突然の心停止――それは誰にでも、どこでも、予告なく起こりうる「究極の緊急事態」です。
心電図での分類(VF / 無脈性VT / PEA / Asystole)や、ICLSに基づくプロトコルに従った迅速な対応が、生存率と神経学的予後を大きく左右します。
本記事では、医療従事者が現場で迷わず行動するために必要な「心停止の診断・対応・予後管理」までを網羅。
とくにICLSプロトコルの具体的な流れ、可逆的原因の見極め、心電図所見ごとの治療方針を重点的に解説します。
🟨 心停止の現状と基本知識 ― 救命率を左右する初期対応
📊 年間7万人、誰にでも起こる突然死
日本では毎年約7万人が院外心停止(OHCA: Out-of-Hospital Cardiac Arrest)を起こしており、その約6割が自宅で発生しています(総務省消防庁「令和4年版 救急・救助の現況」)。
そのうち救急搬送後に心拍再開(ROSC)が確認されるのは約10〜15%、社会復帰まで至るのは約7%前後です。
🚑 救命率は初期対応で大きく変わる
以下の因子が、予後を大きく左右することが複数の研究で示されています。
要素 | 影響 | 根拠(代表的研究) |
---|---|---|
Bystander CPR | 生存率が約2〜3倍向上 | Iwami et al., 2007, NEJM |
初期波形がVF/VT | 生存退院率が30〜50% | Kitamura et al., 2010, Circulation |
No-flow time | 1分延長ごとに生存率7〜10%低下 | Larsen et al., 1993, Annals of EM |
AEDの早期使用 | VF/VTにおいて効果的 | Nishiyama et al., 2015, Circulation |
🧠 CPC(神経予後評価スコア)
CPC | 意味 |
---|---|
1 | 意識・日常生活ともに正常 |
2 | 軽度の障害だが日常生活可能 |
3 | 中等度の障害、要介助生活 |
4 | 昏睡状態 |
5 | 死亡 |
🔁 Call → Push → Shock:3つの行動が命を救う
- Call(119通報):できるだけ早く
- Push(胸骨圧迫):中断を最小に、100–120回/分、深さ5–6cm
- Shock(AED使用):VF/無脈性VTに対して早期の除細動
市民によるCPRの実施率は約50%、AED使用率は10%未満とされており、さらなる啓発が求められています。
🟥 心停止の4分類と可逆的原因(5H+5T)
📊 ECG波形による4分類
心停止の最初の判断ポイントは、心電図の波形です。
分類 | 特徴 | ショック適応 | 治療の柱 |
---|---|---|---|
VF(心室細動) | 不規則な細かい波形 | ✅あり | ショック+アドレナリン+アミオダロン |
無脈性VT | 規則的なwide QRSだが脈なし | ✅あり | 同上 |
PEA | 規則正しい波形だが脈なし | ❌なし | アドレナリン+原因検索 |
Asystole | フラットな線 | ❌なし | アドレナリン+継続蘇生 |
💡 覚えておくべき可逆的原因 ― 5H & 5T
✅ 5H
- Hypovolemia(循環血漿量低下)
- Hypoxia(低酸素)
- Hydrogen ion(アシドーシス)
- Hypo-/Hyperkalemia(カリウム異常)
- Hypothermia(低体温)
✅ 5T
- Tension pneumothorax(緊張性気胸)
- Tamponade(心タンポナーデ)
- Toxins(薬物中毒)
- Thrombosis(心筋梗塞)
- Thrombosis(肺血栓塞栓症)
📘 COLUMN:心電図波形と予後・ショック適応の実際
🔷 心電図と予後
VFで始まった心停止では生存退院率が30〜50%に達する一方、PEAやAsystoleでは10%未満と報告されています(Kitamura et al. 2010)。
🔷 ショック適応と心原性の関係
VF/VTは急性心筋梗塞・QT延長・Brugada症候群など心原性心停止が多く、電気ショックが効果を発揮しやすい波形です。
一方、PEAやAsystoleは低酸素、出血、薬物、PEなど非心原性原因が主体で、可逆的原因の検索が鍵を握ります。
🔷 同期 vs 非同期ショックの違い
タイプ | 対象波形 | タイミング | 用途 |
