非暴力コミュニケーション(NVC)とは?共感でつながる対話の4ステップを実践的に解説

非暴力コミュニケーション(NVC)とは?共感でつながる対話の4ステップを実践的に解説

人との関係において、感情のすれ違いや誤解は日常的に起こります。
そんなとき、相手を責めず、自分の思いを正直に伝える方法として注目されているのが、非暴力コミュニケーション(NVC: Nonviolent Communication)です。

NVCは、共感を軸にした対話の技法で、家庭や職場だけでなく、医療、とくに家庭医療の現場でも活用が進んでいます
患者と医療者、家族との関係性のなかで、言葉を超えた信頼関係を築くためのヒントが詰まっています。

本記事では、NVCの基本構造から、日常や医療現場での実践、学びの場までを紹介します。
対話を変えることは、関係を変える第一歩になるかもしれません。


🔎 この記事で学べること

  • NVCとは何か?その起源と目的
  • 非暴力という言葉の本当の意味
  • NVCの4つの基本構成(観察・感情・ニーズ・リクエスト)
  • それぞれの構成要素の深掘りと使い方
  • 日常生活や医療現場での実践例
  • NVCを学ぶためのワークショップや資格制度の情報

はじめに 〜NVCとの出会いと、この記事について〜

私が「非暴力コミュニケーション(NVC)」という言葉に初めて出会ったのは、大学時代の講義でした。
地方にある大学で、地域医療や家庭医療に力を入れていたこともあり、患者さんとの関係性や対話に重きを置いた講義がいくつもありました。
その中の一つで紹介されたのが、このNVCという考え方です。

学びを進めていくなかで、私は次第に、これは「対話の技法」という枠を超えて、医療の根幹を支えるスキルであると感じるようになりました。
検査や治療の同意、予防医療への参加、通院の継続――どれも、患者さんとの信頼関係やコミュニケーションなしには成り立ちません。
その“やりとり”一つで、助けられる命もあると感じたのです。

今では、NVCは家庭医にとって最も重要な技術の一つだと感じており、この記事を通じて、ぜひ多くの方とこの考え方を共有したいと思いました。

まだまだ私自身も学びの途中ですが、NVCは医療現場でも日常生活でも確かに役立つ技術だと実感しています。
本記事では、公式サイト(CNVC.org)や実践者によるワークショップ資料など、信頼できる情報源をもとにNVCの基本構造と実践方法を整理し、紹介していきます。

「共感」を軸にした対話の可能性に、少しでも触れていただけたら嬉しいです。


1. NVCとは何か?

NVC(Nonviolent Communication)は、1960年代にアメリカの臨床心理学者マーシャル・B・ローゼンバーグ博士によって提唱された、共感とニーズ理解に基づいたコミュニケーションの枠組みです。

「非暴力」とは、単に攻撃的な言葉を避けるという意味ではありません。NVCが目指すのは、「相手と自分のニーズが同時に大切にされる関係性」を築くことです。
そのために、NVCでは観察・感情・ニーズ・リクエストという4つのステップを通じて、誤解や防衛反応を生まない対話を実現します。

ローゼンバーグ博士は、NVCを通じてアメリカ国内の教育・司法・家庭支援などの分野で活動を展開し、やがてNVCは世界中に広がっていきました。


🔬 医療現場、とくに家庭医療との親和性

近年、NVCは医療現場、特に家庭医療(Family Medicine)や総合診療の分野においても注目を集めています。

家庭医は、身体だけでなく心理・社会的背景も含めて患者を包括的に理解することが求められますが、その中で「共感的に聴く」「患者の価値観を尊重する」ことは極めて重要です。

NVCのアプローチは、次のような医療場面で活用され始めています:

  • 患者の語る「つらさ」や「不満」の背景にあるニーズをくみ取る
  • 医療者間の対話で、感情的な対立を回避しつつ建設的に伝える
  • チーム医療の中で、多職種間の信頼を育てるコミュニケーション

実際、2020年代以降、NVCを医学生・医療者に導入した教育プログラムも増えつつあり、特に欧米では家庭医療・緩和ケア・精神科領域を中心に、研修・講義・ワークショップへの導入例が報告されています。

また、あるレビュー(出典:NVC_Fundamentals_DeepDive_ReportLab)によれば、NVCを学んだ医療者は、患者満足度の向上・職業的バーンアウトの軽減などにポジティブな影響を実感したという報告もあります。


