「首のしこりが気になるんです」――外来や当直でよく遭遇するこの訴え。リンパ節腫脹(LAD)は、風邪のような軽症から悪性腫瘍まで多岐にわたる原因が隠れています。
ときに鑑別は難しく、OSCEや臨床実習でも頻出のテーマです。
本記事では、LADの見極め方を「部位」「経過」「Red flag」「免疫・腫瘍の特徴」などから整理し、初期対応と紹介基準まで含めて徹底解説します。
この記事で学べること
- リンパ節腫脹の分類と鑑別アプローチ:局所性 vs 全身性、圧痛の有無、急性・慢性などの観点から系統的に整理
- 疾患ごとの特徴的パターンと見逃しやすい疾患群:EBウイルス感染症、HIV、リンパ腫、結核、悪性腫瘍など
- OSCE・実臨床に役立つ診察スキルと紹介のタイミング:触診の順序、Red flag、生検の適応、専門医へ紹介する判断材料
導入症例(Clinical Vignette)
【Doorway Information】
19歳女性/主訴:首のしこりと発熱
Vital signs:T 38.2℃, HR 96/min, BP 108/64 mmHg, SpO₂ 98% (RA)
患者の言葉:
「3日前から熱が出てて、昨日くらいから首にしこりがあるのに気づいて…。飲み込むと痛くて、ちょっとだるい感じもあります。」
どう考える?(基本アプローチと鑑別の全体像)
この時点で最も考えやすいのはウイルス性咽頭炎(特にEBウイルス)ですが、安易な決めつけは危険です。
リンパ節腫脹を評価する際は、まず次の4分類を意識しましょう。
🔍 LADアプローチの4つの基本軸
- 局所性 vs 全身性: 原因が局所病変か、全身性疾患か
- 急性 vs 慢性: 感染症か腫瘍性かの大きな分かれ目
- 圧痛の有無: 圧痛があれば炎症性、無痛性なら悪性を疑う
- 可動性・硬さ: 可動性があり柔らかければ良性の可能性が高い
さらに、注意すべきRed Flagは以下の通りです:
- 左側の鎖骨上リンパ節腫脹(Virchow’s node)
- B症状:体重減少、寝汗、長引く発熱
- 2cm以上、2週間以上持続する、固定性・硬結性の腫大
ここで、リンパ節腫脹の原因となる疾患を網羅的に把握するため、VITAMIN CDEの枠組みに沿って整理します。
🧭 リンパ節腫脹の原因疾患(VITAMIN CDE)
カテゴリ | 代表疾患 | 補足 |
---|---|---|
Vascular | 血管炎(PANなど) | LADを起こすことは稀 |
Infectious | EBウイルス、HIV、溶連菌、結核、梅毒、トキソプラズマ、猫ひっかき病 | 頻度・重要性ともに高い |
Trauma | 頸部外傷後の反応性腫脹 | 特殊な状況で考慮 |
Autoimmune | SLE、Kikuchi病、成人Still病 | 若年女性・全身症状を伴う |
Metabolic | サルコイドーシス、高フェリチン血症 | 非乾酪性肉芽腫、成人Still病と重複 |
Neoplastic | 悪性リンパ腫、白血病、転移性がん | Red flag、B症状に注意 |
Congenital | 頸部嚢胞性疾患(嚢胞性奇形) | 小児での鑑別に有用 |
Degenerative | 該当なし | 除外可能 |
Endocrine | 甲状腺腫瘍、甲状腺炎 | LADとの鑑別が必要な頸部腫瘤 |
📦 Column:頸部嚢胞って何?LADと間違えやすい先天性疾患
若年者や小児の頸部腫脹の中には、実は「リンパ節腫脹」ではなく、先天性嚢胞が原因のことがあります。
よく見られるのは以下の2つです:
- 鰓裂嚢胞(Branchial cleft cyst):
- 側頸部(胸鎖乳突筋の前縁)にみられる
- 胎生期の第2鰓裂由来、思春期に感染で腫れることも
- 痛みなく、柔らかく、繰り返す腫脹が特徴
- 甲状舌管嚢胞(Thyroglossal duct cyst):
- 正中頸部にできる
- 舌を出すと上に動くのが特徴的
- 甲状腺の移動経路に遺残した管から発生
どちらも炎症や感染によって急に腫大し、LADと間違われやすいため注意が必要です。
画像検査(頸部エコー)で内部構造や位置を確認すると診断に近づきます。
ここまでで、リンパ節腫脹に対する基本的な評価軸と、鑑別疾患の全体像を整理しました。
では実際に、導入症例をもとに「何が起きているのか?」を一つずつ紐解いていきましょう。
次は、事実(Fact)→ 問題の再定義(Problem)→ 鑑別仮説(Hypothesis)の流れで整理していきます。
Fact / Problem / Hypothesis(症例思考の整理)
🟦 Fact(患者の訴え・観察所見)
- 19歳女性、3日前からの発熱
- 頸部リンパ節の腫脹を自覚
- 嚥下痛、全身倦怠感あり
- Vital:T 38.2℃, HR 96/min, SpO₂ 98%
🟨 Problem(医学的再定義)
- 圧痛あり・可動性ありの頸部リンパ節腫大
- 急性経過+発熱+咽頭痛を伴う → 感染症が第一印象
- 現時点でRed flagやB症状は明らかでない
🟥 Hypothesis(鑑別診断:重み付け付き)
- EBウイルス感染症(伝染性単核球症)
- 溶連菌性咽頭炎
- HIV初感染
- Kikuchi病
- 悪性リンパ腫
📝 Need To Know(問診・身体診察で確認したいこと)
- 咽頭・扁桃の所見(白苔、膿性分泌物など)
- 肝脾腫の有無
- リンパ節の数・大きさ・圧痛・可動性
- 皮疹、粘膜潰瘍(HIV・Still病など)
- 体重減少・盗汗・夜間の発熱
- 性交渉歴・ワクチン歴・渡航歴など
