食思不振(食欲低下)の原因と対処法|精神的な要因から内科疾患まで幅広く解説


「最近、食べる気がしないんです」—そんな一言から始まる問診、OSCEでも頻出の“食思不振”は、単なる体調不良では済まされないこともあります。背景に潜む精神疾患や内科的異常をどう見抜くか? 本記事では、初期対応に必要な視点と、鑑別・介入の実践的ポイントを、症例ベースで丁寧に整理していきます。


この記事で学べること(3つの臨床力)

  • 「食欲がない」の背景にある鑑別疾患の広がりと整理の仕方
    — 神経性無食欲症・うつ・内分泌疾患など、鑑別をVITAMIN CDEで整理
  • OSCEでも問われる“食思不振”への問診・身体診察のコツ
    — SCOFF質問票やRed Flag、食行動に関する問診の具体例も紹介
  • 外来での初期対応と、どこまで診てどこで紹介するかの判断基準
    — 精神科紹介のタイミングや多職種連携の考え方を実践的に理解

導入症例:20歳女性「最近ずっと食べたくないんです…」

🚪Doorway Information

  • 年齢・性別:20歳 女性
  • 主訴:食欲がない
  • バイタルサイン:T 36.1℃, HR 52/min, BP 92/60 mmHg, SpO₂ 98% (RA)

「最近ずっと、食欲がなくて…食べると気持ち悪くなるし、でも太りたくないんです。家族がうるさくて、仕方なく来ました。」


どう考える?—この一言に何を感じるか

「食欲がないんです」——この一言、OSCEでも外来でもよく耳にしませんか?

でも正直、「食思不振って、どこから手をつけたらいいかわからない…」と思ったこと、ありませんか?

  • 「鑑別が多すぎて、何から考えればいいの?」
  • 「精神的なものなのか、身体的な異常なのか、判断が難しい」
  • 「食べたくないって、本人の“気のせい”なのか、本当に危ない状態なのか…」

実はこの症状、若年女性〜高齢者まで、非常に幅広い年齢層で見られる“日常診療のあるある”なんです。
特に内科・精神科・家庭医療、どの科でも遭遇する機会は多く、「軽く扱ってはいけないけれど、過剰にもなりすぎたくない」という、ちょっとバランス感覚が求められる症状でもあります。

今回の症例のように、
「太りたくない」「家族がうるさいから来た」という言葉が出てきたとき、
「摂食障害かも」と思うのは自然な感覚です。

しかしながら、内分泌疾患や悪性腫瘍の初期症状として食欲不振が現れることも決して珍しくありません。

そこで大切になるのが、以下の2つの視点です。

  1. 「この食思不振は、身体からのサインなのか?心の訴えなのか?」を丁寧に見極める
  2. 「どこまでを外来で診て、どこからを専門家に任せるか?」という判断力を持つ

このあと順を追って、問診・身体診察・検査、そして紹介の判断までを、症例とともに一つずつ整理していきます。

「食べたくない」という一言の裏に、どれほど多くの背景があるのか。
その見極め力を、ぜひ一緒に身につけていきましょう。


さて、ここからは本格的に診察を進めていきましょう。
まずは、患者の言葉を出発点に、事実(Fact)・問題(Problem)・仮説(Hypothesis)を整理することで、私たちの思考を可視化していきます。

「食思不振」という症状を、医学的にどう定義し、どう位置づけるのか?
ここを明確にすることが、正しい鑑別と的確なアプローチの第一歩になります。


患者の情報を整理する:Fact / Problem / Hypothesis(仮説の出発点)

ここでは、患者の言葉や状況からFact(事実)→ Problem(問題の再定義)→ Hypothesis(仮説の展開)という順で、症候を医学的に構造化して捉えていきます。

「食欲がない」という主訴を、単なる感覚で終わらせず、臨床的に意味のある問いに変えていく準備段階です。


🔎 Fact(事実)

  • 20歳女性、主訴は「食欲がない」「食べると気持ち悪くなる」
  • 「太りたくない」という発言あり、家族の勧めで受診
  • バイタル:HR 52/min、BP 92/60 mmHgとやや低値

🧩 Problem(問題の再定義)

「食欲がない」という一言に、以下のような医学的視点を加えることで、問題を再定義できます:

  • 進行性の食思不振
  • 痩せ願望や体型への認知のゆがみを伴う
  • 病識が乏しく、自己受診動機に乏しい

これらを踏まえると、単なる“風邪”や“胃の不調”とは違う、より深い背景を想定する必要があると考えられます。


💡 Hypothesis(仮説の展開:VITAMIN CDEで全体像を整理)