2. 「非暴力」という言葉の意味と本質

「非暴力コミュニケーション」という言葉に触れたとき、最初に違和感を抱く人も少なくありません。
「暴力なんて使っていないのに、なぜ“非暴力”なのか?」と感じるかもしれません。

ここでいう「暴力」とは、物理的な暴力ではなく、言葉による支配・評価・操作といった、相手の自由や尊厳を侵害する関わり方を指します。

たとえば、次のような表現には、意図しない暴力性が含まれていることがあります:

  • 「そんなこともできないの?」(相手を評価し、能力を否定)
  • 「ちゃんと言ったじゃないか」(責め・正当化)
  • 「本当にあなたはいつもそうだよね」(一般化とレッテル貼り)

このような言葉が飛び交うと、相手は自己防衛的になり、心を閉ざしがちです。
NVCは、そうした無意識の攻撃性を手放し、自分自身の感情とニーズに気づきながら、相手の人間性にも敬意を払う関わり方を目指します。


🌱 「非暴力」のルーツは、ガンディーの思想

NVCの“Nonviolent”という言葉は、インドのマハトマ・ガンディーによる「アヒムサ(非暴力・非支配)」の思想に由来しています。
ローゼンバーグ博士は、アヒムサの哲学を「日常の対話に応用する方法」としてNVCを体系化しました。

暴力とは、相手を変えようとする試みに含まれる“力の行使”です。
NVCはそれに対して、「相手を変える」のではなく「相手とつながる」ことを目的としています。

それは、ときに自己主張とは異なる勇気を伴います。
しかし、それによって関係性に「信頼」や「理解」が芽生える可能性があるのです。


🩺 医療現場における「非暴力」の意味

医療においても、無意識に「こうすべき」「なぜ来なかったの?」といった言葉が患者さんを追い詰めてしまうことがあります。

家庭医療の現場では、患者さんの生活背景や価値観を尊重することが求められます。
そのなかで、NVCが掲げる「非暴力=評価や命令から自由な対話」は、患者中心の医療と深く結びついています。

非暴力とは「優しさ」だけを意味するのではなく、誠実に、率直に、そして尊厳を保って関わろうとする姿勢そのものなのです。


3. NVCの4つの基本構成(概要)

NVC(非暴力コミュニケーション)は、次の4つのステップから構成されています:

  1. 観察(Observation):事実を、評価や判断を加えずに見つめる
  2. 感情(Feelings):その状況に対して、自分が何を感じているのかに気づく
  3. ニーズ(Needs):その感情の奥にある、満たされていない願いや価値に気づく
  4. リクエスト(Request):自分と相手、双方のニーズが尊重される具体的な行動を提案する

💡 なぜ4ステップに分けるのか?

この4つの要素を順にたどる構造には、明確な意図があります。
人は感情的に反応したとき、つい相手を責めたり、誤解や防衛的な態度を生みがちです。
そこで、NVCではまず「何が起きたか(観察)」と「自分はどう感じているのか(感情)」を切り分け
さらに「何が大切だったのか(ニーズ)」を明確にした上で、「どうしたいか(リクエスト)」へとつなげる構造になっています。

この4ステップを使うことで、感情に飲み込まれずに冷静に自己理解を深め、対話の中で相互理解と信頼を築くことが可能になります。

そして最終的な目的は、相手を動かすことではなく、「おたがいのニーズが尊重されるつながりの質」を育むことにあります。


🗣 例文:職場でのやりとりをNVCで整理してみる

状況: 同僚が会議に15分遅れてきたことに対して、イライラしている。

  • 観察:「会議に15分遅れて来たこと」
  • 感情:「私はイライラして、少し焦っていました」
  • ニーズ:「私は時間を大切にしたい、というニーズを持っていました」
  • リクエスト:「次からは会議の5分前にリマインドを送り合うようにしませんか?」

このように、NVCでは誰が悪いかを問う代わりに、「何が大切だったのか」に目を向けることを重視します。


⚠️ よくある失敗例:評価や決めつけが入っているケース

同じ状況でも、次のような表現では「観察」ではなく「評価」や「解釈」が混じってしまっています:

