腹痛の診断とマネジメント|基礎医学から臨床判断までを3層で理解する
腹痛は、外来・救急・病棟のいずれでも遭遇する最頻症候のひとつです。
一方で、原因は消化管疾患にとどまらず、血管・代謝・感染・腹腔外疾患まで多岐にわたり、
「なんとなく胃腸炎」と判断してしまうことが、重大な見逃しにつながることも少なくありません。
本記事では、腹痛診療を基礎医学 → 臨床推論 → 臨床マネジメントの
3層構造(3 layers)で整理し、
鑑別に迷わず、診断後に「何をすべきか」まで一貫して理解できることを目標としています。
医学生から研修医・専攻医、USMLE Step1/2を目指す学習者まで、
腹痛を体系的に理解し、実臨床で使える知識をまとめた
「横に置いて参照できる教材」として活用してください。
この記事の構成(3 Layers)
Layer 1|腹痛を理解するための基礎医学
Layer 1:基礎医学で理解する「腹痛はなぜ起こる?」
腹痛は「どこが痛いか」だけで考えると迷子になりやすい症候です。
ここでは、解剖・発生学・神経生理・生理/生化・病理/免疫を使って、
痛みを“病態の翻訳”として読める状態を目指します(USMLE Step1/2 & 臨床推論の土台)。
- 腹痛を部位ではなく機序で説明できる
- visceral / parietal / referred painを神経解剖で理解する
- 疝痛・持続痛・激痛(所見乏しい)を閉塞/炎症/虚血に翻訳できる
- 腹膜刺激所見(rebound/guarding等)を反射・神経で説明できる
- Layer2:臨床推論の型(VITAMIN CDE × 病態 × 6領域)
- Layer3:疾患別ガイドライン(虫垂炎・胆道・膵炎・憩室炎・腸閉塞など)
- このLayerは「なぜそう判断するか」の根拠集
1|解剖学:腹腔内 vs 後腹膜で「痛みの振る舞い」が変わる
腹痛を“臨床で使える解剖”にする鍵は、臓器の場所を覚えることよりも、
①可動性(捻転しやすさ)と②炎症・出血の拡がり方を理解することです。
1-1|腹腔内臓器(intraperitoneal)
- 腸間膜で“ぶら下がる”構造 → 可動性が高い
- 炎症・滲出液・出血が腹腔内に拡がりやすい
- 腹膜刺激(parietal peritoneum)が関与しやすく、腹膜刺激症状が出やすい
- 捻転(volvulus):可動性がある腸管ほど起こりやすい
- 腹膜炎:腹腔内へ拡がりやすい炎症は腹膜刺激が前景に出る
- 腹腔内出血:体位依存で貯留(後述:Morison窩/Douglas窩)
1-2|後腹膜臓器(retroperitoneal)
- 体壁側に比較的固定 → 一般に捻転しにくい
- 炎症・出血が後腹膜腔に限局しやすい(早期に腹膜刺激が出にくいことがある)
- 背部痛/腰痛として出現しやすい(膵・腎・大動脈など)
「後腹膜臓器は包まれているから広がりにくい?」の感覚はかなり正しく、
実際には腹腔(腹膜腔)に直接こぼれないため、炎症・出血が腹腔全体へ拡がりにくいことがあります。
その一方で、腹膜刺激が乏しく“重症感が見えにくい”ケースもあるため注意が必要です。
1-3|豆知識:消化管は「腹腔内↔後腹膜」が交互に切り替わる
消化管は一続きなのに、部位によって腹腔内/後腹膜が交互に変わります。
この“切り替わり”が、痛みの性質・腹膜刺激の出方・背部痛の出現に影響します。
1-4|出血はどこに溜まる?(腹腔内 vs 後腹膜)
- 腹腔内出血:重力で“低いところ”に貯留(例:Morison窩、Douglas窩)
- 後腹膜出血:後腹膜腔に沿って拡がり、腹部所見が乏しいことがある(痛みは強いことも)
2|血管解剖:SMA/IMAは「痛みの分布」と「虚血の怖さ」を決める
腹部血管は、USMLEでも臨床でも「痛みの位置」だけでなく
虚血がどこまで広がるか(=緊急度)を決めます。
2-1|SMA/IMAの支配(ざっくり)
- SMA:十二指腸遠位〜小腸〜結腸近位まで(広い)
- IMA:結腸遠位〜直腸上部
- SMA領域の虚血は広範囲になりやすい(=重症化しやすい)
- 「痛みが強いのに所見が乏しい」は虚血を疑う発想につながる
2-2|上腸間膜動脈症候群(SMA syndrome)を解剖で理解する
SMA syndromeは“解剖そのものが病気”です。
大動脈(aorta)とSMAの間を通る十二指腸第3部が圧迫されることで起こります。
- 体重減少などで周囲脂肪が減る → aorta–SMAの角度が狭くなる
- 結果:十二指腸通過障害 → 食後腹痛、嘔吐、体重減少(悪循環)
3|発生学:Day × 誘導因子で「痛みの初期局在」を説明する
腹痛の“初期の場所”は、解剖だけでなく発生学(foregut/midgut/hindgut)と
神経支配の原型で説明できます。
ここが分かると、虫垂炎の「臍周囲→RLQ」などが“暗記”から“理解”に変わります。
3-1|Day 15–21(第3週):Gastrulation(原腸形成)
- 内胚葉・中胚葉・外胚葉が分かれる
- 消化管上皮は内胚葉由来
- Nodal / FGF / Wnt-β catenin:系統分化の基本軸
3-2|Day 22–28(第4週):胚のfolding → 原始腸管の形成
- 腸管が形成され、foregut / midgut / hindgutに区分
- この区分が、のちの痛みの初期局在と結びつく
- SHH:腸管のパターニング
- HOX:部位特異性の設計図
3-3|Week 5–6:中腸の成長・生理的ヘルニア/回転
- 中腸が急成長し、一時的に臍帯内へ突出
- SMAを軸に反時計回り回転(臨床的に重要)
3-4|Week 10:腸管の再還納と最終回転(計270°)
- 固定不全・回転異常は、通過障害や捻転リスクに関連
3-5|foregut / midgut / hindgut と「痛みの初期局在」
4|神経生理:visceral / parietal / referred pain を“神経”で理解する
4-1|内臓痛(Visceral pain)
- 自律神経求心路が主体 → 局在が曖昧、鈍い痛み
- 主な刺激:伸展、収縮、虚血、炎症
4-2|体性痛(Parietal pain)