次のステップでは、これらの情報を問診でどう引き出すかを具体的に考えていきましょう。
さて、ここまでで導入症例と鑑別の全体像を整理してきました。
ここからは一旦症例から離れ、すべてのリンパ節腫脹に共通する診療の基本ステップを確認していきましょう。
診察におけるアプローチは、いつも通り次の3つのStepで構成されます:
- Step 1:問診(病歴と背景を整理する)
- Step 2:身体診察(LADの性状と全身状態を評価する)
- Step 3:検査・画像(仮説をもとに絞り込んだ検査戦略)
以下のセクションでは、それぞれのステップで何を意識し、どのように進めるべきかを資料ベースで解説していきます。
Step 1:問診でリンパ節腫脹の背景を読み解く
問診では、「どんな経過で腫れてきたのか」「全身疾患の一部なのか」「Red flagはあるか」を見極める必要があります。
以下に、OPQRSTとPAM HITS FOSSを用いた構造化問診のポイントを整理します。
🔍 OPQRSTで確認すべき症状の詳細
項目 | 確認ポイント |
---|---|
Onset(発症時期) | いつから腫れているか?急性 or 慢性か |
Provocation / Palliation | 圧迫・動作で変化するか?感染と関連する誘因は? |
Quality(性状) | しこりの硬さ、動きやすさ、痛みの有無 |
Region / Radiation | 局所性か、複数部位に及ぶか(全身性LAD) |
Severity | どの程度の大きさか?生活に支障はあるか? |
Time course(経過) | 拡大傾向があるか?発熱など随伴症状は? |
🩺 随伴症状から見抜く!疾患ごとの特徴的サイン
リンパ節腫脹はあくまで「症候」にすぎません。重要なのは、それにどんな症状がくっついているかです。
以下の随伴症状は、鑑別疾患を絞るうえで非常に有用です。
随伴症状 | 想起すべき疾患群 |
---|---|
咽頭痛・扁桃肥大・白苔 | EBウイルス(伝染性単核球症)、溶連菌、アデノウイルス |
発熱+肝脾腫 | EBウイルス、HIV急性感染、リンパ腫、Still病 |
体重減少・寝汗・長引く発熱(B症状) | 悪性リンパ腫、結核、進行がん |
粘膜潰瘍・皮疹 | HIV、梅毒、SLE、成人Still病 |
関節痛・発疹 | SLE、Still病、サルコイドーシス |
咳・呼吸器症状 | 肺結核、サルコイドーシス、上気道感染 |
動物との接触歴(猫・鳥など) | 猫ひっかき病、トキソプラズマ症、鳥関連過敏性肺炎 |
問診の段階で全身のシグナルを拾えるかどうかが、診断精度に大きく影響します。
特に「痛みのないしこり+体重減少」は、最も見逃したくないパターンの一つです。
🩺 PAM HITS FOSSで全身背景を把握する
- P:過去の疾患(HIV・結核・悪性腫瘍歴など)
- A:薬剤アレルギー(薬疹由来のLADも)
- M:内服歴(抗てんかん薬やアロプリノールなど)
- H:入院歴(免疫不全や感染源の手がかり)
- I:外傷歴(頸部への打撲など)
- T:手術歴(頸部・乳腺・骨盤など)
- S:外傷・放射線曝露歴(放射線誘発性腫瘍)
- F:家族歴(悪性リンパ腫・自己免疫疾患)
- O:産科歴(妊娠中のトキソプラズマ感染)
- S:性的接触歴(HIV, 梅毒, HPV など)
- S:社会歴(喫煙、職業、旅行歴、動物接触、ワクチン歴など)
🚩 問診で見逃してはいけないRed flag
- 2cm以上で2週間以上持続
- 無痛性、硬く固定されている
- 発熱・寝汗・体重減少(=B症状)
- 左鎖骨上の腫脹(Virchow’s node)
- 多発部位でのLAD(=全身性疾患の可能性)
これらの所見は、悪性リンパ腫や転移性がん、免疫疾患などを強く疑う根拠になります。
📘 tips:薬剤性リンパ節腫脹
薬剤性LAD(Drug-induced LAD)は、比較的見逃されやすい診断のひとつです。
特に注意すべき薬剤には、フェニトイン、カルバマゼピン、アロプリノール、ヒドララジン、特定の抗菌薬などが含まれます。
発熱・発疹・肝障害などを伴えば、DRESS症候群や薬疹との鑑別も必要です。
病歴聴取では「数週間以内に変更・追加された薬剤がないか」を丁寧に確認しましょう。
📦 Column:HIVによるリンパ節腫脹 ― 見逃されやすい初期サイン
HIV感染は、初期から慢性・無痛性のリンパ節腫脹を呈することがあります。
とくに診断前の段階では、発熱・咽頭痛・全身倦怠感などEBウイルス感染症と酷似した症状で現れるため、見逃されやすい代表疾患です。
🔎 特徴的なポイント
- 初期感染期(急性HIV): 発熱、咽頭痛、全身性リンパ節腫脹、皮疹、粘膜潰瘍
- 慢性感染期: 無痛性・対称性・慢性的なLAD(特に後頸部・腋窩・鼠径部)
- 進行期: 日和見感染・悪性腫瘍(Kaposi肉腫・悪性リンパ腫)を背景としたLAD
🩺 診断のヒント
- 若年者の非圧痛性・対称性・複数部位のLADでは必ずHIVを鑑別に入れる
- 随伴する粘膜潰瘍、発疹、性交渉歴、ワクチン歴の確認を
- HIV抗体+p24抗原同時検査または第4世代抗原抗体検査で診断へ
特にOSCEでは「若年男性・LAD・咽頭痛・口内炎+リスク行動」というケースはHIVを疑うサインとして重要です。
感染早期ほど診断・介入が重要になるため、疑う視点を持つこと自体が最大の武器となります。
問診によって、原因疾患の候補や必要な情報の方向性が見えてきました。
次に行うべきは、実際に患者の身体に触れ、「どんなリンパ節か?」「全身に広がりはあるか?」を確かめることです。
