黄疸(Jaundice)の診断と鑑別|USMLE・総合内科のための体系的アプローチ

黄疸の診かた|USMLE・総合内科編

― 病態生理から臨床推論・検査解釈・治療/病棟管理まで ―

✅ このページのゴール

  • USMLEで必要な病態生理(ビリルビン代謝・黄疸3分類)を、臨床の言葉でつなぐ
  • 総合内科で必要な検査解釈(AST/ALT・ALP/GGT・Bil分画・尿所見)を「読める」形にする
  • 臨床推論として「どこで詰まり、何が詰まらせているか」を一本化する

📌 位置づけ:OSCE・外来編が「迷わない順番」なら、ここは“なぜそう判断できるのか”を深掘りする保存版です。


目次(アウトライン:最終確定)

  1. はじめに|なぜ「黄疸」は総合内科とUSMLEの交差点なのか
  2. ビリルビン代謝から理解する黄疸(USMLE基礎)
  3. 黄疸の3分類を病態生理で再構築する(前肝性・肝性・肝後性)
  4. 検査データの読み方(AST/ALT・ALP/GGT・Bil分画・尿所見)
  5. 画像で考える黄疸(POCUS・CT・MRCP)
  6. 閉塞性黄疸の鑑別(膵頭部癌/胆管癌/IPMN・IPMC/high-risk stigmata)
  7. 胆嚢炎・胆管炎と黄疸(Tokyo Guidelines 2018)
  8. 黄疸の治療と病棟管理
  9. 臨床推論としての黄疸(どこで詰まり、何が詰まらせているか)
  10. 国家試験・USMLEでの聞かれ方(QB review)
  11. まとめ|黄疸は「読める症候」になる

0. はじめに|なぜ「黄疸」は総合内科とUSMLEの交差点なのか

外来や病棟で黄疸を見つけた瞬間、頭の中にはいくつもの疾患名が浮かびます。
肝炎?胆石?それとも、あまり考えたくない悪性疾患?

けれど、黄疸診療で本当に大切なのは、最初から病名を当てにいくことではありません。
黄疸は「色の異常」ではなく、体の中で何かが“滞っている”ことを教えてくれるサインです。

  • どこでビリルビンが詰まっているのか
  • なぜその場所で滞っているのか
  • それは今すぐ対応すべきことなのか

この順番で考えられるようになると、黄疸は「怖い症候」から「読める症候」に変わってきます。
本記事では、USMLEで必要な病態生理総合内科で必要な検査/治療臨床推論をひとつに束ねて、
「黄疸を前にしたときの思考の地図」を作ることを目標にします。

まずは、すべての土台となるビリルビン代謝から見ていきましょう。


1. ビリルビン代謝から理解する黄疸(USMLE基礎)

黄疸を本当に理解するためには、ビリルビンがどこから来て、どこへ行くのかを知る必要があります。
ここはUSMLE・国家試験でも頻出であり、同時に臨床推論の“芯”になる部分です。

1-1. ヘム代謝と間接ビリルビン(indirect bilirubin)

ビリルビンの大部分は、赤血球の寿命(約120日)を終えた後のヘム分解から生じます。

  1. 赤血球が脾臓などで処理される
  2. ヘモグロビン → ヘム+グロビン
  3. ヘム → biliverdin → bilirubin

この時点で生じるビリルビンは、水に溶けないため、アルブミンと結合して血中を移動します。
これが 間接ビリルビン(unconjugated bilirubin) です。

🔍 ここがUSMLE・臨床の要点

  • 間接ビリルビンは水溶性ではない
  • 腎臓で濾過されないため、尿ビリルビンは基本的に陰性
  • つまり、溶血があっても「尿が濃い=尿ビリルビン陽性」とは限らない

1-2. 肝臓で何が起きているのか(取り込み・抱合・排泄)

血中を流れる間接ビリルビンは、肝臓で次の3ステップを経ます。

  1. 肝細胞への取り込み
  2. グルクロン酸抱合(UGT)
  3. 胆汁として排泄

抱合によりビリルビンは水溶性となり、直接ビリルビン(conjugated bilirubin)になります。

💡 イメージ:肝臓は「水に溶けないもの」を“外に出せる形”に変える場所。
黄疸は、この“流れ”のどこかに障害が起きているサインです。

1-3. direct / indirect bilirubin の本当の意味

臨床で測定するT-Bil(総ビリルビン)D-Bil(直接ビリルビン)は、
単なる数字ではありません。
これは「どこで詰まっているか」を推定するヒントです。

  • 間接ビリルビン優位:肝臓に入る前の問題(前肝性を示唆)
  • 直接ビリルビン優位:肝で処理された後の流れの問題(肝性・肝後性を示唆)

direct / indirect は診断名ではなく、病態の矢印
この視点があると、黄疸の鑑別は“自然に狭まる”ようになります。

1-4. なぜ尿や便の色が変わるのか(臨床の決定打)

黄疸で診察室の空気が変わるのは、検査値だけではなく、患者が訴える「色の変化」が強力な情報になるからです。

🚽 尿が濃くなる理由

  • 直接ビリルビンは水溶性
  • 血中に増えると腎臓から尿へ排泄される

👉 暗色尿 = 直接ビリルビン増加

💩 便が白くなる理由

  • 胆汁が腸管に流れない(胆汁うっ滞)
  • 腸管内でウロビリノーゲンが作られにくい

👉 灰白色便 = 胆汁の流れが止まっているサイン

この2つは、特に閉塞性黄疸を疑ううえで強いヒントになります。
次の章(黄疸の3分類)で、この“流れのどこが止まっているか”を、病態生理で整理していきます。

1-5. 黄疸が「病態の地図」になる理由

ここまでをまとめると、黄疸は「色の変化」というより、
体内の流れ(flow)がどこで止まっているかを示すサインだとわかります。

だからこそ黄疸診療では、
「どの疾患か?」ではなく、
「どこで、何が起きているか?」
という問いから始めるのが、USMLEにも、総合内科にも、臨床にも共通する最短ルートになります。

➡ 次章予告:第2章では、この流れをもとに黄疸の3分類(前肝性・肝性・肝後性)を病態生理で再構築します。


2. 黄疸の3分類を病態生理で再構築する

黄疸を前にしたとき、教科書的には

  • 前肝性(pre-hepatic)
  • 肝性(hepatic)
  • 肝後性(post-hepatic / cholestatic)

