嘔気・嘔吐の診断とマネジメント
〜〜基礎医学から臨床推論までを3層で理解する〜〜
嘔気・嘔吐は、外来・救急・病棟のいずれでも日常的に遭遇する症候です。
一方でその原因は、消化管疾患にとどまらず、中枢神経疾患、代謝・内分泌異常、感染症、循環器疾患まで非常に幅広く、
「とりあえず制吐薬」で済ませてしまうと、重大な疾患を見逃す危険があります。
本記事では、嘔気・嘔吐を
基礎医学 → 臨床推論 → 臨床マネジメントの
3層構造(3 Layers)で整理し、
- なぜ嘔気・嘔吐が起こるのか(受容体・中枢・神経回路)
- この患者で、まず何を疑うべきか(思考の順番)
- 診断後に、何を・どこまで行うべきか(当直・病棟対応)
を一貫して理解できることを目標としています。
医学生・研修医・専攻医はもちろん、
当直で「嘔吐=軽症」と判断してよいか迷ったときに横に置ける参考書
として活用してください。
※ 本記事は 腹痛の診断アプローチと同一コンセプトで構成しています。
症候別に「考え方の型」を横断的に身につけたい方は、あわせて参照してください。
Layer1:基礎医学で嘔気・嘔吐を理解する
嘔気・嘔吐(Nausea & Vomiting)は「胃腸の症状」に見えて、実際には神経反射(延髄)と受容体(CTZ/迷走神経/前庭系)が作る全身現象です。
本章(Layer 1)では、嘔気・嘔吐を回路・受容体・生理学で徹底的に説明し、次章(Layer 2/3)で病態の鑑別と治療へ直結させます。
✅ Layer 1のゴール
- 嘔気・嘔吐を「どこが」「何に反応して」「どう出力するか」で説明できる
- 嘔気あり嘔吐と嘔気のない嘔吐を基礎から区別できる
- 制吐薬がなぜ効く/効かないを受容体・作用点から説明できる
- 嘔吐の合併症(電解質・酸塩基・循環など)を生理学で理解できる
1. 嘔気・嘔吐の定義と整理
1-1. 嘔気(Nausea)とは何か
嘔気(nausea)は、嘔吐に先行しやすい主観的な不快感(「気持ち悪い」)です。
ポイントは、嘔気が“感覚”である以上、大脳皮質・辺縁系と、冷汗・流涎などの自律神経反応が深く関与することです。
- 嘔気 = 感覚(皮質・辺縁系) + 自律神経反応
- しばしば冷汗・流涎・動悸・顔面蒼白を伴う
- 嘔吐がなくても嘔気は起こりうる(例:不安、片頭痛、前庭性)
Clinical Pearl:
嘔気は「皮質を介した現象」。意識レベルが低下していたり、嘔吐中枢が直接作動している状況では、嘔気が省略されて嘔吐だけが起こることがある。
1-2. 嘔吐(Vomiting)とは何か
嘔吐(vomiting)は、胃内容物を口側へ排出する反射性の運動プログラムです。
嘔吐は「胃が悪い」から起こるのではなく、最終的には延髄(嘔吐中枢)が出力する全身の協調運動として成立します。
- 嘔吐 = 延髄の反射プログラム(運動出力)
- 横隔膜・腹筋の収縮、噴門の弛緩、上部消化管の協調運動が同時に起こる
- 嘔気を必須としない(=嘔気のない嘔吐がありうる)
1-3. 嘔気 → 嘔吐 と「嘔気のない嘔吐」の違い(基礎からの結論)
臨床的に重要なのは、嘔気と嘔吐が同じ現象ではないことです。
- 嘔気 → 嘔吐(末梢優位):迷走神経・前庭系などの入力が強く、嘔気(皮質・自律神経)が前景に出やすい
- 嘔気のない嘔吐(中枢優位):CTZ/嘔吐中枢が直接作動し、嘔気が省略されることがある
ここがLayer 2/3につながる:
「嘔気がないのに突然吐く」「制吐薬が効きにくい」「朝方に噴出性」などは、中枢(CTZ/嘔吐中枢)を優先して評価するための重要な手がかりになる。
2. 嘔吐反射の中枢神経解剖(Vomiting Reflex Circuit)
嘔吐は、入力(trigger) → 統合(brainstem) → 出力(motor program)から成る「神経回路」です。
ここを理解すると、病態も薬も“どこを刺激しているか/どこを遮断するか”で説明できます。
2-1. 嘔吐中枢(Vomiting Center)
嘔吐中枢は、延髄背側の機能的ネットワークとして理解するのが実用的です(単一の核というより“回路”)。
ここは嘔吐の最終共通出力(final common pathway)であり、どの原因であっても最終的にここが作動すると嘔吐が起こります。
- 役割:入力情報を統合し、嘔吐の運動パターンを出力する
- 特徴:嘔吐は感覚(嘔気)を必須としない反射である
- 臨床的含意:嘔吐がある=「胃」ではなく「延髄回路が動いた」
2-2. 化学受容器引金帯(CTZ:Chemoreceptor Trigger Zone / Area Postrema)
CTZ(area postrema)は第4脳室底に位置し、血液脳関門(BBB)が弱いという特徴があります。