特にリンパ節腫脹では、しこりの位置・大きさ・硬さ・可動性・圧痛などの所見が診断に直結するため、触診の質が極めて重要です。
続くStep 2では、資料に基づいた系統的な身体診察のコツと見逃してはいけないRed flagを整理していきます。
Step 2:身体診察で「しこりの正体」と全身状態を見極める
リンパ節腫脹に対する身体診察では、局所所見の質と全身の広がりの両方を評価する必要があります。
触診の順序・触り方・所見の記録法まで含めて、以下に整理しておきましょう。
👐 リンパ節の触診ポイント ― 系統的に評価しよう
まずは頭頸部から足までの順序で全身をスキャンすることが基本です。
以下は代表的なリンパ節群と、それぞれの鑑別に役立つ部位です。
- 後頭部(Occipital): 頭皮感染、小児のウイルス感染
- 耳前後部(Pre/Postauricular): 外耳炎、結膜炎、風疹
- 顎下・顎下部(Submandibular/Submental): 歯性病変、口腔感染
- 頸部(Cervical): 咽頭炎、EBV、甲状腺疾患、Kikuchi病
- 鎖骨上(Supraclavicular): 腹部・胸部悪性腫瘍の転移(Virchow’s node)
- 腋窩(Axillary): 乳がん、皮膚感染、ワクチン後
- 鼠径部(Inguinal): STI、皮膚感染、精巣腫瘍
加えて、深部リンパ節(縦隔・腹腔内など)は身体診察では触知できず、CTやMRIが必要です。
🖐 評価すべき触診所見(5つのポイント)
所見 | 意味・解釈 |
---|---|
大きさ(Size) | 1〜1.5cm以上で注意(部位により異なる) |
圧痛(Tenderness) | あり→感染性、なし→悪性・慢性疾患 |
可動性(Mobility) | 可動性あり→良性、固定性→悪性の可能性 |
硬さ(Consistency) | 柔らかい→反応性、硬い・ゴツゴツ→腫瘍性 |
数・対称性 | 多発・対称→ウイルス・免疫性、単発・片側→腫瘍性を疑う |
🧠 Red flagとしての身体所見
- 無痛性・硬く・動かない:悪性リンパ腫、転移性腫瘍の可能性
- 左鎖骨上の腫脹(Virchow’s node):消化器がんや肺がんの転移に注意
- 頸部リンパ節+皮膚癒着:結核性リンパ節炎の典型像
👀 補助診察も忘れずに
- 咽頭・扁桃: 扁桃炎、EBV、溶連菌性咽頭炎
- 口腔内: 潰瘍、出血傾向(HIVや白血病)
- 皮膚所見: 発疹、発赤、猫ひっかきの痕など
- 眼結膜: 黄疸(悪性疾患・感染症)、結膜炎
- 脾臓の触知: EBV、白血病、リンパ腫、Still病
📘 tips:皮膚所見とリンパ節腫脹の関係
皮膚の病変とリンパ節腫脹の組み合わせは、自己免疫疾患や悪性腫瘍の可能性を示唆します。
たとえば、全身性エリテマトーデス(SLE)では、蝶形紅斑や光線過敏とともに頸部・腋窩リンパ節腫脹を伴うことがあります。
また、皮膚T細胞リンパ腫(Sézary症候群)では、全身性の紅皮症と一致してびまん性LADを認めます。
皮膚の視診は見落とされやすいため、「発疹+しこり」という症状のセットに敏感になると良いでしょう。
📦 Column:リンパ節以外の免疫臓器と莢膜菌感染 ― 実はここが盲点になる
リンパ節腫脹を評価するとき、つい「しこり」にばかり目が向きがちですが、免疫の全体像を考える上で忘れてはならない臓器が2つあります。
それが、胸腺(Thymus)と脾臓(Spleen)です。
🫁 胸腺(Thymus)
- 役割: T細胞の成熟を担う免疫臓器(特に小児期に活発)
- 関連疾患: 胸腺腫(thymoma)、重症筋無力症との合併が有名
- 診察Tips: 胸部X線やCTで前縦隔腫瘤として偶発的に発見
🩸 脾臓(Spleen)
- 役割: 血球のフィルター、莢膜菌に対する免疫、防御抗体産生など
- 関連疾患: 脾腫(EBウイルス、白血病、リンパ腫、Still病)
- 診察Tips: 左季肋部での触診+腹部エコー
- 脾摘後: 以下の莢膜菌感染に対する免疫が低下
リスク上昇する菌 | ワクチン |
---|---|
Streptococcus pneumoniae | PPSV23 / PCV13 |
Haemophilus influenzae type b | Hibワクチン |
Neisseria meningitidis | MenACWY / MenB |
さらに近年では、PNHやaHUSの治療で使われる補体阻害薬によっても、莢膜菌に対する免疫は大きく低下します。
⚠ 補体C5阻害薬(例:エクリズマブ)による免疫抑制の盲点
- エクリズマブ・ラブリズマブ: 補体終末経路を阻害 → 髄膜炎菌への自然免疫が著しく低下
- ワクチン接種必須: MenACWYとMenBの両方
- 発熱時の対応: 敗血症を想定し、抗菌薬(例:セフトリアキソン)を即時投与
- Alert Cardの携帯: 海外・国内でも標準。医療者へ即時伝達可能に
📎 患者カードの例(和訳):
「私は補体を抑える薬を使っており、髄膜炎菌などの感染に対する免疫が低下しています。発熱時はすぐに医療機関を受診し、このカードを提示してください。」
このように、“腫れている場所”だけでなく、“守れていない場所”に目を向けることが、LADを診るうえで本当の意味での全身評価になります。
次は、こうした所見に基づいて選ぶべき検査について考えていきましょう。
Step 3:検査・画像 ― 仮説に基づいて、無駄なく絞る
身体所見までである程度、感染性・腫瘍性・免疫性などの方向性が見えてきたら、目的に応じた検査を的確に選択することが重要です。