と分類されますが、臨床やUSMLEで本当に重要なのは、
「名前を覚えること」ではなく「流れのどこが壊れているか」を理解することです。

ここでは、ビリルビン代謝の流れに沿って、3分類をもう一度組み立て直します。


2-1. 前肝性黄疸(Pre-hepatic jaundice)
― 肝臓に入る前でビリルビンが増える ―

前肝性黄疸では、肝臓の処理能力は正常です。
問題は、肝臓に到達する前の段階で、ビリルビンが過剰に産生されることにあります。

■ 病態の本質
  • 赤血球破壊の亢進(溶血)
  • 無効造血
  • 間接ビリルビンの過剰産生
■ 代表的な原因
  • 溶血性貧血(AIHA、遺伝性球状赤血球症など)
  • 不適合輸血
  • 巨大血腫の吸収

🔬 検査の特徴

  • 間接ビリルビン優位
  • LDH上昇
  • ハプトグロビン低下
  • 尿ビリルビン陰性
  • 尿ウロビリノーゲン増加

「黄疸はあるが尿は濃くない」という状況では、
前肝性黄疸を一度は考える価値があります。


2-2. 肝性黄疸(Hepatic jaundice)
― 肝細胞そのものがうまく働かない ―

肝性黄疸では、ビリルビンの取り込み・抱合・排泄のいずれか、あるいは複数が障害されます。

そのため、間接・直接ビリルビンが混在して上昇することが多いのが特徴です。

■ 病態のバリエーション
  • 取り込み障害(肝血流低下、薬剤など)
  • 抱合障害(UGT活性低下)
  • 排泄障害(胆汁うっ滞)
■ 代表的な原因
  • ウイルス性肝炎(A~E)
  • 薬剤性肝障害
  • アルコール性肝障害
  • 自己免疫性肝炎(AIH)
  • PBC / PSC
  • IgG4関連肝胆道疾患

💡 臨床の落とし穴
肝性黄疸では「AST/ALTが高い=肝炎」と短絡しがちですが、
胆汁うっ滞型の肝障害ではALP・GGT優位になることもあります。

肝性黄疸は一番バリエーションが広く
「どこまでが肝内で、どこからが肝外か」を常に意識する必要があります。


2-3. 肝後性黄疸(Post-hepatic / Cholestatic jaundice)
― 作られた胆汁が流れ出ない ―

肝後性黄疸では、ビリルビンは正常に抱合されているにもかかわらず、
胆汁として腸管へ流れ出る経路が障害されています。

■ 病態の本質
  • 胆汁の機械的閉塞
  • 胆道系の炎症・狭窄
■ 代表的な原因
  • 総胆管結石
  • 急性胆管炎
  • 膵頭部癌
  • 胆管癌
  • IPMN / IPMC

📊 検査の典型像

  • 直接ビリルビン優位
  • ALP・γ-GTP上昇
  • 尿ビリルビン陽性
  • 尿ウロビリノーゲン低下

特に重要なのは、肝後性黄疸では悪性疾患を否定するまで安心しないという姿勢です。

Harrison や Murtagh でも強調されるように、
「閉塞性黄疸は、癌を除外するまで癌として扱う」
という視点は、USMLEでも臨床でも共通しています。


2-4. 3分類を“診断”ではなく“行動”につなげる

ここまでの分類は、診断名を当てるためのものではありません。

  • 前肝性:溶血評価・血液疾患へ
  • 肝性:肝炎・薬剤・自己免疫を精査
  • 肝後性:画像評価・緊急性判断へ

つまり、黄疸の3分類は
「次に何をすべきかを決めるための分岐点」です。

➡ 次章予告:
第3章では、この分類を実際の検査データ(AST/ALT・ALP/GGT・Bil分画・尿所見)にどう落とし込むかを詳しく見ていきます。


3. 検査データの読み方|AST/ALT・ALP/GGT・Bil分画を「意味」で読む

黄疸診療では、検査値を「高い・低い」で終わらせてしまうと、
鑑別は一気にぼやけます。

ここで重要なのは、
それぞれの検査項目が「肝・胆道のどの機能」を反映しているのか
病態生理と結びつけて理解することです。


3-1. AST / ALT|肝細胞障害のマーカー

AST(GOT)・ALT(GPT)は、
肝細胞そのものがどれだけ傷ついているかを反映します。

■ 基本的な考え方
  • ALTは肝特異性が高い
  • ASTは心筋・骨格筋にも存在

🔬 AST / ALT が著明に上昇する代表例

  • 急性ウイルス性肝炎
  • 薬剤性肝障害
  • 虚血性肝障害(ショック肝)
■ AST / ALT 比の読み方
  • ALT優位:ウイルス性肝炎など
  • AST > ALT(特に >2):アルコール性肝障害を示唆

USMLEや国家試験では、
「AST > ALT=アルコール」
という単純な暗記で終わらせず、
ピリドキサールリン酸欠乏という背景も意識できると理解が深まります。


3-2. ALP / γ-GTP|胆汁うっ滞を読む指標

ALP(アルカリホスファターゼ)と γ-GTP は、
胆汁の流れ(cholestasis)を反映する検査です。

■ なぜALPが上がるのか

胆汁がうっ滞すると、
胆管上皮でALPの産生が亢進します。

■ γ-GTPの役割
  • ALP上昇が肝胆道由来かどうかの確認
  • アルコール摂取の指標としても有用

💡 臨床パール
ALP単独上昇では骨由来の可能性あり。
γ-GTPも上がっていれば肝胆道由来を支持します。

ALP・γ-GTP優位の上昇+黄疸を見たら、
まず胆汁うっ滞型(肝後性 or 胆汁うっ滞型肝障害)を疑います。


3-3. ビリルビン分画|direct / indirect の臨床的意味

前章でも触れましたが、
ビリルビン分画は黄疸の方向性を決める最重要項目です。

■ 間接ビリルビン優位
  • 溶血性黄疸
  • Gilbert症候群
■ 直接ビリルビン優位
  • 胆汁うっ滞(肝内・肝外)
  • 閉塞性黄疸

👉 臨床での一言まとめ
「尿が濃い=直接ビリルビンが増えている可能性が高い」


3-4. 尿検査|簡単だが強力な鑑別ツール

尿検査は、画像がすぐに撮れない場面でも
黄疸の分類を一気に進める力を持っています。

■ 尿ビリルビン
  • 直接ビリルビンのみ尿中に出る
  • 陽性 → 肝性 or 肝後性を示唆
■ 尿ウロビリノーゲン
  • 前肝性:増加
  • 肝性:正常~増加
  • 肝後性:低下または陰性

