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🧠【症候別アプローチ:運動麻痺 】

問診と神経診察の極意を徹底解説

その動かしにくさ、脳?脊髄?末梢神経?—診察室で見抜く「運動麻痺」の見極め方


✨【2. 神経ってよくわかんない、、、】

「先生、右手が全然動かないんです…」
—突然の運動麻痺に向き合ったとき、あなたは自信を持って診断できますか?
脳?脊髄?末梢神経?それとも…?と考えていくうちに、
段々と頭がぐるぐるしてきて、何から手をつければ良いのか分からなくなることもあります。

運動麻痺・感覚障害は、苦手意識を持たれがちな症状ですが、
実は、問診と身体診察の技術が最も活かせる場面でもあります。

問診で得られる“情報の断片”と、身体診察で拾い上げる“確かなサイン”。
この2つを丁寧に拾い、言語化して組み合わせてこそ、
診断への扉が開きます。

本記事では、医学生や非専門医に向けて、家庭医・総合診療医の視点から、運動麻痺の初期対応を徹底的に解説します。

✅【3. この記事で学べること】

  1. 問診情報から“Problem List”を組み立てる思考法
     ─ Semantic Qualifierを活用した診断アプローチの実際
  2. 神経学的身体診察の実践ポイントとまとめ作成
     ─ 運動麻痺・感覚障害に特化した初期評価の流れを整理
  3. 診断を左右する“Red Flag”の見抜き方と病態の絞り込み
     ─ 急性麻痺、慢性進行性疾患、Parkinsonismの基本分類も

🧓【4. 導入症例】

Doorway Information
70歳・男性
主訴:右手が動かない
バイタル:BP 140/88, HR 84, Temp 36.7℃, SpO₂ 97%

患者:
「朝起きたら右手が全然動かなくて…力が入らないんです。しびれも少しあります。何が起こっているんでしょうか、、、」


🔍【5. どう考える?(First Impression & Approach)】

まずは、外来で症例のような患者さんを見なくてはいけないとなったときに、
皆さんは何を考えるでしょうか?

神経症状にアプローチしていく上で意識してほしいこと、
それは、
今まで通りに問診からProblem listを立てて鑑別を考えるという流れに加えて、
神経学的所見をもとにしたProblem listをもうひとつ作ること——この2本柱で進めていくことです。

この視点を持つだけで、漠然とした「診断の迷い」はかなり整理されてきます。

たとえば、

「右手が動かない」という主訴に対して、私たちが最初にすべきことは、
“どの部位の障害として捉えるべきか”を見極めることです。

中枢性(脳・脊髄)なのか、末梢性(神経根・末梢神経・筋肉)なのか。
その判断がすべての出発点になります。

ここで考えるべき初期の絞り込み視点は以下の3つ:

  • 中枢性か末梢性か?(brain vs spinal vs peripheral)
  • 急性か慢性か?進行しているかどうか?(onset & course)
  • 運動障害だけか?感覚障害・意識障害を伴うか?(他の神経症状の有無)

この時点では、まだ「診断」はつけません。
あくまで「可能性の地図」を広げながら、問診と身体診察で“確かな手がかり”を拾い上げていきます。

そして、Red Flagとして意識すべきは以下の通りです:

  • 脳血管障害(特に皮質運動領域)\
  • 急性脊髄障害(血流障害・圧迫など)\
  • 急性炎症性脱髄疾患(GBS含む)

つまり、急性に生じた運動麻痺である場合は、
身体診察を進めすぎずに、早期に画像検査や血液検査へ移行する判断も必要です。

ここで大事なのは、**「考えすぎて動けなくなる」のではなく、「整理して探しに行く」**という姿勢です。

「問診を起点にProblem Listを作り、
神経診察からさらにProblem Listを作り、
段階的に仮説を立てていく」——
そんな**“2段階の思考”**を積み上げることが、神経診療の第一歩になります。

では実際に、今回の症例を使って、次のステップで整理してみましょう。


🧩【6. Fact → Problem→ Hypothesis】

🗣️Fact(患者の言葉)            

