37症候アプローチ:貧血 OSCE編

このページは、外来とOSCEの現場で「貧血をどう鑑別し、どう問診し、どう診察するか」を
実践的に整理したアプローチです。
貧血の基礎や“症候としての位置づけ”は導入記事にまとめていますので、あわせてご覧ください。


貧血のOSCE・外来アプローチとは

貧血は外来や初期診療で必ず遭遇する症候であり、OSCEでも頻出の評価項目です。
本記事では鉄欠乏性貧血(IDA)をモデルに、貧血の鑑別・問診・診察・検査の進め方を、
OSCEと外来でそのまま使えるフレームで整理します。

「Hbが低い」という“数字”だけを見るのではなく、症状・vital・時間経過を統合して、
危険な貧血を見逃さないことがゴールです。


貧血の初期評価:Doorway Information(OSCEの第一歩)

年齢・性別:68歳 女性

主訴:ふらつき・労作時息切れ

GA: Alert, slightly pale, no respiratory distress

  • BT: 36.7℃
  • HR: 102 bpm
  • BP: 108/64 mmHg
  • RR: 18/min
  • SpO₂: 98% (RA)

SpO₂が正常でも、赤血球が減れば組織は低酸素に陥ります。
OSCEでも外来でも、「正常SpO₂ × 息切れ × 頻脈」の組み合わせは
貧血による酸素運搬能低下を示す重要なサインです。


貧血の鑑別:Common / Serious / Pitfalls

🟦 Common(頻度の高い原因)

  • 鉄欠乏性貧血(IDA): 月経過多、慢性胃腸出血、偏食・栄養不足
  • ACD(慢性炎症性貧血): 慢性炎症・慢性疾患に伴う貧血
  • 腎性貧血: 慢性腎不全(CKD)に伴うエリスロポエチン低下

🟥 Serious(見逃すと危険な貧血)

  • 急性消化管出血: 黒色便・血便・吐血、バイタル悪化を伴う貧血
  • 溶血性貧血: 黄疸、暗色尿、脾腫、薬剤歴などを伴う
  • 骨髄不全・血液腫瘍: MDS、白血病、pancytopenia(汎血球減少)を呈する病態

🟨 Pitfalls(よくある落とし穴)

  • MCVが正常で見逃される混合性貧血(鉄欠乏+VitB12欠乏など)
  • NSAIDs内服歴の聴取漏れ → 上部消化管出血を見逃す
  • 閉経後女性の鉄欠乏性貧血を「年齢のせい」として様子見してしまう
  • 鉛暴露など職業歴を聞かずに、小球性貧血の原因を見逃す

貧血の問診:外来で見逃さないポイント

問診では、出血・溶血・造血低下のどれを示唆するかを短時間で見極めることがポイントです。

1. 出血を疑う質問(IDAで最重要)

  • 便の色が黒くなったり、赤く混じったりしていませんか?
  • 吐血やコーヒー残渣様の嘔吐はありませんか?
  • アスピリンやロキソニンなどのNSAIDsを飲んでいませんか?
  • (月経のある方に)月経量は多くありませんか?塊が出たり、期間が長くなったりしていませんか?

🔹 Useful English(出血の評価)

  • Have you noticed any black or tarry stools?
  • Have you ever seen blood in your stool or vomit?
  • Are you taking any painkillers like NSAIDs or aspirin?

2. 溶血を示唆する質問

  • 最近、目が黄色くなったと言われたことはありませんか?
  • 尿の色が濃い茶色っぽくなっていませんか?
  • 新しく飲み始めた薬はありませんか?
  • 感染症のあとに、急に息切れや倦怠感が悪化したことはありませんか?

🔹 Useful English(溶血の評価)

  • Have you noticed yellowing of your eyes or skin?
  • Is your urine darker than usual?

3. 造血低下(栄養・慢性疾患)を疑う質問

  • 食事は偏っていませんか?肉や魚をあまり食べないことはありますか?
  • 体重が意図せず減ってきていませんか?
  • 食欲低下、吐き気、慢性的な下痢・便秘はありませんか?
  • 腎臓が悪いと言われたことや、透析は受けていませんか?

🔹 Useful English(栄養・慢性疾患)

  • How is your appetite recently?
  • Have you lost weight unintentionally?

貧血の身体診察:OSCEで評価される所見

1. 観察(Look)

  • 眼瞼結膜の蒼白: もっとも簡便で感度の高いサインの一つ
  • 皮膚の蒼白: 顔面、手掌、爪床の色調
  • スプーン状爪(Koilonychia): 慢性鉄欠乏性貧血で典型的
  • 黄疸: 溶血性貧血を示唆(間接ビリルビン↑)

2. 触診(Palpate)

  • 脈拍: 頻脈は高心拍出状態の反映
  • 脾腫: 溶血・血液疾患(MDS、白血病など)を疑う所見

3. 聴診(Auscultate)

  • 収縮期雑音: 貧血による血流増加に伴う機能的雑音
  • 心不全兆候: 重症貧血でのうっ血性心不全に注意

🔹 Useful English at bedside

  • I’m going to check your eyelids to look for signs of anemia.
  • I’d like to feel your abdomen to check for any swelling of the spleen.