---|---|---|---|
同期ショック | VT(with pulse), Af, SVT | R波に合わせて通電 | 頻脈制御 |
非同期ショック | VF, 無脈性VT | 即時通電 | 心停止の除細動 |
※AEDは非同期ショックを自動実施。マニュアル除細動器では同期ボタンの押し忘れに注意が必要です。
ここまでで、心停止の4分類とその予後、原因検索の重要性を確認しました。
次は、実際に医療現場で用いられるICLS(Immediate Cardiac Life Support)のプロトコルに基づいて、どのように初期対応を行うべきかを具体的に見ていきましょう。
🟩 Step-by-Stepで学ぶ:ICLS/ALSプロトコルと初期対応の流れ
ICLS(Immediate Cardiac Life Support)は、日本救急医学会が提供する、医療従事者向けの心停止初期対応プログラムです。
院内で突然の心停止に直面したとき、限られた人員・資源の中でも、短時間で質の高い蘇生を行うことを目的としています。
🩺 ALSプロトコルの全体像(OSCE対策にも)
- 意識・呼吸・脈の確認(同時並行で蘇生チーム呼出)
- 胸骨圧迫開始+AED装着またはモニター接続
- 心電図波形を評価 → プロトコル宣言
- ショック適応あり:ショックプロトコル開始(VF/無脈性VT)
ショック適応なし:非ショックプロトコル開始(PEA/Asystole) - 2分ごとに心電図・脈拍の再評価+薬剤・原因検索を継続
- ROSCが得られた場合はROSC後管理へ、得られなければ継続または終了判断
🧭 ICLSプロトコルの流れと意思決定
波形評価の直後に「どのプロトコルで進めるか」宣言することがチーム内の統一行動につながります。
例:
「VF確認、ショックプロトコルでいきます」
「Asystole確認、非ショックプロトコルで対応します」
⚡ ショックプロトコル(VF / 無脈性VT)
- 除細動(非同期ショック)1回
- 即時CPR(2分)
- 2分後のリズム評価+アドレナリン1mg IV投与
- 再除細動+CPR(2分)
- 3回目のショック後にアミオダロン300mg IV投与
- 必要に応じて150mgの追加投与も1回まで可
- 2分ごとにリズム・脈を再評価、適応あればショック継続
※アドレナリンは2~3分おきに繰り返し投与します。
❌ 非ショックプロトコル(PEA / Asystole)
- CPR(2分)
- アドレナリン1mg IV投与
- 心電図と脈拍の再評価
- 可逆的原因(5H5T)の検索・対処
- 2分ごとに評価とアドレナリン継続
※PEA/Asystoleは除細動適応外。アミオダロンは使用されません。
🔁 プロトコルの“途中変更”はあるか?
リズムが変化した場合に限り、途中でプロトコルを切り替えることがあります:
- VF → Asystole:非ショックプロトコルへ移行
- PEA → VF出現:ショックプロトコルに切り替え、除細動開始
- PEA → 有効な脈:ROSCと判断し、蘇生終了 → ROSC後管理へ
このため、2分ごとの心電図・脈拍評価が極めて重要です。
🧑🤝🧑 チームの役割分担と閉ループコミュニケーション
- リーダー:プロトコルの選択と指示
- 圧迫係:2分毎交代で胸骨圧迫
- 気道係:BVM → 気管挿管
- 静脈路係:ルート確保、薬剤管理
- 記録係:時間・薬剤・ショック・ROSCなどを記録
すべての指示は復唱(閉ループ)で確認し、確実な実行を担保します。
🩺 補助評価と終了判断の指標
- POCUS(心タンポナーデ・PE・心収縮評価)
- ABG(アシドーシス、電解質異常の確認)
- ETCO₂ < 10 mmHgが持続する場合 → 予後不良の指標
蘇生継続が20〜30分以上におよび、不可逆的所見(無脈・無呼吸・非反応性瞳孔など)が揃った場合、蘇生中止を検討します。
次は、心拍が再開した後に行うROSC後の集中管理と予後評価について詳しく見ていきましょう。
🟦 ROSC後の管理 ― 予後を左右する初期集中治療
自己心拍再開(ROSC)が得られた後も、患者の救命は“半分”しか終わっていません。
ROSC後の数時間〜数日の管理によって、神経学的予後・生存退院率・再発率が大きく左右されます。
🫁 Step 1:呼吸と循環の安定化
- 気道の確保:必要に応じて気管挿管の継続