  • 朝起きたら右手が動かないことに気づいた。症状は変わっていない。    →急性発症・固定性の右上肢運動麻痺
  • 力が入らず、しびれ感も少しある         →軽度の感覚障害を伴う運動麻痺
  • 発熱・外傷なし、言語や意識は問題なし      →構音障害・意識障害なし(Red Flagなし)

<Problem list>

#Acute onset, fixed hemiparalysis in the Rt. upper limb
#Mild sensory deficit
#No dysarthria or altered consciousness

作成したProblem listを元にHypothesesを考えます。

今回は、急性かつ片側性であることから、まずは**Vascular(脳血管障害)**を強く疑います。
脳梗塞、特にラクナ梗塞や前頭葉運動野の障害などが候補に挙がります。

また、「症状が固定している」ことから、
GBSや頸椎病変などの進行性疾患の可能性はやや低いと考えられます。

このように、Semantic Qualifierによる再定義は鑑別の絞り込みに直結するという点も意識しましょう。

💡Hypothesis(鑑別診断を考える)

VITAMIN Cに沿って、以下を鑑別に挙げていく:

  • Vascular(脳梗塞・ラクナ梗塞・血栓性塞栓症)
  • Inflammatory(急性炎症性脱髄=GBS、CIDP)
  • Trauma(神経根損傷、頸椎椎間板ヘルニア)
  • Neoplastic(脊髄腫瘍・転移性腫瘍)
  • Congenital(脊髄奇形・動静脈奇形)など

この時点では、「中枢 vs 末梢」の鑑別を意識しながら、
神経診察や検査でどんな情報が必要かを整理していくことがポイントになります。

以上のような思考の整理をしながら、問診や診察を進めて行くことになります
では、実際にどのような質問や診察が必要となるでしょうか
次のStepから詳しく見ていきましょう


📝【7. Step 1:問診(OPQRST + PAM HITS FOSS)】

運動麻痺の診療では、症状のとらえ方そのものが患者と医療者でずれていることが多く、丁寧な問診が非常に重要です。
以下は、OSCEや臨床現場でも活用できるような網羅的な問診項目です。


🔍OPQRST に基づく運動麻痺の問診ポイント

  • O(Onset)
  • いつから気づいたか?(例:「今朝起きたら」)
  • 急性発症か、徐々にか?
  • 明確なきっかけはあるか(外傷、寝違えなど)
  • P(Provocation / Palliation)
  • 動かそうとしたときに悪化するか?
  • 安静にしていると軽快するか?
  • 頭の位置や体位、努力によって変化するか?(→神経根や末梢神経)
  • Q(Quality)
  • 「動かない」とは具体的にどういう感覚か?
    • 力が入らない?
    • しびれ?
    • 脱力感?
    • 筋肉痛のような重だるさ?
  • R(Region / Radiation)
  • どこがどの程度動かないか?
  • 肩〜指先?太もも〜足首?
  • 放散するような痛みやしびれがあるか?(デルマトームの確認)
  • S(Severity/associated Symptom)
  • どのくらい力が入らない?
  • コップを持てる?ボタンをはめられる?
  • 歩ける?階段を登れる?
  • 風邪症状、消化器症状
  • T(Time course)
  • 時間経過でどう変化したか?(固定?進行?改善?)
  • 同様の症状を過去に経験したことがあるか?(再発性ならMSやCIDPも)