そのため、血中を循環する物質(薬剤・毒素・代謝産物)を直接検知し、嘔吐中枢を起動できます。
- なぜ重要?:薬剤性・代謝性嘔吐の入口になる
- 臨床的含意:嘔気が乏しくても、CTZが直接刺激されれば嘔吐は起こる
- 次章への伏線:尿毒症・高Ca・薬剤などはCTZ刺激で説明できる
CTZのイメージ:
「血液の変化を見張るセンサー」。胃腸の刺激がなくても、血中因子だけで嘔吐を起こしうる。
2-3. 孤束核(NTS:Nucleus Tractus Solitarius)
NTS(孤束核)は迷走神経求心路などの入力が集まる統合ハブです。
消化管由来の嘔気・嘔吐を理解するうえで中心的で、嘔気に伴う自律神経反応(冷汗・流涎など)とも関係します。
- 入力:迷走神経求心路(消化管の伸展・炎症など)を中心に統合
- 役割:嘔吐中枢へ信号を送り、嘔吐反射を成立させる
- 臨床的含意:消化管性嘔吐は嘔気を伴いやすい(NTS+自律神経)
2-4. 回路のまとめ(まず押さえる3点)
- 嘔吐中枢:最終共通出力(ここが動けば嘔吐)
- CTZ:血中因子を検知(薬剤・代謝・毒素)→ 嘔気なし嘔吐の説明装置
- NTS:迷走神経入力の統合(消化管性)→ 嘔気・自律神経症状の説明装置
このあと(次のPart)で扱うこと:
① 末梢入力(消化管・前庭・皮質) → ② 受容体(5-HT3/D2/NK1/H1/M1…) → ③ 制吐薬(一般名) → ④ 合併症(電解質・酸塩基)へつなぎ、Layer1を完成させます。
3. 嘔吐を引き起こす末梢入力経路
嘔吐は延髄の反射で起こりますが、その引き金(trigger)は末梢から入ることが多いのが特徴です。
この章では、「どこからの刺激が、どの神経を通って、どの中枢を動かすのか」を整理します。
この章の要点
- 消化管性・前庭性・心因性の嘔吐は回路が異なる
- 回路が違えば、効く制吐薬も違う
- 嘔気が強いかどうかは、どの入力経路が主かで決まる
3-1. 消化管由来の入力(迷走神経)
消化管は、嘔気・嘔吐の最大の末梢入力源です。
胃や小腸の異常は、迷走神経求心路を通じて延髄(NTS)へ直接伝えられます。
① どんな刺激が入力になるか
- 胃・小腸の過度な伸展(胃内容貯留、イレウス)
- 炎症(感染性胃腸炎、化学療法)
- 化学刺激(毒素、薬剤、胆汁逆流など)
② 腸クロム親和性細胞(EC細胞)とセロトニン
消化管粘膜には腸クロム親和性細胞(enterochromaffin cells)が存在します。
これらの細胞は、刺激を受けるとセロトニン(5-HT)を放出します。
- 放出された5-HTは迷走神経終末の5-HT3受容体を刺激
- 信号はNTS → 嘔吐中枢へ
- 強い嘔気を伴いやすい
Clinical Connection:
抗がん剤・放射線治療による嘔吐が5-HT3受容体拮抗薬(ondansetron)で抑えられるのは、このEC細胞 → 迷走神経経路を遮断しているためである。
👉 消化管由来の嘔吐は、嘔気が前景に出やすく、自律神経症状を伴うのが特徴です。
3-2. 前庭系由来の入力(動揺病・前庭障害)
前庭系は、嘔吐の原因として「胃と無関係に嘔気を起こす」代表的な入力経路です。
① 入力経路
- 内耳(半規管・耳石器)
- 前庭神経 → 小脳
- 延髄の嘔吐中枢へ
② 関与する受容体
- ヒスタミン H1受容体
- アセチルコリン M1受容体
このため、前庭系由来の嘔吐には抗ヒスタミン薬や抗コリン薬が有効になります。
臨床的含意:
動揺病では5-HT3受容体拮抗薬は効きにくい。
これは「回路が違う」ためであり、薬の問題ではない。
3-3. 咽頭・咽頭反射(防御反射としての嘔吐)
咽頭や舌根への物理刺激は、原始的な防御反射として嘔吐を引き起こします。
- 入力:舌咽神経・迷走神経
- 目的:有害物質の排除
- 意識的なコントロールは困難
この経路では、制吐薬が効きにくいことも多く、刺激の除去が最優先となります。
3-4. 大脳皮質・辺縁系由来の入力(心因性・予期性嘔吐)
嘔吐は純粋な反射ではなく、情動・記憶・学習の影響も強く受けます。
- 不安・恐怖・嫌悪感
- 過去の嘔吐体験との条件付け
- 抗がん剤治療前の予期性嘔吐
この経路では、大脳皮質 → 辺縁系 → 延髄というトップダウン型の入力が起こります。
Clinical Pearl:
心因性・予期性嘔吐では、制吐薬単独よりも環境調整・不安軽減・行動療法的介入が重要になる。
3-5. 末梢入力経路のまとめ
| 入力源 | 主経路 | 主な受容体 | 臨床的特徴 |
|---|---|---|---|
| 消化管 | 迷走神経 → NTS | 5-HT3 | 嘔気が強い、自律神経症状あり |
| 前庭系 | 前庭神経 → 小脳 | H1, M1 | 動揺病、姿勢・運動と関連 |