- 呼吸管理:SpO₂ 94〜98%を維持(過剰酸素に注意)
- 循環管理:MAP(平均動脈圧)≧65mmHgを目標に昇圧剤使用可(ノルアドレナリンが第一選択)
- 12誘導心電図:ST上昇MIの有無を即時確認 → カテ室搬送も検討
🧠 Step 2:神経学的予後の評価
- 意識レベルの確認:GCS、反射(瞳孔・対光)
- 脳波、頭部CT:けいれん・浮腫・出血の検索
- 神経学的予後評価(CPCスコア)
CPC 1〜2:日常生活可能
CPC 3〜5:重度障害または死亡
🌡 Step 3:体温管理(TTM:Targeted Temperature Management)
ROSC後の患者では、低酸素性脳障害の進行を防ぐ目的で、体温管理が推奨されます。
- 目標体温:32〜36℃で24時間以上維持
- 方法:冷却ブランケット、冷却カテーテル、冷却輸液など
- 注意点:不整脈・出血傾向・感染リスクに注意
※現在のガイドラインでは「過熱を避けることが最重要」とされており、36℃付近の管理でも一定の効果が示唆されています。
🔍 Step 4:原因検索と再発予防
- 心原性:心電図、心エコー、カテーテル検査
- 非心原性:肺塞栓、出血、薬物、感染症の評価
- 再発予防:原因に応じた再発対策(抗不整脈薬、ICD、生活指導など)
心停止の原因が特定できた場合、その治療と再発予防策を同時に立てることが必要です。
📌 Clinical Tips:ROSC後の注意点まとめ
- SpO₂は100%を目指さない(高酸素血症は有害)
- 過度な昇圧は脳血流に逆効果 → MAP≧65を目安に
- 鎮静・けいれん予防も並行して管理
- 神経学的予後評価は72時間以上の経過を見て判断
次は、心停止の予後予測因子と予後の可視化(CPCスコア・ETCO₂など)について詳しく見ていきます。
🟥 心停止後の予後評価と判断基準 ― 何が生存と回復を左右するのか
ROSC後の集中治療が功を奏したとしても、患者が社会復帰できるかどうかは、その後の神経学的な回復に大きく依存します。
このセクションでは、心停止後の回復可能性を評価するための指標を整理します。
📈 代表的な予後予測因子
因子 | 予後への影響 |
---|---|
初期心電図波形(VF/VT) | 最も予後良好(生存退院率30〜50%) |
No-flow time(CPR開始までの時間) | 1分延長ごとに生存率約7〜10%低下 |
低ETCO₂値(< 10 mmHg) | 蘇生無効を示唆(高い予後不良率) |
瞳孔反射の消失(72時間以降) | 不可逆的な脳障害を強く示唆 |
脳波の連続性・反応性 | 脳機能回復の可能性あり |
🧠 CPCスコア(Cerebral Performance Category)
神経学的な機能予後は、CPCスコアによって評価されます:
CPC | 状態 |
---|---|
1 | 正常、社会復帰可能 |
2 | 軽度の障害、日常生活可能 |
3 | 中等度障害、日常生活に支援が必要 |
4 | 昏睡、植物状態 |
5 | 死亡 |
CPC 1〜2が「神経学的良好予後」とみなされ、退院後の生活の質が確保されるラインとされます。
🛑 蘇生中止の判断指標(現場・集中治療室共通)
- ROSCが得られず、20〜30分以上の質の高いCPRでも反応なし
- ETCO₂が10 mmHg未満で持続
- 心エコーで心筋の自発的収縮が完全に消失
- 瞳孔散大・対光反射消失・深昏睡
- 可逆的原因(5H/5T)が明確に除外された
これらの所見が複数揃った場合には、医学的に不可逆と判断して蘇生中止を検討します。
📘 COLUMN:予後が悪いことを伝えるとき
蘇生が奏功せず、または蘇生後に重度の神経障害が残る見通しが立ったとき、家族への説明と精神的支援が求められます。
- 「心臓は動き始めましたが、脳への酸素供給が長く止まっていたため、回復が難しい状態です」
- 「これ以上の蘇生を続けても、ご本人の負担が大きく、回復の見込みは極めて低いです」
感情と医学的根拠のバランスを保ちながら、寄り添う姿勢で説明を行うことが重要です。
次のセクションでは、院外心停止における市民CPR・AED普及と地域差について掘り下げていきます。
🟨 院外心停止と地域格差 ― Bystander CPRとAEDの力
院内心停止とは異なり、院外心停止(OHCA: Out-of-Hospital Cardiac Arrest)は、誰もが第一発見者になりうる状況で起こります。
