嘔気・嘔吐|検査結果の見方
― 採血・画像(CT・US・上部内視鏡)から何を読むか ―
嘔気・嘔吐の診療では、問診・身体診察で鑑別を広げたあと、
「どの検査を出し、結果をどう解釈するか」が診断精度を大きく左右します。
本記事では、嘔気・嘔吐に対して行われる
採血・検体検査・画像検査(CT / 超音波 / 上部内視鏡)について、
「異常値や所見をどう読むか」という視点で整理します。
単なる検査の羅列ではなく、
「この結果なら何を疑い、次に何を考えるか」が分かることを目的としています。
1.採血検査の基本的な読み方
① 電解質・酸塩基
- 低Cl血症:胃液(HCl)喪失を示唆
- 低K血症:嘔吐による喪失+代謝性アルカローシスによる腎性排泄
- HCO3− 上昇:代謝性アルカローシス
- 低Na血症:嘔吐+水分摂取、ADH分泌亢進
嘔吐が続く患者では、
「低Na・低K・低Cl+代謝性アルカローシス」をまず予測します。
② BUN / Cr
- BUN 優位の上昇
- BUN / Cr 比の上昇
これは脱水による腎前性腎障害を示唆します。
嘔吐の重症度・循環血漿量低下の指標として重要です。
③ 血糖・代謝異常
- 高血糖+ケトン陽性:糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)
- 低血糖:副腎不全、重症感染、薬剤
「嘔吐=消化管疾患」と決めつけず、
代謝性疾患が原因で嘔吐している可能性を常に考えます。
④ その他、原因疾患を示唆する検査値
- Ca 上昇:高Ca血症そのものが嘔気・嘔吐の原因
- AST / ALT 上昇:急性肝障害
- AMY / Lipase 上昇:急性膵炎
- トロポニン上昇:嘔気のみで発症するACS
嘔吐は内科疾患の「共通症状」であることを忘れないことが重要です。
2.尿検査・その他の検体検査
- 尿ケトン:DKA、飢餓
- 尿比重上昇:脱水
- 妊娠反応:妊娠可能年齢では必須
尿検査は低侵襲で情報量が多いため、初期評価で積極的に活用します。
3.CT・超音波などの画像検査の読み方
① 腹部CT
- 腸閉塞・イレウス
- 消化管穿孔
- 急性膵炎(重症度評価)
- 腸管虚血
嘔吐+腹部所見が強い/全身状態不良では、
CTは原因検索と重症度評価の両面で重要です。
② 腹部超音波
- 胆嚢炎・胆管炎
- 胆石・胆道拡張
- 腹水
放射線被曝がなく、ベッドサイドで評価可能な点が利点です。
4.上部内視鏡(EGD)の所見をどう読むか
上部内視鏡は嘔気・嘔吐の「原因疾患を直接確認する検査」です。
① 急性胃炎
- びまん性発赤、浮腫、びらん
- NSAIDs、アルコール、ストレスが背景
② 慢性胃炎・萎縮性胃炎
- 粘膜萎縮、血管透見、ひだの消失
- 慢性的な悪心・食後不快感
「急性ではない嘔気」では、
慢性・萎縮性胃炎も重要な所見です。
③ 潰瘍・腫瘍・狭窄
- 胃・十二指腸潰瘍
- 胃癌・食道癌
- 胃出口部狭窄
体重減少・貧血・吐血を伴う場合は、
EGD所見が診断の決め手になります。
5.検査結果から次の一手を考える
- 電解質異常 → 補正と原因検索
- 画像で器質疾患あり → 専門科コンサルト
- EGD正常 → 中枢性・代謝性・機能性へ
検査は「見るもの」ではなく「診断仮説を前に進める道具」です。
検査異常 → 鑑別疾患対応表(嘔気・嘔吐)
嘔気・嘔吐の検査は「見に行く」のではなく、異常パターンから原因を絞るために使います。
以下は、臨床で頻出する検査異常パターンを“鑑別疾患の方向”へ直結させる対応表です。
1)電解質・酸塩基パターン
| 検査異常(パターン) | まず疑う病態 | 次にやること(確認ポイント) |
|---|---|---|
| 低Cl・低K+代謝性アルカローシス (HCO3−↑ / pH↑) |
嘔吐 / 胃管吸引(胃液喪失) | 尿中Cl(<20 mEq/Lなら支持) 体液量減少所見(BUN/Cr、皮膚ツルゴール) |
| 代謝性アルカローシス+尿中Cl高値 | 利尿薬、鉱質コルチコイド過剰 | 服薬歴(利尿薬) 血圧高値、低Kの程度、レニン/アルド(状況により) |
| アニオンギャップ代謝性アシドーシス (AG↑) |
DKA、乳酸アシドーシス、腎不全、薬物/中毒 | 血糖・ケトン(血/尿) 乳酸、腎機能、服毒歴 |
| 低Na(低張性) | 体液量減少(嘔吐/下痢) SIADH(疼痛/嘔吐/薬剤/中枢) |
体液量評価(起立性、皮膚、BUN/Cr) 尿浸透圧・尿Na(可能なら) |
| 高Ca | 高Ca血症そのものが嘔気・嘔吐の原因 | 補正Ca / PTH / VitD / 悪性腫瘍の文脈 脱水合併に注意 |
| 重度低K (特に3.0未満) |
嘔吐、利尿薬、下痢、原発性アルド、Mg欠乏 | ECG(U波、不整脈) Mg、尿K(可能なら) |
2)脱水・腎前性のパターン
| 検査異常 | 疑う病態 | 補足 |
|---|---|---|
| BUN優位上昇(BUN/Cr比↑) | 脱水(腎前性) | 嘔吐による循環血漿量低下の指標 補液反応性を見やすい |
3)“原因疾患”を示唆する酵素・マーカー
| 検査異常 | 鑑別疾患 | 次の一手 |
|---|---|---|
| AMY / Lipase↑ | 急性膵炎(まず) | 胆道評価(US)・重症度評価・CT適応検討 |
| AST/ALT↑ | 急性肝障害(ウイルス、薬剤、虚血など) | T-Bil/PT/血糖、薬剤歴、肝炎マーカー |
| ALP/γGTP↑(胆道優位) | 胆道系疾患(胆嚢炎/胆管炎/閉塞) | US→必要なら造影CT、感染所見の評価 |
| トロポニン↑ | ACS(嘔気のみでもあり得る) | ECG・胸痛の有無に関わらず評価 |
4)糖代謝・ケトン・乳酸
| 検査異常 | 鑑別疾患 | ポイント |
|---|---|---|
| 血糖↑+ケトン陽性(AG↑なら強い) | DKA | 嘔吐が“結果”ではなく“症状の一部”になり得る |
| 乳酸↑ | 敗血症、腸管虚血、循環不全 | 「吐いてるだけ」に見えても重症のサイン |
| 血糖↓ | 副腎不全、重症感染、薬剤 | 意識障害の有無に関わらず確認 |
5)見逃すと危険:嘔気・嘔吐で必ず意識するセット
- 血糖(低血糖・DKA)
- 電解質(Na / K / Ca)
- 腎機能(脱水)
- 肝胆道系酵素
- AMY / Lipase
- トロポニン+ECG(ACS)
嘔気・嘔吐は「消化器症状」ではなく、内科疾患の共通言語として扱います。
まとめ
- 嘔気・嘔吐では、採血・画像を体系的に読むことが重要
- EGDは検査結果の一部として、急性・慢性胃炎を含めて評価する
- 検査結果は次の鑑別・対応につなげて初めて意味を持つ