やみくもに検査をするのではなく、「この情報が必要だから、この検査をする」という視点が不可欠です。
🧪 血液検査で評価すべき項目
検査 | 目的・補足 |
---|---|
CBC(血算) | 白血球数↑(感染・腫瘍)、好中球↑(細菌)、リンパ球↑(ウイルス)、異型リンパ球(EBV) |
CRP / ESR | 炎症反応のスクリーニング。上昇していれば感染性 or 活動性疾患 |
LDH | 悪性リンパ腫で上昇しやすい。腫瘍量や活動性の指標 |
sIL-2R | T細胞活性化マーカー。リンパ腫・サルコイドーシス・Still病などで高値 |
肝機能(AST/ALT) | EBウイルス、HIVで軽度上昇することあり |
フェリチン・尿酸 | 成人Still病、サルコイドーシスで高値 |
ウイルス抗体(EBV IgM/IgG、CMV、HIVなど) | 感染性LADの診断に必須 |
自己抗体(ANA, RF, 抗dsDNA) | 自己免疫疾患(SLEなど)のスクリーニング |
抗酸菌検査(T-SPOT、喀痰塗抹) | 結核性リンパ節炎の除外 |
🖼 画像検査の選び方と使い分け
- 頸部エコー:形状(楕円 vs 丸)、内部構造(hilumあり vs なし)、血流パターン(中心 vs 周辺)を観察
- 胸部X線:サルコイドーシス(両側肺門部LAD)、縦隔腫瘤
- CT(頸部・胸腹部):深部リンパ節(縦隔・腹腔内)や臓器病変を包括的に評価
- MRI:軟部組織や中枢への進展が疑われるときに
- PET-CT:悪性リンパ腫の病期評価、治療効果判定に有用
🩻 POCUSでのリンパ節評価の3ポイント
- 大きさ: 1〜2cmを超えると悪性を疑う(部位依存)
- 内部構造: hilumが明瞭なら良性、消失・不均一なら悪性を示唆
- 血流(Doppler): 中心部なら反応性、周辺血流なら腫瘍性を示唆
📘 Column:特殊な転移のパターンとリンパ節の知識
🔹 特殊な転移パターンと命名病変
悪性腫瘍には、特有の経路・臨床像を持つ転移パターンがいくつか知られています:
- Virchow’s Node:左鎖骨上窩リンパ節への転移。胃がん、膵がん、胆道がん、前立腺がん、精巣がんなどが胸管経由で転移。
→ Troisier’s Sign:このリンパ節の硬結所見。 - Sister Mary Joseph Nodule:臍部にできる皮下結節。胃がん、卵巣がん、膵がんなどの腹膜播種による転移。
- Krukenberg腫瘍:胃腺がん(特に印環細胞癌)からの卵巣転移。両側性の卵巣腫大を特徴とし、若年女性でも見られる。
- Blumer’s Shelf:Douglas窩(直腸・子宮直腸窩)の腹膜播種による硬結。内診・直腸診で触れる。
- Schnitzler’s転移:膀胱直上・直下の腹膜播種。しばしば膀胱刺激症状で発見される。胃がんで多い。
🔹 Virchow’s Node と Virchow’s Triad の違い
用語 | 内容 |
---|---|
Virchow’s Node | 左鎖骨上窩リンパ節。主に消化器悪性腫瘍のリンパ流が胸管を通って流入し、初発転移部位となる。 |
Virchow’s Triad | DVT(深部静脈血栓症)の3大要因を示す: ① 血流停滞(Stasis) ② 血管内皮障害(Endothelial injury) ③ 凝固亢進状態(Hypercoagulability) |
名称が似ているため混同に注意が必要です。
🔹 Sentinel Lymph Node(センチネルリンパ節)
センチネルリンパ節とは、「がん組織から最初にリンパ流が到達する見張りリンパ節」のことです。腫瘍の転移の有無を確認する上で極めて重要な臨床指標です。
- 定義:原発腫瘍からリンパ液が最初に流入するリンパ節
- 役割:転移の有無により、リンパ節郭清の必要性を判断
- 検出方法:
- ブルーダイ法(青色色素)
- 放射性同位元素法(99mTc+ガンマプローブ)
- 蛍光法(ICG+近赤外線カメラ)※近年急速に普及
- 対象疾患:乳がん、悪性黒色腫、舌がん、子宮頸がん、外陰がんなど
ICG(インドシアニングリーン)を用いた蛍光法は、非侵襲性が高く、検出率の高さから今後の標準手技となることが期待されています。
🧬 生検を考えるタイミングと注意点
- FNA(細針吸引): 深部やアクセス困難な部位における初期検討には有用
- Excisional biopsy(切除生検): リンパ腫を疑うなら必須。FNAでは診断不能なケースも多い
- 生検の適応条件:
- 2cm以上・2週間以上持続
- 圧痛なし・硬結・固定性
- B症状(体重減少・寝汗・発熱)を伴う
🚫 不要な検査を避けるために
- 若年者・急性+圧痛あり: ウイルス感染を想定し、安易なCT・生検は避ける
- 抗菌薬は安易に投与しない: 感染兆候+画像所見を確認してから
- 腫瘍が疑われるなら順を追って検査: PET-CTは診断確定後や治療計画時に
💡 Column:CT・PET‑CTの適切な使いどころ ― 保険適応を押さえよう
🔍 CT検査:造影 vs 非造影
非造影CTでもリンパ節の位置・サイズは把握できますが、境界や壊死、充実性変化を評価するには、造影CTが優です。
「何を鑑別したいか」を意識して選びましょう。腎機能低下や造影剤アレルギーがある場合は非造影を選定します。
🔥 PET‑CT:保険適応に関する制限と対象疾患
日本の保険診療では、以下の条件をすべて満たす場合に限ってPET‑CTが認められます :contentReference[oaicite:1]{index=1}。