  • ❌ 「あの人はいつも無責任だ」
  • ❌ 「わざと遅れてきたんじゃないの?」
  • ❌ 「やる気がないんだと思う」

これらは、事実ではなく「主観的な判断」です。
相手の防衛反応を引き起こし、対話が対立に変わってしまうリスクがあります。

まずは事実(何が起こったか)を見つめ直すこと。
そこから、NVCの4ステップが始まります。


📌 今後のセクションについて

ここまでで、NVCの4ステップの全体像とその意味を把握しました。
次章からは、それぞれの構成要素について、どのように実践し、どこでつまずきやすいのかを丁寧に掘り下げていきます。

まずは「観察(Observation)」から始めましょう。


4.1 観察(Observation)とは?

「観察」とは、評価や解釈を交えずに、実際に起きた出来事をそのまま捉えることです。

日常会話では、「あの人は冷たい」「いつも勝手に行動する」といったように、つい判断やレッテルを交えて話してしまいがちです。
しかし、NVCにおける観察では、「事実」と「評価・印象」を切り離すことが大切です。

このステップを丁寧に行うことで、相手に非難や圧を与えず、対話の入り口を開くことができます。


✅ 正しい観察の例と、ありがちな誤解

❌ 評価・判断の例 ✅ 観察に言い換えると
「あの人はだらしない」 「彼は約束の時間から30分遅れて来た」
「患者さんが非協力的だった」 「説明中に患者さんは黙ったままで、返答がなかった」
「この人は怒ってるように見える」 「眉間にしわを寄せて、腕を組んでいた」

評価や印象は主観的であり、聞き手の防衛反応を引き起こすことがあります。
一方で、観察はあくまで「カメラで録画されたような情報」を伝えることが目的です。


🩺 医療現場での例:観察 vs 判断

ケース: 診察に来た患者さんが医師の説明に反応せず、無言のまま座っていた。

  • ❌ 判断的表現:「この人、協力する気がないな」
  • ✅ 観察的表現:「説明中、患者さんはずっと下を向き、返答がなかった」

判断ではなく、観察を言語化することで、感情(例:戸惑い、不安)→ニーズ(例:対話したい、理解してほしい)へと自然につなげやすくなります。


📝 セルフワーク:判断を観察に言い換えてみよう

以下の例文を「観察」に変えてみましょう:

  1. 「あの患者さんはいつも勝手なことばかり言う」
  2. 「彼女は全然こちらの話を聞いていない」
  3. 「今日はやる気がなさそうだった」

どのような具体的行動や言葉があったのか、録音された映像のように事実に戻すことを意識してみてください。


🎯 観察のコツ

  • 「〜のようだ」「〜していると思う」など主観的語尾に注意する
  • 感情やニーズに移るための“土台”として、相手と自分の安心を確保する
  • 判断を手放すことは、自己否定ではなく、相互理解のための第一歩

4.2 感情(Feelings)とは?

NVCにおける「感情」とは、出来事に対して自分の内側で起きている反応を指します。
これは他人の行動によって“生じる”ものではなく、自分のニーズが満たされたか/満たされていないかに起因するものと考えます。

感情を明確に言葉にすることで、自分が何に大切さを感じているのか(=ニーズ)へとつながる扉が開きます。


🧩 「感情」と「評価・思考」の違い

日常会話では、感情と思って話していることが、実は評価や解釈であることがよくあります。

❌ 評価・思考の例(感情ではない) ✅ 感情に言い換えると
「裏切られた気がする」 「悲しい」「がっかりしている」「信頼が傷ついた感じがする」
「軽く見られているように感じる」 「不安だ」「孤独に感じる」「怒りを感じる」
「無視された」 「寂しい」「傷ついた」「混乱している」

“〜された”という表現は、相手の意図を含んだ評価になりやすく、NVCではそれを「感情語」ではなく「解釈語」と捉えます。


🌿 感情の2大分類:満たされている vs 満たされていないとき

NVCでは、感情は大きく2つのカテゴリーに分けて理解されます:

分類 感情の例 背景にある可能性のあるニーズ
😊 満たされているとき 安心、嬉しい、満足、感謝、好奇心 つながり、安全、理解、達成感、自律性
😟 満たされていないとき 怒り、不安、悲しい、孤独、混乱、焦り 共感、尊重、つながり、自由、明確さ