- 壁側腹膜(parietal peritoneum)など体性神経 → 鋭く局在明瞭
- 体動・咳・歩行で増悪しやすい
4-3|関連痛(Referred pain)
- 内臓求心路と体性求心路の“収束”で、別部位に痛みとして知覚
- 臨床では「痛い場所=病変部位」と限らない
- 胆嚢・胆道:RUQ → 右肩/肩甲骨
- 膵:心窩部 → 背部
- 尿管:側腹部 → 鼠径部
5|生理学・生化学:疝痛・炎症痛・虚血痛を“機序”で言語化する
ここは「厚く」扱う価値が大きい領域です。痛みの性質は、しばしば病態のサインそのものです。
5-1|疝痛(Colicky pain):閉塞と蠕動
- 中空臓器の内圧上昇+蠕動(平滑筋収縮)で周期的な痛み
- 体位で劇的に変わりにくく、患者は落ち着かないことが多い
5-2|炎症痛(Inflammatory pain):持続痛へ
- 炎症性メディエーター、浮腫、被膜伸展が痛みを作る
- 進行すると壁側腹膜に波及し、体性痛(腹膜刺激)が前景に出る
5-3|虚血痛(Ischemic pain):強いのに所見乏しい
- 血流低下 → ATP枯渇、代謝産物蓄積(例:乳酸)
- 初期は腹膜刺激が乏しいことがあり、痛みの強さと身体所見が釣り合わない
Pain out of proportion to physical findings(所見より痛みが強すぎる)
→ 基礎的には「虚血が強い侵害刺激を生む」+「腹膜刺激がまだ出ない」ことが背景にあります。
6|病理・免疫:急性腹症と慢性腹痛を分ける“炎症の質”
6-1|急性炎症 vs 慢性炎症
- 急性炎症:短期間で強い反応(臨床では急性腹症へ)
- 慢性炎症:再燃寛解や遷延(慢性腹痛・体重減少などと接続)
6-2|壊死・穿孔・腹膜炎
- 穿孔・内容物流出 → 腹膜刺激(体性痛)が前景に
- 筋性防御・反跳痛などの“意味”は神経反射で説明できる(次のColumnへ)
7|基礎→臨床への翻訳:腹痛を「型」で読む
Column|腹部身体所見は「基礎医学」で説明できる
腹部診察の所見は、経験則ではなく「どの層が、どの神経で刺激されているか」で説明できます。
ここを押さえると、所見の重み付けと画像検査へ進む判断がブレません。
Layer 1まとめ
- 腹痛は「部位当て」ではなく、機序(閉塞/炎症/虚血/腹膜刺激)で理解する
- 腹腔内 vs 後腹膜は、捻転・腹膜刺激・背部痛・画像の読み方まで規定する
- 発生学(foregut/midgut/hindgut)は痛みの初期局在を説明する
- 身体所見は神経・反射・解剖で説明でき、診断と検査選択の根拠になる
次のLayer2では、この基礎を使って「腹痛をどう考えるか」を
VITAMIN CDE × 病態 でアルゴリズム化します。
Layer 2|腹痛の臨床推論と鑑別アプローチ
このLayerは「推論の型を教える章」ではありません。
臨床現場で横に置きながら、どこを見て・何を考えて・何を落としちゃいけないかに一瞬で戻れるように、腹痛の鑑別と判断材料を構造化された地図としてまとめます。
0|このLayerの使い方(1分で戻れる設計)
- 病態(Why):炎症/閉塞/虚血/穿孔/出血/機能性/腹腔外
- 鑑別(What):VITAMIN CDEで網羅(=辞書)
- 削るポイント(Where to look):問診・診察・検査で鑑別が動く“分岐”だけ抽出
- 落とし穴(Do-not-miss):ハマりやすい領域を先回りして注意喚起
- Mini-case(診断まで):この地図が実際に機能することを短く確認
※治療の具体論(抗菌薬選択・輸液量・手術適応など)はLayer 3で疾患別に扱います。
1|腹痛を“病態”で捉える
| 病態 | キーワード | 典型例(Layer 3へ接続) |
|---|---|---|
| 炎症 | 圧痛/発熱/炎症反応、局在化しやすい | 虫垂炎、胆嚢炎/胆管炎、膵炎、憩室炎 |
| 閉塞 | 疝痛、嘔吐、ガス便停止、波がある痛み | 腸閉塞、胆石発作、尿管結石 |
| 虚血 | 痛みが強いのに所見が乏しい(初期) | 腸間膜虚血、NOMI |
| 穿孔 | 突然の激痛、腹膜刺激、全身状態悪化 | 消化管穿孔(潰瘍・憩室・腫瘍など) |
| 出血 | 貧血、ショック、血性嘔吐/便、腹腔内出血 | AAA破裂、卵巣出血、消化管出血 |
| 機能性/その他 | 検査が整っても残る“箱”を持つ | IBS、機能性ディスペプシア、NSAP |
| 腹腔外 | 腹部以外の所見・リスクで疑う | 下壁MI、肺炎、帯状疱疹前駆期、DKA |
🔁 Layer 1への戻りリンク(学習導線)
・痛みの局在/放散、腹膜刺激、後腹膜臓器の“静かな腹部”は、Layer 1(解剖・神経・腹膜)に対応します。
・“虚血なのに所見が乏しい”は、Layer 1(内臓痛と腹膜痛の違い)が土台になります。
2|腹痛の鑑別を「抜けなく」広げる:VITAMIN CDE
鑑別に含められない疾患は、最終診断になりにくい(=思考の外に落ちる)ため、網羅的に表にしました。
| カテゴリ | 代表疾患(腹痛を来すもの) |
|---|---|
| V|Vascular | 🔴 Do-not-miss Ischemia 大動脈解離、腹部大動脈瘤(AAA)/破裂、腸間膜虚血、NOMI(非閉塞性腸間膜虚血)、臓器梗塞(脾梗塞・腎梗塞)、腸管壁内血腫(抗凝固関連など)、 🟠 Urgent 卵巣出血、精巣捻転 |
| I|Infectious | Inflammation 腸炎、虫垂炎、胆嚢炎、胆管炎、肝炎、肝膿瘍、憩室炎、腹膜炎、腹腔内膿瘍、腎盂腎炎、PID(骨盤内炎症性疾患) |
| T|Trauma | Perforation 打撲、腹部外傷(臓器損傷/腸管損傷)、術後合併症、穿孔、交通外傷、鼠径ヘルニア嵌頓、癒着性腸閉塞(術後) |
| A|Autoimmune | Inflammation クローン病、潰瘍性大腸炎、SLE、血管炎(Henoch-Schönlein紫斑病など) |
| M|Metabolic | 🟠 Urgent Extra-abdominal 尿毒症、DKA、副腎不全、急性間質性腎炎 |