外来での初期検査:何を優先するか

貧血を見つけたら、まず「どのタイプの貧血か」を絞り込むことが重要です。

1. 基本セット(ほぼ全例でオーダー)

  • CBC: Hb、MCV、RDW、白血球・血小板も確認
  • 網赤血球数: 骨髄の反応性(出血・溶血 vs 造血低下)
  • Ferritin: 鉄欠乏性貧血の診断に最重要
  • TSAT / TIBC: 鉄欠乏 vs ACD の鑑別
  • Cr: 腎性貧血の評価
  • 便潜血(FOBT): 消化管出血のスクリーニング

2. 状況に応じて追加する検査

  • LDH / 間接ビリルビン / ハプトグロビン: 溶血の評価
  • VitB12 / 葉酸: 大球性貧血・神経症状を伴う場合
  • TSH: 甲状腺機能低下症による大球性貧血の鑑別
  • 骨髄検査: pancytopenia(汎血球減少)や血液腫瘍を疑う場合

Mini Case:鉄欠乏性貧血(IDA)のOSCE症例

症例

68歳女性。2〜3週間前からのふらつきと労作時息切れを主訴に来院。
便の黒色化を自覚しており、膝痛に対して数年間NSAIDs(ロキソニン)を自己判断で内服中。

GA: Alert, slightly pale, no respiratory distress

  • BT: 36.8℃
  • HR: 104 bpm
  • BP: 110/66 mmHg
  • RR: 18/min
  • SpO₂: 98% (RA)

Examiner’s Feedback(想定)

  • SpO₂正常でも頻脈+息切れから貧血を疑えた点は excellent。
  • 黒色便とNSAIDs内服歴を結びつけて、慢性上部消化管出血を想起できた点は very good。
  • 鑑別に、IDAだけでなく胃癌・大腸癌・pancytopenia(汎血球減少)を伴う骨髄疾患まで含められるとさらに良い。

想定検査結果

  • Hb: 6.8 g/dL
  • MCV: 68 fL(小球性)
  • RDW: 17.0%(↑)
  • Ferritin: 8 ng/mL(著明低値)
  • TSAT: 10%(低下)
  • 便潜血: 陽性

→ 診断: 慢性消化管出血による鉄欠乏性貧血(IDA)と考え、消化器内科での内視鏡検査・精査が必要。


Red Flags:貧血で見逃してはいけないサイン

  • 黒色便・血便・吐血: 急性・慢性消化管出血
  • pancytopenia(汎血球減少): 骨髄不全、MDS、白血病など
  • 黄疸+脾腫: 溶血性貧血、血液疾患
  • 胸痛・呼吸困難・意識障害: 重症貧血による臓器虚血
  • 体重減少+貧血: 悪性腫瘍の可能性を常に考える

専門医紹介のタイミング(外来・初期診療の判断)

  • Hb 7 g/dL以下+症状あり: 輸血や原因精査のため速やかな紹介を検討
  • 便潜血陽性+IDA: 消化器内科での上下部内視鏡検査がほぼ必須
  • pancytopenia(汎血球減少): 血液内科での骨髄検査を含む精査が必要
  • VitB12欠乏+神経症状: 専門的な補充・原因検索(萎縮性胃炎・自己免疫性胃炎など)
  • 腎性貧血: ESA導入や透析準備の観点から腎臓内科紹介

外来や総合内科では、「どこまで自分で評価し、どこから専門医に託すか」を意識することが大切です。


まとめ:貧血アプローチをOSCEと外来に活かす

  • 貧血は、外来とOSCEのどちらでも頻出の症候であり、バイタル・症状・時間経過を合わせて評価することが重要。
  • 鉄欠乏性貧血(IDA)をモデルに、出血・溶血・造血低下の3つの軸で鑑別を整理すると分かりやすい。
  • 問診では、黒色便・NSAIDs・月経歴を必ず確認し、OSCEでははっきり口に出して説明する。
  • 身体診察では、眼瞼結膜・スプーン状爪・黄疸・脾腫をルーチンでチェックする。
  • 検査は、CBC+MCV+Ferritin+網赤血球+便潜血を“セット”で考えると、外来での見落としが減る。

貧血という“ありふれた異常値”の裏には、出血、腫瘍、骨髄不全、溶血など、さまざまな病態が隠れています。
OSCEでも日常診療でも、「Hbが低い」で終わらせず、「なぜそうなったのか?」と一歩踏み込む習慣をつけていきましょう。


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