37症候別「嘔気・嘔吐」ー 検査編

嘔気・嘔吐|検査結果の見方
― 採血・画像(CT・US・上部内視鏡)から何を読むか ―

嘔気・嘔吐の診療では、問診・身体診察で鑑別を広げたあと、
「どの検査を出し、結果をどう解釈するか」が診断精度を大きく左右します。

本記事では、嘔気・嘔吐に対して行われる
採血・検体検査・画像検査(CT / 超音波 / 上部内視鏡)について、
「異常値や所見をどう読むか」という視点で整理します。

単なる検査の羅列ではなく、
「この結果なら何を疑い、次に何を考えるか」が分かることを目的としています。


1.採血検査の基本的な読み方

① 電解質・酸塩基

  • 低Cl血症:胃液(HCl)喪失を示唆
  • 低K血症:嘔吐による喪失+代謝性アルカローシスによる腎性排泄
  • HCO3 上昇:代謝性アルカローシス
  • 低Na血症:嘔吐+水分摂取、ADH分泌亢進

嘔吐が続く患者では、
「低Na・低K・低Cl+代謝性アルカローシス」
をまず予測します。


② BUN / Cr

  • BUN 優位の上昇
  • BUN / Cr 比の上昇

これは脱水による腎前性腎障害を示唆します。
嘔吐の重症度・循環血漿量低下の指標として重要です。


③ 血糖・代謝異常

  • 高血糖+ケトン陽性:糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)
  • 低血糖:副腎不全、重症感染、薬剤

「嘔吐=消化管疾患」と決めつけず、
代謝性疾患が原因で嘔吐している可能性を常に考えます。


④ その他、原因疾患を示唆する検査値

  • Ca 上昇:高Ca血症そのものが嘔気・嘔吐の原因
  • AST / ALT 上昇:急性肝障害
  • AMY / Lipase 上昇:急性膵炎
  • トロポニン上昇:嘔気のみで発症するACS

嘔吐は内科疾患の「共通症状」であることを忘れないことが重要です。


2.尿検査・その他の検体検査

  • 尿ケトン:DKA、飢餓
  • 尿比重上昇:脱水
  • 妊娠反応:妊娠可能年齢では必須

尿検査は低侵襲で情報量が多いため、初期評価で積極的に活用します。


3.CT・超音波などの画像検査の読み方

① 腹部CT

  • 腸閉塞・イレウス
  • 消化管穿孔
  • 急性膵炎(重症度評価)
  • 腸管虚血

嘔吐+腹部所見が強い/全身状態不良では、
CTは原因検索と重症度評価の両面で重要です。


② 腹部超音波

  • 胆嚢炎・胆管炎
  • 胆石・胆道拡張
  • 腹水

放射線被曝がなく、ベッドサイドで評価可能な点が利点です。


4.上部内視鏡(EGD)の所見をどう読むか

上部内視鏡は嘔気・嘔吐の「原因疾患を直接確認する検査」です。

① 急性胃炎

  • びまん性発赤、浮腫、びらん
  • NSAIDs、アルコール、ストレスが背景

② 慢性胃炎・萎縮性胃炎

  • 粘膜萎縮、血管透見、ひだの消失
  • 慢性的な悪心・食後不快感

「急性ではない嘔気」では、
慢性・萎縮性胃炎も重要な所見です。

③ 潰瘍・腫瘍・狭窄

  • 胃・十二指腸潰瘍
  • 胃癌・食道癌
  • 胃出口部狭窄

体重減少・貧血・吐血を伴う場合は、
EGD所見が診断の決め手になります。


5.検査結果から次の一手を考える

  • 電解質異常 → 補正と原因検索
  • 画像で器質疾患あり → 専門科コンサルト
  • EGD正常 → 中枢性・代謝性・機能性へ

検査は「見るもの」ではなく「診断仮説を前に進める道具」です。



検査異常 → 鑑別疾患対応表(嘔気・嘔吐)

嘔気・嘔吐の検査は「見に行く」のではなく、異常パターンから原因を絞るために使います。
以下は、臨床で頻出する検査異常パターンを“鑑別疾患の方向”へ直結させる対応表です。


1)電解質・酸塩基パターン

検査異常(パターン) まず疑う病態 次にやること(確認ポイント)
低Cl・低K+代謝性アルカローシス
(HCO3−↑ / pH↑)
嘔吐 / 胃管吸引(胃液喪失) 尿中Cl(<20 mEq/Lなら支持)
体液量減少所見(BUN/Cr、皮膚ツルゴール)
代謝性アルカローシス+尿中Cl高値 利尿薬、鉱質コルチコイド過剰 服薬歴(利尿薬)
血圧高値、低Kの程度、レニン/アルド(状況により)
アニオンギャップ代謝性アシドーシス
(AG↑)
DKA、乳酸アシドーシス、腎不全、薬物/中毒 血糖・ケトン(血/尿)
乳酸、腎機能、服毒歴
低Na(低張性) 体液量減少(嘔吐/下痢)
SIADH(疼痛/嘔吐/薬剤/中枢)
体液量評価(起立性、皮膚、BUN/Cr)
尿浸透圧・尿Na(可能なら)
高Ca 高Ca血症そのものが嘔気・嘔吐の原因 補正Ca / PTH / VitD / 悪性腫瘍の文脈
脱水合併に注意
重度低K
(特に3.0未満)
嘔吐、利尿薬、下痢、原発性アルド、Mg欠乏 ECG(U波、不整脈)
Mg、尿K(可能なら)

2)脱水・腎前性のパターン

検査異常 疑う病態 補足
BUN優位上昇(BUN/Cr比↑) 脱水(腎前性) 嘔吐による循環血漿量低下の指標
補液反応性を見やすい

3)“原因疾患”を示唆する酵素・マーカー

検査異常 鑑別疾患 次の一手
AMY / Lipase↑ 急性膵炎(まず) 胆道評価(US)・重症度評価・CT適応検討
AST/ALT↑ 急性肝障害(ウイルス、薬剤、虚血など) T-Bil/PT/血糖、薬剤歴、肝炎マーカー
ALP/γGTP↑(胆道優位) 胆道系疾患(胆嚢炎/胆管炎/閉塞) US→必要なら造影CT、感染所見の評価
トロポニン↑ ACS(嘔気のみでもあり得る) ECG・胸痛の有無に関わらず評価

4)糖代謝・ケトン・乳酸

検査異常 鑑別疾患 ポイント
血糖↑+ケトン陽性(AG↑なら強い) DKA 嘔吐が“結果”ではなく“症状の一部”になり得る
乳酸↑ 敗血症、腸管虚血、循環不全 「吐いてるだけ」に見えても重症のサイン
血糖↓ 副腎不全、重症感染、薬剤 意識障害の有無に関わらず確認

5)見逃すと危険:嘔気・嘔吐で必ず意識するセット

  • 血糖(低血糖・DKA)
  • 電解質(Na / K / Ca)
  • 腎機能(脱水)
  • 肝胆道系酵素
  • AMY / Lipase
  • トロポニン+ECG(ACS)

嘔気・嘔吐は「消化器症状」ではなく、内科疾患の共通言語として扱います。

まとめ

  • 嘔気・嘔吐では、採血・画像を体系的に読むことが重要
  • EGDは検査結果の一部として、急性・慢性胃炎を含めて評価する
  • 検査結果は次の鑑別・対応につなげて初めて意味を持つ

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