月経異常で受診したら?考えるべき鑑別と診察の進め方【婦人科疾患まとめ】

「月経がバラバラなんです…」「生理が来ていないんです…」
そんな一言から、実は重大な疾患が隠れていることもあります。月経異常は単なる不調ではなく、体が発する大切なサインです。この記事では、月経異常をきっかけに、婦人科疾患全体をどう診ていくかを丁寧に解説します。
OSCEや実臨床での問診・診察、そして総合診療医や初期研修医にとって重要な視点を網羅しています。

この記事で学べること

  • 月経異常の分類と、それぞれに潜む疾患の鑑別ポイント
    (無月経・過多月経・不正出血などをどう分類し、どう考えるか)
  • 婦人科診察における問診・身体診察・検査の進め方
    (OSCEでも使える実践的な構造:OPQRST+PAM HITS FOSS)
  • ホルモン異常・器質疾患・悪性疾患など、多様な背景にどうアプローチするか
    (婦人科疾患を系統的に捉えるための思考法)

導入症例:30代女性の月経異常をどう診るか?

【Doorway Information】

  • 年齢・性別:32歳女性
  • 主訴:月経量の増加・不正出血
  • バイタル:BP 122/76 mmHg, HR 78/min, Temp 36.7°C, SpO₂ 99% (RA)

【患者の言葉】

「ここ数ヶ月、生理の量がすごく多くて…ナプキンが1時間でいっぱいになります。しかも、生理じゃない時にも少し出血があって心配で…。」

どう考える?第一印象とアプローチ

まず、この症例のような30代女性における月経異常では、以下のような基本フレームで整理していくことが重要です。

1. 妊娠の有無を最優先で確認

生殖可能年齢の女性においては、まず妊娠の可能性を除外することが最優先です。特に出血を伴う場合は、異所性妊娠や流産といった緊急疾患の可能性も含めて評価します。

2. 出血のタイプを分類:AUB(異常子宮出血)

今回のように非妊娠下の出血であれば、AUB(Abnormal Uterine Bleeding)として、構造的(PALM)か、非構造的(COEIN)かを分けて考えます。

PALM(構造的原因)

  • P: ポリープ(Polyp)
  • A: 子宮腺筋症(Adenomyosis)
  • L: 子宮筋腫(Leiomyoma)
  • M: 悪性腫瘍・内膜増殖症(Malignancy and hyperplasia)

COEIN(非構造的原因)

  • C: 凝固異常(Coagulopathy)
  • O: 排卵異常(Ovulatory dysfunction)
  • E: 内膜機能異常(Endometrial)
  • I: 医原性(Iatrogenic)
  • N: 未分類(Not yet classified)

このように、月経異常は婦人科疾患の“入口”であり、適切な分類を通じて仮説を広げることができます。

Fact / Problem / Hypothesis:仮説思考で整理する

✅ Fact(事実)

  • 32歳女性
  • 過去数ヶ月間の月経量増加
  • ナプキンが1時間でいっぱいになる過多月経
  • 中間期の出血もあり
  • バイタル安定、疼痛・発熱なし

🔍 Problem(再定義)

  • 周期性は保たれているが、持続的に月経量が増加
  • 中間期出血の出現 → 排卵障害または器質的疾患を疑う
  • 感染徴候なし → PID・性感染症などは否定的

🧠 Hypothesis(重みづけした鑑別)

🎯 High Priority

  • 子宮筋腫(Leiomyoma):頻度が高く、月経過多・不正出血の両方と整合
  • 子宮内膜増殖症・初期がん:年齢的にも除外が必要
  • 内膜ポリープ:中間期出血との関連が強い
  • 排卵異常:無排卵周期症による出血パターンもありうる

🟡 Moderate Priority

  • 子宮腺筋症(Adenomyosis)
  • 凝固異常(Coagulopathy)
  • 医原性(薬剤性:OCP, IUDなど)

🔵 Low Priority

  • 感染症・PID(症状一致せず)
  • 内分泌異常(無月経寄りの病態)

📌 今後知るべき情報(NTK: Need To Know)

  • 月経周期・変化の詳細
  • PAM HITS FOSSの確認(特にP・M・S)
  • 避妊歴・薬剤歴
  • 貧血症状の有無
  • 性交歴・妊娠歴(GPAC)
  • 超音波検査の所見(子宮筋腫・内膜厚など)

ここまでの思考をもとに、次はいよいよ問診フェーズへと進んでいきましょう。具体的にどのような質問を投げかけるべきかを、OPQRST+PAM HITS FOSSの構造で整理していきます。

Step 1:問診で月経異常をどう見極める?