この分類は、感情を「良い/悪い」で判断するのではなく、その奥にあるニーズのサインとして丁寧に受け取るための視点です。


🩺 医療現場における「感情のラベリング」

医療者が患者の感情に気づき、共感的に言葉にすることは、患者中心の医療にとって非常に重要です。

例: 慢性的な体調不良を訴える患者さんが、「いろんな医者に行ったけど、もう疲れた」と言ったとき:

  • ❌「とりあえず検査してみましょう」
  • ✅「色々な病院を回ってこられて、少し疲れや不安があるのかもしれませんね」

感情を丁寧にラベリング(名付け)することで、患者さんは「わかってもらえた」という安心感を得られます。


📋 よく使われる感情リスト(例)

ニーズが満たされているとき
  • 嬉しい、安心している、満足している、穏やか、集中している、感謝している、リラックスしている
ニーズが満たされていないとき
  • イライラしている、不安、怖い、怒っている、混乱している、孤独、疲れている、悲しい

自分の気持ちを的確に言葉にすることは、簡単ではありません。
NVCでは「感情カード」などのツールも使われ、日々の中で少しずつ語彙を増やしていくことが推奨されています。


📝 セルフワーク:感情と言い換え練習

このようなセルフワークは、NVCの講座やワークショップでもよく実践される基本練習です。
まずは自分の言葉を「評価」から「感情」に言い換えてみましょう。

  1. 「見下された気がする」
  2. 「話を聞いてくれてない感じがした」
  3. 「あの人はいつも無神経だ」

どんな気持ちがその奥にあるのか?
悲しさ?怒り?寂しさ?――自分の心に静かに問いかけてみてください。


4.3 ニーズ(Needs)とは?

NVCにおける「ニーズ」とは、人間が文化や状況を問わず持っている、普遍的かつ根源的な価値・願いを意味します。
「つながりたい」「安心したい」「尊重されたい」「自由に選びたい」といったニーズは、感情の背景にある大切な土台です。

このニーズが満たされていないときに、不安や怒り、悲しみといった感情が生まれます。逆に、満たされると、安心・感謝・幸福感などが湧き起こります。


🔍 「ニーズ」と「欲望・戦略」の違い

しばしば「ニーズ」と「要求」や「手段(戦略)」が混同されがちですが、NVCでは明確に区別します。

ニーズ(価値そのもの) 欲望・戦略(特定の手段)
安心したい 「家に毎日連絡してほしい」
自由でいたい 「この仕事を辞めたい」
理解されたい 「謝ってほしい」

ニーズを把握することで、対立を生まずに、多様な選択肢を見つけることができます。


📋 NVCにおける代表的なニーズの分類(CNVC公式より整理)

以下は、ローゼンバーグ博士のワークショップやCNVC.orgでよく用いられるニーズ分類の一例です。

1. つながり・関係性
  • 愛、共感、理解、信頼、受容、尊重、感謝、認められること
2. 自律性・選択
  • 自由、スペース、自己決定、境界、創造性、自発性
3. 安心・身体的ニーズ
  • 安全、安定、休息、健康、痛みの軽減、環境の快適さ、身体的なケア
4. 意義・成長
  • 意味、学び、成長、貢献、希望、目標、達成感
5. 遊び・楽しみ
  • 遊び、軽やかさ、ユーモア、創造的な時間

この分類により、「私は今、どんなニーズが満たされていないと感じているのか?」を言語化しやすくなります。


🩺 医療現場でのニーズの視点:通院中断の例

ケース: 慢性疾患の患者が治療途中で来院しなくなった。

  • ❌ 医療者の捉え方:「サボり」「自己管理できない」
  • ✅ NVC的捉え方:「自由を尊重されたい」「不安を理解してほしい」「信頼関係が足りなかった」などのニーズが満たされていなかった可能性

ニーズという視点を持つことで、「正しい/間違い」から、「何が大切だったのか」へと見方が変わり、関係性が再構築しやすくなります。


📝 セルフワーク:ニーズに気づく問い

このようなワークは、NVCの講座やワークショップ、合宿でも広く活用されている実践法です。

  • 今のこの感情の奥には、どんなニーズがあるのだろう?
  • 私が本当に求めているものは何?
  • 相手にも大切にしているニーズがあるとしたら?