| I|Idiopathic / Iatrogenic | 🟢 Non-urgent 薬剤性潰瘍(NSAIDs等)、NSAIDs腸炎、抗菌薬関連腸炎(C. difficile含む)、医原性(ERCP後膵炎など)、腹部放散痛、NSAP(非特異的腹痛)、IBS/機能性疾患 |
| N|Neoplastic | 腸管癌、膵癌、卵巣腫瘍、悪性リンパ腫、癌性腹膜炎(腹水・腸閉塞の原因にも) |
| C|Congenital | Meckel憩室、腸回転異常、尿路奇形(反復UTI/水腎症の背景) |
| D|Degenerative | 椎体圧迫骨折、帯状疱疹(前駆痛)、神経根症 |
| E|Endocrine | 褐色細胞腫、甲状腺機能亢進症、異所性妊娠(子宮外妊娠) |
3|鑑別を“削る”ために見るポイント
3-1|問診で鑑別が動くポイント
- 移動:心窩部→RLQ など(局在化の意味)
- 疝痛 vs 持続痛:閉塞・結石/炎症・虚血
- 嘔吐と痛みの前後関係:閉塞の示唆など
- 食事・体位との関連:胆道、膵、虚血などのヒント
- 月経・妊娠・出血:妊娠可能年齢は別ゲーム
- 手術歴:癒着性腸閉塞、術後合併症の入口
- 薬剤:NSAIDs(潰瘍/穿孔)、抗菌薬(腸炎)、抗凝固(血腫/出血)
3-2|身体診察で鑑別が動くポイント
- 局在:限局圧痛は責任臓器のヒント
- 腹膜刺激(rebound / guarding):穿孔・腹膜炎方向へ
- 体動で増悪:腹膜刺激を示唆
- “痛みの強さ”と所見のギャップ:虚血(腸間膜虚血 / NOMI)を最後まで残す
- 腹部以外:皮疹(帯状疱疹前駆期)、胸部所見(肺炎/MI)
3-3|検査・画像で鑑別が動くポイント
- 最低限セット:CBC / CRP / 電解質・腎肝機能 / 尿検査 / 妊娠反応(必要時)
- 目的別追加:胆道・膵、虚血、出血など(疑いに応じて)
- POCUS:胆嚢(壁肥厚・結石・Murphy)、水腎症、腹水(出血/炎症)
- CT:鑑別の最終整理(炎症・閉塞・虚血・穿孔・腫瘍)
🔁 Layer 1への戻りリンク(学習導線)
・腹膜刺激(guarding / rebound)、後腹膜臓器の“静かな腹部”は、Layer 1の解剖(腹膜・後腹膜)と対応します。
・虚血で所見が乏しい理由は、Layer 1(内臓痛と体性痛の違い)が土台です。
4|複雑症例でハマりやすい落とし穴(Murtagh的注意喚起)
- 高齢者:症状が乏しくても重症がありうる(虚血・閉塞・穿孔など)
- 免疫抑制:炎症反応や発熱が“弱く見える”
- 後腹膜:腹膜刺激が出にくく、進行してから見つかる
- 痛みが強いのに所見が乏しい:腸間膜虚血 / NOMI を最後まで残す
- 腹部以外が原因:下壁MI、肺炎、帯状疱疹前駆期、代謝性(DKA/副腎不全)
- 腸間膜虚血 / NOMI(痛み>所見)
- 異所性妊娠(妊娠可能年齢の腹痛は必ず除外)
- DKA / 副腎不全(腹部CTが正常でも残る)
- 帯状疱疹前駆期(皮疹が出る前の腹痛)
- NSAP(診断名ではなく“箱”として最後に置く)
5|Mini-case(診断まで)|この地図が機能する場面
※ここでは診断までを扱います。治療・管理はLayer 3へ。
Mini-case 1|若年者の右下腹部痛
- 焦点:炎症 vs 婦人科 vs 回盲部疾患
- ポイント:妊娠除外、局在所見、画像で最終整理
- 到達:虫垂炎(または回盲部病変)
Mini-case 2|高齢者の“所見が静かな”強い腹痛
- 焦点:虚血(腸間膜虚血 / NOMI)を最後まで残す
- ポイント:痛みと所見のギャップ、高齢・リスク背景
- 到達:虚血性腹痛(腸間膜虚血/NOMI)を最重要鑑別に
6|Layer 3へのブリッジ
診断がある程度見えてきたら、次に必要なのは疾患ごとの標準的評価(診断基準)・重症度分類・推奨治療・入院管理です。
👉 次章(Layer 3)では、代表的消化器疾患(虫垂炎、胆嚢炎/胆管炎、膵炎、憩室炎、イレウス/腸閉塞など)を実臨床で使えるオリジナル“ガイドライン形式”でまとめます。
Layer 3|腹痛の臨床マネジメント(入院管理)
Layer 3|腹痛をきたす代表的消化器疾患:診断・重症度・入院管理
Layer 3では、腹痛を主訴として入院管理が必要となる代表的な消化器疾患について、
ガイドラインおよびHarrison’s Principles of Internal Medicineを基盤に、
実臨床でそのまま使える形で整理します。
本レイヤーの目的は、
- 診断基準を曖昧にしない
- 重症度分類と治療方針を直結させる
- 病棟管理・専門科コンサルトの判断を明確にする
各疾患はすべて、
①診断基準 → ②重症度分類 → ③治療方針 → ④入院管理の要点
という統一フォーマットで記載しており、
必要な項目だけを拾い読みすることも可能です。
Layer1(基礎医学)・Layer2(臨床推論)で整理した知識を、
最終的に「行動に落とす」ための実践編として位置づけています。
📌 疾患別ジャンプメニュー(Layer 3)
■ 胆道・肝胆膵
■ 消化管(小腸・大腸)
■ 感染・その他
胆嚢炎・胆管炎(Acute Cholecystitis / Acute Cholangitis)
胆嚢炎・胆管炎は、腹痛診療において頻度・緊急性・重症度の振れ幅が大きく、
適切な診断と初期対応が予後を大きく左右する代表的疾患です。
特に胆管炎は敗血症性ショックへ進展しうる時間依存性疾患であり、
入院管理・緊急ドレナージの判断が重要となります。
① 診断基準(Tokyo Guidelinesベース)
■ 急性胆嚢炎
- 局所炎症所見:右上腹部痛、Murphy徴候、圧痛
- 全身炎症所見:発熱、CRP上昇、白血球増多
- 画像所見:胆嚢壁肥厚(>3mm)、胆石、胆嚢腫大、周囲脂肪織濃度上昇
上記のうち、臨床所見+画像所見で診断される。
■ 急性胆管炎
- 炎症:発熱、CRP上昇、白血球増多
- 胆汁うっ滞:黄疸、ALP・γ-GTP・Bil上昇
- 胆道閉塞所見:胆管拡張、結石、狭窄(US / CT / MRCP)
Charcot三徴(発熱・黄疸・腹痛)は古典的だが、
全例で揃うわけではないため、検査所見と画像評価が重要。
② 重症度分類(Tokyo Guidelines)