まず、月経異常を訴える患者に対しては、症状の具体化背景情報の把握が極めて重要です。ここでは、実際の問診の流れをOPQRSTとPAM HITS FOSSという2つの枠組みに沿って整理し、臨床現場でそのまま使える形で解説していきます。

1. OPQRST:出血や月経の性状を細かく聞き出す

まずは、以下のような英語表現で話題を切り出すのが自然です:

  • “Now I’d like to ask you some questions about your menstrual cycle.”
  • “These questions help us better understand your overall health.”

患者が「生理が変なんです」と訴えてきたとき、具体的な病態を把握するには、以下の観点から丁寧に整理することが重要です。

  • O(Onset):いつから変化した?初経や最近の変化のタイミングは?
  • P(Provocation/Palliation):何かきっかけは?ストレス、体重変化、内服薬など
  • Q(Quality):月経の量・色・塊の有無・痛みは?
  • R(Region/Radiation):痛みがあるなら場所や広がり
  • S(Severity):出血の多さ(ナプキンがどれくらいでいっぱいになるか)
  • T(Time course):周期・期間は?これまでとの違いは?

💡コツ:「いつも通り」と言われても鵜呑みにせず、
「前回や2回前と比べてどうですか?」と具体的に比較することが大切です。

2. PAM HITS FOSS:背景情報から疾患リスクを拾う

月経異常は、全身疾患・ホルモン異常・生活習慣など多くの要因と関連しています。以下の構造で背景情報を網羅的に把握します。

  • P(Previous Medical History):甲状腺疾患、高プロラクチン血症、糖尿病、PCOSなど
  • A(Allergy)
  • M(Medications):避妊薬、向精神薬、GnRHアゴニストなど
  • H(Hospitalization)
  • I(Injury)
  • T(Trauma)
  • S(Surgery):D&C、婦人科手術の既往
  • F(Family History):早発閉経、乳がん・子宮がんの家族歴
  • O(OBGYN History):初経・LMP・周期・妊娠歴(GPAC)
  • S(Sexual History):性交時出血の有無、避妊法、性感染症歴
  • S(Social History):体重減少、過度な運動、ストレス、睡眠、飲酒、喫煙など

📌 特に注目したい点:
– 最近の体重変化やストレス → 視床下部性無月経の可能性
– 避妊薬やSSRIの使用 → 月経異常の医原性要因として重要
– 性交後出血 → 頸部ポリープや腫瘍性病変を示唆

3. 鑑別に重要な問診ポイント

症状のパターンや背景因子に応じて、以下のように仮説を立てていくことが診断精度を高めます。

① 排卵異常を疑うとき

  • 周期が不規則・遅延
  • PCOS、体重減少、過剰な運動、乳汁分泌

② 器質的疾患(筋腫・ポリープなど)を疑うとき

  • 周期性は保たれるが出血量が増加
  • 中間期・性交後出血がある
  • 触診で腫瘤あり・子宮腫大の既往

③ ホルモン異常・悪性腫瘍を疑うとき

  • 40代以降の月経異常
  • 高エストロゲン状態・無排卵の既往
  • 内膜増殖症や初期がんの除外が必要

4. 💡 Tips & Column

🧠 OSCEでの高評価ポイント

  • 「月経についてお聞きしてもよろしいですか?」と丁寧に導入
  • “When was your last period?” をLMPとして確認
  • GPACは必須項目:「How many pregnancies have you had?」

📌 Clinical Tip:視床下部性無月経を見逃さないために

  • 摂食障害やストレス、過度な運動の有無を聞く
  • 「急に体重が落ちてから生理が止まった」はRed Flag

ここまでで、月経異常の問診に必要な全体像が整理できました。
次はStep 2:身体診察に進み、子宮・付属器・腫瘤・出血部位の確認など、より診断を具体化するステップを見ていきましょう。

Step 2:身体診察で何を確認すべきか?