鑑別疾患の全体像を漏れなく捉えるため、まずはVITAMIN CDEフレームで網羅的に展開しておきましょう:

  • Vascular:虚血性腸疾患(稀)
  • Infection:H. pylori感染、慢性胃炎、結核など
  • Trauma:心理的外傷、虐待の既往など
  • Autoimmune:SLE、橋本病
  • Metabolic / Endocrine:甲状腺機能低下症、糖尿病、アジソン病など
  • Iatrogenic:薬剤性(SSRI、抗がん剤、漢方など)
  • Neoplastic:消化器癌、脳腫瘍
  • Congenital:摂食障害の素因
  • Degenerative:認知症に伴う食欲低下
  • Endocrine / Psychiatric:うつ病、摂食障害、パーソナリティ障害など

🎯 Top 3 鑑別(臨床的に最も疑わしいもの)

すべての仮説を挙げた後は、症例に即して“どの疾患を優先的に疑うべきか”を考えることが重要です。

  1. 神経性無食欲症(Anorexia Nervosa)
    — 痩せ願望、病識の乏しさ、バイタル異常などが一致
  2. うつ病(Major Depressive Disorder)
    — 食欲低下は典型的症状。気分・意欲なども確認が必要
  3. 甲状腺機能低下症(Hypothyroidism)
    — 徐脈・冷感・倦怠感などを伴う可能性あり

このTop 3の仮説を念頭に、次の問診で必要な情報を効率よく集めていきます。


📌 Mini-CQ:anorexia = 摂食障害ではない?

“anorexia”はあくまで「食欲不振」という症状の英語表現であり、診断名である“anorexia nervosa(神経性無食欲症)”とは異なります。

問診やカルテ記載では混同しないよう注意が必要で、病名として使うときは常に “nervosa” を忘れずにつけましょう。


🗂️ Need To Know:次に集めたい情報(問診・診察前の準備)

仮説に基づき、次のステップで確認すべき情報を明確にします。

  • HPI:経時的変化、誘因、食行動の詳細
  • PMH:精神疾患、内分泌疾患の既往
  • FH:家族内の精神疾患や摂食障害の有無
  • PP:服薬歴(特に精神科薬、漢方など)
  • PE:体格・表情・栄養状態・バイタルの評価

🔄 次のステップへ:一般的な問診のアプローチに入る前に

ここまでで、症例における情報整理と仮説の重み付けが完了しました。

ここからは一度症例から離れ、「食思不振という症状に対して、一般的にどのような問診を行うべきか」について、体系的に整理していきます。

step1(問診)step2(診察)step3(検査)の3段階に分け、それぞれ見ていきましょう


Step 1:問診で深掘る|食思不振に対する臨床的アプローチ


🔍 OPQRST:症状の経過と特徴をとらえる

  • O (Onset):いつから? 急に? 徐々に?
  • P (Provocation/Palliation):何がきっかけ? 何で悪化・改善?
  • Q (Quality):「食べたくない」とはどういう感じ? 気持ち悪さ? 味覚異常? 空腹感の欠如?
  • R (Region/Radiation):場所は関係する? 胃の不快感や胸やけなど
  • S (Severity):食欲の低下度合い(例:一日何食?何を食べられる?)
  • T (Timing):1日のうちいつが一番強い? 時間帯による変動は?

特にQ(Quality)S(Severity)では、「どのように感じているのか?」を掘り下げることが重要です。


🧾 PAM HITS FOSS:全身背景を押さえるフレーム

  • P(Past medical history):うつ病、摂食障害、甲状腺機能異常、糖尿病など
  • A(Allergy):薬剤・食物アレルギーの確認
  • M(Medications):SSRI、抗がん剤、漢方薬(防風通聖散など)
  • H(Hospitalization)・I(Injury)・T(Trauma):過去の入院歴・事故・トラウマ
  • S(Surgery):特に消化管や内分泌系の手術歴
  • F(Family history):摂食障害、精神疾患の家族歴
  • O(OBGYN):無月経・不規則月経・避妊歴
  • S(Sexual history):摂食障害やトラウマと関連しうる
  • S(Social history):喫煙・飲酒・薬物・睡眠・ストレス・食生活・運動習慣

❓Mini-CQ:Q2 & Q3(問診に潜む認知のゆがみ)

