「とりあえず抗生剤」はもう卒業。
診察室で迷わない、“火元探し”の全技法を一気に整理します。
📌 この記事で学べること
- 発熱の原因をVITAMIN CDEで分類し、見逃せない疾患を見落とさない視点
- Step-by-stepで診ていく診察法(問診・身体診察・検査)
- 日常診療で迷わない「fever work-up」の全体像
🚪 導入症例
「2日前から熱が出ていて…」
36歳の女性がクリニックを受診。
「熱が続いてしんどい」とのことで、最初は風邪かと思っていたが、なかなか下がらず不安になって来院した。
診察室であなたはふと立ち止まる。
「この熱、“風邪”で片づけていいのだろうか?」
🤔 どう考える? — “風邪”で片づける前に
「発熱?まあ、風邪でしょう」で終わらせていませんか?
問診も診察も“なんとなく”流してしまって、ルーチンで検査を出してはいませんか?
実はそれ、誰もが通る道です。
でも本当は、発熱こそが“臨床推論”の腕の見せ所。
そして、家庭医や総合診療医の“本領発揮”の場なんです。
この症状の裏にある“火元”はどこか?
ただの上気道感染かもしれないし、全身の炎症反応を反映した“何か”のサインかもしれない。
だからこそ、背景を知り、体の声を拾い上げて、意味を読み解いていく──
まさに“診断推論”という名の探索が始まります。
しかも発熱の診かたを磨くことで、他の症状にも応用が効くようになります。
咳、倦怠感、関節痛、体重減少……どれも「火元を探す」アプローチは同じです。
つまり、「発熱」は診断力の筋トレ。
しかも頻度はめちゃくちゃ高い。
ここで立ち止まって、「ちゃんと診る」力を身につけておけば、
明日の診療がきっと変わるはずです。
さあ、この患者さんの“熱の正体”を一緒に探っていきましょう。
まずはどこから手をつけるべきか?
最初の一歩は、目の前の事実(Fact)を正しく拾い上げるところからです。
🧭 Step 1:まず“どう考えるか”を決める — Fact → Problem → Hypothesis
診断は、仮説を立てて、それを検証していく“旅”のようなもの。 ただしこの旅の出発点は、「いきなり答えを出す」ことではありません。
まずやるべきは── 目の前にある事実(Fact)を、どう捉えるか。
たとえば患者の訴えや発熱の持続期間、伴う症状や背景疾患などを一つずつ拾い上げていきます。 次に、それらを意味のある医学的な言葉(Problem)に“翻訳”していきます。
ここで役に立つのがSemantic Qualifier(意味を持った対比の軸)です:
- 急性か?慢性か?
- 局所か?全身か?
- 持続的か?間欠的か?
- 発熱パターンに特徴はあるか?(弛張熱・間欠熱 など)
こうして導き出した“Problem”をもとに、 「では、何が考えられるか?」という仮説(Hypothesis)へとつなげていきます。
ここではまだ診断をつける段階ではありません。 むしろ、「このあとの問診・診察で集めにいくべき情報(NTK=Need To Know)」を意識しながら、 複数の仮説をたてるところまでがこのStepの目的です。
そして── その“Fact”を集めるための武器が、問診力と診察力。 次のステップでは、どんな情報を聞き出し、どのように拾っていくかを具体的に見ていきましょう。
🗣️ Step 2:問診で何を聞くか?──“情報を集めに行く”という姿勢
「熱があるんです…」と患者さんが話し始めたとき、あなたは何をどう聞き返しますか?
まずは、開かれた質問(open question)からスタートしよう。
「どんなふうに体調が悪くなってきましたか?」
「どんなときに一番つらいですか?」
「ほかに気になる症状はありますか?」
それに対する答えが、あなたの“旅の地図”になる。
ここから、Factを集め、Problem(医学的に意味づけ)し、Hypothesis(仮説)を立てていく──診断の最初の一歩が、まさにこの問診なのです。
🧩 どう情報を集める?〜問診の3つの視点〜
【1】経過:その“熱”はどう始まり、どう続いている?
- 「2日前から熱が出てます」──それって 急性発症?
- 「夜だけ熱が上がる気がします」──それって 周期性?
- 発症様式・持続時間・パターンの違いが、鑑別の幅を絞る鍵になる
【2】部位と随伴症状:どこに何が起きている?