問診で仮説を立てた後は、身体診察を通して疾患の絞り込みやRed Flagの検出を行います。月経異常の場合、特に以下の視点が重要です。

1. 全身状態の把握(ホルモン異常・貧血の兆候)

  • 体型・体重:肥満(PCOS)、やせ(視床下部性無月経)
  • 多毛・ニキビ:アンドロゲン過剰のサイン
  • 甲状腺腫、乳汁分泌:内分泌異常(TSH, PRL)
  • 粘膜蒼白:出血性貧血の評価

2. 婦人科的身体診察の基本

  • 視診:外陰部のびらん・潰瘍・帯下・出血源を観察
  • 腟鏡(speculum)診察:頸部ポリープ、出血源、頸管炎など
  • 双合診(bimanual examination):子宮の大きさ・圧痛・可動性、付属器腫瘤の有無

※ 必要に応じて、TV-US(経腟超音波)を併用することで診断精度が高まります。

3. Red Flagとなる所見

  • 子宮圧痛+発熱:PIDを示唆
  • 弾性ある腫大子宮:子宮筋腫を示唆
  • びらんや異常出血のある頸部:頸がん・ポリープ

4. 性感染症(STI)の評価と診察

性交後出血や異常帯下がある場合、性感染症の評価が必須です。PIDや頸管炎は月経異常の背景疾患となりうるため、若年者や性活動のある女性では特に意識して診察しましょう。

🦠 STIごとの診察ポイント

病原体 主な所見 診察・検査
Chlamydia / Gonorrhea 頸管炎、帯下、無症状あり 腟鏡で頸管浮腫・出血/PCR検査
HSV 痛みを伴う水疱〜潰瘍、局所LAD 外陰部視診/PCRまたはTzanck
Syphilis 無痛性硬結性潰瘍 外陰部視診/RPR・TPHA
Trichomonas 泡沫状・悪臭のある帯下 wet mount, pH>5, 顕微鏡
Candida 酒粕状帯下、強い掻痒感 pH<4.5, microscopy, 外陰部発赤

📌 STIが疑われる場合は、頸管スワブ・尿PCR・HIV・梅毒などの同時スクリーニングを検討します。

Red FlagとしてのSTI/PIDの所見

  • 発熱+子宮頸部・骨盤圧痛 → PID(広域抗菌薬の早期導入)
  • 性交歴・若年・帯下あり → 無症候性感染を想定

STIは診察によって直接的に診断されることは稀ですが、問診・視診・触診・検査の総合判断によって“見逃さない”ことが大切です。


📎 Column:性交時痛(Dyspareunia)を見逃さない

月経異常を主訴とする女性で、性交時の痛み(Dyspareunia)を訴える場合は、以下のような鑑別を意識しましょう:

  • 外陰・腟の異常:萎縮性腟炎、ヘルペス、カンジダ、外陰炎
  • 膣・頸部の異常:子宮頸部炎、腟炎、性交後出血、ポリープ
  • 子宮・付属器の異常:子宮内膜症、腺筋症、骨盤内癒着、PID
  • 精神的要因:不安、トラウマ、vaginismus(膣痙)

問診のポイント:「性交のどのタイミングで痛いか(挿入時/深部)」「痛みの性質(灼熱感/圧痛)」「持続時間」「避妊・感染症リスク」などを具体的に聞き出すことが重要です。

📌 特に“深部性交痛”を訴える場合は、子宮内膜症や骨盤内病変の可能性を常に考慮しましょう。

このように、Step 2では仮説に基づいて身体所見を丁寧に拾い、性感染症や悪性疾患などの重大な原因を見落とさないことが最重要です。
続くStep 3では、具体的にどの検査を行い、どのように解釈すべきかを考えていきましょう。

Step 3:検査・画像で診断を深める

ここでは、問診・身体診察で立てた仮説を、検査によって検証していくステップです。全員に一律の検査を行うのではなく、「仮説に基づいた選択と解釈」が重要です。

1. 基本の血液検査:まず“妊娠を除外”

  • β-hCG:すべての月経異常で最初に確認。特に無月経・不正出血では必須。
  • CBC:慢性出血による貧血評価
  • TSH・PRL:甲状腺疾患や高プロラクチン血症の除外

🧪 Column:血中hCGと尿中hCGの違いって?