| 咽頭刺激 | 舌咽・迷走神経 | — | 防御反射、制吐薬効きにくい |
| 皮質・辺縁系 | トップダウン入力 | 多様 | 心因性・予期性 |
次のPartへ:
次は「受容体と神経伝達物質(5-HT3, D2, NK1, H1, M1)」を中枢・末梢ごとに整理し、
そのまま制吐薬(一般名)へ接続します。
4. 嘔気・嘔吐に関わる受容体と神経伝達物質
嘔気・嘔吐は「1つの中枢が暴走して起こる反応」ではありません。
実際には、複数の入力経路 × 複数の受容体が関与し、最終的に嘔吐中枢が作動します。
したがって、制吐薬を理解する鍵は、
「どの受容体が、どこで、どの病態に関与しているか」
を整理することにあります。
この章のゴール
- 嘔気・嘔吐を受容体レベルで説明できる
- 制吐薬を作用点で使い分けられる
- 「効かない理由」を回路の違いとして説明できる
4-1. ドパミン:D2受容体
① 主な分布
- 化学受容器引金帯(CTZ:area postrema)
- 嘔吐中枢への強力な入力点
② 生理的役割
CTZは血液脳関門を欠くため、血中の薬物・毒素・代謝異常を直接感知できます。
ドパミンはこのCTZで、嘔吐反射のスイッチ役として機能します。
③ D2刺激で起こる嘔吐の例
- 薬剤性(オピオイド、抗パーキンソン薬など)
- 代謝性(尿毒症、DKA)
- 中枢性嘔吐(嘔気が弱いこともある)
Clinical Connection:
metoclopramide が中枢性・薬剤性嘔吐に効くのは、CTZのD2受容体を遮断するためである。
4-2. セロトニン:5-HT3受容体
① 主な分布
- 消化管粘膜(腸クロム親和性細胞)
- 迷走神経求心終末
- NTS(孤束核)
② 生理的役割
消化管刺激によりEC細胞から放出されたセロトニンは、
5-HT3受容体を介して迷走神経を興奮させます。
この経路は強い嘔気を伴いやすいことが特徴です。
③ 関与する病態
- 抗がん剤・放射線治療
- 感染性胃腸炎
- 急性胃炎
Clinical Pearl:
ondansetron は「嘔気が強い嘔吐」に特に有効である。
4-3. ヒスタミン:H1受容体
① 主な分布
- 前庭神経核
- 小脳
- 嘔吐中枢
② 生理的役割
前庭系からの入力は、主にH1受容体を介して嘔吐中枢へ伝達されます。
③ 関与する病態
- 動揺病
- 良性発作性頭位めまい症
- 前庭神経炎
👉 消化管性嘔吐には効果が乏しいのが特徴です。
4-4. アセチルコリン:M1受容体
① 主な分布
- 前庭系
- 嘔吐中枢
② 生理的役割
M1受容体は、前庭系入力の増幅装置として機能します。
③ 臨床的特徴
- 動揺病に関与
- 高齢者では抗コリン作用による副作用に注意
4-5. サブスタンスP:NK1受容体
① 主な分布
- 嘔吐中枢
- NTS
② 生理的役割
サブスタンスPは、嘔吐反射の最終共通経路を増強する神経ペプチドです。
③ 臨床的に重要な点
- 遅発性嘔吐
- 中枢性嘔吐
- 難治性嘔吐
Clinical Connection:
aprepitant が他の制吐薬で抑えきれない嘔吐に有効なのは、最終経路を遮断するためである。
4-6. カンナビノイド:CB1受容体
CB1受容体は嘔吐中枢・辺縁系に存在し、
嘔吐反射を抑制的に調整します。
難治性嘔吐や化学療法誘発性嘔吐との関連が知られています。
4-7. 受容体 × 病態の整理
| 受容体 | 主な部位 | 関連する嘔吐 |
|---|---|---|
| D2 | CTZ | 薬剤性・代謝性・中枢性 |
| 5-HT3 | 消化管・迷走神経 | 嘔気が強い嘔吐 |
| H1 | 前庭系 | 動揺病・前庭性 |
| M1 | 前庭系・中枢 | 動揺病 |
| NK1 | 嘔吐中枢 | 遅発性・難治性 |
次のPartへ:
次は「制吐薬(一般名)を受容体別に完全整理」し、
そのまま臨床での使い分けへ接続します。
5. 制吐薬の薬理学:受容体から理解する
制吐薬は「とりあえず出す薬」ではありません。
どの受容体を、どの部位で遮断しているかを理解すると、
嘔気・嘔吐の治療は再現性のある判断になります。
この章のゴール
- 制吐薬を一般名+作用点で説明できる
- 「なぜ効かないか」を回路の違いで説明できる
- Layer 3(実臨床)での使い分けにつなげる
5-1. ドパミン遮断薬(D2受容体拮抗薬)
代表薬(一般名)
- metoclopramide
- domperidone
作用点
- 化学受容器引金帯(CTZ)のD2受容体
- (metoclopramideは消化管運動促進作用も持つ)
有効な病態
- 薬剤性嘔吐
- 代謝性嘔吐(尿毒症、DKA など)