- 対象疾患:早期胃がんを除く悪性腫瘍(リンパ腫含む)、心サルコイドーシス、てんかん(外科治療目的)、大型血管炎
- 検査目的:病期分類、転移・再発の明確な診断目的(疑いでは×、治療効果判定も×※リンパ腫除く) :contentReference[oaicite:2]{index=2}
- 直近の画像検査(CT/MRIなど)による評価があり、「病期/転移などが不確定」な旨を診療情報提供書に明記
- 同一疾患では原則6か月以上間隔を空ける必要あり。リンパ腫では例外的に当てはまる可能性あり :contentReference[oaicite:3]{index=3}
- 退院・術後から30日以内は原則不可(炎症・偽陽性のリスク) :contentReference[oaicite:4]{index=4}
- 同月内にガリウムシンチ併用検査は不可 :contentReference[oaicite:5]{index=5}
✅ 臨床応用と注意点
- 「リンパ節腫大あり→すぐPET‑CT」は疑い病名のみでは保険適用外
- 「治療効果判定」は、リンパ腫以外では適応外
- 「早期胃がん」は、たとえ治療後でもPET‑CT自体が保険外
- 「心サルコイドーシス」、「大型血管炎」など、炎症性疾患でも保険適応あり :contentReference[oaicite:6]{index=6}
検査は診断のための“材料集め”ではなく、仮説を検証するための狙い撃ちの手段です。無駄なく、確実に診断へと近づきましょう。
🔁 リンパ節腫脹の診察を症例で再現 ― 問診・診察・検査の流れをたどる
ここまで、リンパ節腫脹に対する問診・身体診察・検査の基本的なアプローチを整理してきました。
では実際に、冒頭で紹介した患者さんのケースに、このステップをどう活用していくのか――実践的な流れを見ていきましょう。
🟢 【Doorway Information】
19歳女性/主訴:首のしこりと発熱
Vital signs:T 38.2℃, HR 96/min, BP 108/64 mmHg, SpO₂ 98% (RA)
🗣 患者の言葉:
「3日前から熱が出てて、昨日くらいから首にしこりがあるのに気づいて…。飲み込むと痛くて、ちょっとだるい感じもあります。」
🩺 Step 1:問診の振り返り ― OPQRST+背景を聞き出す力
医師:「今日はどうされましたか?」
患者:「3日前から熱が出てて、昨日あたりから首にしこりができて…飲み込むと痛いです。」
医師:「どのくらいの大きさですか?痛みは強いですか?」
患者:「親指の第一関節くらいのサイズで、触るとズキっと痛みます。」
医師:「発熱のピークや、他に風邪症状は?」
患者:「昨日が一番熱が高くて38.5℃でした。のども少し痛くて、だるさもあります。」
医師:「最近、風邪をひいたり、だれかと同じ症状の人はいましたか?」
患者:「大学の友達が数人、咽頭炎っぽくて休んでました。」
医師:「歯や耳に異常はないですか?」
患者:「とくにないと思います。」
医師:「旅行歴、動物との接触、海外渡航歴などは?」
患者:「旅行は行ってないです。動物も飼ってません。」
医師:「ワクチン接種や最近飲んだ薬は?」
患者:「2週間くらい前にコロナワクチンを打ちました。」
医師:「妊娠の可能性は?月経や避妊状況についても教えてください。」
患者:「生理は今ちょうど終わったばかりで、妊娠の可能性はないです。」
医師:「喫煙や飲酒は?」
患者:「お酒は飲み会で月に1〜2回。タバコは吸いません。」
📝 OPQRST+PAM HITS FOSS まとめ
- O(Onset):発熱は3日前から、頸部腫脹は昨日から
- P(Provocation):飲み込むと痛い、接触痛もあり
- Q(Quality):しこり+熱感+圧痛
- R(Radiation):放散なし
- S(Severity):ズキズキするような痛み
- T(Time course):急性発症、発熱に続発
- PAM HITS FOSS:ワクチン歴あり。喫煙・性交渉・ペット歴なし。月経・妊娠歴に特記事項なし。
📌 Fact・Problem・Hypothesis
- Fact:19歳女性。発熱とともに右頸部リンパ節の腫脹・圧痛・嚥下時痛あり。先行する風邪様症状と接触歴あり。
- Problem:若年女性における、急性発症の局所性リンパ節腫脹+感染兆候(発熱、圧痛)
- Hypotheses
- 反応性リンパ節炎:咽頭炎・扁桃炎によるリンパ節反応と考えると最も頻度が高く、説明可能。
- EBウイルス感染症(伝染性単核球症):若年、発熱+頸部リンパ節腫脹+咽頭痛は典型像。肝脾腫の有無も後で確認したい。
- ワクチン関連リンパ節炎:接種後2週間という時期的関連あり。ただし通常は無痛性のことが多い。
- 壊死性リンパ節炎(菊池病):若年女性、頸部リンパ節炎で発熱持続時には鑑別に加える。
- 悪性リンパ腫:圧痛があり急性経過では可能性は低いが、持続する場合は除外必要。
🩻 Step 2:身体診察の振り返り ― 痛み・圧痛・全身性かを見極める
この時点で考えていたのは…
「まずは反応性リンパ節炎が第一候補。でも、伝染性単核球症や菊池病も否定できない。全身のリンパ節腫脹や肝脾腫の有無、咽頭の所見などを丁寧に診よう。」
🔎 視診・触診
- 局所所見:右頸部に2.5cm程度の腫脹。やや発赤を伴い、境界は明瞭。
- 圧痛:明らかな圧痛あり。可動性あり、皮膚との癒着なし。
- 咽頭所見:咽頭発赤あり。扁桃に白苔や膿栓は見られず。
- 口腔内:潰瘍や歯性病変なし。
- 全身リンパ節:左頸部・腋窩・鼠径に明らかな腫大はなし。