項目 尿中hCG 血中hCG
感度 約50 IU/L以上で陽性 5 IU/Lから測定可能
陽性になる時期 排卵後12〜14日 排卵後8〜9日
メリット 安価・迅速・手軽 超初期妊娠の検出、経過観察に有用
デメリット 偽陰性あり(希釈など) コスト・手間がやや大きい

📌 まとめ:妊娠を除外するには血中hCGが最も確実。月経異常を訴える全症例で実施を検討しましょう。

2. 選択的ホルモン検査

  • FSH・LH・E2:卵巣機能や視床下部性無月経の評価に
  • AMH:卵巣予備能(高値ならPCOSも示唆)
  • Testosterone・DHEA-S:多毛・無月経の症例でアンドロゲン評価

💡 Tips:ホルモン採血は「月経3〜5日目」が基本(周期的な変動を避けるため)

📎 Column:AMHって何のために測る?

AMH(抗ミュラー管ホルモン)は卵胞の数を反映する指標。高値はPCOSで、低値は加齢・早発卵巣不全など。
ただし排卵を反映するわけではないため、万能な指標ではない。

3. 経腟超音波(TV-US)による評価

  • 子宮筋腫、ポリープ:構造的異常の第一選択
  • 内膜厚:周期後半で20mm超 → 内膜増殖症を疑う
  • 卵巣腫瘤:サイズ・境界・充実成分を評価
  • PCOS所見:10個以上の小卵胞(ネックレス様)

📌 補足:経腹よりもTV-USのほうが精度が高く、可能な限り優先されます。

💡 Tips:子宮内膜厚の目安

  • 閉経後:4mm以上で生検を検討
  • 排卵期以降:20mm以上は内膜増殖症を示唆

4. 子宮内膜生検・子宮鏡の適応

  • 40歳以上の不正出血
  • 若年でもリスク因子あり(肥満・無月経・糖尿病など)
  • 超音波で内膜異常やポリープを疑う所見がある

🧠 Clinical Pearl: “AUB(異常子宮出血)における“子宮内膜生検”の閾値は低めに”

5. 性感染症と子宮頸がんスクリーニング

  • STI検査:Chlamydia, Gonorrhea(swab or PCR)
  • Pap smear:性交後出血、頸部びらん、ハイリスク患者
  • HIV, 梅毒:必要に応じてスクリーニング

💡 Tips:「性交後出血=STI or 頸がん前病変の初発サイン」かもしれません。見逃さず。

6. 無月経(amenorrhea)の診断フロー

🔄 Step-by-step

  1. まずβ-hCGで妊娠を除外
  2. TSH・PRLで内分泌異常を評価
  3. FSH・E2で卵巣機能を評価
  4. P試験(黄体ホルモン単独)/E+P試験(内膜応答)で反応性を評価

📊 診断フロー(簡略版)

  • 妊娠:陽性 → 産婦人科へ
  • TSH↑ → 甲状腺機能低下症
  • PRL↑ → 高プロラクチン血症(MRIで下垂体評価)
  • FSH↑・E2↓ → 卵巣性(POI, Turnerなど)
  • FSH↓・E2↓ → 視床下部性(体重減少・ストレスなど)

🧠 Column:Primary Amenorrheaでは解剖学的異常も忘れずに

15歳を過ぎても初経がない場合、MRKH症候群(無腟)やAIS(アンドロゲン不応症)などの解剖学的異常も鑑別に。

7. 検査の引き算:必要なものを、必要なだけ

  • やせ型・ストレス → まず視床下部性を疑い、TSH/PRL/FSH中心に
  • 定期的な月経+月経過多 → 筋腫や内膜異常 → TV-US優先
  • 40歳以上の不正出血 → 子宮内膜生検を早期に検討