- 中枢性嘔吐(嘔気が弱いタイプ)
注意点(基礎医学的)
- 中枢移行 → 錐体外路症状(metoclopramide)
- 高齢者では過鎮静・せん妄に注意
Clinical Pearl:
嘔気が弱く、突然吐くタイプの嘔吐ではD2遮断が第一選択になりやすい。
5-2. 5-HT3受容体拮抗薬
代表薬(一般名)
- ondansetron
作用点
- 消化管の迷走神経求心終末
- NTSの5-HT3受容体
有効な病態
- 抗がん剤誘発性嘔吐
- 感染性胃腸炎
- 急性胃炎
特徴
- 嘔気が強い嘔吐に特に有効
- 前庭性嘔吐には効果が乏しい
5-3. 抗ヒスタミン薬(H1受容体拮抗薬)
代表薬(一般名)
- diphenhydramine
作用点
- 前庭神経核
- 嘔吐中枢
有効な病態
- 動揺病
- 前庭性めまいに伴う嘔気・嘔吐
注意点
- 抗コリン作用(眠気、口渇、尿閉)
- 高齢者ではせん妄リスク
5-4. 抗コリン薬(M1受容体拮抗薬)
代表薬(一般名)
- scopolamine
作用点
- 前庭系 → 嘔吐中枢
有効な病態
- 動揺病
- 前庭刺激による嘔吐
👉 消化管由来の嘔吐には効果が乏しい。
5-5. NK1受容体拮抗薬
代表薬(一般名)
- aprepitant
作用点
- 嘔吐中枢・NTSのNK1受容体
有効な病態
- 遅発性嘔吐
- 難治性嘔吐
- 化学療法誘発性嘔吐(他剤併用)
5-6. 制吐薬を「受容体」で使い分ける
| 病態 | 主経路 | 第一選択 |
|---|---|---|
| 嘔気が強い嘔吐 | 消化管・迷走神経 | ondansetron |
| 中枢性・薬剤性 | CTZ | metoclopramide |
| 動揺病 | 前庭系 | diphenhydramine / scopolamine |
| 難治性 | 最終経路 | aprepitant |
次のPartへ:
次は「嘔気を伴う嘔吐 vs 嘔気のない嘔吐」を、
中枢・末梢・受容体の違いから完全に説明します。
6. 嘔気を伴う嘔吐と、嘔気のない嘔吐は何が違うのか
臨床でしばしば遭遇する重要な分岐が、
「強い嘔気を伴う嘔吐」と、「ほとんど嘔気を伴わず突然吐く嘔吐」です。
この違いは主観的な印象ではなく、
どの神経経路・どの受容体が主に作動しているかという
基礎医学的差異によって説明できます。
この章のゴール
- 嘔気の有無を神経回路で説明できる
- 「中枢性を疑う嘔吐」を理論的に拾える
- 次のLayer(臨床推論・画像判断)に直結させる
6-1. 嘔気を伴う嘔吐(末梢入力優位)
① 中心となる経路
- 消化管 → 迷走神経 → NTS
- 前庭系 → 小脳 → 嘔吐中枢
② 生理学的特徴
嘔気を伴う嘔吐では、まずNTS(孤束核)が強く活性化します。
NTSは自律神経症状・主観的な不快感(嘔気)を生む中枢であり、
ここが刺激されることで、
- 冷汗
- 顔面蒼白
- 唾液分泌増加
- 「気持ち悪い」という明確な前駆感
が前景に出ます。
③ 典型的な原因
- 感染性胃腸炎
- 急性胃炎
- 胆道・膵疾患
- 動揺病
👉 嘔気が強い=末梢入力が主という理解が成り立ちます。
6-2. 嘔気のない嘔吐(中枢入力優位)
① 中心となる経路
- 血中刺激 → 化学受容器引金帯(CTZ)
- CTZ → 嘔吐中枢(NTSをあまり介さない)
② 生理学的特徴
CTZは嘔吐反射のスイッチとして機能します。
この経路が主に作動すると、
- 嘔気が弱い、またはほとんどない
- 前触れなく突然嘔吐する
- 自律神経症状が乏しい
といった特徴を示します。
③ 典型的な原因
- 薬剤性(オピオイド、ドパミン作動薬など)
- 代謝性(尿毒症、DKA、高Ca血症)
- 頭蓋内圧亢進
- 中枢神経疾患
Clinical Pearl:
「気持ち悪くないのに突然吐く」は、CTZ直結型の嘔吐を疑う重要なサイン。
6-3. 噴出性嘔吐(Projectile vomiting)はなぜ起こるのか
噴出性嘔吐は、嘔吐中枢が強制的に作動した結果として生じます。
- 腹筋・横隔膜の同期した強収縮
- 胃内容の急激な排出
- 嘔気を伴わないことが多い
これは頭蓋内圧亢進や中枢性刺激で説明可能です。
6-4. 嘔気の有無から治療を逆算する
| 特徴 | 優位な経路 | 理論的に有効な薬 |
|---|---|---|
| 強い嘔気あり | NTS・迷走神経 | ondansetron |
| 嘔気が弱い/なし | CTZ | metoclopramide |
| 動揺病 | 前庭系 | diphenhydramine / scopolamine |
6-5. 基礎医学から臨床判断へ
嘔気の有無は、単なる症状の違いではなく、
「どこからの入力が主か」を教えてくれるサインです。
