ここからは「5つのステップ」でアプローチを解説していきましょう。
Step 1:まず分類しよう(semantic qualifier)
- 急性 or 慢性?(数日 vs 数週間〜)
- 局所性 or 全身性?(左右差、体重変化)
- 圧痕性 or 非圧痕性?(皮膚を押して凹むか)
例:「慢性・両側性・非圧痕性」の浮腫なら… → 甲状腺機能低下症などが示唆される。
📌 Pitfall:圧痕性かどうかは、しっかりと圧迫時間をかけて確認を。
🩺 Step 2:問診で絞り込む
- Onset / Duration:いつから? 急に? 徐々に?
- Location:どこが? 左右差あり?
- Time course:時間帯の変化(朝・夜)
- Associated symptoms:動悸・息切れ・倦怠感・月経異常など
- PMH:心不全、肝疾患、腎疾患、内分泌疾患の既往
- Medications:CCB、NSAIDs、糖尿病薬など
📌 Pitfall:「静脈瘤があるから…」と見逃されやすい静脈血栓症に注意。
👣 Step 3:身体診察で確認
- 部位:前脛骨部、足背、仙骨部、顔面、眼瞼など
- 圧痕性:深く長く押して確認
- 皮膚の色調・発疹・熱感
- 頸静脈、胸水音、呼吸音
- 甲状腺の腫大や眉毛外側の脱毛
📌 Pitfall:甲状腺疾患では圧痕性が乏しいこともある。
🛠 補足
- 温度:炎症や静脈血栓では患部が温かくなる
- 色調:赤みや紫色は蜂窩織炎や静脈うっ滞を示唆
- 皮膚所見:潰瘍、びらん、色素沈着、毛細血管拡張など
- 静脈怒張:頸静脈怒張(心不全)、表在静脈の索状物(DVT)
- 呼吸音:胸部にラ音(crackles, rales)があるか
🔬 Step 4:検査をどう選ぶ?
- 血液:Cr、eGFR、Alb、TSH、FT4、BNP、肝機能
- 尿検査:蛋白尿・Na排泄など
- 心電図・心エコー・腹部エコー
📌 Pitfall:アルブミンが正常でも、甲状腺機能低下ではむくむ。
🔍 Step 5:鑑別をリストアップ
- 圧痕性:心不全、ネフローゼ症候群、肝硬変、薬剤性
- 非圧痕性:甲状腺機能低下症、リンパ浮腫、炎症性浮腫
- 片側性:DVT、蜂窩織炎、CRPSなど
📌 Pitfall:両側性=全身性とは限らない!
🔄 症例で振り返る
患者:35歳女性「すねがむくんできた気がします」
問診:
医師:「いつ頃からむくみを感じますか?」
患者:「1ヶ月前くらいから、だんだんと…」
医師:「左右差はありますか?」
患者:「両方ですね。朝起きた時が特に気になります」
身体診察:
- 両側の前脛骨部に非圧痕性浮腫
- 皮膚はやや乾燥、表情は乏しい
- 眉毛の外側が薄いことに気づく
検査:
- TSH:35 μU/mL(高値)
- FT4:0.5 ng/dL(低値)
- Cr:正常、Alb:4.2 g/dL
➡ 診断:甲状腺機能低下症による非圧痕性浮腫と診断され、チラーヂン内服で改善。
📌 Take Home Messages
- 浮腫はsemantic qualifierで整理してから鑑別へ!
- 圧痕性・左右差・経過などを丁寧に確認
- 症例によっては非典型的な所見(例:甲状腺機能低下)に注意
💡 Clinical Pearls
- TSHは軽い浮腫でもルーチンで測定しておくと◎
- 圧痕性の確認は最低10秒は押すこと
- 薬剤歴にCCBやNSAIDsがあるかは要チェック!
📚 Reference
- UpToDate – Evaluation of edema in adults
- 日本内科学会雑誌「浮腫の診療」2020
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How to Approach Edema – Swelling Isn’t Always Just Water
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