そのため、「その場にいた人=bystander」がいかに早く・正しく対応できるかが、患者の命を救う最大のカギとなります。
📉 日本における現状
- 年間約7万人が院外で心停止を起こしている
- 社会復帰可能な生存退院率はおよそ7%
- 以下の条件が揃うと、生存率は30〜50%に上昇する:
→ 目撃あり+Bystander CPR+VF波形+AED使用
🧍 Bystander CPRの重要性
市民による胸骨圧迫(Bystander CPR)があるかどうかは、予後に決定的な差を生みます。
- 日本のBystander CPR実施率:約50%
- CPRが行われた場合、生存率は2〜3倍に向上
- 一方でAED使用率は10%未満にとどまっている
人工呼吸を省いた“ハンズオンリーCPR”の普及により、一般市民の参加障壁は低くなっています。
📦 AED設置と地域格差 ― 最新の動向と実用アプリ
現在、AEDの設置数は拡大していますが、都市部と地方での分布には偏りがあります。
- 都市部:3分以内にアクセス可能な範囲が広い
- 地方:公共施設間の距離が遠く、利用が困難なケースが多い
📍 AEDマップ・アプリ(おすすめ3選)
- 日本全国AEDマップ(aedm.jp):投稿型。約35万件の情報、GPS連動、Android/iOS対応。
→ https://aedm.jp - 全国AEDマップ+QQ・MAP:公的データ。信頼性高。多言語対応(2025年に強化)予定。
→ QQ・MAPアプリから利用可 - AED N@VI(救命サポーター):オープンデータ型。市民投稿が可能で、更新性が高い。
Tips:普段からスマホにアプリを入れておけば、緊急時にも迅速な対応が可能です。
📞 通報時の「伝え方」が予後を変える
119番通報の際には、以下のキーワードを明確に伝えることで、CPRの指導(電話CPR)やAED案内</strongがスムーズになります。
- 「呼吸していない」
- 「意識がない」
- 「倒れて動かない」
これらを通報時に伝えることで、オペレーターがその場でCPR開始の音声指導を行い、AEDの場所を案内してくれます。
“Call & Push”(通報して即胸骨圧迫)という考え方が浸透することで、救命率はさらに向上すると期待されています。
📘 COLUMN:学校教育と市民啓発 ― 小さな行動が地域を救う
日本では中学校・高校での普通救命講習が推奨されており、若年層へのCPR教育が進んでいます。
- 自治体・消防署主催のBLS/普通救命講習
- 大学・医療系学生向けのACLS導入講座
- 市民公開講座やイベントでのAED体験ブース
医療者として、こうした活動に参加・発信していくことも、社会的な使命のひとつと言えるでしょう。
次は、特殊な心停止(小児・妊婦・外傷)における対応の違いや注意点について解説していきます。
🟥 特殊な心停止:小児・妊婦・外傷 ― 通常とは違う判断と対応
心停止の対応には基本のアルゴリズムがありますが、対象が小児・妊婦・外傷など特殊な状況では、そのまま当てはまらないケースも多く存在します。
ここでは、それぞれのシナリオに応じた注意点と対応の工夫を紹介します。
👶 小児の心停止 ― 呼吸原性がほとんど
小児の心停止の約80〜90%は呼吸不全・低酸素による二次性であり、VFやVTは稀です。
- 原因:窒息・気道閉塞・重症感染・けいれん後の無呼吸など
- 初期対応:成人よりも換気(BVM)を重視し、早期に気道確保を
- 胸骨圧迫の方法:
・1人対応では片手圧迫
・2人対応では両手2拇指法 - 胸骨圧迫と換気の比率:
・1人対応:30:2
・2人対応:15:2 - 換気のコツ:マスク換気では1秒かけて胸が軽く上がる程度の量で
🤰 妊婦の心停止 ― “2人の命”を守る対応
妊娠20週以降の妊婦では、子宮が大静脈を圧迫し、CPR効果が著しく低下することがあります。
- 体位管理:左側臥位または左傾斜位(15〜30度)で子宮の圧迫を解除
- 原因:羊水塞栓症、子癇発作、大量出血、周産期心筋症など
- 帝王切開の検討:蘇生中であっても4分以内の決断が胎児・母体双方の救命につながる
※病院内では、産科・麻酔科・新生児チームとの連携体制の構築が極めて重要です。
🩸 外傷性心停止 ― “出血死”をまず疑う
交通事故、転落、刺創などの外傷性心停止では、心原性ではなく外傷性ショック(主に出血性)が原因であることがほとんどです。