- 嘔気が強い → 末梢性(消化管・前庭)をまず考える
- 嘔気が乏しい → 中枢性・代謝性を最後まで残す
次のPartへ:
次は「嘔吐による合併症を基礎医学で説明する」章に進みます。
電解質異常・酸塩基・誤嚥・食道損傷を、すべて機序で理解します。
7. 嘔吐による合併症:なぜ「吐くだけ」で重症化するのか
嘔吐は一見すると「症状の一つ」に過ぎません。
しかし基礎医学的に見ると、嘔吐は全身の恒常性を一気に破綻させうるイベントです。
この章では、嘔吐が引き起こす合併症を
①体液・電解質、②酸塩基、③呼吸、④消化管構造
の4軸で整理します。
この章のゴール
- 嘔吐の合併症を機序で説明できる
- 「危険な嘔吐」を理論的に見抜ける
- Layer 3(入院判断・do-not-miss)につなげる
7-1. 体液量減少(脱水・循環血漿量低下)
① 何が失われているのか
嘔吐によって失われるのは単なる「水」ではありません。
- 水分
- Na+・Cl–
- 胃酸(HCl)
これにより、細胞外液量(ECF)が直接減少します。
② 生理学的帰結
- 静脈還流低下
- 心拍出量低下
- 腎血流低下 → prerenal AKI
👉 高齢者・腎機能低下例では、少量の嘔吐でも急速に循環不全に陥ります。
7-2. 電解質異常:低K血症を中心に
① なぜ嘔吐で低K血症になるのか
胃液そのものにK+は多く含まれません。
低K血症の本質は、二次的な腎でのK喪失です。
② 機序(ステップで理解)
- 嘔吐 → 体液量減少
- RAAS活性化
- アルドステロン分泌増加
- 集合管でNa再吸収↑・K排泄↑
結果として、代謝性アルカローシス+低K血症が形成されます。
③ 臨床的に問題となる点
- 不整脈
- 筋力低下
- 腸管蠕動低下(嘔吐の悪循環)
7-3. 酸塩基異常:代謝性アルカローシス
① 基本機序
胃液には大量のH+とCl–が含まれています。
嘔吐によりH+が失われると、相対的に血液はアルカリ性に傾きます。
② Cl欠乏性アルカローシス
- Cl欠乏 → 腎でHCO3–排泄不能
- アルカローシスが持続
👉 これが「生食で治るアルカローシス」の正体です。
③ 呼吸への影響
- 代償性低換気
- 高CO2血症
- 高齢者では呼吸不全リスク
7-4. 誤嚥性肺炎・化学性肺炎
① なぜ嘔吐は肺に危険か
- 嘔吐時の一過性意識低下
- 咳反射の破綻
- 胃内容物の逆流
② 胃酸による肺障害
胃内容物は強酸性であり、
- 気道上皮の化学的損傷
- 炎症性サイトカイン放出
- ARDS様病態
を引き起こします。
Clinical Pearl:
嘔吐後に発熱や低酸素を伴えば、誤嚥は「起きた前提」で考える。
7-5. 食道・消化管の機械的損傷
① Mallory–Weiss症候群
- 嘔吐・えづきによる粘膜裂傷
- 胃食道接合部に好発
- 吐血を伴うことがある
② Boerhaave症候群
- 食道全層破裂
- 急激な胸痛+嘔吐後発症
- 縦隔炎 → 致死的
👉 嘔吐後の激烈な胸痛は、基礎医学的にも異常な内圧上昇で説明でき、見逃してはいけません。
7-6. 嘔吐合併症の全体像まとめ
| 系統 | 合併症 | 基礎医学的キーワード |
|---|---|---|
| 循環 | 脱水・AKI | ECF低下・RAAS |
| 電解質 | 低K血症 | アルドステロン |
| 酸塩基 | 代謝性アルカローシス | Cl欠乏 |
| 呼吸 | 誤嚥性肺炎 | 化学性障害 |
| 消化管 | MW症候群 / Boerhaave | 内圧上昇 |
Layer 1 完結:
ここまでで、嘔気・嘔吐は症状ではなく「全身イベント」として説明できるようになりました。
Layer 2|嘔気・嘔吐の臨床推論アプローチ
嘔気・嘔吐は「よくある症状」である一方、
重篤な全身疾患や中枢神経疾患の初発症状であることも少なくありません。
このLayerでは、病名を並べるのではなく、
「この患者で、今どこから考えるべきか」という
思考の順番そのものを整理します。
① 初期評価|まず何を確認するか
嘔吐している患者を前にしたとき、最初にすべきことは
鑑別を広げることではなく、危険度を見極めることです。
🔹 バイタルサインで見るポイント
- 頻脈・低血圧(脱水・敗血症)
- 発熱(感染症、誤嚥性肺炎)
- 低酸素血症(誤嚥、代謝性アシドーシス)
🔹 嘔吐で見逃しやすい初期問題
- 誤嚥リスク(意識レベル低下)
- 循環血漿量低下
- 電解質異常
👉 嘔吐は「症状」ではなく「全身イベント」として捉える。
② Red Flags|見逃してはいけない嘔吐
以下の所見を伴う嘔吐は、原因検索を急ぐべきサインです。
🔴 神経系Red Flags
- 頭痛を伴う嘔吐
- 意識障害・けいれん