💡 Tips:「なんとなく全部出す」のではなく、「仮説に基づいた最小限の検査」を意識することが臨床力の証明。


これでStep 3までの診察ステップが完了です。
このあとは、実際に導入症例に戻り、Step 1〜3の流れをどう活かすかを一緒に振り返っていきましょう。

11. 専門医に紹介するとき

1. 婦人科専門医に紹介すべきタイミング

次のような場合には、婦人科専門医への紹介を検討しましょう。

  • 異常子宮出血(AUB)が持続または再発し、画像での異常所見(筋腫・内膜肥厚・腫瘤)や生検の必要がある場合
  • 原発性無月経:15歳を過ぎても初経がない、もしくは内性器異常を疑う所見がある
  • 二次性無月経:6ヶ月以上の無月経で、ホルモン異常や視床下部性の原因が明確にならない場合
  • 性交後出血・異常帯下:頸部病変や腟内腫瘍の可能性がある場合
  • 反復する骨盤痛・性交時痛:内膜症や腺筋症、癒着などの疑いで画像または手術的評価が必要
  • 卵巣腫瘤:5cmを超える/複雑性の所見がある/CA-125の上昇など

2. 紹介前に行っておくとよい評価・検査

専門医紹介前に、次のような評価・検査を済ませておくと診療がスムーズです。

  • hCG:妊娠の除外(必須)
  • CBC:貧血や出血傾向の評価
  • ホルモン採血:TSH・PRL・FSH・LH・E2(必要に応じてAMH, Testosterone)
  • 感染症スクリーニング:Chlamydia, Gonorrhea, HIV, 梅毒
  • 頸部細胞診:Pap smear(性交後出血がある場合)
  • 可能であれば:経腟超音波(TV-US)での子宮・卵巣評価

💡 注意:性交痛・出血のある患者に対して無理に内診・経腟プローブを行う必要はありません。診察時のcomfortを第一に。

3. 一般医でも可能な初期治療:OCPsの使い方

月経異常やAUBに対して、専門医紹介を待たずに低用量経口避妊薬(OCPs/LEP)を用いた初期治療は可能です(資料「OBGYN_Additional_Sections.pdf」より)。

🔸 適応となるケース

  • 無排卵による不規則な月経・過多月経
  • 周期のコントロールが必要な患者(PMS、PCOSなど)
  • 疼痛の緩和(内膜症、腺筋症など)

🔸 避けるべきケース(禁忌)

  • 35歳以上+喫煙者
  • 血栓症の既往
  • 重度の高血圧
  • 肝機能障害

🔸 実際の使い方と注意点

  • 超低用量LEP:保険適応がある製剤を選ぶ(ヤーズ、ルナベルなど)
  • 通常のOCP:自由診療となることが多く、副作用説明が必須
  • 3週間内服+1週間休薬が基本パターン

📌 補足:初回使用時は「吐き気」「不正出血」などの副作用説明と、継続可能性について確認を。

4. 不同意性交渉時の対応(性暴力への初期対応)

不同意性交渉(sexual assault)を受けた可能性がある場合は、以下の対応が求められます:

🔸 すぐに行うべき対応

  • 心身の安全確保:静かな空間でのケア。必要なら警察・家族への連絡。
  • 感染症予防:72時間以内であればHIV PEP(曝露後予防)を検討
  • 妊娠予防:緊急避妊薬(レボノルゲストレル or ウリプリスタール)
  • 証拠保存の支援:SANEユニットや性暴力救援センターへの早期連携

🔸 医療機関での対応の限界と連携

通常の医療機関では、証拠保存や精神的ケア、法的対応まですべてを一手に担うのは困難です。地域のSANE(Sexual Assault Nurse Examiner)やワンストップ支援センターへの連携が不可欠です。