ニーズは、私たちの「大切にしたいこと」そのものです。
それを見つけることが、共感の土台になります。


4.4 リクエスト(Request)とは?

NVCの最後のステップは「リクエスト」です。
ここでは、自分や相手のニーズを尊重しながら、具体的で実行可能な行動を提案することを目的とします。

「つながりたい」「尊重されたい」といったニーズが明確になったら、それを叶えるために“いま・ここで、何をしてほしいか”を率直に伝えることが、リクエストです。


🚫 「要求(Demand)」との違い

リクエストは、「NO」と言われる可能性が受け入れられている提案です。
一方、「要求」は、拒否を許さない一方的な命令や期待を伴います。

リクエスト 要求
「今少しだけ話せる時間ありますか?」 「今すぐ話を聞いてよ」
「今日の帰宅時間を教えてくれると嬉しいです」 「遅くなるならちゃんと連絡して」

リクエストには、「相手の自由意志」が尊重されているかどうかが鍵です。


⚠️ よくあるNG例:あいまい/一方的なリクエスト

  • ❌「ちゃんとしてよ」 → 何をどうすればいいのか不明確
  • ❌「もっと思いやりを持って」 → 抽象的で行動に落とせない
  • ❌「言い訳しないでよ」 → 要求+評価で相手が防衛的に

✅ NVCでは、「行動に置き換えられる、具体的な表現」を目指します。

たとえば:「今から10分だけ、私の話を黙って聞いてもらえる?」


🩺 医療現場でのリクエストの実例

ケース: 医師が患者に生活習慣改善の必要性を伝える場面。

  • ❌「ちゃんと運動してください」 → 一方的・曖昧
  • ✅「今週、散歩を週に2回から始めてみるのはどうですか?」 → 具体的・提案・選択肢あり

また、チーム内コミュニケーションでもNVC的リクエストは有効です:

  • 「この件、今日中に共有してもらえると助かります」
  • 「意見が違っても、落ち着いて話し合いたいと思っています」

📝 セルフワーク:リクエストをつくってみよう

講座やワークショップでも定番のこの練習、ぜひ自分でもやってみましょう:

  1. 最近イライラした出来事を思い出してみましょう
  2. そのとき、あなたのどんなニーズが満たされていなかったでしょうか?
  3. それを満たすために、どんな具体的なリクエストができそうですか?

「ちゃんとしてよ」「分かってよ」ではなく、「○○してもらえる?」という行動に置き換える視点を意識してみてください。


5. 日常や医療現場での実践と会話例

NVCの4つのステップ(観察・感情・ニーズ・リクエスト)を理解したら、いよいよ実践のステージです。

ここでは、日常生活や医療の現場で実際に起こりがちな場面を例に取り、Before(NVC前)とAfter(NVC的対応)を比較しながら紹介します。


🏠 日常生活での実践:パートナーとの会話

状況: 約束の時間に遅れて帰ってきたパートナーに対して

❌ Before:
「なんでいつも遅れるの?ほんとに時間守れないよね」

✅ After(NVC的対応):

  • 観察:「約束の時間より30分遅れて帰ってきたのを見て、」
  • 感情:「私は少し寂しくて、不安になった」
  • ニーズ:「一緒に過ごす時間を大切にしたい気持ちがある」
  • リクエスト:「今度から、遅れそうなときは連絡をもらえると嬉しい」

このように、NVCでは責めるのではなく、“何が大切だったのか”に焦点を当てることで、関係性を深める対話が可能になります。


🩺 医療現場での実践:患者との対話

状況: 検査や治療を拒否する患者に対して、ついイライラしてしまったとき

❌ Before:
「何度説明しても分かってくれない。非協力的な患者だな…」

✅ After(NVC的対応):

  • 観察:「治療の説明に対して、患者さんは返答せず、腕を組んで黙っていました」
  • 感情:「私は少し不安で、焦りを感じました」
  • ニーズ:「信頼関係を築きたい、患者さんに安心してもらいたいという気持ちがあります」
  • リクエスト:「治療について不安なことや気になる点があれば、聞かせてもらえますか?」

「協力しない」ではなく、「何が満たされていないのか」に意識を向けることが、患者中心の医療に直結します


📝 実践的セルフワーク:日々のNVC練習法

NVCを実生活で身につけるには、日々のセルフワークが最も効果的です。
ワークショップや講座でも定番の以下の方法を紹介します。

① 「NVC日記」をつけてみよう

一日の中で印象に残った場面を、以下のフォーマットで書き出してみましょう:

