「レントゲンで“水が溜まってる”って言われました…」
胸水は所見であり、疾患ではありません。
その背後にある病態を、どう読み解くかが腕の見せ所です。
🔰 今日のまとめ(この記事で学べること)
- 胸水という“結果”から原因疾患へ迫るアプローチ
- 鑑別を「滲出性 vs 漏出性」に分けるLight’s criteriaの活用法
- 胸水穿刺と画像検査、いつ・どう使い分けるか
🚪 導入症例
「最近ずっと息苦しくて…風邪かと思ったけど良くならなくて…」
60代の男性。軽い努力性呼吸困難と咳嗽を訴え来院。
胸部X線で右下肺野に鈍濁影あり。
➡ 胸水?それとも無気肺?それとも腫瘤?
🤔 さて、あなたならどう考えますか?
胸水(pleural effusion)は、症候や所見の一つにすぎません。
しかしその背景には…
- 心不全や肝硬変などの体液貯留疾患
- 肺炎・結核・悪性腫瘍などの局所炎症や浸潤
- 自己免疫疾患や膠原病などの全身性疾患
🧭 Step 1:問診でキャッチすべきこと
- 発症時期と経過(急性 vs 亜急性 vs 慢性)
- 片側性?両側性?(心不全 vs 悪性腫瘍 vs 結核など)
- 呼吸困難の性質(横になると悪化?歩行時のみ?)
- 発熱、体重減少、咳、喀痰、夜間発汗
- 渡航歴・結核接触歴・悪性腫瘍の既往歴
🩺 Step 2:身体診察のポイント
- 胸部打診:濁音
- 呼吸音:減弱または消失
- 肋間部の膨隆、胸郭の非対称
- 起座呼吸、SpO₂低下
📌 両側性 → 心不全・低Alb
📌 片側性かつ慢性経過 → 悪性腫瘍・結核
🚨 Step 3:Red Flags(要注意シグナル)
- 高熱+片側胸水 → 膿胸(Empyema)
- 体重減少+慢性片側胸水 → 悪性腫瘍
- 血痰・咳 → 肺癌や結核性胸膜炎
- 胸痛(pleuritic) → 自己免疫や感染性疾患
🧪 Step 4:検査戦略(ワークアップ)
画像評価
- 胸部X線:鈍濁影、仰臥位でも可
- エコー(POCUS):少量でも描出、穿刺に有用
- CT胸部:腫瘍、無気肺、胸膜肥厚、気管支狭窄、浮腫など
胸水 vs 無気肺の見分け方
- 無気肺:肺の収縮でvolume loss、気管偏位「患側」へ
- 胸水:体積増加で気管偏位「健側」へ
胸水穿刺(Thoracentesis)
📌 **穿刺が可能な量があり、安全な場所に溜まっているなら、まずは穿刺して診断へ近づこう!**
- 外観(血性・膿性・乳び)
- Light’s criteria:
- 胸水/血清LDH比 > 0.6
- 胸水/血清蛋白比 > 0.5
- 胸水LDH > 2/3 正常上限
- ADA(結核)、CEA、細胞診、培養など
血液検査
- CBC、CRP、Alb、BNP、腫瘍マーカー
- ADA、ANA、RF など
🔍 Step 5:鑑別診断フレーム
📌 **鑑別に迷ったときは「まず穿刺で滲出性かどうか」を押さえると、次の一手が見えてくる!**
分類 | 代表疾患 | 特徴 |
---|---|---|
漏出性 | 心不全、肝硬変、ネフローゼ | 両側性が多く、軽度 |
滲出性 | 肺炎、悪性腫瘍、結核、膠原病 | 片側性が多く、再貯留しやすい |
特殊型 | 乳び胸、血胸、膿胸 | 外観で明確、緊急性高い |
📖 導入症例に戻ってみよう
・徐々に進行する右側胸水
・微熱と体重減少あり
・CTで右肺門部に腫瘍性病変
・胸水穿刺で滲出性+腺癌細胞(cytology)
👉 診断:肺腺癌による癌性胸膜炎
呼吸器内科へ紹介、治療へ
🧠 まとめ:どう対応するか整理しよう
- 胸水は「結果」であり、「原因」を探ることが最重要
- Light’s criteriaで滲出性 or 漏出性を分類
- エコー+CT+穿刺の三本柱でアプローチ!
👀 Take Home Messages
- 胸水は「所見」であり「診断」ではない
- 穿刺できるなら、まず穿刺
- 背後の疾患を見極める“視点”を忘れずに
📘 Clinical English(臨床英語表現集)
日本語 | 英語表現 |
---|---|
胸水 | Pleural effusion |
濁音 | Dullness to percussion |
呼吸音減弱 | Decreased breath sounds |
胸水穿刺 | Thoracentesis |
漏出性胸水 | Transudative effusion |
滲出性胸水 | Exudative effusion |
膿胸 | Empyema |
乳び胸 | Chylothorax |
胸膜肥厚 | Pleural thickening |
血胸 | Hemothorax |
🔗 次に読むべき記事
📚 参考文献
- UpToDate: “Evaluation of pleural effusion in adults”
- 日本呼吸器学会「胸膜疾患診療ガイドライン」
- Harrison’s Principles of Internal Medicine
- BMJ Best Practice: Pleural effusion
ピンバック: 【Symptom-Based Approach: Pleural Effusion】 ー Med Student's Study Room