- 緊張性気胸:片側胸音減弱、呼吸困難 → 針脱気または胸腔ドレナージ
- 心タンポナーデ:心音減弱、JVD → POCUSで診断、緊急穿刺
- 出血性ショック:直ちに止血+骨盤固定+輸液+輸血の体制を整える
※外傷性心停止では、CPRよりも原因への迅速対応(外科的処置含む)が優先されることがあります。
📘 COLUMN:DNARや倫理的判断 ― 特殊状況ではより繊細に
末期がん、認知症、高齢者、重度障害などの患者において、DNAR(Do Not Attempt Resuscitation)が明確でない場合には、医療チームが迅速に判断を迫られることがあります。
- 原則:患者・家族の意思が不明な場合は一度蘇生を開始し、後に判断
- 判断要素:不可逆性の所見(ETCO₂持続低値・非反応性瞳孔・心エコー所見など)
- 説明時:医学的判断+人間的配慮をもって伝える
「蘇生は試みましたが、残念ながら心臓も脳も回復の兆しがありません。ご本人の尊厳を重んじ、この時点で蘇生を終了する判断となりました」など、説明内容の準備と共有も大切です。
次のセクションでは、ICLSやBLS・ACLSなど医療者教育と社会への普及活動について詳しく見ていきましょう。
🟩 教育と訓練 ― 救命率を上げる“準備力”と資格制度
心停止への対応は、「知っているかどうか」よりも「訓練されているかどうか」が問われる分野です。
その場に居合わせたすべての人が、自分の立場で最善を尽くせるような準備が不可欠です。
📘 心停止対応に関わる主な資格とトレーニング
名称 | 対象 | 内容 | 実施主体 |
---|---|---|---|
BLS(Basic Life Support) | 市民・医療職 | 胸骨圧迫、AED、人工呼吸の基本 | AHA、消防、医療施設 |
ICLS(Immediate Cardiac Life Support) | 医師・看護師・救急隊など | 院内心停止への初期対応(2人以上で) | 日本救急医学会 |
ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support) | 医師・看護師・救急救命士 | 心電図・薬剤・チーム蘇生・高度な判断 | AHA(国際) |
PALS(Pediatric ALS) | 小児対応が必要な医療者 | 小児の呼吸・循環の危機管理 | AHAなど |
JPTEC/JATEC | 外傷初期対応者 | 受傷直後の評価・搬送・蘇生管理 | 日本外傷学会ほか |
※BLSは一般市民でも受講可能であり、すべての人が命を守る一歩を踏み出せる資格です。
🎓 医療者ごとの学び方と訓練レベル
- 医学生・研修医:BLSから始め、ICLS受講 → 臨床に出る前の準備として有用
- 看護師・コメディカル:ICLSまたはACLS(病棟・救急外来勤務者)
- 救急隊員・専門医:ACLS、PALS、JPTECなど、現場レベルの高い訓練
臨床経験に応じて、「どこまで自分がチームで何を担えるか」が変化していきます。
📦 模擬訓練(Mock Code)の意義
定期的なモックコード(模擬蘇生訓練)は、現場でのパフォーマンスを大きく改善します。
- 役割分担・指示・薬剤の確認・時間管理の訓練
- “非言語的な連携”の感覚を磨く
- ICLSの復習や、新人教育にも効果的
実際の症例をベースにした模擬訓練は、習得した知識を現場の判断に結びつけるための必須ステップです。
📘 COLUMN:AI時代の教育とシミュレーション
今後、AIによる画像診断・バイタル解析が進んでも、心停止対応の「最初の数分」は人間の判断と手技に依存します。
- AIは補助にすぎず、蘇生の質は手技・連携・初動の準備にかかっている
- シミュレーション教育やARトレーニングとの連携も今後の展望
医療者教育における“蘇生力”の底上げは、技術革新と並行してますます重要になります。
🗣️ 11. 医療英語と発音のポイント(Medical English & Pronunciation)
心停止の診療では、英語圏でも即座に意思疎通できる「正確な表現と発音」が非常に重要です。以下に、臨床でよく使われる表現・略語・発音ミスしやすい単語をまとめました。
📘 よく使う医学表現(Standard Phrases)
- Cardiac arrest:心停止
- Unresponsive:反応なし
- No pulse, not breathing:脈なし、呼吸なし