🔎 PAM HITS FOSS に基づく背景・生活歴の問診ポイント

  • P(Past medical history)
  • 脳卒中、糖尿病、悪性腫瘍、免疫疾患、外傷などの既往歴はあるか?
  • 特に脳血管障害や糖尿病性ニューロパチーなどは重要な背景となる。
  • A(Allergy)
  • ワクチン後・薬剤投与後の神経症状の有無(→ギラン・バレー症候群の除外)
  • M(Medications)
  • どんな薬を飲んでいるか?
  • 抗がん剤、免疫抑制剤、スタチンなどが神経障害の原因となることも。
  • H(Hospitalization)
  • 最近の入院歴はあるか?(手術や感染症、ベッド上臥位の影響など)
  • I(Injury)
  • 最近の転倒・事故・外傷歴(→脊椎損傷や末梢神経損傷の可能性)
  • T(Trauma)
  • 最近の激しい身体的負荷やスポーツ活動歴
  • S(Surgery)
  • 頸椎・脊椎手術や関節手術の既往(→術後の神経圧迫など)
  • F(Family history)
  • 家族歴に筋萎縮性疾患や遺伝性ニューロパチーはあるか?
  • O(OBGYN history)
  • 妊娠・出産歴や妊娠中の合併症(→産褥期の神経疾患や栄養障害の評価)
  • S(Social history)
  • 飲酒・喫煙・薬物使用
  • 職業(鉛・有機溶媒などの曝露リスク)
  • 食事内容(生食やBBQ、焼き鳥)
  • 日常生活での障害や介護状況(→ADLの把握にも)
  • 海外渡航歴(感染症のリスク)
  • S(Sexual history)
  • 性感染症(梅毒・HIVなど)やパートナー歴、リスク行動の確認

🩺【8. Step 2:身体診察(所見・感度特異度)】

身体診察は、問診で立てた仮説を「ルールイン・ルールアウト」するための次の一手です。
特に神経所見では、“どの部位に病変があるのか”を見極めることが重要となります。


✅ 神経学的診察の基本戦略

運動麻痺の身体診察は、以下の順で評価していくと整理しやすくなります:

  1. 筋力評価(MMT:Manual Muscle Testing)
  • Barré’s sign、Brudzinski’s sign
  • 各筋群ごとに評価(例:Deltoid, Biceps, Triceps, FCR, Interossei)
  • 左右差に注目(例:右上肢 TB 3/5, FCR 3/5 など)
  1. 腱反射の確認
  • 上肢:biceps, triceps, brachioradialis reflex
  • 下肢:patellar, Achilles reflex
  • 亢進 or 低下(→ 上位運動ニューロン障害 or 下位運動ニューロン障害)
  1. 病的反射・原始反射
  • Babinski徴候(→錐体路障害)
  • Hoffmann反射
  1. 感覚検査(light touch, pain, vibration, proprioception)
  • dermatomal分布か? glove & stocking型か?
  • 触覚と温痛覚で分離があるか?(脊髄病変の示唆)
  1. 協調運動(ataxia)・歩行
  • 指鼻試験、踵膝試験、Romberg徴候
  • 歩行観察(小刻み歩行・分回し歩行など)
  1. 頭頸部診察(脳神経 II〜XII)
  • CN II(視神経):視力、視野、眼底検査(視神経萎縮・うっ血乳頭)
  • CN III, IV, VI(動眼・滑車・外転神経):眼球運動、眼瞼下垂、複視の有無
  • CN V(三叉神経):顔面の感覚、咬筋・側頭筋の萎縮や開口障害
  • CN VII(顔面神経):額のしわ寄せ、閉眼、口角の動き
  • CN VIII(内耳神経):聴力低下、耳鳴り、めまい
  • CN IX, X(舌咽・迷走神経):構音障害、嚥下障害、口蓋挙上の左右差、咽頭反射、カーテン兆候の有無
  • CN XI(副神経):僧帽筋・胸鎖乳突筋の筋力低下(肩の挙上や顔を回す力)
  • CN XII(舌下神経):舌の萎縮・線維束攣縮・偏位方向(病変側へ偏位)
  1. その他全身所見
  • 発熱、皮疹(感染性 or 膠原病性)、筋萎縮・線維束攣縮(ALSなど)

🧠 問診と併せて考える「神経学的 Problem List」

以下のように、神経所見に基づいた“もうひとつのProblem List”を作成することで、
部位診断が一気に具体化します:

<神経学的所見まとめ>

  • #右上肢 flaccid paralysis(TB 3/5, FCR 3/5)
  • #腱反射低下(右上肢)
  • #病的反射なし(Babinski flex)
  • #感覚障害あり(light touch ↓ C5〜C6 領域)