🧠 パターン認識
尿ビリルビン(+)+尿UBG(−) → 閉塞性黄疸を強く示唆


3-5. 合成能の評価|PT-INR・Alb・Plt

黄疸を見たとき、
「肝臓はどれだけ働けているか」の評価も忘れてはいけません。

  • PT-INR:最も鋭敏な肝合成能指標
  • アルブミン:慢性肝障害の指標
  • 血小板:門脈圧亢進のヒント

黄疸+PT-INR延長があれば、
急性肝不全や重症肝障害を疑い、迅速な対応が必要です。


3-6. 検査データを「1枚の絵」にする

ここまでの検査は、単独で見るものではありません。

  • AST/ALT:肝細胞が壊れているか
  • ALP/GGT:胆汁が流れているか
  • Bil分画・尿:どこで詰まっているか
  • PT-INR:肝は耐えているか

これらを同時に並べて眺めることで、
黄疸の病態は一枚の地図として見えてきます。

➡ 次章予告:
第4章では、これらの検査所見をもとに画像(POCUS・CT・MRCP)で何を見るべきかを整理します。


4. 画像で考える黄疸|POCUSからCT・MRCPへ

検査データで「どこで詰まっていそうか」の仮説を立てたら、
次に行うのが画像による確認です。

黄疸診療における画像の役割は、
病名を当てることよりも、
流れが本当に止まっているか、どこで止まっているかを確認することにあります。


4-1. POCUSは黄疸診療の第一歩

POCUS(Point-of-Care Ultrasound)は、
迅速・非侵襲・繰り返し可能という点で、
黄疸診療の最初の一手として非常に優れています。

外来・救急・病棟いずれの場面でも、
「まず当ててみる」価値があります。

■ POCUSで必ず見るポイント
  • 胆嚢の大きさ・壁肥厚
  • 胆石・sludge
  • 総胆管径(目安:6mm以上で拡張)
  • 主膵管径(目安:3mm以上で拡張)
  • 肝内胆管拡張
  • 腹水・脾腫

🔍 実臨床の視点
POCUSで胆管拡張を確認できた時点で、
「これは肝後性黄疸だ」という仮説はかなり強くなります。

特に、総胆管+主膵管がともに拡張しているいわゆる
double duct signは、
膵頭部癌など悪性疾患を強く示唆します。

また、胆嚢炎・胆管炎が疑われる状況では、
POCUS所見がPTGBDやERCPといった次の介入につながることも少なくありません。


4-2. CT|原因検索と全体像の把握

POCUSで異常を捉えた、あるいは捉えられなかった場合でも、
原因検索と病変の広がりを評価するためにCTは重要です。

■ CTで確認するポイント
  • 胆管拡張の有無・レベル
  • 膵頭部腫瘤
  • 胆管・胆嚢の壁肥厚
  • 肝内占拠性病変
  • リンパ節腫大・遠隔転移

造影CTでは、
腫瘍性病変と炎症性病変の鑑別
切除可能性の評価まで視野に入ります。

💡 臨床パール
総胆管が拡張しているのに結石が見えない場合、
「見えていない」だけでなく、
腫瘍性閉塞を常に念頭に置きます。


4-3. MRCP|胆道・膵管を非侵襲的に描出する

MRCP(Magnetic Resonance Cholangiopancreatography)は、
胆道・膵管の走行と狭窄部位
非侵襲的に評価できる強力なツールです。

■ MRCPが特に有用な場面
  • 胆管狭窄の部位同定
  • 総胆管結石の評価
  • IPMNなど膵嚢胞性疾患の評価
  • PSCやIgG4関連胆管炎の鑑別

USMLE的にも、
「胆道評価=MRCP」という流れは
頻出パターンです。


4-4. ERCPは「診断」より「治療」

ERCPは強力な手技ですが、
侵襲と合併症リスクを伴います。

現在の位置づけは、
診断目的ではなく治療目的が中心です。

  • 胆管ドレナージ
  • 結石除去
  • ステント留置

急性胆管炎や重症閉塞性黄疸では、
ERCPによる早期ドレナージ
予後を左右します。


4-5. 画像を「順番」で使い分ける

黄疸診療における画像の基本戦略は、次の通りです。

  1. POCUSで当たりをつける
  2. CTで原因と広がりを確認
  3. MRCPで胆道・膵管を精査
  4. 必要ならERCPで治療

この流れを意識しておくと、
検査の無駄や過剰侵襲を避けつつ、
適切なタイミングで介入できます。

➡ 次章予告:
第5章では、画像所見を踏まえて閉塞性黄疸の鑑別
特に膵・胆道悪性疾患(IPMN / IPMC・high-risk stigmata)を詳しく整理します。


5. 閉塞性黄疸と悪性疾患|「癌を否定するまで癌として扱う」

閉塞性黄疸を見たとき、最も重要な姿勢はひとつです。


「この黄疸は、悪性疾患ではないと言い切れるか?」

Harrison や Murtagh でも繰り返し強調されているように、
閉塞性黄疸は、悪性疾患を除外するまで“悪性として扱う”
という考え方が、臨床・試験の両方で基本になります。


5-1. なぜ閉塞性黄疸は「危険」なのか

閉塞性黄疸の本質は、
胆汁の流れが機械的に遮断されていることです。

その原因は大きく分けて、

  • 良性(結石、炎症、狭窄)
  • 悪性(膵癌、胆管癌、乳頭部癌など)

ですが、症状だけでこの2つを完全に見分けることは困難です。

💡 臨床の直感
「痛みのない進行性黄疸」「体重減少」「掻痒感」は、
腫瘍性閉塞を強く示唆します。


5-2. 膵頭部癌と double duct sign

閉塞性黄疸の代表的な悪性疾患が膵頭部癌です。

■ 病態のポイント
  • 総胆管と主膵管が膵頭部で合流
  • 腫瘍により両者が同時に閉塞

これにより、

  • 胆管拡張
  • 主膵管拡張

が同時に起こります。

この所見が、いわゆる
double duct signです。

POCUS や CT で double duct sign を認めた場合、
膵頭部癌を最優先で疑う必要があります。


5-3. 膵嚢胞性疾患|IPMN・IPMC・MCN

近年、画像診断の普及により、
膵嚢胞性疾患が偶発的に見つかる機会が増えています。

黄疸との関連で重要なのは、特に以下の疾患です。

  • IPMN(Intraductal Papillary Mucinous Neoplasm)
  • IPMC(IPMN 由来膵癌)
  • MCN(Mucinous Cystic Neoplasm)
■ IPMN の分類
  • 主膵管型
  • 分枝型
  • 混合型