- 噴出性嘔吐
🔴 循環・呼吸Red Flags
- 胸痛・背部痛を伴う嘔吐
- 低血圧・頻脈
- 低酸素血症
🔴 消化管Red Flags
- 吐血・コーヒー残渣様嘔吐
- 持続性・進行性嘔吐
- 高齢者の初発嘔吐
👉 Red Flags があれば、Layer 3(do-not-miss)を最優先。
③ 中枢性か?末梢性か?|最初の大分岐
嘔気・嘔吐の臨床推論において、
最も重要な最初の分岐が「中枢性か、末梢性か」です。
🔹 中枢性嘔吐を疑うヒント
- 嘔気が乏しい、またはない
- 前触れなく突然嘔吐する
- 頭痛・神経症状を伴う
🔹 末梢性嘔吐を示唆するヒント
- 強い嘔気が先行
- 自律神経症状(冷汗・唾液分泌)
- 腹部症状・めまいを伴う
この分岐は、画像検査が必要かどうか、
制吐薬の選択に直結します。
Clinical Insight:
「気持ち悪くないのに吐く」は、中枢性・代謝性を最後まで除外する。
次のステップ:
次は「嘔気が強い嘔吐(末梢入力優位)」を、
消化管・前庭・心因性に分けて整理します。
④ 嘔気が強い嘔吐をどう考えるか(末梢入力優位)
強い嘔気を伴う嘔吐は、
消化管・前庭系などの末梢入力がNTSを介して作動している状態と考えます。
このタイプの嘔吐では、
「どの末梢臓器が刺激源か」を整理することで、鑑別は一気に絞れます。
4-1. 消化管由来の嘔気・嘔吐
最も頻度が高く、かつ腹痛記事と最も強く接続する領域です。
🔹 ここでまず考える問い
- 腹痛は主訴か?それとも随伴症状か?
- 食事との関連はあるか?
- 嘔吐で症状は軽減するか?
🔹 代表的な病態
- 感染性胃腸炎
- 急性胃炎・胃潰瘍
- 胆道系・膵疾患
- 腸閉塞・イレウス
👉 腹痛が前景に出る場合は、腹痛 Layer 2 / 3 に即座に接続します。
Clinical Pearl:
「嘔吐が主」か「腹痛が主」かを意識的に言語化すると、
思考が腹部疾患に引きずられ過ぎるのを防げる。
4-2. 前庭系由来の嘔気・嘔吐
前庭性嘔吐は、腹部症状が乏しいにもかかわらず、強い嘔気を呈するのが特徴です。
🔹 疑うヒント
- 体位変換で悪化
- 回転性めまいを伴う
- 腹部診察がほぼ正常
🔹 代表的な病態
- 良性発作性頭位めまい症(BPPV)
- 前庭神経炎
- メニエール病
👉 嘔気は強いが、腹痛・腹部圧痛がない点が重要な鑑別ポイント。
4-3. 心因性・機能性の嘔気・嘔吐
検査で異常が見つからない嘔気・嘔吐では、
心因性・機能性を早期から鑑別に入れる必要があります。
🔹 特徴
- 慢性的・反復性
- ストレスや状況と関連
- 夜間は比較的軽快
🔹 臨床での注意点
- 「除外診断」であることを説明する
- 器質疾患の見落としを避ける
Clinical Insight:
心因性を疑う前に、体重減少・夜間症状・貧血は必ず確認する。
4-4. 嘔気が強い嘔吐のまとめ(末梢入力)
| 特徴 | 主な原因 | 次の一手 |
|---|---|---|
| 腹痛あり | 消化管疾患 | 腹痛Layerへ接続 |
| めまいあり | 前庭性 | 神経・耳鼻科評価 |
| 慢性・反復 | 心因性 | 除外診断+説明 |
次のステップ:
次は「腹痛を伴う嘔気・嘔吐」を、
腹痛記事と完全接続する形で整理します。
⑤ 腹痛を伴う嘔気・嘔吐|危険度が跳ね上がるゾーン
嘔気・嘔吐に腹痛を伴う場合、
それは単なる随伴症状ではなく、腹腔内の器質的異常を示す重要なサインです。
このパートでは、
「腹痛が主か?嘔吐が主か?」という視点を軸に、
腹痛記事と完全に接続する形で思考を整理します。
5-1. まず考えるべき問い
- 腹痛が先行しているか?嘔吐が先行しているか?
- 腹痛は局在しているか?びまん性か?
- 嘔吐で腹痛は軽減するか?しないか?
この3点を言語化するだけで、
鑑別は「胃腸炎」から「外科的腹痛」まで自然に分岐します。
5-2. 腹痛が主で、嘔吐が後から出る場合
このパターンでは、
腹腔内臓器の炎症・虚血・閉塞を第一に考えます。
🔹 代表的な病態
- 急性虫垂炎
- 急性胆嚢炎・胆管炎
- 急性膵炎
- 消化管穿孔
👉 嘔吐は内臓刺激の結果であり、
腹痛の評価が主戦場になります。
Clinical Pearl:
腹痛が主の症例では、制吐薬で様子を見る前に腹部評価を終わらせる。
5-3. 嘔吐が主で、腹痛が軽度または遅れて出る場合
このパターンでは、
腸管の機能的・機械的障害を疑います。
🔹 代表的な病態
- 腸閉塞・イレウス
- 胃内容排出遅延
- 急性胃炎
🔹 問診のポイント
- 排ガス・排便の有無
- 腹部膨満感
- 嘔吐物の性状(胆汁・糞臭)
👉 腹痛が軽くても、外科的評価が必要になるケースがある。
5-4. 嘔吐で腹痛が軽減するか?