📝 神経学的所見の記載例(英文チャートスタイル)

  • Pupils: 3mm/3mm, PRL prompt/sluggish
  • EOM: EOMI (extraocular movements intact), no diplopia
  • Facial symmetry: intact, forehead spared → suggests central VII
  • MMT: delt 5/5, BB 4/5, TB 4/5
  • Reflexes: biceps 1+, patellar 2+, Babinski: ext/ind/flex, Chaddock +/-
  • Sensation: decreased to light touch and pinprick in C5–C6 dermatomes
  • Coordination: FNT n/dys
  • Gait: normal tandem gait, negative Romberg

このように、診察所見は単なる“陽性・陰性”の集積ではなく、
問診で描いた仮説を「支持する根拠」として再構成する作業だと捉えましょう。

また、神経学的所見のまとめを作成することで、鑑別のさらなる絞り込みや症状の進行を評価することができます

次はいよいよ、必要な検査をどう選ぶかという【Step 3】へ進みます。


🧪【9. Step 3:検査・画像】

Step 1・2で仮説を立てたら、次はそれを検証・補強するための検査を選びます。ここでは「運動麻痺」を主訴とする患者に対して、まず考慮すべき基本的な検査項目を列挙します。


🧾 基本の検査セット(どの症例でも押さえたい)

  • 血液検査
  • CBC(白血球・貧血)
  • 甲状腺機能(TSH, FT4)※甲状腺機能低下症による筋症・末梢神経障害の評価
  • 副腎機能(AM cortisol, ACTH)※慢性副腎不全による筋脱力が疑われる場合
  • CRP(炎症所見)
  • 電解質(Na, K, Ca, Mg)
  • CK(筋障害の有無)
  • HbA1c / 血糖(糖尿病性ニューロパチー評価)
  • ビタミンB12、葉酸、銅
  • 抗核抗体・ANCA(膠原病疑い時)
  • 感染症(HIV、梅毒、ヘルペス、EBV、CMV、HTLV-1など)
  • 画像検査
  • 頭部CT(出血・大梗塞の除外)
  • 頭部MRI(ラクナ梗塞、脱髄疾患、小病変の検出)
  • 頚椎MRI(頸椎症・脊髄圧迫・腫瘍など)
  • 神経伝導検査 / 針筋電図(EMG)
  • 急性 or 慢性、脱髄性 or 軸索性、末梢 or 中枢の鑑別に重要
  • 髄液検査(必要時)
  • GBS、感染性髄膜炎、中枢炎症性疾患などが疑われる場合

💬 心の声(なぜこの検査?)

  • 「CTで出血さえ除外できれば、次はMRIで病変の精密評価をしたい」
  • 「CKが高ければ筋原性も考えるし、低ければ末梢神経が中心かな」
  • 「神経伝導は“今すぐ”じゃなくて、ある程度進んでからの方が変化が見える」

検査はあくまで「仮説を検証する手段」。
すべてを闇雲にオーダーするのではなく、Step 1・2で絞った鑑別を意識しながら、必要な情報だけを取りに行くという姿勢を持ちましょう。

次は導入症例に立ち戻り、ここまでの流れを一緒に振り返ります。


🔁【10. 症例で振り返る】

さてここまで、Step1〜3に沿ったアプローチを整理してきました。
すでに「Fact → Problem(Semantic Qualifier)→ Hypothesis」に基づき考えていますが、
ここでもう一度、身体診察も含めて振り返りましょう

🟦 Step 1:問診の振り返り(Fact → Problem → Hypothesis)

医師:「今日はどうされましたか?」
患者:「今朝起きたら、右手が全然動かないんです。力も入らないし、少ししびれます。」

→ 急性発症の片側性運動麻痺であり、症状は固定。Red flag(構音障害・意識障害)は現時点でなし。

Fact:今朝から右上肢が動かない/軽度のしびれあり/症状は固定/構音・意識正常
Problem:急性・固定性の右上肢片麻痺、軽度感覚障害を伴う、Red flag所見なし
Hypothesis:Vascular(ラクナ梗塞など)、頚髄障害、神経根圧迫、脱髄疾患、代謝性(電解質・甲状腺)など


