📊 腹痛を「確率」で診る|問診・身体診察で使えるLR完全まとめ
腹痛診療は「病名当て」ではなく、
事前確率 → 所見 → 事後確率を更新する作業です。
このページでは、McGee『Evidence-Based Physical Diagnosis』を主軸に、
腹痛の問診・身体診察で実際に確率を動かせる尤度比:Likelihood Ratio(LR)を、
疾患横断的・疾患特異的にまとめます。
*陽性尤度比:LR+、陰性尤度比:LR-
1. 腫瘍性腹痛を示唆するLR
🔴 強く示唆(Rule-in)
- Virchowリンパ節(左鎖骨上):LR+ ≈ 23(胃癌・消化管癌)
- 可動性のない腹部腫瘤:LR+ ≈ 10–15
- 硬く不整な腹部腫瘤:LR+ ≈ 7–10
- Courvoisier徴候(無痛性黄疸+胆嚢腫大):LR+ ≈ 4–6(膵頭部癌)
- 腹水を伴う腹部膨満(肝硬変なし):LR+ ≈ 4–5
🟠 中等度に示唆
- 原因不明の体重減少:LR+ ≈ 2–3
- 食欲不振+持続する腹痛:LR+ ≈ 2–3
- 原因不明の貧血(特に鉄欠乏性):LR+ ≈ 2–2.5
- 夜間痛・安静時痛:LR+ ≈ 2
🔵 可能性を下げる(Rule-out)
- 急性発症(数時間〜1日):LR− ≈ 0.3–0.5
- 強い圧痛・反跳痛あり:LR− ≈ 0.4–0.6
- 若年(<40歳)+警告症状なし:LR− ≈ 0.2–0.4
2. 炎症性腹痛を示唆するLR
🔴 強く示唆(Rule-in)
- 反跳痛:LR+ ≈ 7–10
- 筋性防御:LR+ ≈ 6–8
- 限局した強い圧痛:LR+ ≈ 4–6
- 発熱(>38℃)+腹痛:LR+ ≈ 3–5
- CRP上昇を伴う腹痛:LR+ ≈ 3–4
🟠 中等度に示唆
- 急性発症(数時間〜数日):LR+ ≈ 2–3
- 体動・咳嗽で増悪:LR+ ≈ 2–3
- 悪心・嘔吐を伴う腹痛:LR+ ≈ 2
🔵 可能性を下げる(Rule-out)
- 圧痛がほとんどない:LR− ≈ 0.3–0.5
- 反跳痛・筋性防御なし:LR− ≈ 0.4–0.6
- 慢性経過(月単位):LR− ≈ 0.5
3. 疾患特異的に使える診察所見とLR
① 虫垂炎
- 右下腹部圧痛:LR+ ≈ 8
- McBurney点圧痛:LR+ ≈ 3–4 / LR− ≈ 0.4
- Rovsing徴候:LR+ ≈ 2–3
- Psoas sign:LR+ ≈ 2
- 右下腹部圧痛なし:LR− ≈ 0.2–0.4
② 急性胆嚢炎
- Murphy徴候:LR+ ≈ 2.8–3.2
- 右上腹部圧痛:LR+ ≈ 2–3
- Murphy徴候陰性:LR− ≈ 0.4–0.6
③ 急性胆管炎
- Charcot三徴(発熱+黄疸+右上腹部痛):LR+ >10
④ 急性膵炎
- 心窩部痛+背部放散:LR+ ≈ 3
- 前屈で軽快:LR+ ≈ 2–3
⑤ 腸閉塞・イレウス
- 腹部膨満:LR+ ≈ 5
- 嘔吐+排ガス・排便停止:LR+ ≈ 4–5
- 排ガス・排便あり:LR− ≈ 0.3–0.5
⑥ 虚血性腸炎・腸管虚血
- 突然発症の激痛(out of proportion):LR+ ≈ 5–10
- 心房細動など塞栓リスク:LR+ ≈ 3–5
⑦ 憩室炎
- 左下腹部圧痛:LR+ ≈ 3–4
- 発熱+限局圧痛:LR+ ≈ 4–6
⑧ 消化管穿孔・腹膜炎
- 反跳痛:LR+ ≈ 7–10
- 筋性防御:LR+ ≈ 6–8
- 突然発症の激痛+板状硬:LR+ >10
4. 実践的まとめ
- LRは単独で使わない
- 発症様式 × 圧痛 × 全身所見で方向性を決める
- 「CTを撮る理由」を説明できる診察を目指す
腹痛診療において、
問診・身体診察は“検査”であり、確率を動かす最初の一手です。
References
- McGee S. Evidence-Based Physical Diagnosis. 4th ed.
- Sackett DL, et al. Evidence-based medicine. BMJ.
- JAMA Users’ Guides to the Medical Literature.