- 肝脾触知:脾臓の触知はなし。肝は肋骨下に軽く触れるが腫大は否定的。
- 皮疹:特記事項なし。
🩺 補助診察(耳鏡・眼底鏡など)
- 鼓膜・中耳:左右とも正常所見
- 眼底:うっ血所見や白斑なし
💡 この診察所見から考えること
右頸部リンパ節の「可動性あり・圧痛あり・炎症性変化あり」という特徴から、感染性(反応性)リンパ節炎が最も疑わしい。
また、全身性のリンパ節腫脹や肝脾腫を認めないことから、伝染性単核球症やリンパ腫の可能性はやや低くなる印象。
ただし、発熱が持続し全身症状が続くようであれば、菊池病など自己免疫性疾患の可能性は残るため、経過観察は重要。
🧪 Step 3:検査の振り返り ― 感染か?腫瘍か?判断の分かれ目
この時点で考えていたのは…
「反応性リンパ節炎が最も濃厚だけど、念のためEBウイルスやKikuchi病も視野に入れて、血液検査を中心にチェックしておこう。リンパ腫っぽさは少ないけど、LDHや末梢血の形態には目を光らせておく。」
🧪 実施した検査と理由
- 血算+末梢血塗抹:感染症か腫瘍かを区別する基本セット。
- CRP:炎症の強さを把握。細菌感染や壊死性疾患の示唆にも。
- 肝機能+LDH:EBウイルス感染や悪性疾患を見逃さないため。
- EBV抗体(VCA-IgM/IgG, EBNA):伝染性単核球症の鑑別。
- 胸部X線:縦隔リンパ節腫脹や肺病変(結核など)を除外するため。
🧾 検査結果
- WBC:9,800 /μL(好中球優位)
- CRP:2.3 mg/dL(中等度上昇)
- AST/ALT:軽度上昇(GOT 42, GPT 48)
- LDH:正常範囲内
- EBV抗体:VCA-IgM陰性、EBNA陽性(既感染パターン)
- 胸部X線:異常なし
🔍 検査所見の解釈
CRP上昇+好中球増多+EBV陰性+LDH正常という組み合わせから、急性のウイルス性・細菌性咽頭炎に伴う反応性リンパ節炎の可能性が高いと考えた。
自己免疫疾患や悪性疾患を示唆するような所見(汎血球減少、著明な肝障害、LDH上昇、異型リンパ球の増加など)は見られなかった。
📌 不要と判断した検査
- PET-CT:現時点では悪性を強く疑う所見がなく、適応外。
- 血液培養:敗血症リスクなし、局所感染にとどまっている。
- 細胞診:1週間程度の経過観察で軽快すれば不要。
✅ 結論:
現時点では、急性の上気道感染に伴う反応性リンパ節炎が最も可能性が高く、抗菌薬投与や経過観察で対応できると判断した。
症状が遷延した場合はKikuchi病や自己免疫疾患、まれにリンパ腫の可能性を再評価するつもりで経過をみていくことに。
ここまでで、問診・身体診察・初期検査を通じて、反応性リンパ節炎が最も疑わしいという結論に至りました。
しかしながら、すべてのリンパ節腫脹が良性とは限らず、経過や所見によっては、さらなる精査や専門医への紹介が必要になります。
次に、どのような場合に専門医へ紹介すべきか、そしてその前にどのような情報を揃えておくべきかを整理していきましょう。
🔁 リンパ節腫脹で専門医に紹介すべきタイミングと判断基準
📌 こんなときは要注意 ― 紹介の判断ポイント
- リンパ節が2週間以上持続している
- 無痛性で徐々に増大している
- 3cm以上のリンパ節
- 硬くて可動性が乏しい(癒着が疑われる)
- B症状(寝汗・体重減少・38℃以上の発熱)のいずれかを伴う
- 頸部以外(腋窩・鼠径など)にも腫脹がある
- 血液異常(貧血、異型リンパ球、LDH高値など)を伴う
- 抗菌薬などの治療に反応しない/むしろ悪化
🕒 Tips:熱型(fever pattern)は立派な鑑別ポイント
リンパ節腫脹を伴う発熱の評価では、単なる熱の「有無」だけでなく、熱型にも注目しましょう。
以下のような特徴的なパターンが、病因を推測するヒントになります:
- 周期性発熱(周期的な高熱と解熱):リンパ腫や結核、マラリアなど
- 持続性高熱:Kikuchi病や自己炎症疾患(例:成人Still病)を示唆
- 日内変動が大きい熱:ウイルス性疾患や膠原病でも見られる
患者が「毎日夕方に熱が上がる」と言った場合、それは単なる感染ではない可能性もあります。
可能であれば、解熱・再発のタイミングと熱型の経過を、家庭で記録してもらうのも一案です。
📋 紹介前に揃えておくべき検査
- 血算・CRP・LDH(腫瘍性かどうかの判断)
- EBV抗体/HIVスクリーニング(若年で多い原因)
- 胸部X線またはCT(縦隔リンパ節腫脹の有無)
- エコー所見(POCUS):境界・血流・液体成分の有無など
紹介先は、耳鼻咽喉科(局所感染・Kikuchi病を含む)または血液内科(悪性リンパ腫・白血病が疑われる場合)が基本となります。
紹介の際は、経過の長さ/大きさの推移/B症状の有無/初期対応への反応を簡潔にまとめておくと、スムーズな連携につながります。
💡 Tips:特殊疾患によるリンパ節腫脹の特徴まとめ
以下の疾患は比較的稀ですが、特有の病歴・身体所見・検査所見を持っており、専門医紹介前に疑っておくべき重要な鑑別です。
疾患名 | 特徴 | 参考ポイント |
---|---|---|
Castleman病 | ・IL-6関連の過剰炎症反応 ・腫瘍性腫大ではないが、しばしば多発リンパ節腫脹+B症状あり ・Unicentric(単中心型)とMulticentric(多中心型)に分類される |
CRP・IL-6高値、貧血、低アルブミン、血小板↑/↓など多彩な所見 MCDではHIV・HHV-8の評価も必要 |
Kikuchi病(壊死性リンパ節炎) | ・若年女性に多く、発熱+圧痛性リンパ節腫脹 ・自然軽快するが、SLEとの関連に注意 |