📎 紹介先例:性暴力救援センター・NPO団体・公的相談窓口(例:にじいろリボン、都道府県女性相談センターなど)


月経異常と関連する重要トピック

1. 📎 不妊症と月経異常の関係

月経異常は、妊娠に影響を与える疾患のサインであることが少なくありません。不妊の背景には、排卵障害・卵管閉塞・子宮病変・ホルモン異常・精子異常など、さまざまな要因があります。

🔸 不妊の定義:

1年間避妊せず性交を行っても妊娠に至らない状態(35歳以上では6ヶ月)

🔸 不妊の原因は「男女半々」

実は不妊の原因は、女性側のみにあるのは約40%、男性側のみも約40%、両者にまたがるまたは原因不明が20%。
どちらかが“悪い”ということではありません。

🔸 主な女性側の評価ポイント

  • 月経歴・排卵の有無(基礎体温)
  • ホルモン採血(FSH, LH, E2, PRL, TSH, AMH)
  • TV-US(卵胞数、内膜厚、筋腫、PCOSなど)
  • 子宮卵管造影(HSG)による通過性の評価

🔸 男性側の初期評価

  • 精液検査(精子数、運動率、形態)
  • 感染症・ホルモン異常・停留精巣の既往など

💡 不妊治療の選択肢

  • 排卵誘発剤(Clomiphene, hMGなど)
  • 人工授精(AIH)、体外受精(IVF)、顕微授精(ICSI)

2. 💫 PMS・PMDD・更年期症状とホルモン補充療法(HRT)

月経異常を訴える患者の中には、実はホルモン変動に伴う気分や身体の変化を主訴としている場合があります。

🔸 PMS / PMDDとは?

月経前の数日〜1週間に、抑うつ・怒り・不安・乳房痛・浮腫などが繰り返し出現する病態。
症状が日常生活に支障を来す場合はPMDD(月経前不快気分障害)と診断され、SSRIなどによる治療も行われます。

🔸 更年期症状とは?

  • ホットフラッシュ(のぼせ)・発汗・動悸
  • 睡眠障害・抑うつ・集中力低下

🔸 HRT(ホルモン補充療法)の概要

  • エストロゲン+プロゲスチン or 単独製剤
  • 禁忌:乳がん既往・血栓症・重度肝障害など
  • 使用には適応評価と副作用の説明が不可欠

3. 🧬 性分化疾患(Turner症候群・MRKH・AIS)

原発性無月経の評価では、染色体や内性器の形成異常にも注意が必要です。

🔸 主な疾患と特徴

  • Turner症候群(45,X):低身長、卵巣機能不全、心奇形
  • MRKH症候群:腟・子宮の先天欠損、外陰部は正常
  • AIS(アンドロゲン不応症):外陰は女性様、染色体は46,XY

初経がない15歳以上の女性では、視診・超音波・染色体検査による評価が必要です。


4. 🔥 婦人科悪性腫瘍と“月経異常のRed Flag”

月経異常や不正出血は、良性疾患だけでなく、婦人科がんの初発症状である場合があります。

🔸 子宮頸がん(Cervical cancer)

  • 症状:性交後出血、接触出血、異常帯下
  • 危険因子:高リスクHPV、喫煙、免疫抑制、多産、早期性交経験など
  • 検診:Pap smear(細胞診)+HPV検査
📌 HPVワクチンについて(子宮頸がん予防)
  • 対象年齢(日本):9〜16歳の女性(性交前が最も有効)
  • 種類:
    • 2価:Cervarix(HPV16,18)
    • 4価:Gardasil(HPV6,11,16,18)
    • 9価:Gardasil9(上記+HPV31,33,45,52,58)※自費
  • 効果:HPV16/18型による頸がんのリスクを70%以上減少
  • 備考:現在は積極的接種勧奨が再開
🌎 海外では男性も対象