🟦 Step 2:身体診察の振り返り

  • MMT:TB 3/5、FCR 3/5、ED 4/5
  • 腱反射:BB ±/+, TB ±/+, BR ±/+
  • 病的反射:Babinski陰性(flexor bil.)
  • 感覚:C5〜C6領域で触覚・温痛覚低下あり
  • 脳神経:異常なし(II〜XII)

→ 神経所見に基づくProblem List:
#右上肢 flaccid paralysis(TB 3/5, FCR 3/5, ED 3/5)
#腱反射低下(BB ±/+, TB ±/+, BR ±/+)
#触覚低下(light touch ↓ C5〜C6)

→ 所見はC5〜C6支配の運動・感覚障害に一致しており、頸髄または神経根障害の可能性が高いと判断される


🟦 Step 3:検査の振り返り

  • 血液検査:電解質・炎症反応正常、CK正常、HbA1c正常、ビタミンB12正常、甲状腺機能正常
  • 画像検査:頭部CTで出血なし → 頭部MRIで異常なし → 頚椎MRIでC5/C6で椎間板ヘルニア確認
  • 神経伝導検査:右C6領域の神経根障害を示唆

診断:右C6神経根症(椎間板ヘルニアによる圧迫)


このように、各stepを用いてFPH法で整理していき、神経学的所見をまとめることで、複雑に見える神経症状も段階的に明らかにでき、診断への道筋がスムーズになります。
「どこが悪いか」を段階的に絞り込むことで、無駄な検査や過剰な治療を避けつつ、効率的な診断につながります。


💡【11. Tips(問診・身体診察のコツ)】

🗣️ 問診のTips

  • 「どの部位が」「どのように動かないか」を具体的に聞く:
  • 例:「手首から下がまったく動かない」「肩は動くけど肘から先が重い」など
  • 症状の“質”を明らかにする:
  • 「力が入らない」「感覚がない」「ビリビリする」など、患者の表現を丁寧に引き出す
  • 動作を実際に再現してもらう:
  • 「いつも通り腕を上げてみてください」「コップを持つ動作をしてみてください」など

🧠 身体診察のTips

  • 神経診察は“左右差”と“分布”が鍵:
  • 上肢であればC5〜T1の筋力・感覚・反射を系統的に評価する
  • MMTでは「どの筋が・どの神経支配で・どれくらい弱いか」を意識:
  • 例:Deltoid(C5)、Biceps(C5/6)、Triceps(C7)など
  • 病的反射や原始反射の評価を忘れずに:
  • Babinski、Hoffmannはルーチンで確認
  • 所見が曖昧でも、曖昧なまま正直に記録する:
  • 例:「感覚は左右差あり、デルマトームには一致しない」など

📝 所見のまとめ方(メモの工夫)

  • Problem List形式で簡潔に記録:
  • #右上肢 flaccid paralysis(TB 3/5)
  • #腱反射低下(BB ±/+)
  • #感覚障害(C5〜C6)
  • 英文チャートスタイルの記載も覚えておくと便利:
  • Pupils: 3mm/3mm, PERRL
  • EOMI, no facial asymmetry
  • Strength: Rt deltoid 3/5, FCR 3/5

問診・身体診察の段階で仮説が立っていれば、検査は「仮説を確認する手段」として機能します。
そのため、検査前に「どの結果が出たら何をするか」をあらかじめシミュレーションしておくことが、診断の見逃しや判断の遅れを防ぐ鍵になります。


💬 実践に活きる知識と英語表現集


🧠【12. Clinical Pearls】

“When you hear hoofbeats, think horses, not zebras.”
─ Theodore Woodward, M.D.

