コンテンツへスキップ
ホーム » 🩺皮疹の診かた ― 「見た目」で終わらせないために

🩺皮疹の診かた ― 「見た目」で終わらせないために

「ぶつぶつができて…」
「かゆくて寝れません」
「発疹が出てきて熱もあるんです」

皮膚の症状は、患者の言葉で訴えられる頻度も多く、家族からの相談も多い身近な主訴です。しかし、皮疹を正確に“言語化”し、鑑別疾患を想起するスキルは、意外と後回しにされがちです。
今回は、皮膚所見の捉え方と「dermadrome(デルマドローム)」の考え方も含めて、皮疹アプローチを一歩深く整理します。


📌この記事で学べること

  • 皮疹を“ことば”に変える「皮膚の表現方法」
  • 見落とされがちな**dermadrome(皮膚から始まる全身疾患)**の重要性
  • 発疹パターンから導く鑑別診断の道筋
  • 英語で皮疹を説明するための表現集

🚪導入症例

「左胸のあたりがチクチクして、赤い発疹が帯状に広がってきました…」
68歳女性、体調は良いが発疹が日に日に痛みを増しているという訴えで来院。


💭どう考える?皮疹をことばにする力

「発疹が出ました」と聞いて、すぐに診断名を思い浮かべるのは困難です。
まず大事なのは、“皮膚の見た目を医学語に翻訳する”ことです。

皮疹の診察で確認すべきは次の3点:

  • どんな形か?(形態)
  • どこにあるか?(分布)
  • どう広がっているか?(配列・範囲)

これらを言語化できるだけで、鑑別は一気に絞れます。

💬たとえば…
「ぶつぶつしてて赤いです」だけでは、湿疹も蕁麻疹もSLEも除外できません。
しかし「左右対称のびまん性紅斑性丘疹」と表現できれば、候補はぐっと絞れます。

そこで、よく使う皮膚所見の用語を定義とともに整理しておきましょう。

🔍皮膚所見の基本用語

用語定義(大きさ・層など)備考・代表疾患例
紅斑(Erythema)真皮浅層の血管拡張による発赤。圧迫で退色し、隆起なし。薬疹、SLEなど
丘疹(Papule)直径≤1cm、表皮~真皮浅層の限局性実質性隆起。湿疹、ニキビ
結節(Nodule)直径>1cm、真皮深層~皮下組織までのしこり。皮膚リンパ腫、サルコイドーシス
腫瘤(Tumor)持続性かつ進行性の大きな隆起。有棘細胞癌、悪性黒色腫
水疱(Vesicle)直径≤1cmの漿液性小腔。表皮内または表皮下。単純ヘルペス、水痘
大水疱(Bulla)直径>1cmの水疱。通常は表皮下。天疱瘡、熱傷
膿疱(Pustule)膿(好中球主体)を含む表在性病変。膿痂疹、膿疱性乾癬
鱗屑(Scale)角層の剥離物。乾癬、脂漏性皮膚炎
痂皮(Crust)滲出液・膿・血液などが乾燥して形成。掻破後、膿痂疹
びらん(Erosion)表皮の一部欠損、瘢痕を残さない。帯状疱疹、接触皮膚炎
潰瘍(Ulcer)真皮~皮下組織の深い欠損、瘢痕形成あり。褥瘡、糖尿病性潰瘍
紫斑(Purpura)皮下出血。圧迫で退色しない。HSP、ITP
苔癬化(Lichenification)慢性掻破による皮膚の肥厚・皮溝増強。アトピー性皮膚炎
色素沈着(Pigmentation)メラニンやヘモジデリンによる色調変化。Addison病、慢性皮膚炎

🌎皮膚は内臓を映す鏡 ― dermadrome(デルマドローム)の視点

皮膚の病変は、単なる局所症状に見えて、実は全身疾患の“初発所見”であることがあります。
こうした“皮膚に現れる内科疾患のサイン”を捉える視点が、dermadrome(デルマドローム)です。