主膵管型 IPMNは悪性化リスクが高く、
黄疸を契機に発見されることもあります。


5-4. high-risk stigmata と worrisome features

IPMN を評価するうえで、
国際的に用いられている概念

  • high-risk stigmata
  • worrisome features

です。

■ High-risk stigmata(切除を強く検討)
  • 閉塞性黄疸を伴う膵頭部嚢胞性病変
  • 主膵管径 ≥10mm
  • 造影効果を伴う充実性結節
■ Worrisome features(精査が必要)
  • 嚢胞径 ≥3cm
  • 主膵管径 5–9mm
  • 壁肥厚・造影効果
  • 急性膵炎の既往
  • 原因不明の胆管拡張

🔎 黄疸との関係
「閉塞性黄疸を伴う IPMN」は、
それだけで high-risk stigmata に該当します。


5-5. 胆管癌・乳頭部癌

膵以外にも、
胆管癌・十二指腸乳頭部癌
閉塞性黄疸の重要な原因です。

  • 胆管癌:肝門部型・遠位胆管型
  • 乳頭部癌:比較的早期に黄疸が出現

乳頭部癌は、
比較的小さな病変でも黄疸を来しやすい点が特徴で、
早期発見につながることもあります。


5-6. 閉塞性黄疸を見たときの思考フロー

閉塞性黄疸では、次の問いを順に自分に投げかけます。

  1. 本当に胆汁うっ滞型か?(検査)
  2. どこで詰まっているか?(画像)
  3. 結石で説明できるか?
  4. 悪性疾患を否定できるか?

この流れを飛ばしてしまうと、
「とりあえず様子見」という
最も危険な選択に陥りがちです。

➡ 次章予告:
第6章では、閉塞性黄疸と密接に関わる
胆嚢炎・胆管炎の評価と対応(Tokyo Guidelines 2018)
を整理します。


6. 胆嚢炎・胆管炎と黄疸|Tokyo Guidelines 2018(TG18)で整理する

黄疸を伴う患者を前にしたとき、
「炎症が絡んでいるかどうか」は、
緊急性と予後を大きく左右します。

特に重要なのが、
急性胆管炎急性胆嚢炎です。

本章では、Tokyo Guidelines 2018(TG18)に基づき、
黄疸と胆道感染症をどのように結びつけて評価・対応するかを整理します。


6-1. 急性胆管炎は「敗血症性疾患」である

急性胆管炎は、
胆道閉塞+細菌感染によって起こる
致死的になり得る疾患です。

TG18では、胆管炎を
「内科的緊急疾患」として明確に位置づけています。

■ 病態の基本構造
  • 胆道閉塞(結石・腫瘍・狭窄)
  • 胆道内圧上昇
  • 細菌の血流侵入(bacteremia)

この流れにより、
敗血症・DIC・多臓器不全へと進行します。


6-2. Charcot三徴とReynolds五徴

胆管炎の古典的所見として、
以下が知られています。

■ Charcot三徴
  • 発熱
  • 腹痛(右季肋部痛)
  • 黄疸
■ Reynolds五徴
  • Charcot三徴
  • 意識障害
  • ショック

ただし、すべてが揃うことは稀であり、
揃うのを待ってはいけません

⚠️ 臨床の落とし穴
黄疸+発熱があれば、
Charcot三徴が完成していなくても胆管炎を疑う
ことが重要です。


6-3. TG18による診断基準

TG18では、胆管炎の診断を
3つのカテゴリーで行います。

■ A:全身炎症所見
  • 発熱・悪寒
  • CRP上昇、白血球数異常
■ B:胆汁うっ滞所見
  • 黄疸
  • ALP・γ-GTP・AST/ALT上昇
■ C:画像所見
  • 胆管拡張
  • 閉塞原因(結石・腫瘍など)

A+B+C確定診断
A+B または A+C疑診となります。


6-4. 重症度分類(Grade I–III)

TG18では、胆管炎を
重症度によって3段階に分類します。

■ Grade III(重症)
  • 循環不全(ショック)
  • 意識障害
  • 腎不全、呼吸不全
  • 肝不全(PT-INR延長)
  • 血液凝固障害
■ Grade II(中等症)
  • 高熱
  • 白血球著明増加
  • 高ビリルビン血症
  • 高齢(≥75歳)
■ Grade I(軽症)

上記に該当しないもの

🧭 実臨床の要点
Grade II以上では、
早期胆道ドレナージが推奨されます。


6-5. 治療戦略|抗菌薬とドレナージ

胆管炎治療の柱は、

  • 抗菌薬投与
  • 胆道ドレナージ

2本立てです。

■ 抗菌薬
  • 腸内細菌(E. coli, Klebsiella)
  • Enterococcus
  • 嫌気性菌

をカバーするレジメンを選択します。

■ 胆道ドレナージ
  • ERCP(第一選択)
  • PTGBD / PTCD(ERCP困難時)

抗菌薬だけでは不十分であり、
閉塞解除が治療の本質です。


6-6. 急性胆嚢炎との違い

胆嚢炎も黄疸を伴うことがありますが、
胆管炎とは重症度と対応が異なります

  • 胆嚢炎:局所感染が主体
  • 胆管炎:全身感染(敗血症)

胆嚢炎では、

  • 保存的治療
  • 早期胆嚢摘出

が中心となりますが、
黄疸が目立つ場合は、
胆管炎の合併を常に疑う必要があります。


6-7. 黄疸+感染症を見たときの思考フロー

  1. 感染兆候はあるか?
  2. 胆汁うっ滞型か?
  3. 画像で胆管拡張はあるか?
  4. 重症度はどのレベルか?
  5. ドレナージが必要か?