これは医学教育の世界でよく使われる言葉で、「まずはよくある疾患から考えよう」という臨床推論の基本を表しています。運動麻痺の診療でも、「脳梗塞」や「神経根症」など頻度の高い疾患から丁寧にルールアウトしていく姿勢が大切です。


“Neurology is not about knowing all diseases—it’s about localizing the lesion.”
─ Anonymous (Neurology proverb)

部位診断ができれば、疾患はあとからついてきます。まさにこの記事で繰り返してきた、“どこが悪いか”を段階的に絞り込む姿勢が、神経診療の核心と言えます。


🗣️【13. Useful Medical Expressions(医療英語フレーズ)】

📝 症状の尋ね方・確認の表現

  • “Can you tell me exactly what part of your arm feels weak?”
  • “Is it just weakness, or do you also feel numbness or tingling?”
  • “Was it sudden, or did it gradually worsen over time?”

💬 運動麻痺に関連するキーフレーズ

  • “He has flaccid paralysis of the right upper limb.”
  • “The deep tendon reflexes are diminished on the affected side.”
  • “Muscle strength is 3 out of 5 in the biceps.”
  • “There’s decreased sensation in the C5–C6 dermatome.”

📋 所見や評価の説明時に使える表現

  • “We suspect a nerve root compression around the cervical spine.”
  • “Your symptoms suggest a problem with the peripheral nerves.”
  • “We need an MRI to localize the lesion more precisely.”

簡潔かつ的確に伝えることが求められる神経診察では、これらの表現を覚えておくと実践でも非常に役立ちます。


📚 よく使う医療単語・疾患名(Medical Vocabulary & Trivia)

  • paralysis(麻痺) / paresis(不全麻痺)
  • numbness(しびれ) / tingling(ぴりぴり感)
  • stroke(脳卒中) / cerebral infarction(脳梗塞)
  • cervical spondylosis(頚椎症) / disc herniation(椎間板ヘルニア)
  • multiple sclerosis(多発性硬化症) / Guillain-Barré syndrome(ギラン・バレー症候群)
  • electromyography(筋電図) / nerve conduction study(神経伝導検査)

🧩 医療豆知識(Mini Trivia)

  • paralysis と paresis の違い
  • paralysis は「完全麻痺」、paresis は「不全麻痺」や「軽度の麻痺」を指す。たとえば、facial paresis は「顔面の軽度麻痺」と訳される。
  • 感覚の表現
  • numbness(しびれ)、tingling(ぴりぴり感)、burning(焼けるような痛み)、pins and needles(チクチクする感覚)など、患者が自覚する感覚を正確に英語で表現する語彙も習得しておきたい。
  • 頚椎症性脊髄症 vs. 頚椎症性神経根症
  • cervical myelopathy(頚椎症性脊髄症)は脊髄自体の圧迫による中枢性障害で、両下肢の痙性歩行や手指巧緻運動障害を示す。
  • cervical radiculopathy(頚椎症性神経根症)は特定神経根の障害による末梢性麻痺で、片側の感覚障害や筋力低下が主な症状。

🗨️【14. Layman’s Terms & Idioms(患者向けの優しい言葉・言い回し)】

👂 専門用語をかみ砕いて伝えるコツ

  • “paralysis” → 「It means you can’t move that part of your boby well.」
  • “numbness” → 「It feels dull or tingly.」
  • “nerve root compression” → 「The nerve in your neck may be getting pinched by a bone.」
  • “disc herniation” → 「A cushion between the bones in your spine may have slipped and is pressing on a nerve.」

💬 患者が使いやすい表現

  • 「My hand doesn’t move well.」「I feel week.」
  • 「I feel tingly.」「It’s like a buzzing or pins-and-needles feeling.」
  • 「It feels dull.」「I can’t really feel when something touches me.」
  • 「My hand feels floatly or strange.」「I don’t feel any strength or resistance.」

🗣️ 医療者からの説明の工夫

  • 「今の状態は“神経”が関係している可能性があります」 →”Your current symptoms might be related to your nerves.”
  • 「検査で、“どこが悪いか”を詳しく調べていきますね」 →”We’ll do some tests to find out exactly where the problem is.”
  • 「いわゆる“頚椎症”といって、加齢によって骨やクッションが変形してくるものです」 →”It’s what we call ‘cervical spondylosis,’ which happens when the bones and discs in the neck changes with age.”