■ 急性胆嚢炎
- Grade I(軽症):臓器障害なし、炎症局所に限局
- Grade II(中等症):高度炎症、WBC上昇、症状持続 >72時間など
- Grade III(重症):循環・呼吸・腎・肝・血液などの臓器障害を伴う
■ 急性胆管炎
- Grade I(軽症):臓器障害なし、保存的治療反応あり
- Grade II(中等症):高熱、白血球異常、高Bilなど
- Grade III(重症):ショック、意識障害、腎障害などの臓器不全
重症度分類は治療方針(抗菌薬のみか、早期ドレナージか)を決定するための中核。
③ 治療方針(全体像)
■ 共通の初期対応
- 絶食・補液
- 疼痛管理(NSAIDs / オピオイド)
- 抗菌薬投与(胆汁移行性を考慮)
■ 急性胆嚢炎
- Grade I–II:保存的治療+早期胆嚢摘出が原則
- Grade III:全身管理優先、胆嚢ドレナージ(PTGBD)を考慮
■ 急性胆管炎
- 抗菌薬開始後も改善乏しければ緊急胆道ドレナージ
- ERCPが第一選択(不可能な場合はPTBDなど)
胆管炎では抗菌薬単独で様子を見る時間は限られる。
■ 抗菌薬治療(Acute Cholecystitis / Cholangitis)
急性胆嚢炎・胆管炎では、診断後ただちに抗菌薬を開始する。
特に胆管炎では、抗菌薬はドレナージ(胆道減圧)までの橋渡し治療として極めて重要である。
1) カバーすべき起因菌
- 腸内細菌科(GNR):E. coli, Klebsiella spp. など
- 嫌気性菌:Bacteroides spp.(胆道閉塞・重症例)
- Enterococcus:重症例、医療関連、胆管炎で考慮
2) 経験的初期治療(Sanfordベース)
◆ 軽症〜中等症(市中発症、耐性菌リスクなし)
- ABPC/SBT:3 g q6–8h
- CTRX:2 g q24h + MNZ:500 mg q8h
◆ 中等症〜重症、または胆管炎
- TAZ/PIPC:4.5 g q6–8h
◆ 重症例・敗血症・耐性菌リスクあり
- MEPM:1 g q8h
※ ESBL既往、医療関連感染、直近の抗菌薬使用歴がある場合は、
初期からCarbapenem系を検討する。
3) 胆道ドレナージ後のde-escalation
- 血液培養・胆汁培養結果に基づき狭域化
- 感受性が確認できればABPC系・第3世代セフェムへ変更
- 嫌気性菌が否定できない場合はMNZ併用を維持
4) 投与期間の目安
- 胆嚢炎(非穿孔):4–7日
- 胆管炎:
- ドレナージ成功後:4–7日
- 臨床的に速やかに改善すれば短縮可
解熱・炎症反応低下・経口摂取可能となれば、
内服薬(AMPC/CVA など)へのstep-downを検討する。
5) 抗菌薬治療の注意点
- 抗菌薬単独では根治しない(胆管炎では特に)
- 48–72時間で反応不良ならドレナージ未施行・閉塞残存を疑う
- Enterococcusは胆管炎でのみ治療対象になることが多い
抗菌薬+胆道ドレナージ(ERCP/PTBD)の組み合わせが治療の基本である。
④ 入院管理の要点
- モニタリング:vital signs、尿量、意識レベル
- 採血フォロー:WBC、CRP、Bil、肝胆道系酵素、腎機能
- 画像再評価:症状遷延時は再度US / CT
- 栄養管理:炎症改善後に段階的経口再開
胆管炎では敗血症・DICへの進展を常に意識し、ICU管理も選択肢。
⑤ よくある落とし穴・Pearls
- Murphy徴候陰性でも胆嚢炎は否定できない
- 高齢者では発熱・腹痛が目立たないことがある
- 胆管炎では「抗菌薬で一旦落ち着いた」は危険サイン
- 肝機能異常が軽度でも胆道感染を否定しない
🔑 まとめ
- 胆嚢炎・胆管炎は診断+重症度評価+介入タイミングが鍵
- Tokyo Guidelinesに沿った評価は実臨床で再現性が高い
- 胆管炎ではドレナージをためらわない
急性膵炎(Acute Pancreatitis)
急性膵炎は、腹痛を主訴とする消化器救急の中でも
重症度の幅が極めて大きく、初期評価と入院管理が予後を左右する疾患です。
軽症例では保存的治療で自然軽快する一方、
重症例では多臓器不全・感染性合併症を来し、集中治療を要します。
① 診断基準
急性膵炎の診断は、以下3項目中2項目以上を満たすことで行われます。
- 臨床症状:急性発症の心窩部痛(しばしば背部へ放散)
- 膵酵素上昇:血清アミラーゼまたはリパーゼが基準値上限の3倍以上
- 画像所見:CT・MRI・超音波で膵炎に合致する所見
典型的な腹痛と膵酵素上昇があれば、
初期段階でCTは必須ではない。
② 重症度分類
■ 臨床的重症度(Atlanta分類)
- 軽症:臓器不全なし、局所合併症なし
- 中等症:一過性臓器不全(48時間未満)または局所合併症あり
- 重症:48時間以上持続する臓器不全(単一または多臓器)
■ 画像所見による分類
- 間質性浮腫性膵炎
- 壊死性膵炎(膵実質・膵周囲壊死)
重症度は入院先(一般病棟 vs ICU)と管理強度を決定する指標。
③ 治療方針
■ 初期治療(全例共通)
- 絶食(NPO)
- 十分な補液(循環血漿量の確保)
- 鎮痛(オピオイドを含め適切に使用)
■ 抗菌薬
- 予防的抗菌薬投与は推奨されない
- 感染性壊死や他の感染巣を疑う場合に限定
■ 介入治療
- 胆石性膵炎:胆道閉塞や胆管炎合併時は早期ERCP
- 壊死性膵炎:原則保存的、感染合併時に段階的介入
④ 入院管理の要点
- vital monitoring:頻回評価(循環・呼吸)
- 検査フォロー:Ht、BUN、Cr、CRP、電解質
- 栄養管理:軽症では早期経口再開、中等症以上は経腸栄養を優先
- 画像再評価:重症例では48–72時間後に造影CT
重症例では循環不全・呼吸不全・腎障害の早期発見が重要。
⑤ よくある落とし穴・Pearls
- 初期CTで重症度を過小評価しない
- アミラーゼ正常でも膵炎を否定できない
- 感染のない壊死に抗菌薬を投与しない
- 胆石性では再発予防(胆嚢摘出)を忘れない
🔑 まとめ
- 急性膵炎は重症度評価がすべての起点
- 治療の基本は支持療法と全身管理