この流れを押さえておくことで、
黄疸+発熱という状況に
落ち着いて対応できるようになります。

➡ 次章予告:
第7章では、黄疸患者の
治療全体像と病棟管理(輸液・栄養・合併症)
を整理します。


7. 黄疸の治療と病棟管理|「原因治療」と「全身管理」を分けて考える

黄疸診療では、
診断がついた瞬間がゴールではありません

総合内科・病棟では、

  • 黄疸そのものへの対応
  • 背景疾患への治療
  • 合併症の予防・管理

同時並行で進める必要があります。

本章では、USMLEで問われる病態理解と、
総合内科で必須となる実務的な病棟管理を統合して整理します。


7-1. 黄疸治療の基本構造

黄疸の治療は、常に次の2本柱で考えます。

  • ① 原因治療(etiology-specific treatment)
  • ② 支持療法・全身管理(supportive care)

「ビリルビンを下げる」こと自体が
治療目標になることはほとんどありません

原因を取り除いた結果として黄疸が改善する
という構造を常に意識します。


7-2. 原因別治療の整理

■ 閉塞性(肝後性)黄疸
  • 胆管結石:ERCP+EST / 採石
  • 胆管炎:抗菌薬+早期ドレナージ
  • 腫瘍性閉塞:胆道ステント、外科・腫瘍科連携

「詰まりを解除しない限り治らない」
という点が最大の特徴です。

⚠️ 臨床の落とし穴
抗菌薬のみで様子を見ると、
一時的に解熱しても再燃・敗血症化することがあります。


■ 肝性黄疸
  • ウイルス性肝炎:病型に応じた支持療法・抗ウイルス治療
  • 薬剤性肝障害:原因薬剤の中止
  • 自己免疫性肝炎:ステロイド導入(専門科管理)

ここでは、
肝合成能(PT-INR、Alb)の評価が重要です。

AST/ALTの高さよりも、
INRの延長や意識障害の方が
予後を左右します。


■ 肝前性(溶血性)黄疸
  • 溶血の原因検索
  • 輸血・ステロイド・免疫抑制など(原因依存)

このタイプでは、
肝胆道系の侵襲的介入は原則不要です。


7-3. 病棟管理①|輸液・循環管理

黄疸患者の多くは、

  • 脱水
  • 感染
  • 低栄養

を合併しています。

■ 輸液の基本
  • 循環血漿量の是正
  • 腎前性腎障害の予防

胆管炎や重症肝炎では、
初期輸液が予後に直結します。


7-4. 病棟管理②|栄養と代謝管理

慢性肝疾患や閉塞性黄疸では、
脂溶性ビタミン欠乏が問題になります。

  • ビタミンA・D・E・K欠乏
  • 低アルブミン血症

特にビタミンK欠乏は、

  • PT-INR延長
  • 出血リスク上昇

につながるため注意が必要です。


7-5. 病棟管理③|掻痒感への対応

閉塞性黄疸やPBCでは、
掻痒感がQOLを大きく低下させます。

  • コレスチラミン
  • 抗ヒスタミン薬(補助的)

胆汁酸の腸肝循環遮断
治療の基本です。


7-6. 合併症管理|見落としやすいポイント

  • 肝性脳症(意識レベルの変化)
  • 腎障害(HRS含む)
  • 感染症(二次感染)
  • 出血傾向

特に肝性脳症は、

  • 黄疸の程度と相関しない
  • アンモニア値だけで判断しない

という点が重要です。


7-7. USMLE的まとめ|治療で問われる視点

  • 治療=ビリルビン低下ではない
  • 原因除去が最優先
  • 肝合成能が重症度を決める
  • 胆管炎は敗血症性疾患

USMLEでは、
「どの時点で何をするか」
という判断プロセスが問われます。

➡ 次章予告:
第8章では、
AST/ALT・Bil・ALP・γ-GTPの読み方
を、病態生理と臨床推論の両面から整理します。


8. 肝胆道系検査の読み方|AST/ALT・Bil・ALP・γ-GTPを「意味」で理解する

黄疸診療において、
検査値は「診断名」ではなく「病態のヒント」です。

USMLEでも総合内科でも問われるのは、

  • どの値が上がっているか
  • なぜそのパターンになるのか
  • そこから何を疑うか

という思考の流れです。


8-1. AST / ALT|肝細胞障害の指標

AST・ALTは、
肝細胞の壊死・障害を反映する酵素です。

  • ALT:肝特異性が高い
  • AST:筋・心筋・赤血球にも存在
■ 上昇パターンの考え方
  • AST/ALT ≫ ALP:肝細胞障害型
  • ALT優位:ウイルス性肝炎、NAFLD
  • AST/ALT > 2:アルコール性肝障害

数値の高さよりも「比」と「並び」が重要です。

🧠 USMLEポイント
急性ウイルス性肝炎では、
AST/ALTが1000 IU/L以上になることがあります。


8-2. ビリルビン|T-BilとD-Bilの使い分け

ビリルビンは、
「どこで詰まっているか」
を示す最重要マーカーです。

■ 非抱合型(Indirect)優位
  • 溶血性貧血
  • Gilbert症候群
■ 抱合型(Direct)優位
  • 胆道閉塞
  • 胆管炎
  • 肝内胆汁うっ滞

尿が濃くなるのは抱合型ビリルビンのみ
という点は臨床でも国家試験でも頻出です。


8-3. ALP・γ-GTP|胆汁うっ滞のサイン

ALPとγ-GTPは、
胆汁の流れの障害を反映します。

  • ALP:骨由来にも注意
  • γ-GTP:肝胆道特異性が高い
■ パターン認識
  • ALP↑+γ-GTP↑:胆汁うっ滞
  • ALP↑のみ:骨疾患も鑑別

AST/ALTが軽度でもALPが高い場合、
胆道系疾患を疑います。


8-4. LDH|溶血と虚血のヒント

LDHは特異性が低い一方で、

  • 溶血
  • 肝虚血(ショック肝)

の評価に有用です。

AST/ALT急上昇+LDH高値では、
肝虚血を考えます。


8-5. 肝合成能|「数値が低い」ことの意味

肝機能評価で最も重要なのは、
合成能です。

  • PT-INR
  • アルブミン
  • 血小板数(慢性肝疾患)

AST/ALTが改善しても、
INRが延長していれば重症です。


8-6. 検査値から病態を逆算する

検査値は、

  1. どの系統が主に上がっているか
  2. どこがボトルネックか
  3. 時間経過でどう変化しているか

を考えるための材料です。

➡ 次章予告:
第9章では、
臨床推論の実践(どこで詰まっているか→何が原因か)
をケースベースで整理します。


9. 黄疸の臨床推論|「どこで詰まっているか」から「何が原因か」へ

黄疸は、
病名当てではなく構造理解の問題です。

USMLE・総合内科で問われるのは、

  • どこでビリルビンが滞っているか
  • なぜそこで滞るのか
  • その結果、次に何を疑うか

という思考の順番です。


9-1. Step 1:まず「場所」を決める

臨床推論の第一歩は、
肝前・肝・肝後のどこかを決めることです。

■ 判断の軸
  • Indirect Bil 優位 → 肝前性
  • AST/ALT 著明上昇 → 肝性
  • Direct Bil+ALP↑ → 肝後性

ここで重要なのは、
完璧に分けなくてよいという点です。

「どこが一番怪しいか」
を決められれば、次に進めます。


9-2. Step 2:時間軸を重ねる

次に考えるのが、
発症様式です。

  • 急性:数日〜1週間
  • 亜急性:数週
  • 慢性:数か月〜年単位
■ 時間軸 × 部位
  • 急性+肝性 → ウイルス性肝炎、薬剤性
  • 急性+肝後性 → 胆管結石、胆管炎
  • 慢性+肝後性 → 悪性腫瘍