この問いは、病態生理に直結する重要な分岐です。
- 軽減する → 胃内圧上昇・機能的要因
- 軽減しない → 炎症・虚血・穿孔
👉 「吐いたら楽になった」は安心材料ではなく、ヒント。
5-5. 腹痛+嘔吐で特に警戒すべき状況
- 突然発症の激烈な腹痛+嘔吐
- 腹膜刺激症状を伴う
- 高齢者・免疫抑制状態
- 持続的な嘔吐で改善しない腹痛
これらはすべて、
Layer 3(do-not-miss疾患)へ直行すべきサインです。
5-6. 腹痛を伴う嘔気・嘔吐のまとめ
| パターン | 考えるべき病態 | 次の一手 |
|---|---|---|
| 腹痛が主 | 炎症・虚血・穿孔 | 腹痛Layerへ |
| 嘔吐が主 | 閉塞・機能障害 | 外科的評価 |
| 嘔吐で腹痛軽減 | 内圧上昇 | 経過+再評価 |
次のステップ:
次は「腹痛を伴わない嘔吐」を、
中枢・代謝・全身疾患の視点から整理します。
⑥ 腹痛を伴わない嘔吐|「中枢・全身」を疑う思考回路
腹痛を伴わない嘔吐は、
消化管そのものよりも中枢・代謝・全身性病態が原因であることが多く、
診断の軸を腹部から頭・血液・全身へ切り替える必要があります。
このパートでは、
「嘔気があるか?ないか」という基礎医学的分岐を起点に、
臨床で迷わないための思考地図を提示します。
6-1. 嘔気の有無は「どこが刺激されているか」を反映する
嘔吐は同じ現象でも、入力経路によって臨床像が異なります。
| 特徴 | 主な入力経路 | 示唆する病態 |
|---|---|---|
| 嘔気が強い | 迷走神経・内臓入力 | 消化管・前庭系 |
| 嘔気が乏しい/突然吐く | CTZ・中枢直接刺激 | 中枢・代謝性 |
👉 「吐き気がほとんどなく突然吐いた」は、
中枢性嘔吐を疑う強いトリガーです。
6-2. 中枢性嘔吐(Central vomiting)
中枢性嘔吐は、嘔吐中枢やCTZの直接刺激で起こり、
腹部所見が乏しいのが特徴です。
🔹 代表的原因
- 頭蓋内圧亢進(腫瘍、出血、水頭症)
- 脳血管障害(特に後頭蓋窩)
- 髄膜炎・脳炎
- 片頭痛
🔹 臨床的ヒント
- 朝方に強い嘔吐
- 頭痛、意識変容、視野障害
- 腹部診察がほぼ正常
Do-not-miss:
嘔吐+神経症状は、まず頭部評価。
6-3. 代謝性・内分泌性嘔吐
血液・代謝異常は、CTZを介して嘔吐を引き起こします。
🔹 代表的病態
- DKA / 高血糖高浸透圧症候群
- 尿毒症
- 高カルシウム血症
- 副腎不全
🔹 問診・初期評価の鍵
- 口渇、多尿、体重変動
- 意識レベルの変化
- 腹痛が説明できない嘔吐
👉 腹部CTが正常でも、採血で診断がつく領域。
6-4. 薬剤・中毒による嘔吐
CTZは血中物質に極めて敏感であり、
薬剤性嘔吐は腹痛を伴わないことが多い。
🔹 代表的薬剤(一般名)
- オピオイド
- 抗がん剤
- ジギタリス
- テオフィリン
👉 服薬歴は必ず一般名レベルで確認する。
6-5. 感染症に伴う嘔吐(腹部以外)
- 敗血症
- 肺炎(特に高齢者)
- 尿路感染症
高齢者では、
嘔吐が全身感染の初発症状になることがあります。
6-6. 臨床推論のまとめ:腹痛なし嘔吐の地図
| 特徴 | まず疑う | 初期対応 |
|---|---|---|
| 嘔気乏しい突然の嘔吐 | 中枢性 | 神経評価・頭部画像 |
| 意識変容・脱水 | 代謝性 | 採血・補正 |
| 新規薬剤 | 薬剤性 | 中止・調整 |
次のLayerへ:
診断がついたら、次は「どう管理するか」。
Layer 3では、do-not-miss疾患と具体的マネジメントに進みます。
Layer 3|嘔気・嘔吐の do-not-miss 疾患と臨床マネジメント
Layer 3 は、嘔気・嘔吐診療において
「診断がついた後に、何を・どこまで・どの順でやるか」を整理する実践編です。
Layer 1(基礎医学)・Layer 2(臨床推論)で構築した思考を、
行動(検査・治療・入院判断)へ確実に落とし込みます。
0|Layer 3 の使い方
- まず do-not-miss 疾患を一気に除外する
- 次に 病態別(中枢・代謝・消化管など)に整理
- 最後に 支持療法+制吐薬選択を行う
※ 制吐薬は 一般名で記載し、Layer 1(薬理)と接続します。
① do-not-miss 疾患リスト(最優先で考える)
🔴 中枢神経系
- 頭蓋内圧亢進(脳腫瘍、脳出血、水頭症)
- 脳梗塞・脳出血(後頭蓋窩)
- 髄膜炎・脳炎
🔴 代謝・内分泌
- DKA / 高浸透圧高血糖症候群
- 副腎不全
- 高カルシウム血症
- 尿毒症
🔴 消化管・腹腔内
- 消化管穿孔
- 腸閉塞・絞扼性イレウス
- 上部消化管出血
🔴 循環・感染
- 敗血症
- 心筋梗塞(特に下壁)
- 重症肺炎(高齢者)
原則:
嘔吐は「軽症の症状」ではなく、致死的疾患の初発サインになりうる。
