37症候別アプローチ「便秘・下痢」ー生活指導・薬剤編ー

「とりあえず整腸剤」「とりあえず下剤」になっていませんか?
便秘・下痢は“頻度が高い”一方で、生活・薬剤・病態が絡み合い、治療が迷いやすい症候です。

このページでは、医学生〜研修医が外来・病棟で困りやすい生活指導薬物治療を、最短ルートで整理します。

  • 便秘:非刺激性(便を柔らかく)→ 必要時に刺激性(レスキュー)
  • 下痢:原因評価+脱水補正が先。止痢は「使ってよい場面」を限定

✅ この記事でできること

  • 便秘・下痢の生活指導を、患者にわかる言葉で説明できる
  • 主要薬のMOA(作用機序)・用量・副作用をまとめて確認できる
  • 「どれを足す?」「どう併用する?」を外来の処方設計として組める
  • 病棟で効く臨床の知恵(Pearls)を押さえられる

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1)治療の基本原則(超重要)

便秘:原則は「非刺激性 → 刺激性(レスキュー)」

  • ゴールは「毎日出す」より苦痛なく自然に出る
  • 直腸便があるなら:まず出口対策(坐薬・浣腸・姿勢)
  • 高齢者・腎機能低下ではMg製剤に注意(高Mg血症)

下痢:止痢は“原因評価”と“脱水補正”の後

  • ORS(経口補水)が最優先
  • 感染性下痢(特に血便・発熱・C. difficile疑い)では原則止痢薬を避ける
  • 「症状を止める」より、重症化サインを拾うことが安全

2)生活指導(患者教育の核)

便秘:まず“硬さ”と“習慣”を変える

  • 水分:尿が濃い/口渇があるなら不足を疑う
  • 食物繊維:急に増やすとガス・腹満が増える → 少しずつ
  • 油分:極端な脂質制限は便が硬くなることがある
  • 運動:歩行量が落ちたタイミングで悪化しやすい
  • 排便習慣:朝食後のトイレ(胃結腸反射)を“予約”する
  • 排便日誌:頻度・形状(Bristol)・腹痛・薬の反応を記録

下痢:脱水を避け、腸を休ませる(急性期)

  • ORS:水だけより、Naも一緒に補う
  • 食事:脂っこい物・乳糖・アルコールを一時的に控える
  • 旅行後:発熱・血便があれば止痢薬より評価優先
  • IBS-D:生活(睡眠・ストレス・食事)+薬をセットで考える

3)臨床の知恵(Pearls from the ward)

経管栄養:便秘・軟便は“水分”で動く

  • 経管栄養のみだと便秘になりやすい
  • 白湯(フリーウォーター)追加で便が軟化することがある
  • 下剤を増やす前に「水分不足型便秘」を疑う

早めに介入すべきハイリスク(便秘=合併症の引き金)

  • ステロイド使用者:筋力低下・活動低下 → 腹圧↓
  • 神経疾患(PD、脳卒中後、脊髄疾患など):腸管運動低下 → 糞便塞栓・イレウスリスク
  • 「まだ出ている」でも、予防的にPEG系+習慣介入を検討

4)排便姿勢(“考える人”が理想)

前傾姿勢で直腸肛門角が開き、いきみが減り、排便効率が上がります。

  • 前かがみ+肘を膝に乗せる
  • 足台で膝を少し上げる(軽いスクワット姿勢)

Patient Education | Proper Toileting Posture - APTA Pelvic Health

Source: Academic pf Pelvic Health Physical Therapy

5)便秘治療薬:MOA・用量・使い分け

まずは全体像(外来の基本設計)

  • 軽症・初診:浸透圧性(Mg or PEG)
  • 慢性・再診:PEGをベース → 不十分なら分泌促進/運動促進を追加
  • レスキュー:刺激性は頓用(連用しない)
  • 出口(直腸便):経口増量より坐薬/浣腸・姿勢を優先

便秘治療薬は「作用機序(MOA)」で理解すると併用と切り替えが安全です。
以下はMOAが近いもの同士で並べています。


Ⅰ.浸透圧性下剤(便を柔らかくする|ベース)

① PEG製剤(例:モビコール)

  • MOA:非吸収性高分子 → 腸管内水分保持(電解質入り)
  • 用量:1包 1日1–3回(症状で調整)
  • 薬価目安:約150–300円/日
  • 注意:味・量が負担、効果発現は緩やか