「急か、ゆっくりか」は、
原因を一気に絞ります。


9-3. Step 3:随伴症状で重みづけする

次に、
症状の組み合わせを使います。

■ キーとなる随伴症状
  • 発熱 → 感染症
  • 腹痛 → 結石・炎症
  • 体重減少 → 悪性疾患
  • 掻痒感 → 胆汁うっ滞

無痛性・進行性・掻痒感を伴う黄疸は、
腫瘍性病変を第一に考える
のが原則です。


9-4. Step 4:画像で「仮説を潰す」

黄疸の画像検査は、
診断確定ではなく仮説検証
のために行います。

■ 超音波(POCUS)
  • 胆管拡張の有無
  • 胆嚢腫大
  • 肝腫瘤
■ CT / MRCP
  • 閉塞部位の同定
  • 腫瘍性病変の評価

胆管が拡張していない閉塞性黄疸は稀
という点は重要です。


9-5. VITAMIN CDEで原因を網羅する

部位と時間軸が決まったら、
VITAMIN CDEで鑑別を整理します。

  • V:Vascular(虚血、Budd-Chiari)
  • I:Infectious(肝炎、胆管炎)
  • T:Toxic(薬剤、アルコール)
  • A:Autoimmune(AIH、PBC、PSC、IgG4関連)
  • M:Metabolic(Gilbert、NAFLD)
  • I:Iatrogenic(ERCP後狭窄)
  • N:Neoplastic(膵癌、胆管癌)
  • C:Congenital(Dubin-Johnsonなど)
  • D:Degenerative
  • E:Endocrine

この枠組みで、
抜けを防ぎつつ優先順位をつける
ことが目的です。


9-6. ケースで考える臨床推論

例:

  • 高齢者
  • 無痛性・進行性黄疸
  • 体重減少
  • ALP・γ-GTP優位

→ 肝後性・慢性・非炎症性
膵頭部癌・胆管癌を最優先

このように、
順番を守れば答えは自然に絞られます


9-7. USMLEで問われる「次の一手」

USMLEでは、

  • 診断名
  • 次に行う検査
  • 最初の治療

がセットで問われます。

黄疸では、

  • 胆管拡張あり → ERCP/MRCP
  • 肝合成能低下 → ICU管理

といった行動選択が重要です。

➡ 次章予告:
第10章では、
国家試験・QB reviewで問われた黄疸
を整理します。


10. 国家試験に出る黄疸|「典型パターン」を一気に整理

国家試験で出題される黄疸は、
臨床現場の複雑さをそのまま問うものではありません

むしろ、

  • 典型的な検査パターン
  • 強い因果関係
  • 一発で決まるキーワード

が重視されます。

この章では、
「見た瞬間に答えが浮かぶ」
レベルまで整理します。


10-1. 間接型ビリルビンが上がる疾患

■ Gilbert症候群
  • 若年者
  • 軽度黄疸を繰り返す
  • Indirect Bil 優位
  • 肝機能は正常

「絶食・ストレスで悪化」
は頻出キーワードです。

■ 溶血性貧血
  • LDH↑
  • ハプトグロビン低下
  • 尿ビリルビン陰性

10-2. 直接型ビリルビンが上がる疾患

■ 胆道閉塞
  • Direct Bil↑
  • ALP・γ-GTP↑
  • 尿ビリルビン陽性
■ Dubin-Johnson症候群
  • 抱合型ビリルビン上昇
  • 肝機能ほぼ正常
  • 肝が黒色

「黒い肝臓」
は国試の定番表現です。


10-3. 肝細胞障害型の典型パターン

  • AST/ALT ≫ ALP
  • ALT優位
■ ウイルス性肝炎
  • AST/ALT 1000以上
  • 急性発症
■ アルコール性肝障害
  • AST/ALT > 2
  • γ-GTP高値

10-4. 胆汁うっ滞型の典型パターン

  • ALP・γ-GTP ≫ AST/ALT
■ 原発性胆汁性胆管炎(PBC)
  • 中年女性
  • 掻痒感
  • AMA陽性
■ 原発性硬化性胆管炎(PSC)
  • 若年男性
  • 潰瘍性大腸炎合併

10-5. 胆管炎の国試ポイント

  • Charcot三徴
  • Reynolds五徴
  • 胆道ドレナージが治療の本質

抗菌薬単独は不十分
という点は頻出です。


10-6. 膵癌・胆管癌の典型像

  • 高齢者
  • 無痛性黄疸
  • 体重減少

膵頭部癌を疑う


10-7. USMLE・国試共通の「落とし穴」

  • AST/ALTの高さだけで重症度を判断しない
  • 黄疸=肝炎と即断しない
  • 胆管炎は時間勝負

➡ 次章予告:
第11章では、
膵嚢胞性疾患(IPMN / MCN / IPMC)と黄疸
を整理します。


11. 膵嚢胞性疾患と黄疸|IPMN / IPMC / MCNを「危険度」で整理する

黄疸の原因として「膵頭部癌」が有名ですが、もう一段踏み込むと、
膵嚢胞性疾患も重要な鑑別に入ります。

とくに臨床上問題になるのが、

  • IPMN(Intraductal Papillary Mucinous Neoplasm)
  • IPMC(IPMN由来の浸潤癌)
  • MCN(Mucinous Cystic Neoplasm)

などの「粘液産生性」膵嚢胞です。

本章では、黄疸との関係を意識しながら、
“どれが危ないのか / 何が危険サインか”
で整理します。


11-1. なぜ膵嚢胞で黄疸が起こるのか?