💬たとえば…
「ちょっと変わった皮疹」が、自己免疫疾患や内分泌疾患、悪性腫瘍の先行サインであることもあります。

🔬dermadromeの代表例

皮膚所見疑うべき内科疾患補足
蝶形紅斑SLE(全身性エリテマトーデス)紫外線で悪化
Gottron丘疹皮膚筋炎間質性肺炎を合併しやすい
色素沈着+低血圧+倦怠感Addison病ACTH増加によるメラニン沈着
紫斑+腹痛+血尿IgA血管炎(HSP)小児に多いが成人では腎障害に注意
紅斑性丘疹+リンパ節腫脹HIV初期、EBV感染、薬疹全身症状とセットで評価
黒色丘疹・色素沈着の急増悪性腫瘍(Leser-Trélat徴候)内臓癌のパラネオプラスティック症候群

🧠なぜ大事なのか?

  • 皮膚は視覚で即座に診断のヒントが得られる“開かれた臓器”
  • 皮膚症状が出てから数ヶ月〜年単位で内臓疾患が発覚することも
  • 特に自己免疫疾患では、皮疹+関節症状の段階で診断できれば予後が改善

💡Clinical Tips

  • 左右対称・慢性経過・多部位分布の皮疹は、全身性疾患を疑う
  • 内服歴・紫外線曝露・体重減少・発熱などの全身症状も要チェック
  • 「見た目が気になる」だけでなく、「なぜこの皮膚変化が起きているか?」を考える

さて、
ここまで皮膚病変を見るために必要となる用語や知識ついて共有してきました
ここからは、どうやってアプローチしていくかを考えていきましょう


🧠Step 1:Fact → Problem → Hypothesis

🧩Semantic Qualifierを使ってみる

皮疹をFact(患者の言葉)からProblem(医学的記述)へと変換する際、以下のようなSemantic Qualifier(意味づけ)が重要になります。

患者の訴えSemantic Qualifierによる変換
赤くてかゆいぶつぶつがある「掻痒を伴うびまん性の紅斑性丘疹」
水ぶくれが痛い「限局性の線状分布を示す痛みを伴う水疱」
にきびがひどくなった「顔面部に膿疱と結節を伴う尋常性ざ瘡」

🩺Step 2:Hypothesis(鑑別)をどう立てるか

皮疹のパターンから疾患を絞るには、分布、性状、経過、随伴症状の4点が鍵になります。

まずは大まかな疾患分類を確認し、次に皮膚の“見た目”や“発生部位”という Semantic Qualifier(意味づけ) を活用して、より具体的に鑑別を絞り込んでいきましょう。

🔻代表的な皮疹の原因分類(Etiology)

① 感染性

  • 単純ヘルペス(herpes simplex)
  • 帯状疱疹(herpes zoster)
  • 麻疹・風疹・水痘
  • 真菌感染(白癬、水虫、いんきんたむし)

② アレルギー・免疫

  • 蕁麻疹(urticaria)
  • アトピー性皮膚炎(eczema)
  • 薬疹(drug eruption)
  • 多形紅斑(erythema multiforme)

③ 自己免疫疾患

  • SLE(蝶形紅斑)
  • 皮膚筋炎(Gottron徴候)
  • 強皮症(硬化した皮膚)

④ 腫瘍性

  • 悪性黒色腫(melanoma)
  • 基底細胞癌(basal cell carcinoma)

以上が原因別に整理した鑑別の分類です。
もちろん知識として分類を思い出すことはできますが、実際の現場では「この皮疹からどう絞り込むか」が悩ましいところです。

そこで鍵になるのが、先ほど整理した皮膚の“言語化”=Semantic Qualifierです。
「どんな形で、どこにあって、どんな分布なのか」を組み合わせて判断すれば、より現実的なアプローチができます。