- 介入は「必要な症例に、適切なタイミングで」
急性肝炎(Acute Hepatitis)
急性肝炎は、腹痛(とくに右上腹部痛・心窩部不快感)や全身倦怠感を契機に診断されることが多く、
原因検索・重症度評価・劇症化の予測が診療の中心となります。
多くは保存的治療で自然軽快しますが、一部は急性肝不全へ移行するため、
入院下での慎重な管理が求められます。
① 診断の考え方
急性肝炎は、急性発症の肝細胞障害型肝障害として捉えます。
- 臨床症状:全身倦怠感、食欲不振、悪心、右上腹部不快感
- 検査所見:AST / ALTの急激な上昇(しばしば数百〜数千)
- 胆汁うっ滞所見:黄疸、Bil上昇(必須ではない)
診断後は、原因(ウイルス性・薬剤性・自己免疫性など)を系統的に検索する。
② 重症度評価と入院適応
急性肝炎では、肝酵素の高さよりも肝合成能と中枢神経症状が重症度評価の鍵となる。
- 凝固能低下:PT-INR低下(特に <70%)
- 意識障害:肝性脳症の有無
- 高度黄疸:Bilの持続的上昇
- 画像所見:肝萎縮、腹水の出現
PT低下や意識障害を認める場合は、
急性肝不全への移行を強く疑い、専門施設への連携を検討する。
③ 治療方針の全体像
治療の基本は原因に応じた対応+支持療法であり、
多くの症例では保存的治療が中心となる。
- ウイルス性:原則支持療法(例外的に特異的治療を要する場合あり)
- 薬剤性:被疑薬の中止が最優先
- 自己免疫性:重症例ではステロイド治療を検討
④ 支持療法(Supportive Care:実臨床での具体像)
支持療法の目的は、
① 肝再生を支える代謝環境を整えること、
② 低血糖・脱水・合併症を防ぐこと、
③ 劇症化を早期に察知すること
にある。
- 安静:
- 厳格な床上安静は不要
- 症状に応じて活動量を調整
- 栄養管理:
- 原則通常食を目標
- 肝性脳症がなければ蛋白制限は不要
- 摂取不良時は少量頻回食や経口補助栄養を検討
- 補液管理(重要):
- 経口摂取と並行し糖含有維持輸液を行う
- 目的:
- 肝グリコーゲン枯渇の補正
- 低血糖の予防
- 蛋白異化(catabolism)の抑制
- 脱水を伴う場合は初期に等張晶質液で補正後、糖含有輸液へ移行
- Na過剰負荷に注意
- 低血糖対策:
- 重症例では低血糖が初発所見となることがある
- 血糖を定期的にモニタリング
- 薬剤管理:
- 被疑薬・不要薬はすべて中止(サプリ・漢方含む)
- 鎮痛はアセトアミノフェン慎重投与
- NSAIDsは原則回避
⑤ 肝庇護薬の位置づけ
急性肝炎における肝庇護薬は、
予後を明確に改善するエビデンスは限定的であり、
routineでの使用は推奨されない。
⑥ 入院中のモニタリング
- AST / ALT / Bil / PT-INR を連日〜隔日で評価
- 意識状態(肝性脳症)を定期的に確認
- 尿量・電解質・血糖を併せてフォロー
🔑 まとめ
- 急性肝炎では肝酵素の高さよりPT-INRと意識状態
- 支持療法の中心は糖含有維持輸液と代謝管理
- 劇症化を疑えば速やかに専門施設と連携
肝膿瘍(Liver Abscess)
肝膿瘍は右上腹部痛・発熱・炎症反応を主徴とする重症感染症であり、
抗菌薬治療+(必要に応じた)ドレナージが治療の柱となる。
診断遅延やドレナージ介入の遅れは、敗血症・破裂などのリスクにつながる。
① 診断の考え方
- 症状:発熱、悪寒、右上腹部痛、全身倦怠感(高齢者では非典型も)
- 検査:WBC↑、CRP↑、ALP/γGTP↑(AST/ALTは軽度〜中等度のことが多い)
- 画像:造影CT(病変数・サイズ・隔壁/多房性・ドレナージ可否まで評価)
- 培養:血液培養+(可能なら)膿瘍内容の培養提出
② 重症度・リスク評価(介入判断に直結)
- 敗血症/ショック、呼吸循環不全
- 膿瘍サイズ(特に>5cm)
- 多発、隔壁を伴う多房性、粘稠で排膿困難が疑われる所見
- ガス産生、破裂/腹膜炎疑い
- 背景(胆道感染、悪性腫瘍、糖尿病、免疫抑制など)
③ 治療方針(抗菌薬+ドレナージの組み合わせ)
肝膿瘍の治療は、
抗菌薬治療を基盤とし、必要に応じてドレナージを組み合わせる。
治療反応・膿瘍の性状・全身状態を踏まえて段階的に判断する。
■ 1) 抗菌薬治療(基本方針)
- 診断後は速やかに経験的抗菌薬を開始(敗血症では特に重要)
- 基本は腸内細菌(GNR)+嫌気性菌をカバー
- 血液培養・膿瘍培養結果と臨床経過に基づきde-escalation
■ 2) ドレナージ(適応判断の考え方)
ドレナージの適応は、
「サイズ」+「臨床重症度」+「抗菌薬への反応」+「形態(多房性など)」
を総合して判断する。
- 抗菌薬のみで経過観察を検討:
- 全身状態が安定
- 小膿瘍(目安 <3cm)
- 厳密な経過観察(症状・炎症反応・画像)を前提
- 穿刺吸引(PNA)を検討:
- 中等大(3–5cm)で単房性・穿刺可能
- 反復穿刺が必要となる場合あり
- カテーテルドレナージ(PCD)を強く検討:
- 大膿瘍(>5cm)
- 多房性・隔壁あり、内容が粘稠で再貯留しやすい
- 敗血症、または全身状態不良
- 抗菌薬開始後48–72時間で臨床反応不十分
- 破裂・腹膜炎疑い、ガス産生などのハイリスク所見
- 外科的ドレナージ/手術を考慮:
- 経皮的アプローチ困難(到達不能・出血リスク)
- PCD不成功、または複雑・破裂・多発例
- 併存する外科的病態(穿孔、腹膜炎など)
※ サイズ閾値(3cm、5cm)は絶対基準ではないが、
臨床で再現性の高い判断目安として広く用いられる。
■ 3) 抗菌薬治療(Sanfordベース)
肝膿瘍の初期治療では、
腸内細菌(GNR)+嫌気性菌を確実にカバーするレジメンを選択する。
◆ 経験的初期治療(第一選択)
- ABPC/SBT:3 g q6–8h
- TAZ/PIPC:4.5 g q6–8h
- CTRX 2 g q24h + MNZ 500 mg q8h
◆ 重症例・耐性菌リスクがある場合
- MEPM:1 g q8h
◆ 主な起因菌
- 腸内細菌科(E. coli, Klebsiella pneumoniae など)
- 嫌気性菌(Bacteroides spp.)