膵嚢胞性病変そのものよりも、

  • 粘液による膵管・胆管の閉塞
  • 膵頭部での腫瘍性狭窄
  • 浸潤癌(IPMCなど)への進展

が黄疸の原因になります。

つまり、黄疸が出ている時点で、
「単なる良性嚢胞」では説明しにくい
という視点が重要です。


11-2. IPMNの基本|“膵管とつながる嚢胞”

IPMNは、
主膵管または分枝膵管に発生し、粘液を産生する腫瘍
です。

■ 分類(臨床で大事なのはここ)
  • 主膵管型(Main-duct):悪性化リスクが高い
  • 分枝型(Branch-duct):比較的低いが、油断は禁物
  • 混合型(Mixed):主膵管要素があれば高リスク寄り

11-3. POCUSと画像で拾うべき所見

膵嚢胞性疾患はPOCUSだけで確定診断はできませんが、
「疑うきっかけ」は作れます。

■ POCUSで意識するポイント(黄疸の場面)
  • 胆管拡張(閉塞性黄疸の根拠)
  • 胆嚢腫大
  • 主膵管拡張(目安:3mm以上)

主膵管拡張があり、
かつ胆管拡張を伴う場合は、
膵頭部レベルの閉塞病変を強く疑います。


11-4. High-risk stigmata / Worrisome features|「危険サイン」で動く

膵嚢胞性疾患では、
「嚢胞がある」よりも
“危険サインがあるか”
が重要です。

🚩 High-risk stigmata(高リスク所見)
閉塞性黄疸(膵頭部の嚢胞性病変に伴う)
造影で増強する壁在結節
主膵管拡張(高度)

⚠️ Worrisome features(要注意所見)
・嚢胞径が大きい
・壁在結節の疑い
・主膵管拡張(軽度でも)
・急性膵炎の既往 など

ポイントは、
「閉塞性黄疸はHigh-risk stigmataの一つ」
として扱われる、ということです。

黄疸があるなら、
“様子見”より先に専門科の評価が必要
になります。


11-5. IPMC(IPMN由来浸潤癌)を疑う場面

IPMNは良性〜悪性のスペクトラムであり、
浸潤癌になったものがIPMCです。

■ 疑うべき臨床像
  • 無痛性の閉塞性黄疸
  • 体重減少
  • 新規糖尿病・糖尿病悪化
  • 主膵管拡張+胆管拡張

これらが揃えば、
膵頭部癌と同様に扱う
という姿勢が安全です。


11-6. MCN(粘液性嚢胞性腫瘍)|IPMNとの違い

MCNは、
膵管との交通がない粘液性嚢胞で、
主に女性に多いとされます。

黄疸との関連はIPMNほど強くないこともありますが、

  • 巨大化による圧排
  • 悪性化による狭窄

では黄疸を起こし得ます。


11-7. 総合内科としての動き方(実務)

膵嚢胞性疾患が疑われる黄疸では、
総合内科としての目標はシンプルです。

  1. 閉塞性黄疸であることを確認(Bil分画+胆道系酵素)
  2. 画像で胆管拡張と閉塞部位を押さえる(US/CT/MRCP)
  3. 専門科(肝胆膵)へ早期につなぐ

“膵嚢胞がある=良性”とは考えない
黄疸がある時点で、
リスク評価のステージに入っています。

➡ 次章予告:
第12章では、
自己免疫・IgG4関連疾患と黄疸
を整理します。


12. 自己免疫性疾患・IgG4関連疾患と黄疸|「胆汁うっ滞型」を見たら考える

黄疸の鑑別で、
感染・結石・悪性疾患が否定的なとき、
次に浮かび上がってくるのが
自己免疫性疾患IgG4関連疾患です。

これらは進行が緩やかである一方、
見逃すと不可逆的な臓器障害
につながる点が重要です。


12-1. 自己免疫性肝疾患の全体像

黄疸と関連する自己免疫性肝疾患は、
主に次の3つです。

  • 自己免疫性肝炎(AIH)
  • 原発性胆汁性胆管炎(PBC)
  • 原発性硬化性胆管炎(PSC)

それぞれ、
障害される部位が異なる
という視点で整理すると理解しやすくなります。


12-2. 自己免疫性肝炎(AIH)

AIHは、
肝細胞そのものが免疫学的に障害される疾患
です。

■ 臨床的特徴
  • 中年女性に多い
  • 肝性黄疸
  • AST/ALT高値
  • 高IgG血症
■ 検査のポイント
  • ANA、SMA陽性
  • IgG上昇

黄疸は必発ではありませんが、
急性肝炎様に発症することもある
ため注意が必要です。


12-3. 原発性胆汁性胆管炎(PBC)

PBCは、
肝内小胆管が選択的に破壊される疾患
です。

■ 典型像
  • 中年女性
  • 掻痒感が初発症状
  • 胆汁うっ滞型酵素上昇
■ 検査所見
  • ALP・γ-GTP上昇
  • AMA陽性

初期は黄疸が目立たないことも多く、
掻痒感+ALP高値
が重要な手がかりになります。


12-4. 原発性硬化性胆管炎(PSC)

PSCは、
肝内外胆管がびまん性に狭窄・拡張を繰り返す疾患
です。

■ 臨床的特徴
  • 若年〜中年男性
  • 潰瘍性大腸炎合併
  • 進行性の胆汁うっ滞

MRCPでの
数珠状変化(beading)
は典型所見です。

PSCは、
胆管癌のリスクが高い
ことも重要なポイントです。


12-5. IgG4関連疾患と黄疸

IgG4関連疾患は、
全身性の線維化・腫瘤形成性疾患
です。

黄疸と最も関連が深いのは、

  • IgG4関連硬化性胆管炎
  • 自己免疫性膵炎(AIP)

です。


12-6. IgG4関連硬化性胆管炎

IgG4関連硬化性胆管炎は、
胆管癌やPSCと極めて似た像
をとります。

■ 疑うポイント
  • 胆汁うっ滞型黄疸
  • 膵腫大や膵病変の合併
  • 血清IgG4高値

重要なのは、
ステロイドに反応する
という点です。

悪性疾患との鑑別を慎重に行ったうえで、
治療方針を決定します。


12-7. 自己免疫・IgG4を疑うタイミング

  • 胆汁うっ滞型だが結石・腫瘍が見つからない
  • 慢性経過の黄疸
  • 掻痒感が前景に立つ
  • 他臓器病変を伴う

これらが揃えば、
免疫性疾患を鑑別に入れる
価値があります。

➡ 次章予告:
第13章では、
その他の鑑別(代謝・遺伝・稀少疾患)と黄疸
を整理します。


13. 代謝・遺伝・稀少疾患と黄疸|「よくある原因が否定されたあと」に考える

黄疸の鑑別では、
感染・結石・悪性・自己免疫を押さえたあとに、
代謝・遺伝・稀少疾患を体系的に考える必要があります。

これらは頻度こそ高くありませんが、
国家試験・USMLEでは定番であり、
また臨床で見逃すと誤診につながりやすい領域です。


13-1. 体質性黄疸|「肝機能は正常」なのに黄疸が出る

体質性黄疸では、
肝細胞障害や胆道閉塞がない
にもかかわらず黄疸が出現します。

■ Gilbert症候群(再掲・最重要)
  • UGT1A1活性低下
  • 間接型ビリルビン優位
  • 絶食・ストレスで増悪
  • 肝酵素は正常

「若年者+軽度黄疸+他は正常」
はGilbertをまず疑います。


■ Dubin–Johnson症候群
  • 抱合型ビリルビン上昇
  • 肝酵素ほぼ正常
  • 肝が黒色(メラニン様色素沈着)