Q2:「低体重でも『太っている』と言うのは本心?」

— はい、本心です。これは身体イメージの歪みであり、演技ではありません。否定せず、共感的に聴きながら病識の程度を見極めましょう。

Q3:「“ダイエット中”と言っている時は?」

— 摂食障害の初期段階では、“健康のため”や“美容のため”と主張することが多いですが、内容や行動に不合理性があることも少なくありません。「何をどれだけ減らしているのか?」など具体的に尋ねるのがコツです。


🗣️ 聞き方のTips:相手の言葉に寄り添いながら

  • 「最近、体重に変化はありましたか?」
  • 「“食べたくない”って、どんな感じですか?」
  • 「ご家族やご友人は、あなたの食事について何か言ってますか?」
  • 「食べることに対して、怖さや罪悪感を感じることはありますか?」

🔄 次のステップへ:身体診察で何を見に行く?

問診で仮説を立てたら、次に重要なのは身体的な評価です。

摂食障害のような精神的要因だけでなく、内科的なRed flag(意識障害、徐脈、低体温など)を見逃さないために、全身を系統的に診る視点が必要になります。

では次に、身体診察のアプローチを整理していきましょう。


Step 2:身体診察で全身を評価する|所見とRed Flagを見逃さないために


身体診察では、仮説で挙がった疾患をルールイン/アウトする視点と、今すぐ専門的介入が必要なRed Flagの有無を意識して診ることが重要です。

特に食思不振では、「どこも異常がなさそう」に見えても、バイタルや身体のサインに異常が隠れていることがあるため、油断は禁物です。


👀 全身を系統的に診るポイント

  • 表情・体格:やつれた印象、脂肪の著明な減少、無表情、眼窩の落ち込み
  • Vital signs:低体温、徐脈(HR<40/min)、低血圧、起立性変動
  • 皮膚・爪:皮膚の乾燥、軟毛(lanugo)、手指の末端冷感、爪の脆弱性
  • 口腔内:口腔乾燥、齲歯、咽頭後壁の傷(自己誘発嘔吐による)
  • 腹部:軟、圧痛なしが多いが、胃腸運動低下や便秘により膨満感ありうる
  • 神経系:反応鈍麻、集中力低下、低血糖による意識変容に注意

🚩 Red Flag 所見(緊急対応が必要な兆候)

以下のような所見がある場合は、即座に入院や専門医への紹介を検討します。

  • HR<40/min、または徐脈+低血圧(SBP<90 または起立性変動 >20mmHg)
  • 低体温(T<35.5℃)
  • 意識障害、集中力低下、反応が鈍い
  • 電解質異常(特に低K、低Na)や血糖異常が疑われる状態
  • SUSSテスト陽性:起立→立位保持ができない、座位保持が不能 など

🛠️ 補助器具を使った診察も活用

  • 体重・BMI測定:初診時は必ず実施。成長曲線や目標体重との比較が重要
  • 血圧脈拍の起立テスト:起立性低血圧の確認(SUSSの一部)
  • 体温測定:低体温があるか確認
  • 眼底・咽頭観察:嘔吐による咽頭所見や栄養障害の兆候に注目

🗣️ 診察中のつぶやき例(Clinical Thinking)

  • 「脈がかなりゆっくりだな…徐脈の範囲。甲状腺機能も念のため確認しよう。」
  • 「体重と見た目のギャップが大きい…明らかに栄養状態は悪そう。」
  • 「反応が少し鈍いかも…低血糖や低Naも視野に入れて検査したいな。」

🔄 次のステップへ:検査・画像で仮説を絞り込む

問診と診察で得られた情報をもとに、次はいよいよ検査へ進みます。

とはいえ、やみくもに検査するのではなく、仮説に基づいて“何を知るために検査をするのか”を明確にすることが、無駄を省き、診断精度を高める鍵となります。

では次に、食思不振に対して行うべき検査と、その選び方・読み取り方を整理していきましょう。


Step 3:検査・画像で仮説を絞り込む|目的を持った検査の選び方


問診・身体診察で立てた仮説をもとに、「何を明らかにするために、どんな検査を行うか」を考える段階です。

ここでの検査は、「疾患を確定するため」よりも、「重篤な疾患を見逃さないため」という視点が重要になります。


🧪 優先して行うべき基本検査

  • 血算・CRP:貧血、炎症、慢性感染の評価
  • 電解質・腎機能:Na/K/Ca/Mg の低下は拒食や嘔吐の影響を評価
  • 血糖:低血糖症の除外。空腹時や低栄養時は特に注意
  • 甲状腺機能:TSH, FT4で低下症の除外
  • 肝機能・膵酵素:嘔吐や栄養障害、薬剤性影響の評価
  • ホルモン系:ACTH, コルチゾール(副腎不全の鑑別に)
  • 尿中β-HCG:若年女性では妊娠の除外が必須