- 「咳が出る」「喉が痛い」「寒気がする」── 局所の感染?それとも全身の反応?
- 「実は足が腫れてて…」そんな一言が、DVT→肺塞栓→発熱につながることも
- “症状がない”ことも重要な所見。「他は大丈夫です」は見逃し厳禁
【3】背景因子:その人が“どんな人か”を知る(PAM HITS FOSS)
項目 | 内容の例 |
---|---|
Past Medical History | がん、糖尿病、免疫疾患、透析患者など |
Allergies | 抗菌薬や解熱剤のアレルギー |
Medications | 免疫抑制剤、抗がん剤、ステロイド、漢方 |
Hospitalizations | 最近の入院・手術歴(院内感染や医原性の視点) |
Immunization | インフル、COVID、帯状疱疹など |
Transfusions | 輸血歴(感染症リスク) |
Surgical History | 特に脾臓摘出歴(敗血症の感受性↑) |
Family History | 遺伝疾患、がん、自己免疫疾患など |
OBGYN / Travel | 月経・妊娠・出産・婦人科疾患、海外・温泉・キャンプ |
Social History | 介護施設、喫煙・飲酒、ペット、集団生活、生活保護など |
Sexual History | 性感染症のリスク、パートナー歴、保護の有無 |
🧭 このStepで大事なこと
- ここで得たFactは、Step 1で提示した「Problem→Hypothesis」の思考フレームに沿って、次の診断に活かしていく
- まだこの時点では“診断をつける”のではなく、「必要な情報(NTK)を明確にして、何を次に集めに行くべきか」を考える段階
診断は、情報を集める旅。その第一歩が問診。
次は身体所見で、仮説に一歩踏み込んでみよう。
🩺 Step 3:身体診察で何を見る?──“仮説に一歩踏み込む”ステージ
問診で得た情報(Fact)から仮説(Hypothesis)を立てたら、次はそれを裏付ける・崩すための身体診察。
ここで大切なのは、「とりあえず聴診器」ではなく、目的を持って全身を診ること。
🔍 Systematic Head-to-Toe のすすめ
以下のように全身を網羅的に診察し、見逃しを減らしつつ、仮説の検証につなげるのがポイント:
- 全身状態:バイタル(特に発熱の型)、皮膚の乾燥/冷感、意識レベル
- 頭頸部:結膜(貧血)、眼球突出、項部硬直、咽頭発赤・膿栓、頸部リンパ節腫脹
- 胸部:呼吸音(rhonchi, crackles)、心音(雑音、Ⅲ音)、打診音の変化
- 腹部:圧痛(局在性かびまん性か)、肝脾腫、Murphy徴候、腸蠕動音
- 四肢・末梢:関節炎、浮腫、DVTの兆候、皮疹、点状出血や紫斑
- 神経:項部硬直、Babinski徴候、病的反射
🧰 補助診察ツールを使おう
「身体診察は古くない、むしろ今こそ武器になる」
以下のような器具を使うことで、仮説の幅がグッと広がる:
道具 | 使用ポイント |
---|---|
眼底鏡(fundoscopy) | 乳頭浮腫(髄膜炎、脳圧亢進)や眼底出血(感染性心内膜炎) |
耳鏡(otoscope) | 中耳炎の確認(小児の発熱や高齢者の感染症) |
聴診器 | 呼吸音の左右差、心雑音の評価 |
ペンライト | 咽頭所見、対光反射、項部硬直の確認 |
舌圧子 | 扁桃周囲膿瘍や咽頭の観察 |
※基本の器具(聴診器・ペンライト・舌圧子)は言及せずとも使用前提とする。
🧠 ここでの判断ポイント
- 身体所見は、“見たもの”だけでなく、“見なかったもの”も重要な情報(negative finding)
- 身体所見だけで診断に至らなくても、次に何をするかの判断材料として非常に重要
- このStepでは、「仮説を検証するために、どの身体所見がKeyになるか」を明確にしておこう
🗨️ Clinical Thinking Note
「身体診察のスキルは、超音波や画像があっても色あせない。
診察で仮説が確信に変わる瞬間がある。──その快感を知ってほしい。」
🧪 Step 4:検体検査で何がわかる?──“Factを数値で裏づける”ステージ
問診・身体所見で得られた仮説(Hypothesis)を、検体検査で絞り込む・補強するパート。
ここでは「何を調べるか?」だけでなく、「なぜ調べるか?」を考えてから検査に進むのが重要です。
🔍 検査前に考えるべきこと
- 検査前確率(pre-test probability)をもとに、結果が診断にどう影響するかを予測する
- この検査で○○が陽性なら、診断をより確定できるか?