🧠 Tips

  • 世界基準の第一選択
  • 「効かない」は量不足が最多
  • 高齢者・CKD・ステロイド使用者で予防的介入にも使いやすい

② 酸化マグネシウム(マグミット)

  • MOA:浸透圧↑ → 水分保持
  • 用量:330–500mg 1日1–3回
  • 薬価目安:約10–30円/日
  • 注意:高齢者・腎機能低下で高Mg血症

🧠 Tips

  • 「安全そう」で漫然投与されやすい
    → 気づかないうちに高Mg血症になっていることも(特に外来だと定期的にMg測定はされていない)
  • 効かない時は水分不足・直腸便を疑う

③ ラクツロース

  • MOA:非吸収性二糖 → 浸透圧↑+腸内pH低下
  • 用量:15–30mL/日(肝性脳症では2–3回/日)
  • 薬価目安:約100–200円/日
  • 注意:腹満・放屁、糖尿病では血糖に注意

🧠 Tips

  • 肝性脳症では第一選択
  • 単純便秘ではPEGの方が忍容性が高いことが多い

Ⅱ.腸管分泌促進系(硬さ+腹部症状を同時に改善)

④ リナクロチド(リンゼス)

  • MOA:GC-C刺激 → cGMP↑ → Cl分泌↑+知覚過敏↓
  • 用量:0.25–0.5mg 1日1回(空腹時)
  • 薬価目安:約300–500円/日
  • 注意:下痢、虚弱高齢者で脱水

🧠 Tips

  • 便秘薬というより「腹痛を取る薬」
  • IBS-Cでは第一選択級
  • 下痢が出たら減量・隔日で継続可

⑤ ルビプロストン(アミティーザ)

  • MOA:Clチャネル活性化 → 腸管分泌↑
  • 用量:24μg 1日1–2回
  • 薬価目安:約300–400円/日
  • 注意悪心(特に女性)

🧠 Tips

  • 必ず食後投与
  • リンゼス不耐例・高齢者で使いやすい

Ⅲ.胆汁酸作用系(生理的に動かす)

⑥ エロビキシバット(グーフィス)

  • MOA:胆汁酸トランスポーター阻害 → 分泌+蠕動↑
  • 用量:10mg 1日1回(朝食前)
  • 薬価目安:約200–300円/日
  • 注意:腹痛・下痢、胆道疾患

🧠 Tips

  • 朝の排便リズム作りに最適
  • 生活指導とセットで真価を発揮

Ⅳ.腸管刺激系(レスキュー)

⑦ センノシド

  • MOA:腸管神経刺激 → 蠕動促進
  • 用量:12–24mg 就寝前
  • 薬価目安:約10–20円/回
  • 注意:連用で耐性・腹痛

🧠 Tips

  • レスキュー専用
  • ベース薬(PEG等)が整っているかを必ず確認

⑧ ピコスルファート

  • MOA:大腸で活性化 → 蠕動促進
  • 用量:5–10滴 就寝前
  • 薬価目安:約20–40円/回
  • 注意:依存・腹痛

🧠 Tips

  • 夜→朝排便で予測しやすい

Ⅴ.補助・周辺(腸管環境・出口対策)

⑨ 大建中湯

  • MOA:腸血流↑+蠕動促進
  • 用量:7.5g/日 分3
  • 薬価目安:約200–300円/日
  • 注意:単剤での排便力は弱い

🧠 Tips

  • 術後・ガス型便秘で真価
  • PEGなどの補助役

⑩ 坐薬・浣腸(出口対策)

  • MOA:直腸刺激+水分付加 → 排便反射
  • 代表:グリセリン坐薬/浣腸
  • 薬価目安:約50–150円/回
  • 注意:頻回使用で刺激・損傷

🧠 Tips

  • 直腸便・残便感があれば最優先
  • 経口下剤を増やす前に「出口」を確認
  • 前傾姿勢と併用で成功率↑

6)使い方の一例:外来・病棟での組み立て

基本の王道

      • PEG(ベース)or 酸化マグネシウム +生活指導
      • 出ない日だけ:刺激性(センノシド/ピコスルファート)を頓用

症状別の型

  • IBS-C(腹痛・膨満が強い):PEG ± リナクロチド(症状で調整)
  • 高齢者・CKD:PEG中心(Mgは慎重)
  • 朝に出したい:PEG+エロビキシバット(生活リズムとセット)
  • 出口が怪しい:姿勢+坐薬/浣腸を優先、経口増量で泥沼化しない

