37症候別「腹痛」:EBM編

📊 腹痛を「確率」で診る|問診・身体診察で使えるLR完全まとめ

腹痛診療は「病名当て」ではなく、
事前確率 → 所見 → 事後確率を更新する作業です。

このページでは、McGee『Evidence-Based Physical Diagnosis』を主軸に、
腹痛の問診・身体診察で実際に確率を動かせる尤度比:Likelihood Ratio(LR)を、
疾患横断的・疾患特異的にまとめます。

*陽性尤度比:LR+、陰性尤度比:LR-


1. 腫瘍性腹痛を示唆するLR

🔴 強く示唆(Rule-in)

  • Virchowリンパ節(左鎖骨上):LR+ ≈ 23(胃癌・消化管癌)
  • 可動性のない腹部腫瘤:LR+ ≈ 10–15
  • 硬く不整な腹部腫瘤:LR+ ≈ 7–10
  • Courvoisier徴候(無痛性黄疸+胆嚢腫大):LR+ ≈ 4–6(膵頭部癌)
  • 腹水を伴う腹部膨満(肝硬変なし):LR+ ≈ 4–5

🟠 中等度に示唆

  • 原因不明の体重減少:LR+ ≈ 2–3
  • 食欲不振+持続する腹痛:LR+ ≈ 2–3
  • 原因不明の貧血(特に鉄欠乏性):LR+ ≈ 2–2.5
  • 夜間痛・安静時痛:LR+ ≈ 2

🔵 可能性を下げる(Rule-out)

  • 急性発症(数時間〜1日):LR− ≈ 0.3–0.5
  • 強い圧痛・反跳痛あり:LR− ≈ 0.4–0.6
  • 若年(<40歳)+警告症状なし:LR− ≈ 0.2–0.4

2. 炎症性腹痛を示唆するLR

🔴 強く示唆(Rule-in)

  • 反跳痛:LR+ ≈ 7–10
  • 筋性防御:LR+ ≈ 6–8
  • 限局した強い圧痛:LR+ ≈ 4–6
  • 発熱(>38℃)+腹痛:LR+ ≈ 3–5
  • CRP上昇を伴う腹痛:LR+ ≈ 3–4

🟠 中等度に示唆

  • 急性発症(数時間〜数日):LR+ ≈ 2–3
  • 体動・咳嗽で増悪:LR+ ≈ 2–3
  • 悪心・嘔吐を伴う腹痛:LR+ ≈ 2

🔵 可能性を下げる(Rule-out)

  • 圧痛がほとんどない:LR− ≈ 0.3–0.5
  • 反跳痛・筋性防御なし:LR− ≈ 0.4–0.6
  • 慢性経過(月単位):LR− ≈ 0.5

3. 疾患特異的に使える診察所見とLR

① 虫垂炎

  • 右下腹部圧痛:LR+ ≈ 8
  • McBurney点圧痛:LR+ ≈ 3–4 / LR− ≈ 0.4
  • Rovsing徴候:LR+ ≈ 2–3
  • Psoas sign:LR+ ≈ 2
  • 右下腹部圧痛なし:LR− ≈ 0.2–0.4

② 急性胆嚢炎

  • Murphy徴候:LR+ ≈ 2.8–3.2
  • 右上腹部圧痛:LR+ ≈ 2–3
  • Murphy徴候陰性:LR− ≈ 0.4–0.6

③ 急性胆管炎

  • Charcot三徴(発熱+黄疸+右上腹部痛):LR+ >10

④ 急性膵炎

  • 心窩部痛+背部放散:LR+ ≈ 3
  • 前屈で軽快:LR+ ≈ 2–3

⑤ 腸閉塞・イレウス

  • 腹部膨満:LR+ ≈ 5
  • 嘔吐+排ガス・排便停止:LR+ ≈ 4–5
  • 排ガス・排便あり:LR− ≈ 0.3–0.5

⑥ 虚血性腸炎・腸管虚血

  • 突然発症の激痛(out of proportion):LR+ ≈ 5–10
  • 心房細動など塞栓リスク:LR+ ≈ 3–5

⑦ 憩室炎

  • 左下腹部圧痛:LR+ ≈ 3–4
  • 発熱+限局圧痛:LR+ ≈ 4–6

⑧ 消化管穿孔・腹膜炎

  • 反跳痛:LR+ ≈ 7–10
  • 筋性防御:LR+ ≈ 6–8
  • 突然発症の激痛+板状硬:LR+ >10

4. 実践的まとめ

  • LRは単独で使わない
  • 発症様式 × 圧痛 × 全身所見で方向性を決める
  • 「CTを撮る理由」を説明できる診察を目指す

腹痛診療において、
問診・身体診察は“検査”であり、確率を動かす最初の一手です。


References

  • McGee S. Evidence-Based Physical Diagnosis. 4th ed.
  • Sackett DL, et al. Evidence-based medicine. BMJ.
  • JAMA Users’ Guides to the Medical Literature.

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