🖼️ 画像検査の考え方:必要なら、狙って使う

  • 腹部超音波:消化器系腫瘍・胆嚢炎・便秘の確認に加え、子宮・卵巣のサイズ、卵胞の有無、内膜の状態など婦人科的な評価にも有用(無月経・ホルモン異常が疑われる場合)
  • 脳MRI/CT:腫瘍・視床下部異常・うつ症状や神経所見があれば
  • 胸部X線:結核・肺炎など慢性感染の除外

「明らかな身体症状がない場合、画像検査はルーチンでは不要」という判断もまた、重要な臨床スキルです。


💭 検査結果の読み取りと診断へのつなげ方

  • CRPやWBCが正常:感染症や炎症性疾患は低リスク
  • TSH高値:甲状腺機能低下の可能性(食思不振+徐脈)
  • Na・K・Cl異常:嘔吐、利尿薬、低栄養の反映かも
  • Hb低値:栄養不良・鉄欠乏性貧血・月経異常の評価に

また、甲状腺・副腎・妊娠の除外がついた時点で、精神疾患を強く疑うフェーズに移行できます。


🗣️ 検査中の“つぶやき”例(Clinical Thinking)

  • 「CRPが正常…感染っぽさはないかな」
  • 「TSHがやや高め…これは甲状腺機能低下もありえる」
  • 「電解質が低いとなると、嘔吐や利尿薬の使用歴を再確認したい」

🚫 不要な検査を避ける視点も忘れずに

  • 身体症状が乏しい若年者に、いきなりCT/MRIは原則不要
  • 腫瘍マーカーや膠原病抗体などは、明確な根拠がある場合のみ
  • 「心配だからとりあえず」は、患者の不安を強めることもある

💡 Step 3の診察・検査 Tips

  • “診断をつけるため”より、“見逃してはいけない疾患を除外する”視点で検査を設計
  • 内分泌・代謝・妊娠のチェックは忘れがちだが極めて重要
  • 腹部エコーは消化器+婦人科的評価の両面から有用
  • 検査結果の“正常”も立派な情報(「身体的原因がなさそう」→精神科的介入へ)

🔄 次のステップへ:症例で振り返ってみよう

Step 1〜3を通して、食思不振という症状に対するアプローチを体系的に整理しました。

ここでいったん、最初に登場した症例に立ち返り、実際にこのフレームをどのように適用していくかを一緒に振り返ってみましょう。


症例で振り返る|食思不振の診察をどう進めたか?

さて、ここまでStep 1〜3の基本的なアプローチを整理してきました。
では実際に、最初に紹介した症例をもとに、一つずつ適用して振り返ってみましょう。


🗣️ Step 1:問診の振り返り(Fact → Problem → Hypothesis)

医師:「今日はどうされましたか?」

患者:「最近ずっと、食欲がなくて…食べると気持ち悪くなるし、でも太りたくないんです。」

医師:「体重はどれくらい減っていますか?何を食べると吐き気が出ますか?」

患者:「3ヶ月で6キロくらいです。おかゆなら何とか…でも食べたくないって感じです。」

この段階で、「気持ち悪い」という訴えはあるものの、“太りたくない”という認知や、病識の乏しさが気になります。

SCOFF質問票にも当てはまり、摂食障害の可能性が高いと判断しつつ、うつ・内分泌疾患の鑑別を並行して検討しました。

Fact:食欲低下、嘔気、痩せ願望、家族の勧めで受診

Problem:進行性の食思不振、病識の乏しさ、身体イメージのゆがみを伴う

Hypothesis:①神経性無食欲症 ②うつ病 ③甲状腺機能低下症


🔍 Step 2:身体診察の振り返り|Red Flagをどうチェックしたか?