- Streptococcus anginosus group
◆ 培養結果に基づく調整
- 感受性に応じて狭域化
- Enterococcus が起因菌の場合はABPC系を考慮
- 嫌気性菌否定困難な場合はMNZを継続
◆ 投与期間
- 初期は静注で開始
- 臨床改善後、内服へstep-downを検討
- 総治療期間は4–6週間(画像改善を指標)
抗菌薬単独で改善が不十分な場合は、
ドレナージ適応を再評価する。
🔑 まとめ
- 肝膿瘍は抗菌薬+(必要時)ドレナージが基本
- 実用的な目安:<3cmは抗菌薬のみ、3–5cmは穿刺、>5cmはカテ
- ただし最終判断は重症度・反応性・形態(多房性/粘稠/ガス)で決める
急性虫垂炎(Acute Appendicitis)
急性虫垂炎は、右下腹部痛を主徴とする頻度の高い急性腹症であり、
穿孔の有無・全身状態・画像所見に基づいて
手術・抗菌薬・保存的治療を適切に選択することが重要である。
① 診断の考え方
- 症状:心窩部痛〜臍周囲痛に始まり右下腹部へ移動、悪心・食欲不振
- 身体所見:McBurney点圧痛、反跳痛、筋性防御
- 検査:WBC↑、CRP↑(初期では正常のことあり)
- 画像:
- 造影CT:虫垂径拡大(≥6–7mm)、壁肥厚、周囲脂肪織濃度上昇
- 穿孔例:膿瘍形成、free air、腹水
造影CTは診断・重症度評価の中核である。
② 重症度評価(穿孔の有無が最大の分岐)
- 非穿孔性(単純性)
- 穿孔性:膿瘍形成、汎発性腹膜炎
穿孔の有無は、治療戦略(緊急手術 vs 保存的治療)の判断に直結する。
③ 治療方針(手術+抗菌薬の組み合わせ)
■ 1) 手術治療
- 原則:虫垂切除術(腹腔鏡下が標準)
- 穿孔・腹膜炎例では緊急手術を検討
- 限局性膿瘍形成例では、抗菌薬±ドレナージ後のinterval appendectomyも選択肢
■ 2) 抗菌薬治療(基本方針)
- 手術例では周術期抗菌薬として使用
- 保存的治療では治療の主軸
- 基本は腸内細菌(GNR)+嫌気性菌をカバー
■ 3) 抗菌薬治療(Sanfordベース)
◆ 非穿孔性(周術期・軽症)
- ABPC/SBT:3 g q6–8h
- CTRX:2 g q24h + MNZ:500 mg q8h
◆ 穿孔性・中等症〜重症
- TAZ/PIPC:4.5 g q6–8h
- MEPM:1 g q8h(重症・耐性菌リスクあり)
◆ カバーすべき主な起因菌
- 腸内細菌科(E. coli など)
- 嫌気性菌(Bacteroides fragilis)
- 腸球菌(重症例・医療関連)
◆ 投与期間の目安
- 非穿孔性:周術期のみ〜24時間以内
- 穿孔性:4–7日(臨床改善を指標)
④ 入院管理の要点
- 腹膜刺激症状・vitalの継続評価
- WBC・CRPのトレンド確認
- 術後合併症(腹腔内膿瘍、SSI)の早期発見
⑤ よくある落とし穴・Pearls
- 高齢者・免疫抑制では症状が非典型
- CRP正常でも否定できない(発症早期)
- 保存的治療後の再発リスクを説明する
🔑 まとめ
- 急性虫垂炎は穿孔の有無が最大の分岐点
- 抗菌薬はSanford準拠+dose明記で選択
- 手術・保存的治療を症例ごとに最適化する
腸閉塞・イレウス(Bowel Obstruction / Ileus)
腸閉塞・イレウスは、腹痛・嘔吐・腹部膨満・排ガス/排便停止を主徴とする頻度・重症度ともに高い急性腹症である。
特に絞扼性腸閉塞や腸管虚血・穿孔を見逃すと致命的となるため、
「閉塞か?」「絞扼していないか?」を早期に見極めることが最重要である。
① 診断の考え方(まず押さえるポイント)
- 症状:腹痛(疝痛性が典型)、嘔吐、腹部膨満、排便・排ガス停止
- 身体所見:
- 金属音様の高調な腸雑音(初期)
- 腸雑音低下〜消失(進行例、麻痺性)
- 腹膜刺激症状(絞扼・虚血・穿孔を示唆)
- 検査:脱水、電解質異常、腎機能障害、乳酸上昇(虚血)
- 画像:
- 腹部造影CTが第一選択
- 拡張腸管、niveau、transition point、closed loop、腸管壁造影不良を評価
② 分類(治療方針を決めるための整理)
■ 1) 機械的腸閉塞(Mechanical obstruction)
- 単純性腸閉塞:血流障害なし
- 絞扼性腸閉塞:血流障害あり(緊急手術)
原因:
- 術後癒着(最多)
- 腫瘍
- ヘルニア嵌頓
- 捻転(volvulus)
- 腸重積
■ 2) 麻痺性イレウス(Paralytic ileus)
- 腸管運動低下による閉塞様状態
- 原因:術後、感染、電解質異常、薬剤(オピオイドなど)
③ 重症度・緊急性の評価(ここが最重要)
以下を認める場合は絞扼性・虚血を強く疑い、外科コンサルトを急ぐ。
- 持続する強い腹痛(疝痛性でなくなる)
- 発熱、頻脈、低血圧
- 腹膜刺激症状
- 乳酸上昇、代謝性アシドーシス
- CTで以下を認める:
- closed loop obstruction
- 腸管壁造影不良
- 腸間膜浮腫、腹水
- 門脈ガス、腸管気腫
④ 治療方針(保存 vs 手術)
■ 1) 初期対応(全例共通)
- 絶食
- 補液:脱水補正(等張晶質液を中心)
- 電解質補正(K, Clなど)
- 胃管/イレウス管による減圧(嘔吐・高度膨満時)
- 鎮痛(過鎮静に注意)
■ 2) 保存的治療が可能な状況
- 単純性腸閉塞
- 腹膜刺激症状なし
- 全身状態安定
- CTで虚血・絞扼所見なし
→ 厳密な経過観察下で保存的治療を行う。
■ 3) 手術を考慮すべき状況
- 絞扼性腸閉塞が疑われる
- 保存的治療で改善しない
- 穿孔・腹膜炎
- 腫瘍性閉塞
→ 外科コンサルト必須
⑤ 抗菌薬治療(必要時のみ)
腸閉塞・イレウスそのものには routine の抗菌薬は不要。
以下の場合に腸管虚血・穿孔・感染合併を想定して使用する。
- 絞扼性腸閉塞
- 穿孔疑い
- 腹膜炎
- 敗血症
■ 抗菌薬選択(Sanfordベース)
カバー:腸内細菌(GNR)+嫌気性菌
◆ 中等症
- ABPC/SBT:3 g q6–8h
- CTRX:2 g q24h + MNZ:500 mg q8h