- 陰性なら、代わりに何を想定し、次に何をすべきか?
- “とりあえず採る”を卒業し、「意味ある結果」だけを取りに行く姿勢を持つ
🧠 検査前確率をもとにした判断の例
感染性心内膜炎(IE)を疑った場合、検査前確率が中〜高であれば血培・CRP・PCTに加え、心エコーや頭部MRIなどを早期に検討。
逆に、検査前確率が低ければ、偽陽性リスクの高い検査(例:PCTやβ-Dグルカン)には注意が必要。
✅ 主な検体検査と見どころ
検査 | ポイント | 解釈のコツ |
---|---|---|
CBC(血算) | WBCは正常でも感染を否定できない | リンパ球減少 → ウイルスや敗血症を示唆 |
CRP | 48時間でピーク、反応はやや遅い | 炎症全般に反応、高感度・低特異度 |
PCT | 細菌性感染にやや特異的 | ・発症後6–12時間で上昇 ・敗血症で高値を示す ・感度:約85%、特異度:約75% |
LFT(肝機能) | 薬剤性・肝膿瘍など | AST/ALT, ALP, γ-GTP の比率に注目 |
UA(尿検査) | 膿尿、蛋白尿、潜血 | 腎盂腎炎や腎障害のスクリーニングに |
血培 | 高熱 or 熱型がある時はマスト | 最低2セット、抗菌薬前に |
その他 | β-Dグルカン、KL-6, ANA, IL-2R, ACTH… | 鑑別疾患に応じてカスタマイズ |
📈 マーカーの時間的推移と診断特性
- CRP:6時間で上昇、48時間でピーク。感度高いが非特異的(ウイルスでも上昇)
- PCT:細菌感染で6〜12時間以内に上昇。特異度やや高め(ウイルス感染では上昇しにくい)
- WBC:正常でも重症感染を否定できない。高齢者や免疫抑制下では要注意
💡 Tips:この検査で何がわかる?の“言語化”
- 「この検査は、この疾患の根拠を強める or 否定できる」
- 「検査前確率が50%以上 → 検査結果がその後のマネジメントに直結」
- 「陰性なら次の一手も想定しておく」
🗨️ Clinical Thinking Note
検査は武器。振り回すものじゃない。
診断の道具として、戦略的に使いこなそう。
陽性でも陰性でも“その後”を準備したうえで、冷静に打ち手を決めよう。
🖼️ Step 5:画像検査・特殊検査 – 狙って撃つ、診断の最終兵器
問診・身体所見・検体検査で「ここが怪しい」とアタリをつけたあとに行うのが画像・特殊検査。 このステップでは、「闇雲に撮る」ではなく、「この理由で撮る」 を徹底します。
🔍 検査を選ぶ前に考えること
- 検査前確率(Pre-test probability)が高いか?
- 陽性ならどうする? 陰性ならどう動く?
- 検査後確率(Post-test probability)にどう影響するか?