視診でやせ・表情乏しさ・末梢冷感を確認。バイタルはHR 52、BP 92/60とやや低値。
SUSSテストでは立位保持にふらつきがあり、栄養失調による循環不安定性が示唆されました。

甲状腺機能や副腎機能が関与している可能性も考え、Red Flagとして徐脈・低体温・起立性低血圧の有無を重点的に確認しました。

嘔吐による咽頭後壁の発赤や手指に瘢痕は見られず、purging行動の所見は明確でないものの、restrictive eating の可能性が高そうでした。


🧪 Step 3:検査で仮説を絞り込む|精神疾患と身体疾患の分かれ目

血算と電解質では、軽度の低Na、K。TSHは正常下限。CRP陰性。Hbは軽度低下(10.8g/dL)
腹部エコーでは、子宮・卵巣は萎縮傾向、卵胞の発育も乏しく、視床下部性の無月経が示唆されました。

感染・悪性・内分泌疾患は概ね否定的。身体症状に明確な器質的異常がなく、摂食障害が主病態である可能性が高まりました。

結論:現時点では、神経性無食欲症を第一に考え、精神科への連携を視野に入れつつ、外来フォローを継続する方針としました。


🔄 次のステップへ:治療と専門医への紹介はどう判断する?

ここまでの診察と検査で、ある程度疾患の見通しが立ったとしても、実際の介入やフォローの方法、そして「どこまで自分で診て、いつ専門医に紹介すべきか」という判断は悩ましいポイントです。

次は、食思不振に対する治療戦略と、紹介のタイミングについて実践的に整理していきましょう。


Step 5:治療と専門医紹介の判断|摂食障害への初期対応とフォローのポイント


食思不振の診療では、最終的に「外来でどこまで診るか」「どのタイミングで専門医に紹介するか」が重要な判断になります。

ここでは、摂食障害を中心としたケースにおいて、初期対応の目標紹介の目安を整理しておきましょう。


🎯 治療のゴール:短期・中期・長期の目標を意識する

  • 短期目標:生命の安全確保(低栄養・徐脈・意識変容の予防)
  • 中期目標:体重・食行動の安定、月経回復、日常生活の再構築
  • 長期目標:再発予防と社会復帰、自己理解と病識の獲得

特に初診時は、「食べられるようにすること」ではなく、「命を守ること」が優先されることを、医療者・本人・家族で共有する必要があります。


🧠 初期対応の選択肢:心理社会的介入を中心に

  • 心理療法:CBT-E(強化型認知行動療法)、動機づけ面接、家族療法など
  • 薬物療法:うつや強迫症状が強い場合はSSRI(例:fluoxetine)を補助的に
  • 栄養指導:多職種連携で段階的に食事内容を調整

🚩 専門医紹介・入院が必要なタイミング

  • HR<40/min、SBP<90、体温<35.5℃
  • SUSSテスト陽性(起立不能、座位保持困難)
  • 電解質異常(Na<130, K<3.0)
  • 意識障害、自殺企図、重度の抑うつや逸脱行動

🤝 外来医ができる支援

  • 病識のない患者とも信頼関係を築く
  • 「あなたが悪いのではない」と肯定的なメッセージを
  • 家族や学校との連携体制を整える

💡 Tips

  • 診断名より「支援の枠組み」を伝えることで、拒否感を減らす
  • 紹介先に伝えるべき情報:経過、体重・バイタル、食行動、問診所見、検査結果など
  • 多職種連携(医師・看護師・心理士・栄養士)を意識し、診療録を簡潔に整えておく

🔄 次に押さえておきたい:食思不振に関する医療英語と患者への伝え方

ここまでのアプローチを整理したところで、次は英語診療やOSCE対策でも重要となる医療英語表現を確認しましょう。

その前に、改めて実臨床でよく遭遇する「食思不振の原因」を簡単にまとめておきます。

📊 実際に多い!食思不振の原因 Top 3(臨床現場編)

  1. 感染症: 上気道炎、胃腸炎、結核など(発熱や倦怠感を伴う)
  2. 精神疾患: うつ病、不安障害、摂食障害(特に若年女性)
  3. 内分泌・代謝異常: 甲状腺機能低下症、高Ca血症、副腎不全など

他にも、脱水や高血糖(DKA/HHS)など、代謝バランスの崩れによって食欲が落ちることも珍しくありません。

したがって、「単なる気分の問題」と決めつけることなく、全身状態・バイタル・背景疾患をしっかり評価することが鍵になります。

これらの疾患は、以下の関連記事でも詳しく解説しています。
ぜひ併せてご覧ください。

ではここから、食思不振に関連する英語での診療表現についても一緒に見ていきましょう。


食思不振に関する英語表現|診察・説明・カルテ記載で使えるフレーズ集


📘 Useful Medical Expressions(診療・記録で使える表現)