🔍皮膚所見のSemantic Qualifierから鑑別を絞る

皮膚の所見は、単に「ぶつぶつ」ではなく、形・色・分布・経過などのSemantic Qualifierで細かく分類すると鑑別が劇的に絞れます。

【例:皮疹の性状と鑑別】

所見定義主な鑑別疾患
水疱(vesicle)透明な液体を含む小さな隆起単純ヘルペス、水痘、帯状疱疹
丘疹(papule)小さな赤い盛り上がり湿疹、毛包炎、薬疹
紫斑(purpura)圧迫で消退しない赤紫斑血小板減少、HSP、DIC
鱗屑(scale)表面の皮膚がはがれ落ちる乾癬、脂漏性皮膚炎
結節・腫瘤深部に及ぶ硬結性のしこりサルコイドーシス、皮膚リンパ腫

【例:皮疹の分布と鑑別】

分布ヒントになる疾患
顔面(特に頬)SLE(蝶形紅斑)、酒さ、ステロイドざ瘡
体幹中心+左右対称薬疹、ウイルス性発疹症、アトピー性皮膚炎
皮膚分節(デルマトーム)に沿う帯状疱疹
手掌・足底・陰部梅毒、掌蹠膿疱症、接触皮膚炎
露光部(顔・手背など)光線過敏型薬疹、SLE、皮膚筋炎

【例:経過からの絞り込み】

  • 急性発症・拡大傾向 → ウイルス性発疹、蕁麻疹、薬疹
  • 慢性反復性・掻痒あり → アトピー性皮膚炎、乾癬、湿疹群
  • 痛みが目立つ → 帯状疱疹、潰瘍性病変、蜂窩織炎

このように、皮疹の形や分布、経過を正確に捉えることで、鑑別診断を効率的に狭めることができます。
「びまん性の紅斑性丘疹が体幹中心に左右対称に出現し、掻痒がある」というだけでも、アトピー性皮膚炎や薬疹を強く疑う材料になります。

次のStepでは、こうして得られた仮説に対して、身体診察・検査でどうアプローチするかを見ていきます。



🔁症例で振り返る:実際にどう診断を進める?

ここでは、Step 1・2の知識を使って、冒頭の導入症例をもう一度深掘りしてみましょう。

🧑‍🦳「左胸のあたりがチクチクして、赤い発疹が帯状に広がってきました…」
– 年齢:68歳女性
– 発症:数日前からチクチクとした痛みが先行し、その後紅斑と水疱が線状に拡大
– バイタル:発熱なし、全身状態は良好


🧩Step 1:Fact → Problem → Hypothesis

以下は、実際の問診をもとにFactを抽出していく流れです。

🩺Doctor: 今日はどうされましたか?

🧑‍🦳Patient: 3日ほど前から左胸がチクチクして痛くて……その後、赤い発疹が出て、だんだん広がってきました。

🩺Doctor: かゆみではなく、痛みですか?

🧑‍🦳Patient: はい、ヒリヒリするような感じで、かゆくはないです。

🩺Doctor: 熱は出ましたか? 他の場所にも発疹はありますか?

🧑‍🦳Patient: 熱は出てないと思います。発疹は左胸のあたりだけです。

  • Fact:「左胸のあたりがチクチクして、赤い発疹が帯状に広がってきた」
  • Problem(医学語化): 限局性・片側性のデルマトームに一致する、疼痛を伴う紅斑性水疱群
  • Hypothesis: 帯状疱疹(herpes zoster)を第一に疑う。

その他の鑑別:

  • 接触皮膚炎:左右対称性が基本であるため、今回は否定的
  • 単純ヘルペス:範囲の広さや皮疹の分布からやや異なる

🔍Step 2の観点からの整理

  • 皮膚所見: 水疱+紅斑、明確な配列(線状)
  • 分布: デルマトーム一致、片側性 → 非常に典型的
  • 経過: 痛みが先行し皮疹が出現 → 帯状疱疹に特有のパターン

👉 結論: 水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)による帯状疱疹(herpes zoster)と診断。

このように、「形・分布・経過」を整理して言語化するだけでも、鑑別の精度が大きく高まります。

今後は、Step 3(身体診察)・Step 4(検査)を通じて、さらに確信に近づけていきましょう。


🩻Step 3:身体診察で確認すべきポイント

  • 皮膚の分布: 明確にデルマトームに沿っているか? 左右差はあるか?
  • 水疱の内容: 清澄か?膿性か? → 二次感染の有無をチェック
  • 圧痛の有無: 発疹部に一致する神経走行に沿った疼痛があるか?
  • リンパ節腫脹: 局所の反応を見る