- 費用、侵襲性、タイミングを含めて「今、それ必要か?」を自問する
🔁 陽性でも「じゃあどうする?」がなければ意味がない。
❌「とりあえずCT」ではなく、「●●が疑わしいからCT」へ。
🧭 代表的な画像・特殊検査と目的
検査 | 目的・特徴 | 留意点 |
---|---|---|
胸部X線 | 肺炎、心不全、腫瘍などの初期評価 | 感度は高くない。肺炎の初期には所見が出ないことも |
胸部CT | 肺炎の精査、肺塞栓、腫瘍、リンパ節など | 明確な目的があれば撮る。病変の質的評価にも有効 |
腹部エコー | 胆嚢炎、虫垂炎、腎盂腎炎、膿瘍など | ベッドサイドで有用。特に右季肋部の痛みには有効 |
腹部CT | 虫垂炎、腸炎、虚血性腸炎、癌、膿瘍など | 造影の有無や年齢、腎機能に留意 |
心エコー | 感染性心内膜炎、心不全、心膜炎など | 胸痛・発熱・血培陽性でのIE評価には必須。TEEはより感度高い |
頭部MRI | 意識変容・けいれん・局所神経症状・IEでの塞栓評価など | 発熱+神経症状があるなら考慮 |
髄液検査 | 髄膜炎、脳炎の評価 | 腰椎穿刺の適応と禁忌に注意 |
培養(尿・喀痰・便) | 起因菌検索 | 抗菌薬投与前に行うと有効性が高い |
特殊検査(KL-6、β-Dグルカン、T-SPOTなど) | 鑑別が特定疾患に及ぶとき | 疑う根拠がある場合に限って使う |
🧠 実際の使い方(Clinical Reasoning)
- 血培陽性+心雑音 → TEEで感染性心内膜炎の評価
- 頭痛+熱+精神症状 → 頭部CTで頭蓋内圧亢進の評価後、腰椎穿刺の可否判断
- 発熱+右季肋部痛 → 腹部エコーで胆嚢炎を評価
💡 Tips
- 画像検査は万能ではない。「見つからなかったからナシ」とは限らない
- 肺炎は所見が遅れて出ることがある。繰り返し撮る意義も
- IEや免疫不全症例では、頭部MRIや胸部CTも有用
- 「何を見に行くのか」を明文化してから依頼する習慣を
🗨️ Clinical Thinking Note
「検査で診断がつく」のではなく、
「診断を明確にするために、検査を使う」。
画像も道具のひとつにすぎない。問診と診察で“必要性”を証明してから、手を出そう。
🔁 この症例に当てはめると?
さて、ここまでStep1〜5の基本的なアプローチを整理してきました。
では実際に、最初に紹介した症例をもとに、一つずつ適用して振り返ってみましょう。
Step2:問診で得た Fact → Problem → Hypothesis
Step2で学んだ「問診の構造」や「背景情報の把握(PAM HITS FOSS)」を意識しながら、実際の診察室でのやりとりを振り返っていきます。
👩⚕️ まずはオープンクエスチョンから
「今日はどうされましたか?」
🧑🦰「2日前から熱が出ていて、なんだかしんどくて…解熱剤を飲んでもすぐに上がってしまうんです。」
👩⚕️ 経過・随伴症状の把握
「いつからですか?」「どんな症状がありますか?」
🧑🦰「2日前からですね。1日2回くらい熱が上がって、寒気と体の節々の痛みもあります。のども痛いし、咳もちょっと出てます。」
👩⚕️ 背景情報の確認(PAM HITS FOSS)
「これまでにかかったご病気や、普段飲んでいるお薬はありますか?」
🧑🦰「特に大きな病気はなくて、今は薬も飲んでいません。最近、家族も風邪気味でした。」
「ペットや動物との接触はありますか?海外には行きましたか?」
🧑🦰「ペットはいません。海外旅行もしていません。」
📌 Fact
- 発熱は2日前から急性に発症
- 1日2回ほどの発熱パターン(間欠熱)
- 咽頭痛・鼻汁・咳嗽・悪寒・筋肉痛といった全身+上気道症状を伴う
- 家族に同様の症状あり(接触歴)
- 特記すべき既往歴・薬剤・社会歴・リスク因子なし
📌 Problem(semantic qualifierを使用)
- 急性・持続性の発熱
- 全身倦怠感と上気道症状を伴う
- 一般状態は保たれている
📌 Hypothesis(現時点の鑑別)
- ウイルス性上気道炎(最も可能性が高い):インフルエンザ、COVID-19、アデノウイルスなど
- 溶連菌性咽頭炎:咽頭痛が強く、発熱が持続する場合
- 細菌性肺炎や副鼻腔炎の初期像:咳や熱が続く場合に備えて念頭に
Step3:身体診察での確認と評価
Step2で得たHypothesisをもとに、ここでは「ルールイン・ルールアウト」の視点で身体診察を行います。
特に「見逃してはいけない疾患(Red Flags)」を意識して、全身を系統的にチェックしていきます。
- バイタルサイン:BP 118/76、HR 92、RR 16、SpO₂ 98%、Temp 38.3℃