◆ 重症例・敗血症
- TAZ/PIPC:4.5 g q6–8h
- MEPM:1 g q8h
※ ソースコントロール(手術)後は4–7日を目安に投与。
⑥ 入院管理の要点
- バイタル・尿量の厳密管理
- 腹部所見の反復評価
- 採血(炎症反応、乳酸、腎機能、電解質)
- 48–72時間で改善なければCT再評価
🔑 まとめ
- 腸閉塞・イレウスはCTで分類と緊急性を判断
- 絞扼を疑ったら保存に固執しない
- 抗菌薬は虚血・穿孔・感染合併時のみ
消化管穿孔(Gastrointestinal Perforation)
消化管穿孔は、消化管内容物が腹腔内へ漏出して化学性腹膜炎 → 細菌性腹膜炎 → 敗血症へ進展しうる
時間依存性の緊急疾患である。
診療の要点は、①穿孔の疑いを持つ(見逃さない)②早期に画像で確認する③蘇生+抗菌薬+ソースコントロール(外科/ドレナージ)を同時並行で進めることである。
① 診断の考え方(まず疑う・確認する)
■ 1) 疑うポイント
- 突然発症の強い腹痛(“knife-like pain”)
- 体動で増悪、腹膜刺激症状(反跳痛、筋性防御、板状硬)
- 悪心・嘔吐、発熱、頻脈、低血圧など(進行すると敗血症)
- リスク:消化性潰瘍(NSAIDs/ステロイド)、憩室炎、腫瘍、内視鏡後、外傷 など
■ 2) 画像(確定・重症度)
- 腹部造影CT:free air、腹水、炎症波及、穿孔部位の推定、膿瘍の有無
- 腹部単純X線:free airの補助(感度は限定的)
■ 3) 検査(重症度評価)
- CBC、CRP
- 電解質・腎機能・肝機能
- 乳酸(虚血/敗血症)
- ABG(重症例)
- 血液培養(敗血症疑いでは抗菌薬前に可能なら)
② 重症度・緊急性の評価(ショック/敗血症/汎発性腹膜炎)
- ショック(低血圧、頻脈、末梢冷感、意識変容)
- 汎発性腹膜炎(びまん性の反跳痛、板状硬、腹部全体の圧痛)
- CTで大量free air、腹水、膿瘍、重度炎症波及
上記を認める場合、蘇生を行いながら即座に外科コンサルトし、ソースコントロールへ進む。
③ 治療方針(蘇生+抗菌薬+ソースコントロール)
■ 1) 初期対応(すぐやる)
- 絶食
- 補液:等張晶質液で循環維持(ショックなら迅速に)
- 疼痛・制吐(過鎮静に注意)
- 胃管:上部消化管穿孔疑い/嘔吐/高度膨満で減圧
- PPI:潰瘍穿孔疑いで考慮
■ 2) ソースコントロール(基本は外科)
- 原則:緊急手術(閉鎖、洗浄、ドレナージ)
- 限局性膿瘍など一部では画像ガイド下ドレナージが併用されることがある
抗菌薬は重要だが、穿孔の根治はソースコントロールである。
■ 3) 抗菌薬治療(Sanfordベース・dose明記)
穿孔(腹膜炎)では、腸内細菌(GNR)+嫌気性菌のカバーが基本。
重症例・医療関連・耐性菌リスクがある場合は広域で開始し、培養と経過でde-escalationする。
◆ 市中発症・中等症(標準)
- ABPC/SBT:3 g q6–8h(IV)
- CTRX:2 g q24h(IV)+ MNZ:500 mg q8h(IV)
◆ 重症例・敗血症(または広域が必要)
- TAZ/PIPC:4.5 g q6–8h(IV)
- MEPM:1 g q8h(IV)
※ 腎機能で用量調整が必要。eGFRに応じて調整する。
◆ 投与期間の目安
- ソースコントロールが達成されれば、4–7日を目安に臨床経過で調整
- 反応不良では、ソースコントロール不十分(膿瘍残存等)を最優先に疑う
④ 入院管理の要点
- バイタル・尿量:ショック/敗血症の監視
- 採血:WBC/CRP、乳酸、腎機能、電解質(抗菌薬調整・輸液管理)
- 腹部所見:腹膜刺激の推移、疼痛の質の変化
- 画像再評価:改善乏しければ膿瘍・再穿孔を疑いCT
⑤ よくある落とし穴・Pearls
- 高齢者・免疫抑制では腹膜刺激が乏しいことがある
- 鎮痛で“所見が消えた”ように見えても、重症度評価を止めない
- 抗菌薬を増やす前に、ソースコントロールが十分かを必ず点検
🔑 まとめ
- 消化管穿孔は時間依存性の緊急疾患
- CTで確認しつつ、蘇生+抗菌薬+外科を同時並行
- 抗菌薬はSanford準拠+dose明記、治療の軸はソースコントロール
虚血性腸炎(Ischemic Colitis)
虚血性腸炎は、結腸の一過性または持続的な虚血により生じる炎症性病変で、
左側結腸(脾彎曲部〜S状結腸)に好発する。
多くは保存的に軽快する一方、壊死・穿孔・敗血症へ進展する重症例もあり、
重症度の見極めが治療成否を左右する。
① 診断の考え方
■ 1) 典型症状
- 突然発症の腹痛(多くは左下腹部)
- 下痢、血便(発症後数時間以内)
- 発熱は軽度〜なしが多い
■ 2) リスク因子
- 高齢
- 動脈硬化、心血管疾患
- 脱水、低血圧
- 便秘、下剤使用
- 血管収縮薬の使用
■ 3) 検査・画像
- 血液検査:WBC↑、CRP↑(軽度〜中等度が多い)
- 造影CT:
- 結腸壁肥厚(target sign)
- 周囲脂肪織濃度上昇
- 重症例では造影不良、門脈ガス、腸管気腫
※ 内視鏡は急性期には慎重に。CTで重症度評価を優先する。
② 重症度分類(治療分岐)
■ 軽症〜中等症(非壊死性)
- 腹痛・血便はあるが、全身状態安定
- 腹膜刺激症状なし
- CTで壊死・穿孔所見なし
■ 重症(壊死性虚血性腸炎)
- 持続する強い腹痛、腹膜刺激症状
- 発熱、頻脈、低血圧
- 乳酸上昇、代謝性アシドーシス
- CTで造影不良、腸管気腫、門脈ガス
→ 重症例は外科コンサルト必須。
③ 治療方針
■ 1) 保存的治療(軽症〜中等症)
- 絶食(症状改善に応じて段階的に再開)
- 補液:脱水・循環不全の是正
- 原因修正:便秘是正、血圧・循環管理、血管収縮薬の中止
- 鎮痛(NSAIDsは避ける)
■ 2) 抗菌薬治療(必要時)
虚血性腸炎ではroutineの抗菌薬投与は不要。
以下の場合に、腸管壊死・細菌移行を想定して抗菌薬を使用する。
- 中等症以上
- 発熱・炎症反応高値
- 免疫抑制・高齢
- 穿孔・腹膜炎が疑われる
■ 抗菌薬選択(Sanfordベース)