  1. 観察:何が起こった?(事実)
  2. 感情:どう感じた?(評価を含まず)
  3. ニーズ:何が大切だった?(背景にある価値)
  4. リクエスト:次にどうしたい?(具体的行動)
② ロールプレイや独り言で練習する
  • 電車の中であった小さな出来事を、頭の中でNVCに置き換えてみる
  • 患者さんや家族とのやりとりを、NVCの4ステップで振り返る

「うまく言えなかったな」と思う場面でも、自分の内側を整理する練習を続けることで、共感力と表現力は確実に育っていきます


6. NVCを深めるための実践コミュニティと学びの場

NVCは、一度学んで終わるものではなく、日々の実践と内省を通じて育まれるスキルです。
そのため、世界中にNVCを実践し学び続けるコミュニティやトレーニングの場が存在しています。


🌍 世界のNVCコミュニティと認定制度(CNVC)

NVCの国際的な拠点となっているのが、米国に本部を置く CNVC(The Center for Nonviolent Communication) です。

  • 設立者:マーシャル・ローゼンバーグ博士
  • 公式サイト:https://www.cnvc.org
  • 世界中に認定トレーナー(Certified Trainer)が在籍
  • 合宿形式の国際ワークショップや集中トレーニングを開催

CNVCでは、厳格なトレーナー認定制度を設けており、学びの深さと実践力が求められます。


🇯🇵 日本国内の学びの場とコミュニティ

日本国内でも、さまざまな形でNVCを学ぶ場が広がっています。

  • NVCジャパン・ネットワーク: 各地で勉強会・講座・読書会を開催
  • 共感的コミュニケーション講座: 医療・教育・ビジネスなど各分野に対応
  • オンライン学習プラットフォーム: NVC大学 など

地域や所属を越えてつながるコミュニティがあり、継続的な学びと実践のサポートが受けられます。


📚 ワークショップや合宿で行われている内容

ワークショップでは、以下のような内容が扱われます:

  • 「ジャッカル語」と「キリン語」の違いを体験
  • 感情・ニーズカードを使ったセルフ共感ワーク
  • ペアワークによるロールプレイ(話す/聴くの両側を体験)
  • 過去の出来事をNVC的に振り返るリフレクション

特に合宿形式では、日常を離れて「共感的な空間」を共有する中で、深い気づきや人とのつながりが生まれます。


🧭 継続的な学びのすすめ

NVCは、知識だけでなく「感覚」「実感」をともなって身につけていくものです。

そのためには:

  • 少人数の実践グループに参加する
  • NVC日記をつける
  • オンラインワークショップに月1回参加する
  • 医療現場や家庭で「試してみる→振り返る」習慣をつくる

小さな積み重ねが、日常の対話を少しずつ変えていきます。
そして、あなた自身や周囲の人の「大切にされている感覚」も、きっと変わっていくでしょう。


7. NVCの実践例と研究動向:日本と世界の現場から

NVC(非暴力コミュニケーション)は、医療・教育・企業・司法など多様な分野で実践され、その有用性が報告されています。ここでは、日本、特に宮崎大学の取り組みを含む最新情報を紹介します。


🏫 宮崎大学でのNVC教育と研究

宮崎大学医学部では、NVCを含む共感的コミュニケーション教育が導入されています。
横山彰三教授は「医療人としての自己表現と共感」をテーマに、医学教育の一環としてNVCを取り上げており、家庭医療の講座・ワークショップにも活用されています。

また、医学者教育におけるプロフェッショナル・アイデンティティ形成の研究(科研費・課題番号20K10324)では、リフレクショナルライティングや即興劇など人文学的手法と併行して、NVC的共感力づくりも含まれていることが報告されています。


🇯🇵 日本国内の事例・リソース

  • 医療従事者向けNVCワークショップ:オンラインで開催され、今井麻希子氏と横山彰三氏が共に講師を務める「医療従事者のための感情的知性入門」など、医療現場に特化したプログラムが実施されています。
  • NVC大学の出版・読書会:『全人的医療を支える共感的コミュニケーション・NVC』を翻訳・出版。また、同書を使った読書会や7回連続講座もオンラインで展開中です。