👉 今回の症例では:

  • 胸部片側に明確な帯状の紅斑・水疱群
  • 圧痛を伴い、痛覚過敏あり
  • リンパ節腫脹なし

身体所見としても帯状疱疹を強く支持


🧪Step 4:検査の適応と活用

  • 基本的には臨床診断が中心: 典型例では検査なしでも可もしくはデルマクイックを使用し確認(偽陽性もあるのであくまで補助的に)
  • 診断が不明瞭な場合: 水疱内容のPCR検査(VZV vs HSV)を検討
  • 高齢者・免疫低下患者では: 血液検査(末梢血、CRP)で全身状態の評価を

👉 今回の症例では:

  • 典型的であるため、PCRや抗体検査は不要と判断
  • 念のため血液検査で全身状態・基礎疾患の評価は妥当

🗣️Useful English Expressions for Rash

💬患者との会話で使える表現

  • “Do you have a rash or any itchy spots?”
  • “Is it more like blisters, or flat redness?”
  • “Did the rash spread over time?”
  • “Does it feel painful, itchy, or burning?”

📖単語リストからの活用例

英語意味
rash皮疹
bumpsぶつぶつ
blisters水ぶくれ
erythema紅斑
acneにきび
hives蕁麻疹
tinea白癬(真菌)
shingles帯状疱疹
freckles / brown spotsしみ、そばかす
eczemaアトピー性皮膚炎

🧩Clinical Pearls

  • 皮疹は“症状”であり“診断”ではない:まず形を見て、次に背景を探れ。
  • 片側性の線状水疱+痛み=帯状疱疹を疑え!
  • 皮膚+筋力低下=皮膚筋炎など、皮膚所見はシステム病の手がかり
  • 薬疹と感染症は見た目がそっくり。経過・発熱・新規薬剤の確認を忘れずに。


🧩まとめ:皮疹診療は”観察力と言語化”の訓練場

お疲れ様でした

皮疹の診療は、目に見える情報をどれだけ構造的に捉え、適切に言語化できるかが問われる診療領域です。

初心者のうちは、「なんとなく赤い」「ちょっと腫れている」など漠然とした表現に終始してしまいがちですが、

  • 大きさ(mm単位)
  • 色調(紅斑 vs 紫斑)
  • 配列(線状?環状?)
  • 局在(顔面?体幹?手掌足底?)

などの情報を具体的にとらえて言葉にするだけで、診断の精度はぐっと上がります。

また、「経過」や「全身症状」と組み合わせることで、内因性疾患や全身疾患との関連(dermadrome)も見えてきます。

皮疹は奥が深い分野ですが、視覚情報とパターン認識が鍛えられるため、初期研修医にもおすすめの学びの素材です!


🔗あわせて読みたい記事


📚参考文献

  • 皮膚科診療ガイドライン2023:帯状疱疹
  • UpToDate: Herpes zoster: Clinical features and diagnosis
  • NEJM: Herpes Zoster – Clinical Review, 2018
  • あたらしい皮膚科学 第4版(清水宏監修)
  • VisualDx(症例ベースの皮膚疾患画像データベース)

📩この記事が役に立ったと思ったら、ぜひ他の記事も読んでみてください!

🔍「症候別アプローチ」シリーズや🧠「ケーススタディ」連載など、英語と医学を一緒に学べる記事がそろっています。

あなたの診断スキルと表現力を、次の一歩へ。「症候別アプローチ」の日本語版、英語版や、面白い症例を扱った「case study」などなど、英語の勉強にも、医学の勉強にもなる記事がたくさんです!!

「🩺皮疹の診かた ― 「見た目」で終わらせないために」への1件のフィードバック

  1. ピンバック: 【How to Approach Skin Rash – Don’t Stop at the “Appearance”】 ー Med Student's Study Room

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です