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動悸(Palpitations)の診かた|それって心原性?

突然の鼓動、ドキドキ、バクバク…「何かある?」と焦るその症状に、どう向き合えばよいのか。


📌 今日のまとめ(この記事で学べること)

  • 動悸を訴える患者にどうアプローチするか
  • 不整脈以外に注意すべき鑑別疾患と見逃しポイント
  • 問診と身体診察から“緊急性”を判断するフレームワーク

🚪 導入症例

「先生、最近ドキドキが続いて…夜も目が覚めるんです」
と語るのは、40代の女性。バイタルは正常。EKGも異常なし。
さて、この症例、あなたならどう考えますか?


🤔 どう考える?

動悸(palpitations)とは「自分の心拍を意識すること」。つまり、主観的な訴えです。

ですが、その背景には…

  • 生命を脅かす不整脈
  • 甲状腺疾患や貧血などの内科疾患
  • 精神的ストレスやパニック障害

といった多彩な原因が隠れており、侮ることはできません。


🪜 Step-by-Step アプローチ

1. Red Flag を見逃すな!

  • 意識消失(syncope)や前失神(pre-syncope)
  • 強い息切れ(SOB)や疲労感
  • 胸痛、冷汗、頻脈(tachycardia)
  • 多発する打撲痕(DVや血小板減少も考慮)

➡ これらがあれば、即座に心電図・採血・心エコーを検討!

2. 問診でリズムとトリガーを探る

  • 鼓動のリズム:「机の上で叩いてみてください」
  • 不規則:AF などの不整脈 / 規則的:SVT など
  • 誘因(provoking factors):ストレス?カフェイン?運動?
  • 病歴・薬剤歴:甲状腺疾患、貧血、薬物使用

🎯 Mnemonic: vItMIn cd

  • I: Infection
  • M: Metabolic(低血糖、甲状腺機能亢進、貧血)
  • I: Iatrogenic(薬剤・カフェイン・覚醒剤)
  • C: Cardiac(不整脈)
  • D: Drug abuse or psychiatric(不安障害、Panic disorder など)

3. 身体診察で“ヒント”を拾え!

  • 甲状腺腫や手指の振戦 → 甲状腺機能亢進症
  • 結膜の蒼白 → 貧血
  • 不整な脈拍 → 不整脈
  • 頸静脈の拍動(Frog sign)→ AVNRT

🔍 考え得る鑑別診断(DDx)

1. 不整脈(最も多く、かつ重要)

種類疾患名特徴
上室性SVT、AF、AFL、AVNRT、AVRT(WPW)頻脈・不規則脈
室性VT、VF、Torsades de Pointes危険な不整脈、失神の原因にも
徐脈性SSS、AVブロックAdams-Stokes症候群の原因
期外収縮PAC、PVC自覚しやすく、頻度次第で病的に

2. 心疾患以外の原因

カテゴリ疾患例
内分泌甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫
代謝低血糖、貧血、発熱、脱水
薬剤β刺激薬、抗不整脈薬、カフェイン、甲状腺薬
精神不安障害、パニック障害、身体表現性障害
その他起立性低血圧、姿勢性頻脈症候群(POTS)など

🩺 検査の進め方(ワークアップ)

  • 心電図(EKG):必須!まずはここから
  • ホルター心電図:持続的 or 間欠的かで使い分け
  • 採血:TSH、CBC、電解質、血糖
  • 心エコー:構造的心疾患や弁膜症を評価
  • 負荷心電図:運動誘発性の評価に

📖 実際に導入症例に戻ってみよう

この女性は…
・夜間にも動悸で目覚め、日中もソワソワ
・発作は数分で自然軽快するが、日常生活に支障
・カフェイン摂取が多く、仕事のストレスも強い

検査はすべて正常だったが、症状の詳細な記録をつけてもらうと…
→ パニック障害による頻脈性発作性動悸と診断。
→ SSRIと心理的サポートで改善。

しかし…ここで大事な視点を1つ。

動悸が出ている “その時” でなければ、EKGは異常を捉えないことが多い。

そのため、以下のような検査を検討する場合もあります:

  • ホルター心電図(24時間) → 頻度が高い/症状が毎日起きる人に
  • イベントレコーダー → 数日に一度など頻度が低い場合
  • 血液検査: 甲状腺、電解質、貧血、心筋逸脱酵素

📝 補足:異常がなかった時の説明
「今回行った心電図は、あくまで数秒間の記録です。
明らかな異常が出ていない場合でも、症状が続くようであれば更なる精査も行えますので、また教えてください。24時間連続での記録や、より詳しい心エコー検査など、またご相談ください。」


🧠 さて、いかがでしたか?

「動悸=不整脈」と即断するのは早計だと感じたのではないでしょうか?

今日のポイントを振り返ってみましょう:

  • 赤旗症状は絶対に見逃さない
  • 問診の質が診断を左右する
  • 心因性も含めて“全身から心臓まで”を広くカバー

👀 Take Home Messages

  • 動悸は「心臓の病気」とは限らない
  • 最も大事なのは初期対応:Red Flag の見極め!
  • 精神的な要因も含めた全人的評価が重要

📘 Clinical English(臨床英語表現集)

日本語英語表現
動悸Palpitations
心拍が飛ぶSkipping beats
不整脈Irregular heartbeat
甲状腺腫Goiter
貧血Anemia
頻脈・徐脈Tachycardia / Bradycardia
冷や汗Cold sweat
意識消失Syncope
表情が乏しいFlat affect
血圧低下Hypotension

🔗 次に読むべき記事は?


📚 参考文献

DSM-5 精神疾患診断・統計マニュアル

Harrison’s Principles of Internal Medicine

UpToDate “Approach to palpitations”

日本不整脈心電学会ガイドライン 2020

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