WBC正常~減少、LDH↑、軽度の肝酵素上昇あり 膠原病との関連があるため長期経過ではSLE評価も |
Rosai-Dorfman病 | ・小児〜若年成人にみられる巨大リンパ節腫大 ・鼻咽頭・頸部に好発し、皮膚や眼、骨などにも浸潤 |
大きくて柔らかい無痛性腫脹。組織診断が必要。貧血・高IgG血症を伴う |
サルコイドーシス | ・無症候性の縦隔・肺門リンパ節腫脹が特徴 ・皮膚・眼病変(ブドウ膜炎)・高Ca血症など多臓器症状を伴う |
ACE↑、血清Ca↑、ツベルクリン反応陰性 CTで両側肺門リンパ節腫脹(BHL)+肺野スリガラス陰影 |
これらの疾患は、「感染に反応しない」「B症状を伴う」「持続的かつ全身性の腫脹」があれば常に念頭に置くべきです。
特にCastleman病やRosai-Dorfman病は見逃されがちなので、診断に難渋する症例では組織診断を検討しても良いでしょう。
📚 Column:Castleman病 ― 多彩な病態と進化する疾患概念
Castleman病は、リンパ節腫脹をきたす疾患の中でも腫瘍性でも感染性でもない特殊な自己炎症性疾患として位置づけられています。
しかしながら、近年はその病態がより多様であることが明らかになり、いくつかの新しい分類や関連疾患概念が提唱されています。
🔍 Castleman病の基本分類
- Unicentric CD(UCD):単一リンパ節に限局し、無症候のことも多い。切除が治療の第一選択。
- Multicentric CD(MCD):全身性のリンパ節腫大、B症状、炎症所見を伴う。さらに以下に分類:
- HHV-8陽性型(HIV合併に多い)
- iMCD(idiopathic MCD):原因不明、IL-6関連病態が中心
🧪 iMCDの臨床的特徴
- B症状(発熱・体重減少・寝汗)+多発リンパ節腫大
- CRP高値、貧血、低Alb、LDH上昇、血小板異常などの全身炎症所見
- リンパ節生検にて「血管過形成型」などの所見を呈する
💊 治療と分子標的薬
iMCDでは、抗IL-6抗体(siltuximab:日本未承認)や、IL-6受容体阻害薬(tocilizumab:アクテムラ)が治療の中心です。
ステロイド単独では不十分なこともあり、治療抵抗性例では早期の使用が検討されます。
🧩 進化する疾患概念と“スペクトラム”の広がり
1. TAFRO症候群
Castleman病の亜型または関連疾患として、日本で報告された全身炎症性疾患です。
以下の特徴から命名されています:
- T:Thrombocytopenia(血小板減少)
- A:Anasarca(全身浮腫)
- F:Fever(発熱)
- R:Reticulin fibrosis(骨髄線維化)
- O:Organomegaly(臓器腫大:肝・脾・リンパ節)
Castleman病と同様にIL-6関連の病態を持ちますが、組織像が典型的でない場合も多く、独立した疾患としての理解も必要です。
2. IPL(idiopathic plasmacytic lymphadenopathy)
Castleman病と鑑別が難しい良性疾患。高IgG血症+リンパ節腫大があるが、全身状態は良好で、自然軽快する例も。
Castleman病と異なり、経過観察で対応可能なこともあります。
3. oligo-centric CD(oligoCD)
UCDとMCDの中間に位置すると考えられる新しい病型で、2〜3か所のリンパ節腫大を呈するが、全身症状や炎症所見の程度が中等度にとどまる症例。
診断・治療方針は個別に判断され、外科的切除またはIL-6阻害薬による治療が選択されます。
📝 Clinical Takeaway
Castleman病は、かつての“珍しい良性疾患”という理解から、免疫炎症スペクトラムの一角をなす重要疾患へと進化しています。
iMCDやTAFRO症候群、oligoCDのような疾患概念を踏まえた上で、早期診断と適切な治療選択を行うためには、専門医との連携が不可欠です。
ここまでで、リンパ節腫脹を訴える患者への診察の流れを一通り整理できました。
ただし、実際の現場では「一見、ただの風邪のようでも、見逃してはならない疾患が潜んでいる」ことも少なくありません。
そこで最後に、問診・診察時のちょっとした工夫や、鑑別のヒントになる英語表現・臨床の知恵を整理しておきましょう。
📝 リンパ節腫脹の診察で役立つTips & Clinical Pearls
🔎 「大きさ」より「変化の仕方」に注目
リンパ節のサイズは参考になりますが、もっと重要なのは「いつから」「どれくらいのスピードで」「増減があるか」という点。
急速な増大は感染症や悪性リンパ腫を示唆することがあります。一方で、数か月前からあって変化がないものは良性の可能性も高くなります。
🌡️ 発熱パターンと鑑別のヒント
熱型に注目することで、診断の手がかりが得られます:
- 周期性発熱(例:3日おき)はマラリアや周期性疾患
- Pel–Ebstein熱(数日発熱→数日解熱)はHodgkinリンパ腫を示唆
💉 血液検査で見逃さないポイント
- sIL-2R:悪性リンパ腫のマーカーとして有用。特にCRPとともに上昇する場合は注意。
- LDH:細胞崩壊マーカーとして、リンパ腫や進行性疾患で高値になりやすい。
🩺 頸部リンパ節診察のコツ
- 左右対称か?固定性はあるか?圧痛の有無で鑑別をつける。
- 皮膚との癒着、潰瘍形成があれば結核や悪性疾患を疑う。
📖 Clinical Pearl
“The eyes don’t see what the mind doesn’t know.”