米国CDCでは男性への接種も定期推奨されており、中咽頭がん・肛門がん・陰茎がんの予防に有効です。
日本でも男性接種は可能(自費)ですが、公費対象外です。

🔬 HPVの発がん機序
  • E6タンパク質 → p53を分解 → アポトーシス抑制
  • E7タンパク質 → Rbタンパク質を不活化 → 細胞周期暴走

このように細胞のがん抑制機構が破綻し、発がんにつながります。

🔸 子宮内膜がん(Endometrial cancer)

  • 症状:閉経後出血、無月経+肥満
  • 危険因子:肥満、高エストロゲン、未産婦、タモキシフェンなど
  • 診断:経膣エコー+子宮内膜生検

🔸 卵巣がん(Ovarian cancer)

  • 症状:腹部膨満、食欲低下、便秘、非特異的症状
  • 危険因子:家族歴、排卵回数が多い、BRCA遺伝子、アスベスト・タルク曝露
  • 検査:CA-125、TV-US、CT/MRI

🚩 Red Flag まとめ

  • 40歳以上の不正性器出血
  • 性交後の出血や異常帯下
  • 閉経後出血、持続する月経不順
  • 腹部膨満・消化器症状が持続
  • 婦人科がんの家族歴あり

これらの症状があれば、早急な婦人科受診が必要です。


5. 🏳️‍🌈 性の多様性・リプロダクティブヘルスに配慮する

婦人科診療では、LGBTQ+やさまざまな背景の性・家族・価値観に配慮した対応が求められます。

  • 性別違和や性別不一致への配慮
  • パートナーの性別を決めつけず聴取
  • ホルモン療法歴・妊孕性保存の希望に配慮
  • 「あなたがどうしたいか」を尊重する姿勢

💬 一人ひとりが安心して相談できる環境づくりが、医療者にとって重要な役割のひとつです。


Clinical Tips(診察のコツと落とし穴)

  • 🧭 問診が最重要:特に月経周期・最終月経(LMP)は最低2回分を比較して確認
  • 🎭 症状の主訴に惑わされない:患者の言う「月経不順」や「痛み」は主観的であるため、必ず詳細にOPQRSTで確認する
  • 🔍 身体診察(PE)は慎重に:内診・腟鏡検査はトラウマになることも。診察前に「どうしても必要か?」を自問し、同意を得てから行う
  • 👂 性交歴の聴取は段階的に:“Are you sexually active? With men, women, or both?”のように開かれた質問から始める
  • 🧪 初診ではまず尿中hCGを:妊娠の有無が方針の分岐点。必要に応じて血中hCGとの併用も
  • 🛑 急性腹症では緊急疾患を常に想定:異所性妊娠、卵巣茎捻転、PID、破裂など
  • 🗂 鑑別の整理には“PALM-COEIN”分類を:異常子宮出血の構造的/非構造的原因を包括的に把握可能
  • 🧬 婦人科がんを疑う所見にはRed Flagマークを:特に閉経後出血や性交後出血には注意
  • 🧠 OSCEでは「トラウマに配慮した診察姿勢」が問われる:患者の尊厳を重視し、言葉遣いと視線にも気を配る

Clinical Pearls(英語の名言・ことわざ)

  • “Listen to the patient. They are telling you the diagnosis.”
    – Sir William Osler
  • “Treat the patient, not the scan.”
    – Unknown (Radiology wisdom)
  • “Absence of evidence is not evidence of absence.”
    – Carl Sagan
  • “Half of all patients with infertility have male factors — it’s not just her issue.”
    – OBGYN Clinical Teaching
  • “A good gynecologist listens to the cycle, not just the complaint.”
    – Residency Wisdom

ここからは、英語で診療する際にも役立つ表現や言い換えの工夫を紹介します。
海外の実習やOSCE、外国人患者対応を想定して、自信を持って使える表現を整理しておきましょう。


Useful Medical Expressions(医療英語フレーズ)

ここでは、問診・身体診察・説明・共感など、OBGYN診療で使える英語フレーズを場面別に整理します。

🩺 History Taking

  • “When was the first day of your last menstrual period?”
  • “How long is your menstrual cycle?”
  • “Do you experience heavy bleeding or painful periods?”
  • “Are you sexually active? With men, women, or both?”
  • “Have you ever been diagnosed with an STI?”