医学用語は正確さが求められる一方で、患者さんとの対話では「伝わること」が最優先です。 比喩や日常語を織り交ぜて、安心感を与える説明を心がけています。


🌍【15. Medical English Insights(発音・表現の違いを理解する)】

🇬🇧🇺🇸 イギリス英語 vs アメリカ英語の表現差

ConceptU.S. EnglishU.K. English
脳梗塞strokecerebrovascular accident (CVA)
神経根症radiculopathynerve root entrapment
麻痺paralysis / paresis同じ(発音がやや異なることも)

🗾 日本語とのずれが大きい表現

  • しびれ:日本語の「しびれ」は“numbness”だけではなく、“tingling”や“pins-and-needles”も含まれる。英語では患者の表現に応じて適切に使い分ける必要がある。
  • 神経痛:「神経痛」という日本語は医学的には曖昧で、英語では“shooting pain”(電撃痛)、“burning pain”(灼熱痛)など症状に応じた具体的な表現が必要。
  • けいれん:日本語の「けいれん」は、英語では“tremor(振戦)”と“convulsion(痙攣)”に分けられる。誤用に注意。

🗣️ 発音で注意すべき用語(カタカナ表記とのギャップ)

TermIPAJapanese Misreading
Guillain-Barré/ˈɡiːjɑːn ˈbɑːreɪ/ギラン・バレー × → ギヤーン・バレイ ○
Brudzinski/bruːˈdʒɪnski/ブルジンスキー ○
Hoffmann’s/ˈhɒfmənz/ホフマン ○
Kernig’s/ˈkɜːrnɪɡz/ケルニッヒ × → カーニグズ ○

💡Medical Englishはただの単語帳ではなく、「発音」「文脈」「患者との橋渡し」がカギ。 日本語とのズレを意識しながら、英語の医学表現を使いこなそう。


📝【16. 記事のまとめ】

お疲れさまでした!ここまで読んでくださってありがとうございます。

「動かしにくい」「感覚がおかしい」——患者さんがそう訴えたとき、あなたはどう診察を始めるでしょうか?
一見シンプルに聞こえる症状の裏には、脳・脊髄・末梢神経…そして時にはホルモン異常や薬剤性など、驚くほど多彩な原因が隠れています。

今回の記事では、そんな“運動麻痺・感覚障害”という難解なテーマを、できるだけ構造的に、かつ現場感をもって解説してみました。
特にStep 1〜3では、OSCEや日常診療に活きる問診と身体診察のコツを詰め込みました。

後半では、医学英語や表現の違いについても触れ、「英語で診療する力」も一緒に育てていけるような構成を意識しました。

診断に迷ったとき、患者さんの「言葉」や「動き」にもう一度丁寧に向き合ってみてください。
きっと、見落としていたヒントや、“パターン”が見えてくるはずです。

この記事が、あなたの診察室でのヒントや支えになれば嬉しいです。
これからも一緒に、臨床の引き出しを増やしていきましょう!


🔗【17. 他の記事へのリンク】


📚【18. Reference】

  1. DeMyer W. Techniques of the Neurologic Examination. McGraw-Hill; 2004.
  2. Preston DC, Shapiro BE. Electromyography and Neuromuscular Disorders. Elsevier; 2020.
  3. 日本神経学会. 神経学の進歩 第63巻, 2019.
  4. 糖尿病診療ガイドライン 2023. 日本糖尿病学会.
  5. UpToDate: “Approach to the patient with peripheral neuropathy”

「🧠【症候別アプローチ:運動麻痺 】」への1件のフィードバック

  1. ピンバック: 【I woke up and my arm wouldn't move..." – Mock Patient Scripts for Motor Paralysis】 ー Med Student's Study Room

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