  • loss of appetite: 食欲低下
  • disordered eating: 摂食異常
  • purging behavior: 排出行動(嘔吐・下剤・利尿剤など)
  • restrictive eating: 制限的な食事
  • compensatory behavior: 代償行動(運動や絶食による調整)
  • distorted body image: 身体イメージの歪み

💬 Layman’s Terms(患者にやさしい言い換え)

  • “lost interest in food” → 食事に関心がなくなった
  • “feeling full after a few bites” → 少し食べただけでお腹いっぱいになる
  • “trying to get rid of food after eating” → 食べた後に無理に出そうとする
  • “feeling fat even if underweight” → 痩せていても太っていると感じる

これらの表現は、“あなたの言っていることを正しく理解しています”という共感のサインにもなります。


❗ Common Pitfalls(間違いやすい英語表現と使い分け)

  • “anorexia” ≠ “anorexia nervosa”  → “anorexia”は症状(食欲低下)、診断名としては“anorexia nervosa”を使用
  • “She makes vomit herself” ❌  → 正しくは “She induces vomiting.”
  • “She has eating disorder” ❌  → 正しくは “She has an eating disorder.”(冠詞を忘れずに)

📢 よくある発音ミスにも注意!

  • anorexia: /ˌæn.əˈrek.si.ə/(アナレクシア)
  • bulimia: /buːˈlɪm.i.ə/ または /bjʊˈlɪm.i.ə/(ブリミア)
  • purge: /pɜːrdʒ/(パージ)
  • satiety: /səˈtaɪ.ə.ti/(サタイエティ)

OSCEや口頭試問でも、“表現と発音の正確さ”は評価対象となることがあるため、日頃から意識しておくと安心です。


🧾 Medical English Glossary(基本用語集)

  • Anorexia: 食欲不振(症状)
  • Anorexia nervosa: 神経性無食欲症(診断名)
  • Bulimia nervosa: 神経性過食症
  • Binge eating disorder: 暴食性障害
  • CBT-E: 強化型認知行動療法(enhanced cognitive behavioral therapy)
  • SCOFF questionnaire: 摂食障害のスクリーニング質問票
  • SUSS test: 起立・座位保持による循環評価テスト
  • Multidisciplinary approach: 多職種チームによる包括的介入

🔄 最後に振り返りを:この記事から何を学んだか

ここまで、食思不振という症状に対して、問診・身体診察・検査・治療、そして紹介の判断まで一貫したアプローチを解説してきました。

さらに、英語診療で使える表現や、OSCEで問われやすいポイントも併せて確認しました。
では最後に、この記事全体の要点を簡潔に振り返ってみましょう。


記事のまとめ|食思不振を見たときに大切な視点とは


「最近、食欲がなくて…」
この何気ない一言の背後には、感染症から精神疾患、内分泌異常まで、さまざまな背景と“見逃してはいけない疾患”が潜んでいます。

この記事では、そんな“漠然とした訴え”をどう構造的にとらえ、何を聞き、何を診て、どう判断していくかを症例とともに整理してきました。

特に若年女性の摂食障害は、病識の乏しさ・本人の否認・家族の混乱など、医学的な対応以上に寄り添いとチームケアが求められる領域です。

とはいえ、初期診療でやるべきことはシンプルです。

  • 🩺 まずはRed flag(徐脈・低体温・低Naなど)を見逃さない
  • 🧠 病気と決めつけず、“背景に何があるか”を丁寧に問診する
  • 🤝 「支援の入り口を作る」ことが、最大の治療介入になる

そして何より、「これは自分の手には負えないかもしれない」と思ったときは、ためらわず専門医に紹介してよいということを忘れないでください。

読んでくださったあなたが、明日の診療で「この患者、何かあるかも」と気づけるきっかけになれば幸いです。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました!


関連記事・英語版はこちら

🩺 症候別アプローチ(日本語)

🌍 英語版記事(Medical English Blog)


参考文献(References)


  1. American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th Edition (DSM-5). American Psychiatric Publishing; 2013.
  2. National Institute for Health and Care Excellence (NICE). Eating disorders: recognition and treatment. NG69. 2017.
  3. 日本摂食障害学会. 摂食障害治療ガイドライン2020年版. 医学書院, 2020年.
  4. Mehler PS, Brown C. Anorexia nervosa – medical complications. J Eat Disord. 2015;3:11.
  5. SCOFF questionnaire: Morgan JF, Reid F, Lacey JH. The SCOFF questionnaire: assessment of a new screening tool for eating disorders. BMJ. 1999;319(7223):1467–8.

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