― Sir William Osler
「知らない疾患は見逃す」。Castleman病やKikuchi病のような希少疾患も、知っていればこそ診断できるのです。
💡 覚えておきたいワンポイント
- 「若年女性+発熱+頸部リンパ節腫脹」でSLE・Kikuchi・伝染性単核球症を常に鑑別に。
- 「発熱+貧血+血小板減少+リンパ節腫脹」→ TAFROや悪性リンパ腫の可能性。
- 「無痛性・徐々に進行するリンパ節腫大」→ 悪性腫瘍のfirst clueであることも。
🗣️ Useful Medical English for Lymphadenopathy
🔤 Useful Medical Expressions(医療者向け英語表現)
- Swollen lymph nodes:腫れたリンパ節(最も一般的な表現)
- Lymphadenopathy:医学的な正式表現(カルテや報告書で使用)
- Palpable nodes / Enlarged cervical nodes:触知可能な/頸部のリンパ節腫脹
- Tender / Nontender:圧痛あり/なし
- Localized vs Generalized:限局性/全身性
- Mattress-like / Fixed vs mobile:可動性の有無(しこりの質を表現)
- B symptoms:fever, night sweats, and weight loss(悪性リンパ腫の警告徴候)
- Shotty lymph nodes:小さくて散在する、良性のリンパ節腫脹に使われる表現
💬 Layman’s Terms & Idioms(患者への優しい説明)
- You may feel a lump here. It’s a swollen lymph node.(ここにしこりがありますが、腫れたリンパ節です)
- It could be a sign your body is fighting an infection.(感染と戦っているサインかもしれません)
- They are usually not dangerous and go away on their own.(たいてい心配なく、自然に治まります)
- We may do some tests just to be sure.(念のため検査をしておきましょう)
- Swollen glands:患者がよく使う俗語(医師が使うときは注意)
🚫 Medical English Glossary(用語と注意すべき英語)
- lymph node:「リンパ節」。誤って“lymph gland”や“lymph tube”と呼ぶ人も多い。
- lymphadenitis:リンパ節炎。細菌感染などによる炎症を伴う腫脹。
- lymphadenopathy:広義のリンパ節腫脹。炎症・悪性・反応性すべてを含む。
- lymphoma:悪性リンパ腫(診断名)。“LAD”との混同に注意。
- “LAD”:省略語として使う場合は、カルテや専門間の会話で限定。患者の前では避ける。
- 発音注意:
- lymphadenopathy(リンファドノパシー)
- cervical(「サービカル」:頸部の意味)
- tender(圧痛がある) vs. tenacious(粘り気のある:意味が全く異なる)
リンパ節腫脹は、日常診療でよく遭遇する症候でありながら、時に悪性疾患のサインであることもあります。
限局かびまん性か、圧痛の有無や発熱・体重減少などの随伴症状を見逃さず、問診・身体所見から鑑別を絞り込んでいく力が問われる場面です。
ここで一度、学んだ内容を整理し、今後の臨床にどう活かせるかを考えてみましょう。
🧾 記事のまとめ
リンパ節腫脹は、「とりあえず経過観察で…」と済まされがちな症候ですが、そこにこそ重要な診断のヒントが隠れていることも少なくありません。
今回の記事では、問診ではどこを深掘りするべきか、身体診察では何を見逃さないようにするか、検査ではどう戦略的に情報を集めるか…という実践的な視点を中心に整理してきました。
特に印象に残ったのは、「見つけたしこり」よりも、「その変化のしかた」や「全身状態との関係」のほうが診断に直結する、という点です。
Castleman病やKikuchi病、TAFROなど、聞きなれない疾患も登場しましたが、「知っているだけで対応が変わる」ことも臨床ではよくあります。
次にリンパ節腫脹の患者さんと出会ったときには、ぜひこの記事での学びを思い出してみてください。
いつもの「風邪」かもしれない。でもその背後に、想定していなかった疾患が潜んでいるかもしれない――そんな視点を持てるようになれば、それはもうあなたが“考える医療者”になっている証拠です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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👉 【English Version】Symptom-Based Approach to Lymphadenopathy
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📚 Reference
- UpToDate. Evaluation of peripheral lymphadenopathy in adults. Accessed July 2025.
- Robbins & Cotran Pathologic Basis of Disease, 10th ed.
- 日本内科学会雑誌:頸部リンパ節腫脹の診かた(2023)
- 厚生労働省 eJIM:Castleman病診療ガイドライン(2023年改訂版)
- Kikuchi-Fujimoto disease: a concise review. Arch Pathol Lab Med. 2018;142(11):1341–1346.