- 意識・全身状態:意識清明、全身状態は良好
- 皮膚:皮疹なし、黄疸なし
- 咽頭所見:発赤あり、白苔なし(ウイルス性を示唆)
- 頸部リンパ節:軽度腫大、圧痛なし
- 呼吸音:ラ音なし、左右差なし
- 心音:雑音なし、リズム整
- 腹部:平坦、圧痛なし、肝脾腫なし
- 眼底・耳鏡:異常所見なし
→ 総合所見:肺炎や急性重症感染症を示唆する所見は見られず、ウイルス性上気道炎が最も疑われる。
Step4:検体検査による補強と臨床判断
上気道炎が最も疑われる状況だけど、溶連菌や肺炎などの細菌感染も完全には除外できない。
だからこそ、「感染の重症度」や「炎症の質(ウイルス vs 細菌)」を見極めるために、CRP・WBC・PCTを中心とした検体検査を選択。
- PCTが高ければ → 細菌性感染が強く疑われ、抗菌薬の開始を検討
- CRP・WBCも著明に上昇していれば → 胸部X線も視野に入れる
- PCTが低く、CRPも軽度上昇であれば → ウイルス感染と判断し、抗菌薬は不要
🧪 検査結果
- CRP:4.2 mg/dL(中等度上昇)
- WBC:10,800 /μL(好中球優位)
- PCT:0.08 ng/mL(正常)
📌 解釈
- CRPはウイルスでも上昇し得る中等度値
- PCT陰性 → 重症細菌感染は否定的
- WBCは軽度上昇 → ウイルス性も鑑別内
→ 結論:現時点で抗菌薬は不要。対症療法で経過観察。
Step5:画像検査・特殊検査の選択
今回の症例では、肺炎や扁桃炎の可能性を考慮しつつも、以下の理由で画像検査は見送りと判断。
- 呼吸音クリア
- SpO₂ 98%
- 呼吸困難・頻呼吸なし
- 全身状態良好
→ 「肺炎を強く疑う根拠は乏しい」と判断。
📌 Tips
- 画像検査は「診断目的」か「除外診断」がはっきりしているときだけ
- 無症候・安定している患者に“念のため撮る”検査は行わない
🪞 Clinical Reflection
「発熱=風邪=抗菌薬」と即断してしまう前に、今回のように丁寧に経過を聴き、背景を把握し、系統的な身体診察を通して「Red Flagsがないこと」を確認することで、多くの患者に対して安全な見極めが可能になります。
また、検査も闇雲にオーダーするのではなく、「この仮説を検証するために、これを測る」という視点を持つことで、臨床推論の制度がぐっと洗練されます。特にPCTのようなバイオマーカーは、検査前確率を踏まえて“診断の重み付け”をしてくれる強力な味方となります。
今後も、「検査の前に問診・身体所見でどこまでわかるか?」を問い続ける習慣を大切にしたいですね。
🧠 Clinical Tips
- 「しんどい」の意味を明確にすることで、熱以外の症状(倦怠感、頭痛、筋肉痛など)の評価が深まる。
- 発熱のパターン(持続か間欠か)から感染症の種類を絞る手がかりになる。
- PCTは重症細菌感染の判断材料として有用。CRPと違いウイルス感染では上がらない。
- 背景情報(PAM HITS FOSS)を網羅することで、リスク要因や感染経路に気づける。
- 検査は“診断の補助”であり、すべてを決めるものではない。問診・診察で見極めたうえで使う。
💡 Clinical Pearls
- “Not all fevers need antibiotics.”(すべての発熱が抗菌薬を必要とするわけではない)
- “Listen to the patient — they’re telling you the diagnosis.”(患者の話の中に診断のヒントがある)
- “Order tests to confirm, not to guess.”(あてずっぽうに検査せず、確認のために使おう)
- “A clear chest does more than a cloudy film.”(きれいな肺音は、濁ったレントゲンより信頼できる)
📝 本日のまとめ
- 発熱の初期対応では、まず「除外すべき疾患」と「全身状態の評価」が最優先。
- 問診は「経過・部位・背景(PAM HITS FOSS)」を意識して深堀りしよう。
- 身体診察ではRed Flags(髄膜炎・肺炎・膿瘍など)を見逃さない視点が重要。
- CRPやPCTなどのバイオマーカーは「使う目的」を明確にして活用する。
- 画像検査は「狙って取る」ことを徹底し、無駄な検査を減らす判断力を養おう。
今回の症例のように、軽症に見える発熱でも「火元探し」を丁寧に行うことで、無用な抗菌薬投与や過剰検査を避けつつ、見逃しのない診療が可能になります。
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