*実臨床では薬価が一番の問題に、、、


7)止痢薬:MOA・用量・使い分け

大原則

  • 止痢薬は原因評価が前提
  • 血便・発熱・重症感・C. difficile疑いでは原則使用しない
  • 脱水補正(ORS)が最優先

① ロペラミド

  • MOA:μオピオイド受容体 → 蠕動↓・分泌↓
  • 適応イメージ:非感染性下痢、IBS-D、機能性・薬剤性、軽症水様性(発熱・血便なし)
  • 用量(添付文書):成人 1日1〜2mgを1〜2回に分割(症状で調整)
  • 禁忌/注意:血性下痢・発熱・偽膜性腸炎疑いでは避ける/便秘が出たら中止

② トリメブチン(腸管調整)

  • MOA:腸管運動を“過剰は抑え、不足は促す”方向に調整
  • 適応:IBS(下痢型/便秘型)、機能性下痢
  • 用量:成人 1日300mg(100mg×3回)

③ ラモセトロン(IBS-D)

  • MOA:5-HT3拮抗 → 内臓知覚↓+蠕動↓
  • 用量
    • 男性:5μg 1日1回(最大10μg/日)
    • 女性:2.5μg 1日1回(最大5μg/日)
  • 注意:便秘、虚血性大腸炎(稀)

④ 胆汁酸性下痢:コレスチラミン

  • MOA:胆汁酸を吸着 → 胆汁酸性下痢を改善
  • 適応:回腸切除後、胆嚢摘出後、胆汁酸吸収不全
  • 使い方の目安:1回4g(製剤により含量確認)を1日1〜2回から開始し調整
  • 注意:便秘・腹満/他薬の吸収阻害(時間をずらす)

⑤ リファキシミン(位置づけ注意)

  • MOA:腸管内非吸収性抗菌薬
  • 使われる文脈:SIBOやIBS-Dで海外エビデンス、肝性脳症など(適応は地域差)
  • 注意:適応・保険は必ず確認(一般外来の第一選択ではない)

⑥ 吸着・保護系 / プロバイオティクス

  • タンニン酸アルブミン:補助的(エビデンスは強くない)
  • プロバイオ:急性下痢・抗菌薬関連下痢で補助、IBSは個人差

8)特殊状況:ストマ高排液/短腸症候群

アヘンチンキ(routineでは使わない)

  • 位置づけ:一般外来の下痢では使わない。専門的・特殊状況で検討。排液量が3L-4L程度で継続している場合帰宅困難となる
  • 想定される文脈:イレオストミー高排液、短腸症候群、難治性分泌性下痢(ロペラミド無効など)
  • 用量(添付文書):成人 1回0.5mL、1日1.5mL(症状で調整)
  • 注意:依存・中枢抑制、呼吸抑制、便秘・イレウス、麻薬管理

*Evidenceは少ないがモルヒネも最終手段として使われることも


9)OSCE・外来で使える一言

便秘

  • 「まず便を柔らかくしてから、必要なら腸を動かす薬を足します」
  • 「刺激性下剤は頓用です。毎日は使いません」
  • 「腎機能によって下剤を選びます(Mg製剤は慎重にします)」

下痢

  • 「止痢薬は便利ですが、血便や発熱がある時は逆に危険なので避けます」
  • 「まず脱水を防ぐためにORSが最優先です」
  • 「IBS-Dは生活(睡眠・ストレス・食事)と薬をセットで考えます」

まとめ

  • 便秘:非刺激性をベースに、刺激性はレスキュー
  • 下痢:原因評価+補水が先、止痢は“使ってよい場面”を限定
  • 姿勢・水分・タイミングは、薬と同じくらい治療効果を左右する

Reference

  • 各薬剤の用法・用量:電子添文/くすりのしおり(PMDA、RAD-AR、KEGG等)
  • Harrison’s Principles of Internal Medicine
  • Murtagh’s General Practice
  • McGee. Evidence-Based Physical Diagnosis
  • ACG / WGO ガイドライン(下痢・IBS)

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