② 初期対応(全症例で共通)
2-1|ABCと全身管理
- Airway:意識障害があれば誤嚥対策
- Breathing:SpO₂、呼吸数
- Circulation:血圧、脈拍、尿量
2-2|基本検査セット
- CBC、CRP
- 電解質、BUN、Cr
- 肝機能、血糖
- 尿検査(± 妊娠反応)
👉 腹部所見が乏しくても、採血で診断がつく疾患を必ず想定する。
③ 病態別マネジメント
3-1|中枢性嘔吐
- 頭部CT / MRI
- 神経学的評価
- 頭蓋内圧管理(必要時)
制吐薬は対症療法にすぎず、
原因検索と専門科コンサルトが最優先。
3-2|代謝・内分泌性嘔吐
- 補液(等張晶質液)
- 電解質補正
- 原疾患治療(インスリン、ステロイド等)
CTが正常でも、帰宅判断は危険になりうる。
3-3|消化管由来の嘔吐
- 絶食
- 補液
- 必要時 胃管挿入
- CTで閉塞・穿孔を評価
④ 制吐薬の使い分け(一般名)
制吐薬は「原因を治す薬」ではなく、入力経路を遮断する薬です。
| 主な作用部位 | 一般名 | 適応の目安 |
|---|---|---|
| D₂受容体 | メトクロプラミド、ドンペリドン | 消化管運動低下、薬剤性 |
| 5-HT₃受容体 | オンダンセトロン | 化学療法、強い嘔吐 |
| H₁受容体 | ジフェンヒドラミン | 前庭性 |
| NK₁受容体 | アプレピタント | 難治性・化学療法 |
👉 中枢性嘔吐では制吐薬が効かないことがある。
⑤ 嘔吐による合併症(臨床で必ず意識する)
- 脱水・腎前性腎不全
- 低K血症・代謝性アルカローシス
- 誤嚥性肺炎
- Mallory–Weiss症候群
👉 「吐き止めて終わり」ではなく、合併症の予防が管理の本体。
⑥ 入院判断の目安
- do-not-miss 疾患が否定できない
- 電解質異常・腎機能障害
- 経口摂取不能
- 高齢者・免疫抑制
Layer 3 まとめ
- 嘔吐は「全身疾患のサイン」
- まず do-not-miss を除外
- 制吐薬は病態に合わせて選択
- 合併症まで含めてマネジメント
Closing|嘔気・嘔吐診療で大切なこと
嘔気・嘔吐は「よくある症状」である一方、
中枢神経疾患・代謝異常・重篤な全身疾患の初発症状として現れることがあります。
本記事では、嘔気・嘔吐を
- Layer 1:受容体・神経回路・嘔吐中枢から理解する基礎医学
- Layer 2:中枢性か末梢性かを起点にした臨床推論
- Layer 3:do-not-miss 疾患と具体的マネジメント
という 3層構造で整理しました。
重要なのは、
- 「とりあえず制吐薬」で終わらせないこと
- 嘔気の有無・腹痛の有無から病態を翻訳すること
- 嘔吐そのものだけでなく、合併症(脱水・電解質異常・誤嚥)まで含めて管理すること
です。
嘔気・嘔吐を症状ではなく“全身イベント”として捉えられるようになると、
腹痛・発熱・意識障害など他の症候への臨床推論も、自然と一本の線でつながってきます。
当直や外来で迷ったときに、
「どこから考えればよかったか」に立ち返る地図として、
本記事を活用してもらえれば幸いです。
References
Textbooks
- Jameson JL, Fauci AS, Kasper DL, et al. Harrison’s Principles of Internal Medicine. 21st ed. McGraw-Hill.
- Murtagh J. John Murtagh’s General Practice. 8th ed. McGraw-Hill.
- McGee S. Evidence-Based Physical Diagnosis. 4th ed. Elsevier.
- Guyton AC, Hall JE. Textbook of Medical Physiology. 14th ed. Elsevier.
- Le T, Bhushan V, Sochat M. First Aid for the USMLE Step 1. Latest edition. McGraw-Hill.
Guidelines & Reviews
- UpToDate®: Evaluation of nausea and vomiting in adults.
- Mayo Clinic Proceedings: Diagnostic approach to nausea and vomiting.
- American College of Gastroenterology (ACG) Clinical Guidelines.
Pharmacology & Antiemetics
- Goodman & Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics.