カバー:腸内細菌(GNR)+嫌気性菌
◆ 中等症
- ABPC/SBT:3 g q6–8h(IV)
- CTRX:2 g q24h(IV)+ MNZ:500 mg q8h
◆ 重症例・敗血症
- TAZ/PIPC:4.5 g q6–8h
- MEPM:1 g q8h
※ 腎機能に応じて用量調整。
◆ 投与期間
- 臨床改善が得られれば4–7日を目安
■ 3) 外科治療を考慮すべき状況
- 壊死性虚血性腸炎
- 穿孔・汎発性腹膜炎
- 保存的治療で改善しない
→ 緊急手術(壊死腸管切除)を検討。
④ 入院管理の要点
- バイタル・尿量管理(循環評価)
- 腹部所見の反復評価
- 採血:WBC/CRP、乳酸、腎機能
- 症状悪化時はCT再評価
⑤ 鑑別と注意点
- 感染性腸炎(重症例)
- 炎症性腸疾患(IBD)
- 虚血性腸炎とNOMIは別概念(NOMIは本記事では扱わない)
🔑 まとめ
- 虚血性腸炎は多くが保存的に軽快
- 重症度評価が最重要(壊死・穿孔を見逃さない)
- 抗菌薬は必要時のみ、Sanford準拠で使用
感染性腸炎(重症例)
感染性腸炎の多くは自然軽快するが、
高齢者・免疫抑制・基礎疾患を有する患者では重症化し、
脱水・敗血症・腸管壊死に至ることがある。
本項では入院管理を要する重症例を対象に整理する。
① 重症感染性腸炎を疑うポイント
■ 1) 臨床所見
- 高熱、頻脈、低血圧
- 強い腹痛、持続する圧痛
- 血便(特に量が多い、持続する)
- 意識障害、乏尿など全身状態悪化
■ 2) ハイリスク背景
- 高齢者
- 免疫抑制(ステロイド、抗がん剤、生物学的製剤)
- 慢性腎不全、肝硬変、糖尿病
- 最近の抗菌薬使用(C. difficileリスク)
② 検査・初期評価
■ 1) 血液検査
- CBC(WBC↑/↓)
- CRP
- 電解質、腎機能(脱水評価)
- 乳酸(敗血症評価)
■ 2) 微生物検査
- 便培養(Salmonella, Campylobacter, Shigella など)
- C. difficile toxin / PCR(抗菌薬使用歴あり)
- 血液培養(敗血症疑い)
■ 3) 画像
- 腹部CT:
- 腸管壁肥厚、浮腫
- 重症例では腸管壊死、穿孔、膿瘍の除外
③ 治療方針
■ 1) 支持療法(最重要)
- 補液:脱水・循環不全の是正(等張晶質液)
- 電解質補正
- 絶食(症状改善後に段階的再開)
- 制吐・鎮痛(NSAIDsは避ける)
※ 下痢止め(ロペラミド等)は重症例・血便では原則使用しない。
■ 2) 抗菌薬治療(重症例のみ)
感染性腸炎ではroutineの抗菌薬投与は推奨されない。
以下の場合に経験的抗菌薬を開始する。
- 敗血症・ショック
- 高熱・強い全身症状
- 免疫抑制・高齢
- 腸管外感染(菌血症)を疑う
■ 抗菌薬選択(Sanford準拠)
◆ 市中発症・重症例(原因菌未確定)
- CTRX:2 g q24h(IV)
- LVFX:500 mg q24h(IV)
◆ 敗血症・重篤例
- TAZ/PIPC:4.5 g q6–8h(IV)
- MEPM:1 g q8h(IV)
※ 腎機能に応じて用量調整。
■ 3) 原因菌判明後の対応
- Salmonella(重症例):CTRX または LVFX
- Campylobacter(重症例):AZM(代替:LVFX)
- Shigella:CTRX / LVFX
- C. difficile:
- 軽症〜中等症:Vancomycin PO 125 mg q6h
- 重症例:Vancomycin PO ± Metronidazole IV
◆ 投与期間
- 原因菌・臨床経過により3–7日を目安
④ 入院管理の要点
- バイタル・尿量の厳密管理
- 下痢量・血便の推移
- 採血フォロー(炎症反応、腎機能)
- 腹膜刺激出現時はCT再評価
⑤ 鑑別と注意点
- 虚血性腸炎
- 炎症性腸疾患(IBD)
- 薬剤性腸炎
🔑 まとめ
- 感染性腸炎の基本は支持療法
- 抗菌薬は重症例・ハイリスク例に限定
- Sanford準拠で原因菌確定後は速やかに最適化
関連リンク|理解を深めるために
■ 症候別アプローチ
References
■ Textbooks
- Jameson JL, Fauci AS, Kasper DL, et al. Harrison’s Principles of Internal Medicine. 21st ed. McGraw-Hill.
- Murtagh J. John Murtagh’s General Practice. 8th ed. McGraw-Hill.
- McGee S. Evidence-Based Physical Diagnosis. 4th ed. Elsevier.
- Guyton AC, Hall JE. Textbook of Medical Physiology. 14th ed. Elsevier.
■ Guidelines
- Tokyo Guidelines 2018 / 2022: Management of acute cholangitis and cholecystitis.
- American College of Gastroenterology (ACG) Guidelines:
- Acute Pancreatitis
- Diverticular Disease
- World Society of Emergency Surgery (WSES) Guidelines:
- Intra-abdominal infections
- Bowel obstruction
■ Antimicrobial Therapy
- Sanford Guide to Antimicrobial Therapy 2024.
■ Additional Resources
- UpToDate®: Evaluation of acute abdominal pain in adults.
- Mayo Clinic Proceedings: Diagnostic approach to abdominal pain.