- Initiate CPR:心肺蘇生を開始
- Start chest compressions:胸骨圧迫を開始
- Call for help / Call a code:応援・コードコール
- Resume CPR:心マ後に再開
- Check rhythm:波形確認
- Shock delivered:除細動を実施
- ROSC achieved:自己心拍再開
🔤 発音に注意すべき単語(Pronunciation Pitfalls)
- Asystole:アシストリー(/əˈsɪstəli/)
- Defibrillator:ディフィブリレーター
- Amiodarone:アミオダロン(/ˌæmiˈoʊdəˌroʊn/)
- Resuscitation:リサシテイション(/rɪˌsʌsɪˈteɪʃən/)
- Epinephrine:エピネフリン(/ˌɛpɪˈnɛfrɪn/)
🗯️ Layman向け表現(患者・家族向け)
- His heart suddenly stopped.(突然心臓が止まりました)
- We performed CPR to restart his heart.(心臓を動かすための蘇生を行いました)
- We gave him electric shocks.(電気ショックを与えました)
- We restarted his heartbeat, but he’s in critical condition.(心拍は戻りましたが、重篤な状態です)
💡 Clinical Tip
「Asystole」は「assist(助ける)」と混同されやすいので、/əˈsɪstəli/ という発音に注意しましょう。英語で蘇生を説明する場合は、簡潔・冷静・正確を意識することが大切です。
次はいよいよ最終セクションです。
これまでの内容を踏まえ、心停止診療におけるまとめと実践へのTake Home Messageを紹介します。
🧭 まとめとTake Home Message ― 命をつなぐ、その瞬間に
心停止は、予測不能かつ時間との勝負。
それに立ち向かう私たち医療者にとって必要なのは、完璧な知識ではなく、訓練された反射と判断です。
✅ 記事全体の振り返り(要点整理)
- 心停止はまず心電図の4分類(VF / VT / PEA / Asystole)で判断
- 除細動の適応と可逆的原因(5H5T)の検索が、蘇生成功の鍵
- プロトコル宣言によってチームでの行動が統一される
- ROSC後の管理では、SpO₂管理・体温管理・原因検索が重要
- 小児・妊婦・外傷では特殊な配慮が必要
- 救命率を高めるためには、教育・模擬訓練・資格取得が不可欠
📢 Take Home Message
- “救命はチーム戦”――圧迫、気道、薬剤、記録、それぞれの連携が命を救う
- 最初の3分で差がつく――「Call → Push → Shock」ができる人を増やそう
- AIの時代でも、人の手で始まる命の物語を大切に
あなたがその現場に居合わせたとき、自信を持って胸骨圧迫を始められるか?
この記事が、あなたのその一歩を支える力になれば幸いです。
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🔗 英語版を読みたい方はこちら
▶ Cardiac Arrest: Diagnostic and Resuscitation Guide [English version]
📖 参考文献(References)
- 日本救急医学会 ICLSコースガイドブック 第5版
- 日本循環器学会 / 日本救急医学会『JRC蘇生ガイドライン2020』
- American Heart Association. 2020 AHA Guidelines for CPR and ECC.
- Resuscitation Council UK. Advanced Life Support Provider Manual (2021).
- 厚生労働省「令和4年 救急・災害医療体制等実態調査報告」
- 総務省消防庁「令和5年版 救急・救助の現況」
- 心肺蘇生とAEDに関する市民の知識と意識調査(日本AED財団 2023)
- UpToDate. Advanced cardiac life support (ACLS) in adults. Last updated 2023.