「黒い肝臓」は国試・USMLEの定番キーワードです。


■ Rotor症候群
  • 抱合型ビリルビン上昇
  • 肝の色調は正常
  • 臨床的意義は小さい

Dubin–Johnsonとの違いは、
肝の色調で整理されることが多いです。


13-2. 代謝性疾患と黄疸

■ Wilson病
  • 若年者
  • 肝障害+神経症状
  • 溶血性貧血を伴うことあり

溶血+肝障害+精神神経症状
の組み合わせは重要です。


■ ヘモクロマトーシス
  • 鉄過剰
  • 肝硬変進行後に黄疸

黄疸は後期所見である点がポイントです。


13-3. Porphyria(ポルフィリン症)は黄疸とどう関係する?

結論から言うと、
Porphyriaは黄疸の「主要鑑別」ではありません

ただし、

  • 肝性ポルフィリン症
  • 溶血を伴うタイプ

では、
ビリルビン上昇を伴うことがあります

■ 重要な整理
  • 主症状は腹痛・神経症状
  • 黄疸は主訴になりにくい
  • USMLEでは「鑑別に入らない理由」を問われることがある

つまり、
「腹痛が主体で黄疸が軽度」
という文脈で登場します。


13-4. その他の稀少疾患

  • Crigler–Najjar症候群(重症間接型)
  • Budd–Chiari症候群(血管性)
  • 妊娠性肝内胆汁うっ滞

これらは、
背景(年齢・妊娠・血栓傾向)
とセットで覚えると整理しやすくなります。


13-5. USMLE・国試での出題パターン

  • 肝機能正常+黄疸 → 体質性
  • 若年+溶血+神経症状 → Wilson
  • 腹痛主体+精神症状 → Porphyria

「何が主訴か」を見極めることで、
鑑別が一気に絞られます。

➡ 次章予告:
第14章では、
黄疸診療の全体まとめ(USMLE・総合内科統合)
を行います。


14. まとめ|黄疸を「色」ではなく「構造」で考える

黄疸は、見た目にはシンプルな症候です。

けれど臨床では、

  • 感染症かもしれない
  • 悪性疾患かもしれない
  • 代謝・自己免疫・遺伝疾患かもしれない

というように、
一気に鑑別が広がる症候でもあります。

だからこそ重要なのは、
「病名を当てにいく」ことではなく、考える順番を守ることです。


14-1. 黄疸を見たときの思考アルゴリズム(再確認)

  1. 重症度・緊急性は?
    • 発熱・ショック・意識障害 → 胆管炎・敗血症を除外
  2. どこで詰まっている?
    • 肝前性 / 肝性 / 肝後性
  3. 時間軸は?
    • 急性・亜急性・慢性
  4. 随伴症状は?
    • 発熱・腹痛・体重減少・掻痒感
  5. 次の一手は?
    • 画像?ドレナージ?専門医紹介?

この順番を守るだけで、
黄疸診療は「怖いもの」から「読めるもの」に変わります。


14-2. USMLE視点のTake-home message

  • ビリルビンは「場所」を教えてくれる
  • AST/ALTは「壊れ方」を示す
  • ALP・γ-GTPは「流れ」を示す
  • PT-INR・Albは「重症度」を決める

USMLEでは、
数値そのものより「次に何をするか」
が問われます。

黄疸を見たら、
「次の行動を選べるか」
を常に意識しましょう。


14-3. 総合内科・病棟でのTake-home message

  • 胆管炎は内科的緊急疾患
  • 閉塞性黄疸は悪性疾患を否定するまで安心しない
  • 肝合成能の低下はAST/ALTより重い
  • 黄疸の治療は「原因治療+全身管理」

「数値が下がった」よりも、
「患者が安全か」
を評価することが重要です。


14-4. このシリーズの位置づけ

この USMLE・総合内科編 は、

  • OSCE・外来編で「動き方」を思い出し
  • 基礎・病態編で「なぜそうなるか」を理解し
  • 英語編で「どう伝えるか」を補強する

という全体構造の中核にあたります。

必要なところだけ拾い読みしても、
通して読んでも、
臨床推論の軸が残る
ことを意識して構成しました。


14-5. 最後に

黄疸は、
「肝臓の病気」ではなく「全身のサイン」
です。

色に惑わされず、
構造を見て、
順番を守る。

それだけで、
黄疸診療はぐっとシンプルになります。

このページが、
USMLEの問題演習中や、
忙しい外来・当直中に、
「立ち止まって考えるための地図」
として役立てば嬉しいです。


関連記事|症候別アプローチ

References

  • Harrison’s Principles of Internal Medicine, 21st ed.

    – Disorders of the Liver and Biliary System

  • Guyton and Hall Textbook of Medical Physiology, 14th ed.

    – Bilirubin metabolism and liver physiology

  • Murtagh’s General Practice, 8th ed.

    – Jaundice: approach in primary care

  • Tokyo Guidelines 2018

    – Management of acute cholangitis and cholecystitis

  • UpToDate

    – Approach to the patient with jaundice

  • National Medical Licensing Examination (QB review list)

    – Jaundice and bilirubin metabolism

🗓 最終更新日:2025年12月13日
✍️ 編集メモ:本記事は、Harrison’s Internal Medicine、Guyton and Hall Textbook of Medical Physiology、Murtagh’s General Practice、Tokyo Guidelines 2018、および国家試験QB review listを参考に、USMLE・総合内科・臨床推論の統合を目的として再構成しました。

「黄疸(Jaundice)の診断と鑑別|USMLE・総合内科のための体系的アプローチ」への1件のフィードバック

  1. ピンバック: 【37症候アプローチ:黄疸】 ー Med Student's Study Room

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