🔍 Physical Exam

  • “I’m going to insert a speculum to examine your cervix.”
  • “Please let me know if you feel any discomfort.”
  • “We’ll do some tests to check for infections.”
  • “I will place the probe on your lower abdomen.”

🧪 Explaining Diagnosis

  • “You have fibroids, which are benign tumors in the uterus.”
  • “Your symptoms may be due to hormonal changes before your period.”
  • “There are several treatment options, including IVF.”

🤝 Empathetic Phrases

  • “That must have been difficult for you.”
  • “You’re not alone in this. I’m here to help.”
  • “You have the right to make the decision that feels right for you.”

Layman’s Terms & Idioms(患者向けやさしい言葉)

患者と信頼関係を築くうえで、専門用語を避けてやさしく伝える表現力も大切です。

🗣 専門用語の代わりに使える言い換え

  • “I’m on my period.”(× I have menstruation)
  • “Cervical cancer” (× Cancer of uterus cervix)
  • “I had a Pap smear.”(× I did Pap test)
  • “I have pain during intercourse.”(× My vagina hurts)
  • “Trying to conceive”(× Baby making)
  • “I have unusual discharge” or “My discharge looks cloudy/greenish”

🧾 例:こう説明すると伝わりやすい

  • “We’ll take a sample from your cervix to check for cancer or infection.”
  • “This medication helps regulate your periods.”
  • “This scan will help us see your uterus and ovaries more clearly.”

Medical English Glossary(用語解説)

最後に、婦人科領域でよく使う略語・用語を整理しておきましょう。

  • LMP: Last Menstrual Period(最終月経)
  • GPAC: Gravida, Para, Abortion, Cesarean(妊娠歴)
  • PMS / PMDD: Premenstrual Syndrome / Dysphoric Disorder
  • PID: Pelvic Inflammatory Disease(骨盤内炎症)
  • PCOS: Polycystic Ovary Syndrome(多嚢胞性卵巣症候群)
  • OCPs: Oral Contraceptive Pills(経口避妊薬)
  • IUD: Intrauterine Device(子宮内避妊具)
  • HPV: Human Papillomavirus(ヒトパピローマウイルス)
  • TVUS: Transvaginal Ultrasound(経腟超音波)

記事のまとめ

月経異常という症状の裏には、ホルモンバランスの乱れから重大な疾患、そして時に社会的背景や心の問題まで、さまざまな要因が隠れています。

この記事では、まず導入症例を通して“どう考えるか”の視点を整理し、Step 1〜3で問診・身体診察・検査の進め方を具体的に掘り下げました。さらに、性感染症・悪性腫瘍・不妊・PMS・性分化疾患など、周辺領域も丁寧にカバーし、婦人科全体への理解を深めてきました。

Clinical Tipsや英語表現の工夫なども紹介しましたが、何より大切なのは「この人にとって何が一番の困りごとか」を聞き取ろうとする姿勢です。
月経異常はあくまで入り口であり、その人自身を診る視点を忘れずにいたいですね。

臨床でもOSCEでも、そして英語診療でも、この記事が皆さんの道標となれば嬉しいです。

📝 最後に、気になった疾患や表現があれば、自分の言葉でノートにまとめてみましょう。知識が、あなたのものになります。


他記事へのリンク(Related Articles)

月経異常に関連する症状や鑑別に役立つ記事はこちら:

▼ 英語で学びたい方はこちら:


Reference(参考文献)

  1. ACOG Practice Bulletin No. 128: Diagnosis of Abnormal Uterine Bleeding in Reproductive-Aged Women. Obstet Gynecol. 2012.
  2. 日本産科婦人科学会『産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2023』
  3. UpToDate: Evaluation of abnormal uterine bleeding in premenopausal women. Accessed 2024.
  4. CDC. HPV Vaccination Recommendations. Centers for Disease Control and Prevention.
  5. Oxford Handbook of Obstetrics and Gynaecology, 3rd edition.
  6. 標準産婦人科学 第4版(医学書院)
  7. OSCEのための診察手技と臨床推論(日本医事新報社)

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