🌍 世界の医療現場での効果例

  • 欧米の病院でNVCトレーニングを行った結果、患者隔離・拘束の件数やスタッフ補充時間が大幅に減少し、職場の癒しと心理的安全性が向上したという報告があります 。
  • プライマリ・ケア、緩和ケアなどにおいて、NVC導入による患者満足度の改善や医療者のバーンアウト軽減が報告されています。

🔗 外部リソース・リンク紹介


📚 今後の展望

宮崎大学をはじめ、多くの医療教育機関でNVCを含む共感教育が導入され始めています。
患者中心ケアや医療者のwell‑beingに寄与するこれらの取り組みは、今後ますます注目される分野です。


8. まとめと次の一歩

NVC(非暴力コミュニケーション)は、ただ優しく話すための方法ではありません。
それは、自分自身の内面とつながりながら、相手とも対等で尊重された関係を築くための“対話の技術”です。

本記事では、NVCの4つの基本ステップ(観察・感情・ニーズ・リクエスト)を一つひとつ丁寧に見つめ直し、日常や医療の現場でどのように活かせるかを実例を交えて解説してきました。

NVCを知ることで、私たちは「言い争わずに伝える力」「相手を理解しようとする姿勢」「自分の大切な価値に気づく視点」を育てていけます。


📌 実践の第一歩として

  • 今日の出来事をNVCの4ステップで振り返ってみる
  • 誰かに何かを伝えるとき、「感情」と「ニーズ」を意識してみる
  • 「わかってもらえない」と感じたとき、自分の内側をまず見つめてみる

たとえ完璧にできなくても、NVCは「つながろうとする意志」そのものが最も大切にされます。


🌱 継続的に学ぶために

もっと深く学びたいと感じた方には、以下の方法をおすすめします:

  • 地域やオンラインで開催されるNVCの読書会・講座に参加する
  • 感情・ニーズの語彙を日々少しずつ増やしていく
  • 医療現場や家庭内で、1日1つでも「NVC的な言い直し」に挑戦してみる

共感をベースにした対話がひとつひとつ広がっていくことで、社会や医療の現場も、より信頼にあふれた場へと変化していくはずです。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
この記事が、あなたの対話に小さな変化をもたらすきっかけとなれば幸いです。


📖 References

  • Rosenberg, M. B. (2003). Nonviolent Communication: A Language of Life (2nd ed.). PuddleDancer Press.
  • 今井麻希子・横山彰三(編)(2023). 『全人的医療を支える共感的コミュニケーション・NVC』. 金芳堂.
  • Center for Nonviolent Communication (CNVC) – Official site: https://www.cnvc.org
  • NVCジャパン・ネットワーク: https://nvc-japan.net
  • NVC大学(nvc-u.jp): https://nvc-u.jp
  • 科研費プロジェクト「プロフェッショナル・アイデンティティ形成に資する医学生教育」(課題番号 20K10324): KAKEN Database
  • 今井麻希子氏によるnote記事「医療現場におけるNVCの可能性」: note.com
  • 第57回日本医学教育学会「医療者の感情的知性に関する教育実践報告」: congre.co.jp
  • NVCの医療導入に関する実践報告(第39回日本催眠医学心理学会): kenkyuukai.jp

9. 参考文献・おすすめ教材・サイト

この記事は、以下の資料・書籍・ウェブサイトを参考に構成されています。


📚 書籍(日本語)

  • 『NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法』
    マーシャル・B・ローゼンバーグ著(日本語訳:安納献)/日本経済新聞出版社
    → NVCの原典にして基本。全ステップと思想が網羅されています。
  • 『全人的医療を支える共感的コミュニケーション・NVC』
    今井麻希子・横山彰三 編/金芳堂
    → 医療従事者向けにNVCを解説した実践的な書。国内の事例が豊富です。
  • 『わかりあえないことから』
    平田オリザ著/講談社現代新書
    → 対話・コミュニケーションに関する哲学的視点を補完的に学べます。

🌐 公式・実践サイト


🎥 動画・YouTube


🧠 その他おすすめ教材・ツール

  • 感情カード・ニーズカード(ワークショップや自習用に)
  • NVC 4ステップテンプレート(日記・リフレクション用)
  • 『NVC入門ノート』(PDF形式で配布されている非公式入門資料)

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